2016年6月12日日曜日

2016年5月

5月は久しぶりに読書時間がたっぷり確保できたような気がします。5月は計20冊、うち小説が12冊でした。

文句なしに良かったのは、さすが本屋大賞といえる“羊と鋼の森”。淡々と押さえた感じで物語が進むが、表面は穏やかに見えて、その実激しいものが流れているような印象を受ける。早速この作者の小説をいくつか入手して読んでみようと思う。

また小説では、昨年のミステリ三冠王“王とサーカス”の主人公のプレスト-リーを描いた“真実の10メートル手前”もお薦めである。長編と短編集という違いもあるが、私としては“王の~”よりもはるかにおもしろいと思うのだが、どうだろうか。

それ以外の分野では、これという本には当たらなかったが、“京都〈千年の都〉の歴史”は、京都の歴史を改めて考えるきっかけとなる良い本になっている。

また、先月から続いて“STAP細胞騒動”に関する本を手に取った。こちらはジャーナリストが書き、賞まで取った本なのだが、内容的には憶測と電文を交えた、ジャーナリストの手によるとは思えないものとなっている。一野次馬としては、この騒動の本当のところを知りたいと思うところと、さらに全く関係なく、ちゃんと書かれた本かどうかが、ちゃんと評価される世の中であってほしい。

(001/055)
鼠、江戸を疾る」赤川次郎
NHKドラマにもなった作品。学生の頃。著者の作品が大ブームになり、発売される新書や文庫を貪るように読んでいた。その記憶に中では、著者が時代物に手を染めたのは、是が初めてではなかろうかと思う。おそらく時代考証などにはかなり怪しいところがあるような気がするのだが、勧善懲悪で御都合主義の読んでいてすかっとする小説は、憂さ晴らしにはもってこい。(5/1)

(002/056)
極め道」三浦しをん
小説家としてはヒット作を連発し、押しも押される大作家だが、このエッセイが強烈におもしろいのも大きな売りである。特にこのエッセイ集は、彼女がまだ学生の頃に、ウェブ上に連載していたものだそうで、その着眼の素晴らしさとどこから生まれるのか判らない妄想が相俟って、読みどころ突っ込みどころが満載。(5/2)

(003/057)
とんでもなく凝りに凝った連作短編小説集。最後の最後の数行で、“えええっ!!”となってしまい、最初から読み直してみたくなる。それ以外にも、こんなに小さな仕掛けが満載だと、油断も隙もなくて読む方が疲れてしまう。作者のドヤ顔が目に浮かびそうで、ちょっとシャク。そこまでやらにゃいかんのかいな。どうもこのシリーズはこの先にも続いているようで、どこまで続けられるか心配。(5/4)

(004/058)
千里眼の水晶」松岡圭祐
新千里眼シリーズの三作目。旧日本軍が残したウィルス兵器を巡る物語。いよいよ荒唐無稽さが増大し、御都合主義もここに極まれり。ここまでくると笑うしかない。次の作品も図書館へ予約しました。(5/5)

(005/059)
毎日新聞の記者が“今世紀最大のスキャンダル”について、その経過をまとめたルポルタージュ。大宅壮一ノンフィクション賞を受賞している。理系出身の記者らしく、専門用語などにはやたら詳しい。とはいえ、内容的にはかなり不満。善人の面をかぶりながら、渦中の女性科学者への悪意に満ちた記述は如何なものか。たとえば、彼女への人格攻撃を加える際に、“知り合いの科学者”なる謎の人物を引っ張り出して、印象を語らせる。或いは、『あの日』でも書かれていた彼女自身への執拗な取材攻勢については一切語られていない。この事件で唯一の犠牲者となった男性研究者への取材の様子は、二つの本では正反対に描かれている。最近、この事件の報道のあり方についても検証すべきとの議論が起こっているらしいが、その議論を楽しみにしたい。(5/6)

(006/060)
禅の世界では、食事も立派な修行の一つで、曹洞宗の宗祖道元も食事についての書物を記している。この本でも禅宗に関わる食事についてわかりやすく書かれているのだが、一カ所“?”と思うところがあった。この本では“和食では食べものをいただくときは器を必ず手に持つのが作法”と書かれているのだが、私の記憶では、精進料理ではそれが正しいのだが、普通の和食では、“椀と鉢”以外は手に持たない、というのが私の理解なのだが違っていたのだろうか。精進料理では応量器という入れ子になった器を使うのだが、これだとすべてが椀・鉢状になっているので、先の和食のルールとも整合性があると思うのだが、どうなのだろうか。(5/7)

(007/061)
ハーメルンの誘拐魔」中山七里
著者の著作の中でも、犬養隼人という刑事が主人公になったシリーズになっているらしい。すべて読んでいるはずなのだが、あまり記憶にない。ストーリーとしては、“子宮頚がんワクチン接種の副作用”という非常に重いテーマを取り上げており、私自身はこの本で初めて知ったテーマである。ミステリとしては、途中から真犯人がわかってしまい、謎解きとしてはいまいち。(5/7)

(008/062)
自衛隊の内部に臨床心理士が居るというのは、知りませんでした。たしかに医者や看護師もいるのだから、メンタルヘルスが重視される昨今、居て当然と言えば当然か。特に、海上自衛隊と言えば、長期に渡り狭い艦内で濃密な関係を結ぶわけだから、人間関係で悩む隊員が多数出てきても不思議ではない。それが直ちに神経疾患につながるわけではないが、他の職業に比べて、リスクは高いと思われる。ストレスマネジメントの重要性を改めて認識する。(5/7)

(009/063)
幹事のアッコちゃん」柚木麻子
元気が出る人気シリーズの3冊目。どうやらこれで完結か?それとも海外シリーズが始まるのか??(5/8)

(010/064)
京都の町は、“平安京の建設”、“秀吉による都市計画”、“明治維新による空洞化”と過去に3度造られた。というのが私の認識だったのですが、どうもその間に何度も大きな都市改良があったようである。ただ、平安建都から応仁の乱に向かう長い期間には、徐々に衰退と建設が繰り返されていたようで、さらに意外だったのは、江戸時代に政治機能が東に移ってからの都市力の衰退は顕著だったようで、その間に何度も幕府がてこ入れをしていたというのは、あまり認識がなかった。(5/17)

(011/065)
総理の夫」原田マハ
自分の奥さんが総理大臣になったら。という物語。日本の国政史上初の“ファースト・ジェントルマン”となった主人公の日記調モノローグで物語は進む。もう一人の主人公である女性首相が語る部分がないので、その心証描写がなく若干物足りない感もある。また、いくら浮世離れした主人公であるとしても、こんな簡単にひっかるかいなと思わせるようなハニートラップは、如何なものか。(5/18)

(012/066)
羊と鋼の森」宮下奈都
今年の本屋大賞受賞作。本賞受賞作には、ほとんど間違いがないと信じています。物語は、一人の少年が、ある偶然の出会いから調律師を目指して研鑽を重ね、人間としても成長していく様を描いたもの。とても切ない事件も起こるが、派手な描写や事件性などは全くなく、物語は静かに進む。最後は心が温かくなる、そんな良い物語です。(5/21)

(013/067)
新シリーズの4作目。中国大使館でのいかさま賭博の開帳など、こんなことを書いて大丈夫かと思ってしまう。あまりに話が大きすぎて、荒唐無稽も極まれり。それでも、これくらい突き抜けるとおもしろいなぁ。(5/21)

(014/068)
先日来、いわゆる“パナマ文書”が公表され、租税回避地を利用している世界の富豪達の名前が曝された。ピケティが主張しているように“資産は持てる者に集まり、貧富の格差は拡大を続け”、“資本収益率は常に経済成長率を上回っている”のは、過去の歴史を見る限り明らかな事実である。しかし、それを認めようとしない勢力も存在する。ピケティは、世界的な資産課税を唯一の解決策だと提示するが、現状では夢物語。そして、世界は破滅へと一直線に。(5/21)

(015/069)
海神の晩餐」若竹七海
戦前から戦後にかけて太平洋航路で活躍した豪華客船氷川丸を舞台にした本格ミステリ。コージーミステリの名手と言われているが、こういった本格ミステリも十分おもしろい。(5/22)

(016/070)
“道徳”という胡散臭いものを、まさに胡散臭いものだと言い切った著書。胡散臭さの極値である昨今の“道徳教育”について、疑問を投げかける。そもそも道徳を学校教育の中で取り上げようとすること自体に、何か大きな勘違いがあるのではないか。地域や家庭での教育やしつけといった機能が崩壊し、学校などの教育機関にそれが委ねられてしまったことに不幸の源がある。(5/25)

(017/071)
昨年各賞を総なめにした“王とサーカス”の主人公の前史。本書を構成する短編のほとんどは、王とサーカス以前に雑誌に書かれたものだが、なぜかここにきて後を追うように出版された。この主人公の場合、短編の方が良い物語になるような気がする。前作よりおもしろい。(5/28)

(018/072)
 “誰も知らない小さな国”の続編のように書かれた、有川版コロポックル物語。基になった本は、実は読んだことがなく、コロポックル伝説についても詳細は承知していない。しかしながら、この物語を読む限り、子供達にとても大事なことを教えてくれる物語であることは確かだろう。改めて読んでみようかな。(5/29)

(019/073)
哲学の使い方」鷲田清一
元阪大総長、現京都市立芸大学長の著書。哲学の入門書ではなく、何の関わりもないと思いがちな日々の生活に、どのように関わりを持っていけばよいのかということに気づかされる。その新たな取り組みとして“哲学カフェ”が紹介されている。世の中のあらゆる前提を疑い考察を加える。(5/30)

(020/074)
無私の日本人」磯田道史
内村鑑三の“代表的日本人”に倣って著者がまとめた3人の“新代表的日本人”という雑誌連載を一冊にまとめたもの。不幸にして、誰一人として私が知っている人はいない。このうちの一話が、映画化され現在公開されている。この三つの話の中では、一番最後に書かれたもので、これだけが小説調の書きっぷりになっている。それだけに内容もドラマチックに描かれており、映像化されても映えるだろう。見に行こうかな。(5/31)