2013年11月10日日曜日

2013年10月

10月は19冊のうち小説が11冊、その他が8冊。ただ小説には上下巻になっていた物もあるので、実質は20冊となりましょうか。
小説では大好きな宮部みゆきの江戸時代物を2冊、今年話題になった“永遠の0”と“ホテルローヤル”も読みましたので、充実したラインナップかなと思います。特に宮部みゆきの2冊は何れも甲乙つけがたい出来映えで、さすがと思わせる充実ぶりです。
また、小説以外では、たまたま話題の“タモリ論”を読みましたが、それ以上に“里山資本主義”は面白かった。地域おこしに興味がある向きには是非とも一読をお勧めしたい。
おそらくここ数年の政治的な大テーマへの入門編として、“白熱講義 日本国憲法改正”もお薦めです。主権者として知っておかなければならないことが、わかりやく書いてあります。また、“歴史を考えるヒント”も、歴史マニアへの入門編としてお薦めです。視点としては、目からうろこ、だと思いますよ。

001/208
里山資本主義」藻谷浩介、NHK広島取材班
現在世界を席巻している“マネー資本主義”に対抗し、小さなコミュ二ティの中で循環する新たな資本主義を提唱する。NHKが特集番組を制作放送する中で見つけた様々な取り組みを紹介する。それらについて、“デフレの正体”で一躍檜舞台に出てきた著者が論評するスタイル。我々としても、是非こういった取り組みの芽を伸ばしていきたい。それこそが次の世代にとって、生きるヒントとなる。(10/3)

002/209
タモリ論」樋口毅宏
赤塚不二夫の告別式でのタモリの弔辞は今や伝説となっている。“笑っていいとも”をこよなく愛する著者による、タモリ、お笑い論。お笑いを評論することほど愚かなことは無いと言い切る著者によるお笑い論である。それにしても30年以上の長きにわたり、毎日生放送ができるタモリという芸人はすごい。(10/4)

003/210
夜の国のクーパー」伊坂幸太郎
比較的最近の書。昔のように無条件に楽しめない。どうにもとらえどころがない感じ。(10/6)

004/211
歴史を考えるヒント」網野義彦
“歴史”の“史”は“ふみ”であって、“文字”と同義語である。というのは高校時代の日本史の先生の台詞である。つまり文字を読み解くことが歴史学の基本である。ところが、単純に単語を追いかけていても、時代によってある言葉が表す概念に大きな違いがあり、それをしっかり認識していないと、まさに“歴史を読み誤る”ことに繋がる。歴史って面白い。(10/6)

005/212
電気料金はなぜ上がるのか」朝日新聞経済部
私たちが家庭で使っている電気は、自家発電でもない限りほとんどが地域の独占企業と契約し、定められた電気料金を支払っています。これまでその体系について全く興味を持ってこなかったところ、東日本大震災の影響で国内の原子力発電所が停止したことにより、各社が一斉に料金の値上げを申請してきた。このレポートはその値上げの構造について詳細に分析し、その不思議さを浮き彫りにしている。この消化不良感を解消できるのは、結局私たちの考え方一つである。(10/10)

006/213
その昔、井上靖が同様の題材で書かれた小説を読んだことがあったが、その小説とは国内へ戻ってきてからの光太夫の過ごし方が全く違って描かれている。これは、最近になってその頃の記録が見つかったためらしく、本作のほうが史実にはより近いそうである。学校の日本史の授業で習ったほんの一行の記述の裏に、大きな人間のドラマがあるという証である。(10/13)

007/214
桜ほうさら」宮部みゆき
出版された直後に買ったままになっていたのをようやく読むことができた。江戸時代を背景にこういった人情物を書かせたら、彼女の右に出る者はいない。全てのキャラクターが魅力的に描かれており、主人公達のほのかな恋が実ることを祈りたくなる。ちょっと長いが、気に入った一節を。人は目でものを見る。だが見たものを留めるのは心だ。人が生きるということは、目で見たものを心に留めていくことの積み重ねであり、心もそれによって育っていく。心がものを見ることに長けていく。目はものを見るだけだが、心は見たものを解釈する。その解釈が、時には目で見るものと食い違うことだって出てくるのだ。(10/14)

008/215
永遠の0」百田尚樹
大ベストセラーになってしまった小説を、ようやく読む気になった。確かにストーリー展開も巧みで、読みながら徐々に引き込まれていき、気がつけばあの長さを一息に読んでしまう。ラストの数章もとても感動的で、素晴らしいできの小説であった。ただ私にとっては、描かれている人物がやや極端であまりに濃いキャラになっているため、そのたびにふと鼻白んでしまう。でもこのキャラ付けがあるからこの小説は映えるのか。そこはよく判らない。(10/14)

009/216
今静かに盛り上がってる憲法改正について、私が疑問に思っていることを端的に著してくれていて、とても判りやすい。憲法という物は本来権力を縛るための物で、本書にも書かれているとおり“●●を守ろうというスローガンは“●●を守らせようというのが正しい。いろいろ議論が分かれる部分も、現在のように曖昧に書かれているため、権力による恣意的な解釈がまかり通るのであって、その甘さ締める意味でも憲法改正は避けて通れない。至極まっとうな意見だと思う。そのためにも、現政権党が提案している改正案には問題ある記述が多く、しっかりと議論しなければいけない。この本は護憲派にも改憲派にもお薦めです。(10/15)

010/217
奇跡と言われた日本航空の再建を成し遂げた稲盛氏の3年間に及ぶ奮闘の日々をコンパクトにまとめた物で、彼の最後のご奉公の様子がよく判る。彼にとって悲劇だったのは、せっかく事を成し遂げたにも関わらず、直後に政権が変わってしまい、その後の正当な評価がなされなかったことである。もちろん、稲盛氏自身はそんなこと歯牙にも掛けないだろうが、残念なことである。(10/18)

011/218
女神のタクト」塩田武士
なぜかタイトルと表紙の絵に惹かれてつい読む気になってしまった。タッチは軽妙で書きっぷりに深刻さはみじんも感じられない。キャラクターもそれに合わせてかなりぶっ飛んでいるが違和感はない。ストーリー展開もキャラもかなり軽いのだが、それでいて深い感動を読み手に与えてくれる。音楽の素晴らしさを文字で伝えるのは、ほとんど至難の業だと思うのだが、それにもこの作者は果敢に挑戦し成功している。なかなか面白い作家もいたものである、(10/19)

012/219
愛について」白岩玄
訳あって、彼の書いた本は全て読むようにしている。この短編集には現在の自分が抱えている愛についての疑問や煩悶について悩む主人公達の物語が収められている。“愛”と言う物の定義が定まっていないことで、人は思い悩む。“若い”というのはその定義を見つけるために思い悩む時期の只中にいるということかもしれない。結局正しい定義などなく、自分の“愛の形”を決めることで、人はひとつ次の段階へ移る。(10/19)

013/220
ホテルローヤル」桜木紫乃
直木賞の受賞作、確かに面よく書けている。ホテルローヤルという田舎のラブホテルを軸に、時代も主人公も全く違うショートストリーを集めた物。よく書けているし、作者の生まれ育った環境が、作品に反映されているということで注目も集めているようである。でも、直木賞かなぁ。少し不思議。(10/20)

014/221
警官倶楽部」大倉嵩裕
警察マニアのグループが本物の犯罪に巻き込まれ、それをマニアの組織力で打破していく物語。あまりにはちゃめちゃでリアリティには欠ける。まぁ、マニア向けと言うことで。(10/20)

015/222
茶話」薄田泣菫
明治期の名コラムニストの作品集。内外の著名人にまつわるエピソードをユーモアたっぷりに紹介する。どこまでが本当かさっぱり判らないが、一つ一つの話が短くて読みやすいので、ついつい読みふけってしまう。(10/22)

016/223
いつもながらこのシリーズには、人間の心の奥底にある闇の部分を浮かび上がらせ、私たちの心胆を凍え上がらせる怪談話が満載である。お化けや幽霊ではなく、人間が最も恐ろしいと言うことを改めて気づかせる。何度でも言うけど、本当にこの手の話を書かせたら、彼女の右に出る者はいない。この先100話まで、是非とも続けて欲しい、(10/26

017/224
反乱のボヤージュ」野沢尚
何気に図書館で見つけて借りてきたのだが、確かこの作者は江戸川乱歩賞でデビューしたはず。今作は打って変わって、大学の学生寮を舞台にした青春ストーリー。とはいえ、主たる登場人物は学生だけではなく、この寮を閉鎖に追い込むため大学当局が送り込んだ元警察官の舎監。大学に自治を守るために寮生達が繰り広げる闘いを描く。学生達のへたれぶりに思わず共感。(10/27)

018/225
中国台頭の終焉」津上俊哉
内容は素晴らしいのだが、何とも読みにくい本で、途中で数ヶ月空いてしまい、かなり長く掛かってしまった。まだまだ続くと信じられていた中国の成長が止まりつつある。強すぎる官と出生率の低下が大きな足かせとなって、成長が鈍化し、GDPでアメリカを追い抜くことは絶対にないと言い切る。おそらく普通に自由な競争がある社会であれば、人口が最大の国の経済力が最大になることに疑いはないだろう。おそらく著者の予測は正しい。と私も思う。(10/27)

019/226
聖なる怠け者の冒険」森見登美彦

元は新聞の連載小説だったらしいが、これを新聞連載で読むのは相当に辛かったろうと思わせる。現に作者も書籍化に当たって、相当に手を加えたと書いているところであるが、それでも小説としての完成度はいかがなものだろうか。京都を舞台に書かれているということで、好意的には読みたいところであるが、かなり辛い。(10/30)