2021年7月4日日曜日

2021年6月

 緊急事態宣言中の6月は、かなり久しぶりに大台を超え33冊となりました。うち2冊は上下巻の大作でしたので数字以上に充実していました。そして半年で140冊を超えましたので、この調子だと目標の200冊は、軽く超えてしまいそうです。

内訳は小説が13冊、その他の本が20冊とバランスもそれなりに良かったかなと思っています。

 

そんな中でのお薦めですが、今月読んだ中ではいわゆるシリーズものが良かったです。

いつものマギー・ホープシリーズや警視庁いきもの係シリーズは安定の面白さでしたが、加えて今月から読み始めたあきない世傳金と銀”“異世界居酒屋のぶは、思っていた以上に良かったです。続いていると言うことはそれだけたくさんに人に読まれていると言うことですよね。

それ以外の小説は、まぁそれなりでした。

 

一方で、小説以外の本は、かなり充実していました。

順に、井上ひさしさんのこの人から受け継ぐものですが、彼の護憲的な言動から、反感を覚えている人が多いと思いますが、書かれていることは至極まっとうです。この本に惹かれ丸山さんの本を一冊購入し、チェーホフの本を読み始めたのは以下に書いたとおりです。是非偏見を持たずに読んでほしい一冊です。

 

ジャレド・ダイヤモンドさんの超大作銃・病原菌・鉄は、かなり時間がかかりましたが、なんとか読み切りました。運と偶然によって今に至るまでの人類史です。西欧の先進国の人たちには受け入れがたい(と想像される)現実が丁寧に書かれています。コロナ禍を受けて、書かれた彼の論考を読み、興味を持ちました。なかなかの知の巨人ですね。このほかにも大作を書かれているので、引き続き読んでいきたいと思っています。

 

野の古典は、新聞か雑誌の商標を見かけたのだと記憶していますが、はっきりしていません。あまりなじみのない古典文学について、とてもわかりやすく解説されています。いくつか読みたくなり本もありましたので、この後古典文学が出てきたら、この本に影響を受けたと思っていただいて間違いありません。古典に全く興味がない方にも読み物としてお薦めです。面白かったです。

 

ナオミ・クラインさんの本は2冊あります。地球が燃えているショック・ドクトリンですが、前者は過去十年間に書かれた地球環境変動に関するエッセイを纏めたもので、後者は惨事に便乗して自らの欲を満たそうとする悪魔たちの告発の書です。全く違うテーマではありますが、いずれもとても面白かったです。かなり圧倒される筆致ですが、この方の別の本も読んでみようかと思っています。

 

続いて新書が二冊。マックス・ヴェーバーは、これまで知らなかったヴェーバーの生涯を丹念にたどるとてもユニークで面白い本でした。中公新書も買ってあるので読み比べたいと思います。さらに中世史講義【戦乱編】は、昔習った歴史について、新たな学びを経験させてくれる良書でした。いずれもお薦めの本です。

 

最後に長いシリーズとなった古代史をひらくシリーズの六冊目国風文化で、全冊を読み切りました。いずれも、若手の研究者や海外の研究者にも分担させるなど、新たな視点で古代史をたどるという素晴らしいシリーズでした。このシリーズのおかげで、その遺跡を訪ねたり、過去の遺物や文書に対する興味をかき立てられるなど、散歩のネタをふんだんに提供してくれました。歴史好きの方がおられたら是非とも手にとっていただきたいシリーズです。面白かったです。

 

4月に職場を変わってから、通勤時間が長くなりその途上での読書時間も長くなりました。また、就寝前のルーティンも呑む量を少し減らして休肝日を設けて、集中して読んでいます。おかげでいろいろ興味を惹いた本に次々に手を出すことができています。誠にうれしい限りなのですが、ミステリ以外の文学作品では、なかなか面白いものに巡り会えず、物足りなく思っています。

 

上にも書きましたが、7月は古典文学に挑戦したいと思っています。さて、最初の一冊は何にしようかな。

 

 

001/110

この人から受け継ぐもの」井上ひさし

井上ひさし氏が生きていく上で大事にしていきたいと考えた人たちについて語った講演録であったり評論を纏めたもので、特に印象に残ったのが丸山真男氏についての講演録とチエホーフについての評論の二本で、早速丸山氏の本を一冊注文し、チエーホフの小説集を二冊図書館で借りてきました。著者の座右の銘であるむずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめにをまさに地で行くようなっても面白い本でした。そんなに長くない本ですし、お薦めです。(6/1)

 

002/111

NEWTYPE ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式」山口周

彼の著書は少し気になっていて、図書館で借りてきたものです。今の日本社会は、戦後の高度経済成長時代の残像を追いかけている世代が決定権を握り、それを手放そうとしないまま迷走し、現在の破滅的な状態を到来させました。そんな社会で生き抜いていかなければいけない次世代の人たちに向けて書かれた書籍だと読みました。中途半端な世代である私たちはひょとしたら逃げ切れそうな感じですが、娘たちの世代はそうはいかないのだろうと危惧しています。頑張れ。ただ、コロナ禍前の書籍なので、ひょっとしたら、今書かれたらまた少し違う内容になっているかもしれませんね。(6/4)

 

003/112

銃・病原菌・鉄 1万3000年にわたる人類史の謎 」ジャレド・ダイアモンド

2000年代に国内で出版された書籍の中で最も影響力があると評価された本です。人類史に関する本なのですが、著者の元々はお医者さん。大学で生理学を修めた後に進化生物学へもウイングを伸ばし、その集大成として書かれたのが本書で、なぜ旧大陸人が新大陸人を征服したのかという謎についてその謎の解明を試みたものです。答えは、たまたま運が良かったから年か言い様がない。名著です。他の著書も読んでみたいと思います。(6/4)

 

004/113

書店員と二つの罪」碧野圭

決して謎解きではなく、ちょっとあまりない感じのミステリでした。世間を騒がせた少年に夜猟奇殺人事件の犯人が手記を出版することになり、その本の扱いについて、とある書店の店員が激しく動揺するところから物語は始まる。その書店員は事件当時、その犯人の隣に住む同級生で、事件の共犯者としての疑いをかけられ、マスコミにも追いかけられてた悪夢のような過去を持っていた。今回の手記出版を受けて、またぞろ当時の週刊誌記者が接触を図ってくると言う物語です。主人公が封印していた記憶を取り戻すことで、物語は急展開を見せるのですが、後味はあまり良くない。いつか破綻するつかの間の平穏。(6/5)

 

005/114

世界を支配する運と偶然の謎」植村修一

著者は元日本銀行員にしてリスクマネジメントの専門家である。日本銀行は、その主要な役割として、日本経済の先行きを見通し、破綻していかないように金融政策を行っていくことが期待されている。しかしながら、その先行きを見通すことが、そもそも不可能であるとしたらどうだろうか。政治や経済といった決定要因があまりに多様な分野、誰一人として予測に成功したことはない。歴史上の出来事もすべて運の偶然のなせるわざと考えるべきとしています。プロ野球の監督をしていた野村さんが言っていた、勝ちに不思議の勝ちあり、負けの不思議の負けなしと言う言葉が身にしみます。(6/8)

 

006/115

還暦からの底力 歴史・人・旅に学ぶ生き方」出口治明

まもなく還暦を迎えます。昔はとんでもない年寄りに思えたのですが、いざ自分がその年になってみると、体は確かに無理が利かなくなって、あちらこちらに故障が出てきていますが、精神的にはまだまだ自信を持って一人前と言えるほど成長しているようには感じられません。言い方を変えればまだまだ成長の可能性ありというところでしょうか。突如我々を襲ったコロナ禍で、人と会うことに大きな制限を受けています。新たな出会いが限られている中で、これからの学びの人生をどう送れば良いのか、毎日悶々としています。(6/8)

 

007/116

野の古典」安田登

これは面白かった。確か新聞の書評で見かけたのだと思うのだが定かではない。著者は本来能楽者で、職業柄多くの古典文学に造詣が深く、本書はそんな古典文学を、とても平易にわかりやすく紹介されている。おなじみの古典から聞いたことのない本、世をはばかるような下品な描写など興味津々であっという間に読める一冊でした。改めて、ここで紹介されていた古典たちを読んでみようかなと思います。お薦めの一冊です。(6/10)

 

008/117

マジシャンは騙りを破る」ジョン・ガスパード

図書館でたまたま見かけて借りてきました。主人公はマジシャン。テレビの公開放送で超能力者のトリックを見破ったところ、翌日その超能力者が死体で発見され、容疑者としてリストアップされます。残念ながら、このマジシャンが謎の解明して真犯人を捜し出す、とはいかず、かえって絶体絶命の窮地に陥る。という物語。ミステリなんですが謎解きの要素はほとんどありません。続編も出ていますが、たぶん読まないんだろうな。(6/11)

 

009/118

マイ・シスター、シリアルキラー」オインカン・ブレイスウェイト

著者が住むナイジェリアが舞台の珍しいミステリ小説。是もどこかの書評で紹介されていたので、試しに読んでみました。まずは、全体としての分量が少なく、さらに短い説から成り立っていて、2ページごとに場面がどんどん切り替わっていきます。ある意味とてもスピーディ。ついつい人を殺してしまう恋多き妹とその始末に奔走する姉の物語。ストーリーとしてはあまり好きなタイプではないのですが、面白いお話でした。

(6/12)

 

010/119

地球が燃えている 気候崩壊から人類を救うグリーン・ニューディールの提言」ナオミ・クライン

著者の近作ですが、内容は2010年代に様々なところで発表されたスピーチやエッセイを纏めたもので、主に地球温暖化について警鐘を鳴らし続ける内容となっています。地球温暖化の問題が世界に明らかになったのが1988年。そこからさらに研究が重ねられ、今や世界的な常識ともされていますが、ではその対策はどうなっているのかというと、全く何も変わっていない。むしろ温暖化を加速する方向に進んでさえいる。本書ではその傾向に拍車をかけた善アメリカ大統領のことも酷評しています。悲しいかな、本当に彼女の話に耳を傾けるべき人が、この本を読むことはないでしょう。この本を読む人たちはみんな、自分に何ができるのか”“自分は何をすべきなのかと考える人たちばかり。そういった人たちを勇気づけるスピーチも収録されおり、とてもほっとする内容です。実は私は、グリーン・ニューディールという言葉には、胡散臭さを感じていたのですが、彼女の提唱するそれは、商業的グリーン・ニューディールとは一線を画しているようで、良かったです。すこし彼女のことを誤解していました。読みやすくて面白い本でした。(6/13)

 

011/120

城の科学 個性豊かな天守の「超」技術 」萩原さちこ

少し前に買ってそのまま放置してあった新書を少しずつ読んでいるのですが、これはそのうちの一冊。世の中のゴモ散歩ファンの方はご存じかもしれないのですが、私は密かにお城マニアでして、現存する12の天守閣を制覇したいと精力的に回っております。この本は、そんな天守閣を非常に専門的い分析されている本で、図版も豊富でとても楽しく読めました。前述の12天守閣のうち、8カ所まで回ることができているのですが、この本を読むまで知らなかったこと、訪問時には気がつかなかったことがたくさんあり、改めてもう一度回ってみたいなと思ってしまいました。なかなか叶わぬことかと思いますが、是非とも。(6/13)

 

012/121

刀と傘 明治京洛推理帖」伊吹亜門

明治維新前後に舞台をとり、維新政府の司法卿であった江藤新平を取り上げた時代ミステリ。五篇の短編が収められているのですが、元々はそのうちの一篇がある新人賞を取ったことから、その前後の物語を加えて一冊の本になっています。一連の物語の構想がいつ頃からあったのかわからないのですが、どうも取って付けた感が拭えなくて、読後感はイマイチでした。最近同じ作者による別の幕末の英雄を主人公にした時代ミステリが出版されているのですが、さて読もうか読むまいか。悩むところです。(6/14)

 

013/122

とてつもない嘘の世界史」トム・フィリップス

著者は、ニュースサイトのファクトチェックをしているそうですが、ユーモア作家とも紹介されています。最近、自分に都合の悪い報道にはフェイクニュースを連発して、世間を煽っていた政治家が昨年そろってその座をしりぞきましたが、そのおかげで、フェイクニュースという言葉がよく知られるようになりました。私もてっきりネット時代の弊害かと思っていたのですが、その歴史は文字としての歴史が残されている時代まで遡れるようです。そして、本書の中での最大のスターは、アメリカ建国の父とも呼ばれたトマス・フランクリン。まぁ、とんでもない人だったらしく、商売敵をニセのニュースで倒産させたり、架空の虐殺事件をでっち上げて当時の宗主国であるイギリス批判の国際世論を誘発したりと、かなりの大嘘つきだったようです。本書では大ほら吹きとやんわり書かれていますが、まぁペテン師ですね。まさに政治家いはぴったりの素質を持っていたようです。なかなか面白い本でした。(6/15)

 

014/123

歴史を変えた自然災害 ポンペイから東日本大震災まで」ルーシー・ジョーンズ

たまたま図書館で見かけて借りてきました。世界史を変えてしまった過去の大災害について書かれているのですが、私は、歴史を変えた災害などというものは存在しないと思っています。それも是も含めて歴史は刻まれているのです。しかしながら、社会のありようとかものの考え方に影響を与えた災害は多数あったことは間違いありません。たとえば今直面している世界的な感染症の蔓延は、まさにそのような大災害と言えるのではないでしょうか。あとは、ここから我々がどのような歴史を刻んでいくのか。興味深いところです。(6/16)

 

015/124

可愛い女・犬を連れた奥さん 他一篇」チェーホフ、神西清訳

前に宣言したとおり、まずはチェーホフの短編集を一冊借りてきました。岩波文庫では、小説と戯曲が別系統に分けられていて、恐らく戯曲のほうがよく知られているのだと思うのですが、あえて小説から読んでみました。彼は44歳で亡くなっているのですが、ここに納められた作品は、後期に書かれたものおようです。舞台は革命前のロシア帝国なのですが、かなり自由奔放な恋愛が描かれています。犬を連れた奥さんって、W不倫のお話なんですね、知らなかった。当時のロシアの様子が生き生きと浮かぶ素晴らしい翻訳であり、その点も花丸です。(6/17)

 

016/125

マックス・ヴェーバー 主体的人間の悲喜劇」今野元

昨年がマックス・ヴェーバー没後100年で、ちょうど今月6月に亡くなっています。ということで昨年のこの時期、記念の書籍がいくつか出版され、特に岩波新書と中公新書が同時期に、全く同タイトルの書籍を出されて、話題になりました。ただ、著者の好みで本作はヴェーバー、中公はウェーバーと表記されています。本書は、ヴェーバーの50数年にわたる生涯を丹念に追った伝記的な性格を帯びており、彼の著書の内容にまではあまり踏み込んでいません。その生涯をたどってみると、かなりの自信家で結構ヤな奴っぽい。当時の社会では仕方ないのかもしれませんが、ドイツ至上主義の傾向もあり、この本の最後に特に一章もうけてありますが、後のナチスの台頭にも繋がっていったのではないかと思ってしまいます。でも面白かったです。時間がかかるかと思っていましたが、数日で読破しました。(6/17)

 

017/126

『共食』の社会史」原田信男

今新型コロナウイルス感染症の影響で、孤食が話題になっていますが、進な時代にあえて出版された共食の歴史です。人類の歴史の中で共食がいつ頃から始まったのかは判然とはしません。書き物として残されることで初めて歴史として現れてくるわけで、本書ではまずは神との共食から綴られています。神饌とお下がりというのは、私の子供の頃は当たり前でしたね。それから、ある事をなすに心を合わせるための共食が現れ、一味神水Tか一味同心という言葉が説明されています。その後は、貴族社会や武家社会での身分制の確認の為の共食や20世紀になって一般的になった一家団欒についても紹介されています。ただ残念ながら、社会史と銘打たれているにもかかわらず、民衆の共食の歴史にはあまり触れられていません。もちろん殆ど資料として残されていないと思われるので仕方がないとは思うのですが、庶民の共食の歴史についてもわかる範囲で紹介してほしかったです。(6/18)

 

018/127

友情2 平尾誠二を忘れない」山中伸弥編

我々世代にとってのスーパーヒーロー平尾誠二さんについて、同時代を生きた人々が語ったものを纏めたものです。若くしてがんに命を奪われた平尾さんですが、あの感動を与えてくれたラグビー・ワールドカップ日本大会を機会に、改めて多くの方が思い出されたのではないでしょうか。格好いい人でしたね。改めてご冥福をお祈りします。(6/18)

 

019/128

自転しながら公転する」山本文緒

この方の本は初めてです。いろんなところで評判になっていましたので図書館で予約していました。どうやら元々雑誌に連載されていたものを、書籍化するに当たってプロローグとエピローグを書き足されたようで、レビューでは蛇足とかなり酷評されていますが、私はこれらを付け加えたことで、当初想定されていなかったどんでん返し的な要素が加味されて、慰安泊とのある作品になったのではないかと思います。ただ、主人公の女性がかなり面倒くさいタイプで、どうなんだろうと思っていたら、どうやらこの作者はこういった共感できないタイプの女性の描写お得意とされているようで、こういうのもありなんだと妙に納得いたしました。でもわかっていても読むのはしんどいかな。(6/19)

 

020/129

あきない世傳 金と銀 源流篇」高田郁

NHKのドラマにもなったみおつくし料理帳シリーズで人気の作者の別シリーズなんですが、私は彼女の作品を読むのは是が初めてで、楽しみに読んでみました。他の作品を読んだことがないので決めつけはできないですが、言葉の表記、選び方にかなりぶれがあるように見受けられました。典型的な例が、地の描写部分では古い言葉や習慣をそのまま当然のように使っているにも関わらず、話す言葉がかなり現代の言葉に近づいているという違和感です。そんな違和感はありつつも、設定が面白いので、しばらく読んでみようかなと思っています。(6/20)

 

021/130

愛するということ」エーリッヒ・フロム

作者は、自由からの逃走でよく知られていますが、この本もおよそ60年前に出版されてからロングセラーで読まれていているものです。最近新訳で再版され、多くの書評で取り上げられています。原題は“The Art of Loving”ですから、愛する技術とも言うべきものなのでしょうか?世の中には、愛されるためのテクニックについて語られることはあるが、本来愛することにこそ技術と修練が必要というのがこの本の趣旨のようです。ユダヤ教の家庭に育ったことからか、神への愛についてかなり紙幅が割かれています。また、時代的に性差による愛情の違いを大まじめに論じたり、同性愛を否定的に取り上げたりといった部分もありますが、所々にはっと思うような指摘がされています。かなり理屈っぽいです。(6/22)

 

022/131

ホテル・リッツの婚約者 マギー・ホープ・シリーズ」スーザン・イーリア・マクニール

大好きなシリーズ7作目です。第二次大戦もフランスが陥落しドイツが優勢となっていましたが、前々作でアメリカの参戦が決まり、連合国側の反攻が始まろうとしています。そのヨーロッパ大陸への上陸作戦に欠かせない資料収集のためフランスに潜入したスパイが窮地に陥っています。そのピンチに主人公が突入する。結末がわかっているので、安心なんですが、いつものとおり手に汗握る展開で楽しめます。ところが最後にとんでもないことになって、物語が続く。次作が楽しみです。(6/23)

 

023/132

中世史講義【戦乱篇】」高橋典幸編

保元・平治の乱から文禄・慶長の役にいたる中世日本の戦乱に焦点を当てた歴史解説です。戦乱ごとに別々の著者が論考を述べられているのですが、それらが一体となって一冊の分野別通史となっています。昔習った源平合戦という言葉は出てこず、今では治承・寿永の乱と呼ばれるそうです。是は、平氏から源氏への政権移行の戦いであると同時に、源氏内部での主導権争いがメインだったこと、戦国時代は応仁の乱ではなく関東の覇権争いであった享徳の乱のという戦乱が発端とされていること、など自分の歴史知識の空白を埋めてくれるいい本でした。この~~史講義シリーズは結構面白いです。(6/23)

 

024/133

国風文化 貴族社会の中の『唐』と『和』 シリーズ日本史をひらく」吉村武彦、吉川真司、 川尻 秋生編

これも歴史のシリーズ物ですが、若手の研究者に執筆を委ね、新しい視点から古代史を見直そうという意欲的な6冊シリーズで、最終巻となります。我々が学んだ頃、国風文化は、遣唐使が廃止され、それまでの中国(唐)風の文化から、日本独自の文化が生まれた、と漠然と理解していましたが、どうもそれほど単純なお話ではないようで、ちょうど中国では唐が衰退し、五代十国時代という不安定な時代を経て北宋が中国を統一する時期に当たるのですが、日本国内では盛時の唐への回帰現象が見られます。一方で唐風が正統で、異端とされていた国風(くにぶり)が徐々に市民権を得、両者が混交して独特の文化が育っていったようです。そこに仮名文字の発明、文化の担い手としての女性の台頭という要素が相まって、今の日本文化に繋がっているということのようです。この頃の古典もとても面白そうです。時間があれば手を出してみたい。(6/24)

 

025/134

大名の『定年後』 江戸の物見遊山」青木宏一郎

江戸時代中期、柳沢吉保の孫に当たる人物が家督を譲った後、江戸で過ごした十数年にわたる記録から、どのような定年後を送っていたのかを纏めた本なのですが、頻繁に出てくる日記の文章が殆ど何の解説もないまま放り出されており、読むのはかなり厳しい。期待して読んだのですが、読みづらくて残念。(6/25)

 

026/135

あきない世傳金と銀二 早瀬編」髙田郁

先日から読み始めたシリーズものの二作目。前作で店主の後添えに望まれた主人公が、少しずつ商売を覚えていきますが、主が突然の事故で亡くなります。そして主人公は新たな嵐の中に放り込まれていきます。今回で少し作者の作風に慣れてきたのか、前作より読みやすく感じました。これなら続けて読めそうです。次作に期待。(6/26)

 

027/136

ショックドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く 上」ナオミ・クライン

上下で600ページを超える大作です。私の読書傾向を見ていただけるとよくわかると思うのですが、経済分野がとても苦手で、敬して遠ざける傾向にあります。そんな中でこの本は、頃かかごの世界に向けた発言を読んで著者に興味を持ち読んでみたものです。今月だけで2作目になります。惨事便乗型資本主義とは、災害や戦乱による破壊後の復興に当たり、政権が特定の事業者と結託して金儲けに奔る姿を指したものですが、この本では特に前世紀の終盤から隆盛となった新自由主義と呼ばれるグループが、そのような惨事後の復興の場を実験場として扱い、併せて合法的にその復興資金を自らのグループに環流させる手法を指しています。読んでいると気分の悪くるような話が次々に出てくるのですが、アメリカ国内の特定の富裕層にアメリカ政府だけでなく国際通貨基金や世界銀行などからすべてのお金が回っていきます。この本は、リーマンショックの直前に書かれており、その後の分析はされていませんが、今コロナ禍という未曾有の惨事の最中に置かれている我々の周りでどのような陰謀が準備されているのか、空恐ろしいです。(6/26)

 

028/137

アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係」大倉崇裕

これは結構気に入っているシリーズものなのですが、久しぶりに読みました。相変わらずのコンビがとても微笑ましいです。途中で同じ作者の別のシリーズの主人公が顔を出し、そちらのシリーズも久しく読んでおらず、なつかしく思って読んでおりました。(6/26)

 

029/138

本と鍵の季節」米澤穂信

著者の作品群のなかでも一つの柱である学園もののミステリです。ただし大きな犯罪は出てこず、あくまで日常の小さなミステリを主人公が解いていくという流れなのですが、高校生がここまでできるか、という違和感は相変わらずです。面白いのは間違いないですが、この設定ではこれ以上は難しいのでは。(6/27)

 

030/139

異世界居酒屋のぶ」蝉川夏哉

変わった表紙の本で、以前から気になっていました。居酒屋を舞台にした食べ物小説なのですが、その設定が奇抜。どうやらここはこの世界ではないどこか。裏口は、今の東京のとある裏町に通じているのに、店の玄関側は全くの異世界。どうやら電気もガスも水道もない世界らしいのだが、この店には、東京側からそれらが供給されており、それだけでも大変なアドバンテージ。そこで出される美味しそうな居酒屋メニューが、異世界の住人たちの胃袋をつかみ、お店は大盛況。小説投稿サイトのライトノベルコンテストで大賞を取った作品だそうで、一つの物語がとても短く、携帯サイトでの読みやすさが意識されているように思われます。それを差し引いても、こういう平和な物語は大好きです。(6/27)

 

031/140

エチュード」今野敏

彼の警察小説は結構好きで、時折思い出して読んでいます。どうやらこの本もシリーズ化されているようなのですが、ちゃんとそれぞれが完結しているようで、どれから読んでも大丈夫なようです。主人公の刑事が専門家と共同して捜査に挑むというシリーズのようで、本書では心理捜査専門官という警察庁の専門家が操作に参加し、成果を上げていきます。まぁ、実際にこんな犯罪が可能なのかどうかはさておき、楽しめる本でした。(6/28)

 

032/141

海洋プラスチック汚染 『プラなし』博士、ごみを語る」中嶋亮太

国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の若手研究者による警告の書です。現在世界中で年間推定4億トンのプラスチックが生産されており、そのうちの半分が包装容器と言われています。4億トンに対するリサイクル率は10%以下で、殆どは埋め立てらるなどして管理されているのですが、多くは放置、投棄されており、推定で1000万トン以上が海洋に流出していると考えられています。そしておそらく2050年には全魚類生物量を超ええしまうと推定されています。量的に最も多いのが漁具で、不法に投棄されたもの、災害や事故などで流出したものなどもありますが、それが海洋生物に大きな被害を与えています。さらに大きな問題を巻き起こす恐れがあるのが、マイクロプラスチックやナノプラスチックで、微少なものは魚介類の体内に取り込まれ、有害物質が吸収され、最後はそれを補食した生物にも被害を及ぼすことが懸念されています。いわゆるバイオプラスチックという技術開発も進んでいるようですが、未だ完全に生分解されるものは見つかっていません。次の世代のことを考えたら、プラスチック依存の生活から脱しないといけないですね。(6/29)

 

033/142

SDGs 危機の時代の羅針盤」南博、稲葉雅紀

誰一人取り残さない。よく知られているSDGsの合い言葉です。著者の一人は、外務省で、日本政府代表としてSDGsの交渉に関わった人物です。元公務員が書いた本と言うことで、色眼鏡で読んだのですが、確かに交渉の裏側での苦労話やある種の自慢話も多かったのですが、全体的にはグローバルな動きと国内のローカルな取り組みが紹介されていて読みやすい本でした。ただ、以前にもどこかで書いたと思うのですが、私自身はSDGsには懐疑的で好印象を持っていません。そもそも開発を目標としている時点で、最も重要な私たちの生活の持続可能性を否定してしまっているのではないか。科学技術のイノベーションがすべてを解決するという楽観的な見方もあるようですが、今ないものに頼ることのむなしさ。イノベーションは常に格差を拡大する方向にしか進まない。持続可能な生活を営もうとするなら、我々先進国と言われる国々は、ダウンサイジングをする方向に舵を切らざるを絵なのではないか。私はそう考えています。(6/30)