2023年11月8日水曜日

2023年10月

読書の秋10月は、小説が12冊、その他が4冊、合計16冊という結果になりました。

秋とは名ばかりで、気温の高い日が続いており、体調の管理が難しいですが、週末はボチボチ出かける機会も増えてきて、まとめ読みもままならない有様でした。

てなことで、今月のお薦めですが、小説では次の二冊です。

まずは、『口訳古事記』です。これは小説に含めてよいのかどうかわかりませんが、物語性が強いということでこちらに分類いたしました。読みにくい古語で書かれている古事記を河内弁に翻訳するという快挙で、スピード感もあって一気にその世界にはまり込み、とても面白く読破しました。考えてみれば、古事記が書かれていた頃は、大和・河内政権の全盛期ですから、この言葉の選択も間違いではないような気がします。古事記に書かれている誰もが知っているエピソードもこうやって読むと新鮮で面白い。ぜひお薦めです。

二冊目は、古典ミステリの名作『幻の女』です。20世紀最高のミステリにも挙げられている名作ですが、今回初めて読みました。噂にたがわぬ面白さで、設定といい、クライマックスに至るまでの運びといい、ほぼ完ぺきなミステリです。近年の読者を試すような謎解きや複雑な人間関係もなkう、純粋に物語として楽しめるお薦めの作品でした。

翻って小説以外の本は、今回は4冊だけでしたので、これがお薦めという感じではないのですが、『子供の貧困』については、胸につまされるものがあり、今も最も力を入れて解決しなければならない課題だと再認識しました。失われた30年、格差の拡大、弱者の切り捨て。この間に執られたすべての政策の末路がこの現実です。かかわったすべての政治家は恥を知るべきです。彼らを選んだ私たちは大いに恥じるべきです。ただそれでは何も変わらないので、反省して行動を起こさないといけないのではない。そんな感想を持ちました。

つい、先週末まで虎のアレで、この春から長く楽しい季節を送らせてもらいました。

ようやく落ち着いて好きな本が読める日々が返ってくるなぁと思いながらも、こうやってインプットするだけでなく、アウトプットもしっかり考えないといけないなぁと思っています。

役所を離れ、ある程度自由な身となったので、これからいろいろと考えていきたいと思っていますので、書物だけでなく、いろんな人との出会いも楽しんでまいります。

ということで、来月も乞う御期待。

 

001/140

泥棒はスプーンを数える」ローレンス・ブロック

大好きなシリーズのおそらく最新巻。出版形態も変わっています。主人公と相棒のいつもながらの軽妙な会話とスマートな盗み口に胸がすく思いです。もっと読みたい。(10/3)

 

002/141

クロイドン発12時30 FW・クロフツ

全く知らない作家さんだったのですが、いわゆる倒叙ミステリの先駆けという紹介を受け、読んでみました。まだまだ、ミステリという分野が確立されていない頃の作品でもあり、かなり隙だらけという感じでしたが、罪を犯した犯人が、自らの罪が暴露されるのではないかと、おびえながら送る日々の心理描写は、真に迫るような書きっぷりで、それだけでも読む価値があったように思われます。(10/5)

 

003/142

水底図書館 -ダ・ヴィンチの手稿-」金子ユミ

これまた初めての作家さんです。設定があまりにぶっ飛びすぎていて、???が連発です。たとえありえないような設定であったとしても、物語として成立していればいいのですが、そうでもなさそうで、あちらこちらに小さな綻びが見え隠れします。難しいなあ。(10/6)

 

004/143

まんが訳 酒呑童子絵巻」大塚英志 監修 、山本忠宏 編

たまたまWebで見かけました。酒呑童子絵巻をはじめとする3つの絵巻物を漫画風に編集したものです。漫画の描き方には一定のルールがあるようで、世の中の漫画はほぼそのルールに則って描かれています。当然そうじゃないと読むコマの順番がわからないですよね。さらに俯瞰やクローズアップなどの描き方も重要です。この本では、一つの絵に描かれた複数のメッセージを細かなコマに割ってつなげることで、あたかも一つの漫画作品のように提示してくれています。なかなか面白取り組みでした。(10/6) 

 

005/144

口訳古事記」町田康

めちゃくちゃおもろいです。『口訳』となっていますが、実態は『河内語訳』。ほとんどの登場人物(神様)が、河内弁をしゃべってます。天孫降臨から出雲の国譲り、神功皇后、大和武尊と古事記の内容を忠実に踏まえながらの大長編です。神々がいかに横暴かつ残酷だったのかということもよく分かります。長いけどページをめくる手が止まらないので、最後まで楽しく読めます。(10/8)

 

006/145

呪い人形」望月諒子

最近人気があるのですが、初めて読んだ作家さんで、重いけど結構面白い。全く知らなかったのですが、いわゆるシリーズものなんですね。でもそんなこと関係なしに読めるので良かったです。人が人を恨む姿が醜悪なまでに描かれていて、かなりヘビーです。読み進めるには結構体力を使う、そんな本でした。(10/9)

 

007/146

鍋奉行犯科帳 お奉行さまのフカ退治」田中啓文

いつものシリーズです。安心の面白さ。(10/12)

 

008/147

魔女と過ごした七日間」東野圭吾

ラプラスの魔女からの続々編です。時代は若干進んで、AIが幅を利かせています。自動運転も当たり前で、遺伝子情報からとんでもないものが予測できてしまう技術まで開発されています。そういった時代におけるミステリってどうなるのかという一つのケースを提示しています。なかなか面白い発想ですね。ただ彼の作品にしては若干の物足りなさが残る一冊でした。(10/14)

 

009/148

増補版 子どもと貧困」朝日新聞取材班

数年前、まだこの世に『ヤングケアラー』という言葉が認知されていなかった頃に朝日新聞で連載されていたものに、さらに取材を重ね増補して出版されてものです。子供の6~7人に一人は貧困状態にあると言われていますから、他人ごとではないはずなのですが、なかなか具体的にイメージできないところもあります。ところが最近、知り合いが子供の頃、この本に描かれているような厳しい環境に育っていたということが判り、改めて実感として問題の根深さに気づきました。よく貧困の再生産、連鎖ということが言われますが、その鎖を断ち切ることはとても難しいことで、誰かの手助けが必要です。残念ながら、私たちが住まう日本という国には『政治』というものが確立されておらず、この状況を何とかしようという方向に社会は向かっていきません。愚かな政治を招いてしまった私たちの責任は重い。(10/14)

 

010/149

名探偵のままでいて」小西マサテル

このミス大賞の受賞作なんですね。評判の小説なので読んでみました。認知症のお祖父さんが、時折鋭い推理力を働かせて、日常に潜む謎を解くという物語です。あまり深みを感じないミステリでした。(10/15)

 

011/150

絶望の裁判所」瀬木比呂志

元裁判官の内部告発書です。一読しただけでは実態をつかみにくく、想像の部分もかなりあるのですが、元公務員としては何となく理解できる部分が多かったです。裁判所に限らず、多様性に乏しく異端を認めない組織は、まっしぐらに崩壊に向かっていきます。今の日本という国がそうであるように。(10/23)

 

012/151

戦後日本の国家保守主義 内務・自治官僚の軌跡」中野晃一

タイトルに惹かれて読んだのですが、内容はかなりがっかりで、全編内務省から自治省にかけての官僚トップたちの天下りの歴史書でした。個人個人にはそれなりの国家観や正義感もあったのだろうけど、それが組織防衛に直結すると愚かな行動しかとりえないという典型でしょうか。ああ、情けない。(10/27)

 

013/152

幻の女」ウイリアム・アイリッシュ

およそ80年前に書かれた超有名な古典的名ミステリで、お読みなった方も多いと思いますが、初めて読みました。文句なしに面白かったです。妻とけんかして、行きずりの名前も住所も知らない女性と数時間食事とショウを見て、自宅に帰ると妻が殺されていた。容疑者として逮捕され、アリバイを証明してくれるはずのその女性が、どれほど手を尽くしても見つからない。そうしている間に裁判で死刑が宣告され、死刑執行のカウントダウンが始まる。その窮地を救うために現れた無二の親友。彼の必死の捜査は間に合うのか。手に汗握る展開で、とても面白かったです。お薦めです。(10/27)

 

014/153

ラブカは静かに弓を持つ」安壇美緒

今年の本屋大賞の第二位だったそうですが、どうなんだろうか。音楽業界の中でも著作権という特殊な分野を扱った物語で、専門的な知識に乏しい身としては、実感をつかみにくい小説でもありました。また、主人公のキャラクターをかなり複雑にしてしまったため、他の登場人物との落差がありすぎて、戸惑いもありました。(10/28)

 

015/154

ムシカ 鎮虫譜」井上真偽

ある種のパニック小説なのですが、こういった物語にありがちな、まず有り得ないような突拍子もないトラブルメーカーが次々に騒ぎを起こしていきます。ただ、そのおかげで事件の真相が解明されるというのもお約束。突っ込みどころは満載です。(10/29)

 

016/155

差別の日本史」塩見鮮一郎

最近もゾンビのように復活してきた同和地区問題ですが、いまだにこんなことを穿り返して、喜んでいる奴らの気が知れない。理解不能。著者はよく研究もされているようですが、研究者というよりノンフィクション作家で、私が見ても分かるような誤りもいくつか散見されました。難しい問題ですが、解決しなければならない大事な問題です。(10/30)