2012年6月2日土曜日

2012年5月


今月は、さらに小説が少なくなりました。
そういえば新しい小説はほとんど読んでいませんが、西澤保彦さんの本が3冊ありましたね。
あとは新書が多かったのですが、その中では“ふしぎなキリスト教”が秀逸でした。さすが昨年の新書大賞でした。
そのほかの傾向として、仕事の関係で中国・アジアに関する書籍が多くなりました。これまでは、避けてきた分野なので、勉強のため数をたくさん読むようにしています。
さすがにこの分野は成長分野のようで、新刊書も目白押しですから、その中からどれを選ぶかがとても難しい。

001/103聖女の救済」東野圭吾
言わずと知れた“ガリレオ”シリーズ。同シリーズの中では2作目の長編小説である。長編3作目の“真夏の方程式”は今ひとつさえ無かったけれど、これらの2作はいずれも先に犯人が判っており、どうやってその犯罪を実行したか、いわゆる“How done it?”ものである。ガリレオ湯川教授のスリは見事ですが、これで本当に裁判が維持できるのかは疑問です。とはいえ実はこの作品を読んだのは2度目。トリックを完全に忘れてしまっていたので、2度目に読んでもおもしろかったです。(5/2

002/104狂い咲き正宗」山本兼一
確か作者は京都在住のはず?これまで読んだ本の中では初めて江戸が舞台になっている。幕末の刀剣商を主人公にした短編集であるが、最初の一編とその後の作品では主人公のキャラクターがすっかり変わっている。奥付けを見ると初編から続編までの間に一年以上の期間が空いており、一編だけの予定が、何かの都合で続編が書かれたものと想像できる。作中ではいろいろな銘刀に関するうんちくが語られるが、本物を見る機会が無い身としては、何とも理解がしがたく、歯がゆい限りである。(5/2

003/105妄想かもしれない日本の歴史」井上章一
現在は日本文化研究センターで歴史を研究されているが、基は京都大学工学部、同修士課程の出身だとか。建築史を研究されていたそうであるが、それだけに既存の歴史研究家の固定観念に縛られない発想がおもしろい。また、現在は風俗史が専門らしく、いわゆる歴史のトンでも説についても、なぜそのような説が生まれたかと言うところを考察するあたりが興味深い。従来の歴史観とも違うなかなかおもしろい著者だと思う。(5/3

004/106熱球」重松清
今回はへたれの父と小生意気な娘が主人公。いつもなら父親に自分や我が父の姿を重ねつつ、一気に読むのだが、この作品はちょいといただけない。過去から逃げ、否定することを良しとする様な生き方を評価することはしたくない。最後まで主人公にもその友達にも全く頷けないまま読み通す。唯一主人公の父親の頑固さだけが救い。(5/3

005/107チャイナナイン」遠藤誉
世界第二の経済大国でありながら、イマイチその実態がよくわからなかった中国の権力構造に関するわかりやすい入門書。今年の2月に起こった政変までをフォローしており、その意味では非常にホットな内容となっている。さらに現在は一歩進んで、この本に書かれたとおりの権力闘争が進んでいる。著者自身は公平な目で書いているつもりかもしれないが、どうも読んでいる限りでは現在の胡政権にひどく肩入れし、前江政権を酷評しているのが気になるところであるが、その見方は正しいのだろうか。まだまだ中国に関しては判らないことが多すぎる。(5/4

006/108夢は枯れ野をかけめぐる」西澤保彦
彼の小説はおもしろい。主人公は端から見ていると有能なサラリーマンであったにもかかわらず、何かを失うことを恐れるあまり、何事にも踏み出すことができなかった、中年の男性である。小説の中では、いろいろな人に慕われるのだが、それら全てに応えることができず、結局最後の最後に勇気を持って一歩を踏み出す。いくつかの短編が連なって一つの小説を構成しているのだが、発表当初には含まれていなかった、“卒業”の章は、唯一この男性ではなく、彼にほのかなあこがれを抱く女子大生を主人公に書かれている。だけど、著者はなぜこの章を唐突に挿入したんだろうか。(5/4

007/109ルサンチマンの哲学」永井均
ニーチェの“道徳の系譜”の中で、“道徳”の基とされているようであるが、未読であり定かではない。“ルサンチマン”とは、一言で言うと“負け惜しみ(?)”。今世の中にはびこる“いじめ”“●●ハラスメント”の被害者の感情を表すこともできるのか。誰もが持っている“逆境下の自己正当化感情”。しかしながら、何かを生み出すエネルギーにはなり得ない。(5/5

008/110消費するアジア」大泉啓一郎
今最も注目を浴びる巨大市場アジアに関する時宜的な入門書。様々なデータを駆使し、過去、現在の現象をわかりやすく解説してある。将来のことはなかなか予想が難しいが、今後の日本経済にとって、とても重要なパートナーとなることは疑いの無いこと。昨年(2011)5月発行と新しい書籍であるにもかかわらず、その後タイの大洪水が発生し、世界的なサプライチェーンのほころびが露呈されるなど、状況の変化はめまぐるしい。次は一体どうなるのか。(5/5

009/111風が強く吹いている」三浦しをん
初めて読んだ駅伝小説。10人の個性ある登場人物がうまく書かれている。特に最後の2章。彼らが任された区間を走りながら心に描く風景の描写は圧巻。(5/5

010/112幻視時代」西澤保彦
比較的新しい作品。ミステリなんだが、警察も探偵も出てこない。ただ事件の関係者が、独自の推理を述べ合うだけ。それでも“真理”へたどり着けてしまうのはなぜ?ちょいとやり過ぎではないかい。(5/6

011/113ふしぎなキリスト教」橋爪大三郎、大澤真幸
2011年の新書大賞に選ばれた習作。昨年店頭に並んでいたときは、気にはなっていたものの対談の形式をとっていたため、文句なしで却下していた物。どうも対談形式の本は読みにくい。しかしながら、この本については納得、おもしろい。世界がグローバル化という名の西欧化(正しくはアメリカ化)の嵐に飲み込まれている中、彼らの行動様式の基礎となっているキリスト教について、とてもわかり易く書かれている。今はキリスト教文化が幅をきかせているが、今後インド、中国の台頭で世界の覇権はどう変わるのか興味深い。(5/6

012/114プリズントリック」遠藤武文
最近の江戸川乱歩賞はレベル低下が甚だしいと巷間いわれているが、全くその通りと頷ける内容。導入部からの交通刑務所内の細かい(というか、あまりに細かすぎる)描写に比べて、後半のぶっ飛び具合はどうか!?あまりに杜撰な展開について行けないくらい。誰か(誰か忘れた)の書評で絶賛されていたのだが、かなりその資質を疑います。また、審査員である東野圭吾氏がイチ押しというのも釈然としないところ。(5/6

013/115武器としての決断思考」瀧本哲史
物事を決められることが、今後は武器として必要であるという主張には、首肯するが、そこから何故“ディベート・テクニック”に直行するのだろうか。こういった小手先のテクニックが世の中に通用するかのように書いてあると、それを本気にしてしまうかわいそうな人たちも続出してしまうと言うことには心は及ばないのだろうか。(5/9

014/116猫を抱いて象と泳ぐ」小川洋子
彼女の著書は初めて読む。正直言って私には苦手な分野。(5/13

015/117アホ大学のバカ学生」石橋嶺司、山内太地
何も生み出さず、否定するだけで本が一冊(実は何冊も)書けるなんて本当に羨ましい。今後のために読んでみようと、一度は購入しかけたが、買わずに図書館で借りて良かったと心底思える本でした。(5/13

当然のことながら今から30年前の大学にキャリアセンターなんて物は存在しなかった。今やどんな大学にも設けられているが、それもここ10年ほどのことだそうだ。就職活動がWebを通して行われるようになって、どれくらい経つのだろうか。Web就活が主流になって、ますます混迷の度合いが高まっていく。(5/18

本が書かれている趣旨は良い。また、この国は沈みゆく大国ではあるが世界から好意的にとらえられていることも事実だろう。しかしながら、その源泉を全て天皇家の存在に収束させようとするのはいただけない。そんなわけは無いだろう。(5/19

018/120本当の復興」池田清彦、養老孟司
とりあえず読んだけど、時間を無駄にした感じ。養老さんの本の読後感はこんな感じが多い。(5/19

019/121動機、そして沈黙」西澤保彦
様々なミステリを集めた短編集。作品によって15年くらいのタイムラグがある。荒唐無稽な設定ばかりかと思いきや、なかなかしっかりした本格物も書かれているのだと再認識した。(5/20

020/122回復力」畑村洋太郎
機械工学の専門家にしてなおかつ“失敗学”の大家でもある。昨年の福島原発の事故調査でも活躍中と聞く。この著書は、“犯してしまった失敗からの回復”をテーマに書かれた物であるが、その内容は多分に心理学的。“失敗”からおこる“精神的落ち込み”を如何に予防するか、あるいはどうやって回復につなげるか問うことが書かれている。“逃げること”“避けること”にも一定の効用を認めていることが斬新。(5/24

021/123パイレーツ」マイクル・クライトン
著者は2008年に急死しており、新作が発表されなくなって久しい。何れの作品も科学的知見に富み、ストーリーも見事で私の中では“外れの無い作家”の一人だっただけに、とても残念である。ところでこの作品は、彼の死後にPCの中なら発見された作品らしい。残念ながら練り上げられた感が乏しいため、これで彼を評価するのはかわいそうな気がするが、彼のもう一方の作品カテゴリーである大冒険活劇としておもしろいものに仕上がったのではないかと思う。スピルバーグが映像化権を持っているらしいが、どうなったのだろうか。(5/26

022/124愛について」白岩玄
“野ブタをプロデュース”でデビューした作家の最新作は、初めての短編集。様々な恋愛の形を描いているのだが、何れの登場人物も心が揺れ動き、本当の自分の気持ちに気づいていないような印象。あるいは気づいていながらそれをごまかして易きに流れて後悔しているのか。もどかしい気もするが、いずれにせよ若いっていいなぁ。私としては異色の作品“Little People”が妙に気に入ってしまいました。(5/26

中国の成長ぶりが顕著になり出した2006年に出版された本。このときからすでに日本企業の出遅れぶりが危惧されていた。6年経った今もその状況は変わっていない。当時の想定に比して実際の成長のスピードはどうだったのか。ここへ来て若干、成長度合いが緩慢になってきたと言われているが、それでもなお彼らの貪欲さ、バイタリティを見ていると、まだまだ今後も伸びていくことは確実であり、この大市場にうまくマッチさせないと日本経済の未来は無い。(5/27

024/126ばんば憑き」宮部みゆき
彼女の得意な江戸物。すばらしい筆の冴え。ほとんどが物の怪が跋扈する作品ばかりの短編集の中にあって、“討債鬼”と言う作品には物の怪は登場しない。登場しないが、その物の怪の存在を信じてしまった登場人物の心根の方があたかも化け物の様で空恐ろしい。それにしても上手い。(5/27

025/127日本を追い込む5つの罠カレル・ヴァン ウォルフレン
当代随一の親日家であり、一流のジャーナリストである著者が“日本”を視る目は非常に優しい。彼が挙げる5つの罠は次のとおり①TPPの背後に潜む『権力』の素顔、②EUを殺した『緊縮財政』という伝染病、③脱原子力に抵抗する『非公式権力』、④『国家』なき対米隷属に苦しむ沖縄、⑤権力への『無関心』という怠慢。何れも私には正鵠を得ているように思われる。特に最後の『無関心』については、氏がかつて何度もその著書の中で触れていたことで、本来日本の最高権力者である“主権者=国民”が、その責任を全く負わないことがこの国の最大の不幸である。最高権力者が空洞であるが故に、“国”が“国家”たり得ていない。これは我が日本国にとって最大の不幸である。(5/28

026/128中国経済 あやうい本質」浜 矩子
具体的なデータを元に論を進めるのではなく、徹頭徹尾自分の意見、考察を述べている最近のあまり見かけないタイプの本。そういう意味ではすべてが彼女の主観的な考えであって、思い込みの部分もあるものと、若干割り引いて考える必要があると思う。しかしながら、内部に大きな問題(リスク)を抱えた中国という世界第二の経済大国が、今後どのような歩みを見せるのか、隣国である我が国の先行きにとっては、大きな決定要因になることは間違いがない。何かの間違いで爆発でもしようものなら、我が国だけでなく世界経済全体にとってもその影響ははかりしれない。(5/31

027/129M1」池井戸潤
今をときめく直木賞作家の乱歩賞受賞後第1作目。この時点ですでに推理小説では無く、本格的な経済小説となっている。主人公はなぜか学校の先生。若干荒唐無稽な設定で、いろいろと突っ込みどころ満載です。(5/31