令和2年2月は15冊の本を読みました。うち小説が7冊、その他が8冊という内訳でした。29日で15冊ですから、ペースとしてはまずますですね。
では、さっそくその中でのお薦めを御紹介いたします。
まず小説については、馴染みの作家さんの本が多かった中では、直木賞を取った“熱源”が秀逸だったかと思います。明治維新後の北海道、樺太という我々には馴染みのないところが舞台となった小説で、“開拓する側”と“アイヌ民族”の確執も生々しく描かれています。アイヌの人たちは文字を持たないと言われていますので、彼らの歴史をたどることはほとんど不可能と言われています。それだけにかなり自由に想像を働かせながら書かれたのだろうと思いますが、壮大な歴史大河小説になっています。
その他の8冊の本は、いずれも面白くて、甲乙付けがたいのですが、順不同でいくつか挙げさせて頂きます。
まず新書からは、“独ソ戦”と“家族の幸せの経済学”ですね。
前者は、昨年の新書大賞にも輝いた力作で、近代戦争の中では最も悲惨と言われた戦争の詳細な記録です。最近の研究で明らかになった記録・データを基に従来の通説を修正しながら、この悲惨な戦争の実態に迫る物です。下にも書かせてもらっていますが、この戦いの詳細についての知識を持ち合わせていないため、臨場感を持って読むことは叶いませんでしたが、新書にするには惜しいほどの内容でした。
後者は、これも昨年のビジネス書の中でかなり高い評価を受けた書籍で、私たちの一生を“経済学的”に検証しています。これも下に書かせてもらっていますが、日本では、ある政策を実施した結果については全く検証しませんし、それを当たり前の様に思ってさえいます。海外では、大学やシンクタンクが検証し、その結果はしっかりと公開されています。国民は判断しやすいですよね。素晴らしいです。この本も、とてもわかりやすく書かれていて、非常に興味深い一冊でした。
新書以外では、関東大震災後の朝鮮人大虐殺を扱った“証言集”が秀逸でした。文字の上でしか知らない大事件について、当時の記録などのなかから実際に見聞きした人たちの証言を細かく集めた超大作です。実際の暴行の現場を見た人の証言の中には自警団と自称していた人たちの暴動の様子がかなり細かく描かれています。震災後の不安が恐怖を生み、後ろめたさから猜疑心が芽生え、大事件となりました。かなり大量の記録が収められているのですが、“暴動の首謀者”や“暴行を加えた側”達の証言が全く収められていないというのが非常に残念。デマに踊らされて犯罪を犯した連中は罰せられない、しらばっくれるという風潮は、今と全く変わらないと言うことがよくわかります。とても興味深い本でした。お薦めです。
それ以外にも、最近シリーズで読んでいる“食”に関する本もなかなかに興味深く、今後が楽しみです。
2月末から感染症が世界的な広がりを見せている中、外出を控えるようにしたので、本を読む時間はたっぷり確保できるようになりました。それが良いことなのかどうなのか。
本も読み、散歩にも出かけるという日常が早く戻ってほしいと思う今日この頃です。
001/016
「定価のない本」門井慶喜
第二次大戦後、神田の古本屋で起こった書店主の死亡は事件か事故か?その謎を同業者が解いていくというミステリにGHQの陰謀が関わり、さらに別の大きな謎が関わっていくという壮大なスケールの物語になっていきます。彼の著作は面白いので、かなり期待しながら読んだのですが、肝心の陰謀の中身がちょっと私の間尺に合わない感じで、ややしらけ気味で読みました。(2/1)
002/017
「資本主義にも希望はある 私たちが直視すべき14の課題」フィリップ・コトラー
資本主義というシステムについては、いろいろな人がいろいろなことをおっしゃっていますが、共産主義が崩壊した現在においては、これを上回るシステムが見つかっていないというのが現状です。しかしながら、強者のみが勝ち残り、限りなく格差が拡大するという大きな問題の解決策は見つかっていません。そんな資本主義というシステムに果たして希望があるのか。著者は、14の課題を挙げて、それぞれに提言をしています。一つ一つは筋が通っているのですが、ある章では問題点として挙げていたことを、別の章では、別の課題に対する解決策として紹介するなど、全体を通すと若干の破綻が見られます。わかりやすくて良いんですがね。(2/2)
003/018
「みんなの怪盗ルパン」小林泰三、近藤史恵、藤野恵美、真山仁、湊かなえ
ポプラ社のルパンシリーズは、大好きなシリーズでした。たぶん20冊くらい買ってもらったと記憶しています。この作品は、そんなルパンシリーズを当代の人気作家が創作した物です。読みながら、南洋一さんの独特の翻訳を思い出して、きっとこの作家さん達もワクワクしながらあのシリーズを読んでいたんだろうなとうれしくなります。(2/2)
004/019
「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」大木毅
昨年発行された新書の中でナンバーワンと評価されている大作です。第二次世界大戦のあらゆる戦いの中で、もっとも凄惨を極めたと言われる独ソ戦争ですが、必ずしも正しく評価されていないのではないかと言うことが、本書を著す契機になったそうで、最新の研究成果もふんだんに反映されています。残念ながら、独ソ戦に関する基礎的な知識をほとんど持ち合わせていないので、この本の本当の面白さには最後まで気づけなかったのですが、著者の熱い思いが伝わってくる本でした。(2/7)
005/020
「高校事変Ⅱ」松岡圭祐
シリーズの2作目。スーパーダークヒロインが活躍するハードボイルド小説。かなり残酷なシーンも出てくるのですが、さらりと書かれていて、読みにくさはありません。すでにシリーズは5作まで発行されているはずなので、今後も買っていきます。長時間移動のお供には最適です。(2/7)
006/021
「アリバイ崩し承ります」大山誠一郎
今、テレビドラマ化もされているのですが、いわゆるアリバイ崩し物のミステリ短編集。軽いタッチで書かれていて読みやすいのですが、ミステリのロジックにこだわるあまり、かなり無理な展開で話を進めており、おいおいそれはないだろうというような突っ込みどころは満載。でも、時間つぶしに読むには持ってこいで、ライトなミステリをお好みの方にはお薦めです。(2/8)
007/022
「世界の龍の話 世界民間文芸叢書別巻」竹原威滋、丸山顯德編
世界各地の龍(あるいは大蛇)にまつわる話しを集めた物で、なかなかに興味深い物でした。龍の起源は何処にあるのかわかりませんが、ヨーロッパからアジアにかけての広い範囲に残っているので、おそらくインド辺りが発祥ではないかと想像しているのですが如何でしょうか。また、さらに面白いのが、古今東西、龍系の話と大蛇系の話がそれぞれに残されていて、日本で有名な“八岐大蛇”と同様の話が、これまた世界各地に伝わっている。どこからどのように伝わっていったのか、興味は尽きません。(2/11)
008/023
昨年発行されたビジネス新書の中ではナンバーワンとの評価もされている1冊です。結婚、出産、育児、果ては離婚までの人生のシーンにおいて、何をきっかけとして、人はどのような決断を下すのか。様々な政策が、その後の人々の行動にどのような影響を与えたかと言ったことを、データを駆使してわかりやすく解説されています。残念ながら、日本については利用できるデータの量も少ないので、海外のデータで説明されていることが多く、どれくらい日本に当てはまるかは、未知数な部分も多くあります。こういったデータを活用した成果分析ができることのすごさを改めて感じますね。日本にはできない、というか決してやろうとしないことですね。(2/14)
009/024
「熱源」川越宗一
最近の直木賞受賞作で、今年の本屋大賞の候補作にもなっている歴史物の大作です。時代は、明治維新直後から始まり、第二次世界大戦までの、日本が世界の中でのし上がっていこうとしていた頃。舞台は北海道、ロシア、樺太(サハリン)。主役を演じるのは、いわゆるアイヌと呼ばれる先住民族。彼らが、文明開化の名の下に“教化”されていく様が描かれています。そしてそれは、日本が世界の中で受けていた扱いの縮図でもありました。その本編に、ポーランドの独立というサブストーリーが平行して描かれるという超大作です。おそらくは、もっと凄惨な状況もあったろうとは思うのですが、そういった場面描写がほとんどなくて、心穏やかに読めました。結構お薦めです。(2/16)
010/025
「福家警部補の考察」大倉崇裕
この本も好きなシリーズです。いわゆる倒叙式のミステリというやつで、先に事件の内容と犯人が描かれ、主人公が謎を解きながら犯人を追い詰めていくという“刑事コロンボ”“古畑任三郎”と同様の展開を見せる小説集です。今作でも主人公のスーパーウーマンぶりが遺憾なく発揮されるのですが、今回はその度合いが行き過ぎて、これはちょいとやり過ぎじゃねぇかと突っ込みを入れたくなります。まぁ、そんなしょうもないことを言わずに、ただただ楽しめよ、という事なんですがね。(2/21)
011/026
「証言集 関東大震災の直後 朝鮮人と日本人」西崎雅夫編
1923年に起こった関東大震災から、95年目に編まれた証言集で、この震災時の最大の悲劇と言っても過言ではない“朝鮮人大虐殺”について、当時の人たちが残した文章を多数拾い集めた超大作となっています。ご存じのとおり、この事件は震災直後に、朝鮮人が暴動を起こしたとか井戸に毒を投げ入れた、といったようなデマが広がり、それを信じた在郷軍人や“民間人”が、朝鮮人や中国人、社会主義者などの日本人
に私刑を加えたという事件です。噂の発生源が特定されていないこと、軍部や警察もその暴動に荷担していたこと、公的な記録をほとんど残さなかったことなどから、死者の数などその実態は明らかになっていません。また、当時は新聞以外のマスコミがなかったことや震災で通信手段が途絶していたことなどが、事件を拡大させたようです。最近でも、地震などの天災が起こったときに、つまらないデマをSNSなどで流す連中が後を絶ちません。人は、真実ではなく、信じたいことだけを信じると言うのが如実に表れた大事件だのかもしれません。1世紀が経とうとしてますが、決して忘れてはいけないことだと思います。(2/22)
012/027
人気シリーズの短編集第5弾です。今回は、東京からの帰りの新幹線の車中で読みました。いつもながらに軽快に謎を解いていくのですが、ここ数作は、最後に主人公の内面にある種の葛藤を起こさせ、精神的な成長に繋がるという結末がパターン化しているのですが、今作では、ややそれには失敗したかなというのが率直な感想です。医学知識は間違いないし、ストーリー展開も面白いので、あんまりそういった“変な盛り上げ”は、考えなくて良いんじゃないかと思います。(2/22)
013/028
「飢えと食の日本史」菊池勇夫
日本の歴史上、文献等で確認できる“飢饉”について、その記録を基にどのようなことがあったのか纏められて物で、約20年前に出版された本が最近復刻された物です。狩猟生活をしていた人類が、採集・耕作生活に移行してから、天候に如何によって、存在そのものに危機が及ぶようになってきました。江戸時代になると記録もしっかりと残されていて、その実態がわかってくるのですが、主食である“米”が、一方で最大の商品作物であり、通貨の代替物であったという特殊な性質を帯びていたことが、この時代の最大の不幸でありました。そういった時代背景を前提に、江戸時代の“飢饉”というのは、すべからく“人災”であったと看破しています。冷静に考えてみれば、江戸時代の農民は、米を食することはほとんどないので、米が不作になったところで、直ちに“飢饉”に陥ることはなかったはずですよね。江戸時代の農民の暮らしぶりがわかる面白い本でした。(2/23)
014/029
「縮小ニッポンの衝撃」NHKスペシャル取材班
NHKスペシャルのディレクターの方々が、リレー式に執筆された物で、丁寧な取材に基づいて書かれた衝撃的な内容の書物です。残念ながらこの特集番組は見ていなくて、映像で見るときっとさらに衝撃的だったのだろうと想像しています。2010年から日本は人口減少時代に突入し、“消滅可能性都市”というショッキングな見出しが世間を揺るがせました。このルポは、全国で起きている事象をたどった物で、かなり衝撃的な内容になっています。ここで報告されている事象は、遠からず確実に日本社会全体に起きることでしょう。その時代にどう備えるのか。難しい。このレポートに出てくる各自治体では、なんとかその流れを押しとどめようと、そこで働く公務員の皆さんが、まさに“滅私奉公”されている様が描かれています。でも、無理は続かない。無理の度合いが強ければ強いほど、破綻したときの衝撃は大きい。(2/28)
015/030
「日本の食文化2 米と餅」関沢まゆみ編
最近気になっているシリーズの第二弾で、私たちには馴染みの深い食材がテーマになっています。“米=主食”というのは我々が固定的に持っているイメージですが、おそらく米が主食になったのは明治以降。それまでは“通貨”であり、“商品作物”でありました。それが近代に入り品種改良が進んで、大量生産が可能になり“主食”になり得たと言うのが事実ではないでしょうか。一方“餅”は、ある種“聖なる食物”であって、主教との関わりが非常に強い食物というより供物であったとされています。興味深いです。(2/29)
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