2012年3月3日土曜日

2012年2月


001/036
テレビドラマにもなった、姫川シリーズです。こいつは珍しい短編集。前2作のようなスピード感やスリルはなく、どちらかというとヒューマン小説風。物足りないと言うべきか。
2/1

002/037
江戸初期の刀匠虎徹の物語。ほとんど記録が残っていないそうなので、大部分は創作である。30歳を過ぎて刀鍛冶を志すが、最初のうちは高慢ちきで、とてもいやな奴。徐々に人間として完成されていく。病身の妻を最後まで死なせることなく、精神的な支えとして生かし続けたことは好感が持てる。(2/4

003/038
昨年3月の東日本大震災時のスパリゾートハワイアンズでのもてなしの記録とその後の復興に向けた取り組みの記録。地元に根ざした企業ならではの心温まる記録である。早く本来の姿を取り戻してほしい。(2/4

004/039
芥川賞受賞作である。まず休職中の刑事という主人公の設定がおもしろい。その主人公が休職中という自由な立場を生かして、事件の捜査に貢献するというあり得ない設定。もちろんおもしろかったですよ。(2/5

005/040
どうなんだろう、パスティーシュ風ミステリー?本格ミステリー風パスティーシュ小説?どっちも好いけど、彼には珍しいモティーフの小説でもあり、どこまでも守備範囲の広い作家であることを再認識する。ただ、この本は純粋なミステリーとして読むべき本ではないということを強調したい。これは“清水義範の本”として読むべき本である。昔の彼の本を探し出してもう一度読みたくなった。(2/5

006/041
最近、増刷されて平積みされていたので手に取ってみれば、初版は1996と比較的古い出版。永遠の哲学のテーマであるところの「意識「時間」「経験」「意思」といったキーワードを元に、その意味するところ、考え方などがわかりやすい言葉で“語られている”。決してすべてを理解することはできないけれど、考え方のガイドにはなる。個人的には“時間”というもののとらえ方、考え方に大きく惹かれる。参考図書などが全く書かれていないのが本当に残念。(2/5

007/042
『おまえさん』宮部みゆき
『ぼんくら』『日暮らし』に続くシリーズ。前2作よりもさらに内容は重くなる。最近ではあまり例を見ない、単行本と文庫本の同時発行という思い切った出版となった。彼女の著作は基本的に“外れがない”のだが、特に最近では時代物に特段のさえを見せる。今作からキャラクターが増えてしまったのは若干気がかりで、できれば当初の限られた世界の中で、もう一踏ん張りしてほしかったのだが、これもやむを得ないモノか。(2/8

008/043
『みぞれ』重松清
主人公の設定も話の内容もバラバラの短編集。なにやら無理矢理かき集めた感がなきにしもあらず。最終話の“みぞれ”は、ふと我が親のことが思い出されて、若干動揺しながら読むこととなった。しかしながら、私はこの主人公のような疑問を父に対して持ったことはない。どんな状態であっても、何があってもできるだけ長く生きていてほしい。(2/8

009/044
『悪霊の棲む部屋』塔山 郁
元々はミステリー作家だそうですが、これは明らかなホラー作品です。デビュー二作目とのことです。作風には特徴があり、小説としても完成度が高いと思うのですが、それもそのはず、この作品はとあるホラー小説を対象とした文学賞に応募されたモノが、改題・修筆されて一旦出版され、その後再び改題・修正されて文庫本化されたという、何やらとんでもない代物で、そういう売り方もあるものかと感心いたしました。(2/11

010/045
『きみ去りしのち』重松 清
全編“死”をテーマに据えた連作短編。主人公は幼子をなくした父とまもなく母を亡くすことになる娘の物語。それにしてもこんなに無理して全国を行脚しなければならなかったのだろうか。あまり彼らしくない重い小説。(2/12

011/046
『ラブコメ今昔』有川 浩
今や超売れっ子の彼女、軍事オタク本領発揮の自衛隊モノ+べたべたのラブコメディ。読んでいて恥ずかしくなってくるくらい。何やらモデルがいるらしいのだが、本当かいな?(2/14

012/047
『縛られた巨人―南方熊楠の生涯―』神坂次郎
以前からとても気になる人物、南方熊楠に関する評伝。足かけ三年に渡る著作らしいが、その調査に費やした年月は想像もできないほどであろう。この本を読む限り、相当の奇人変人であったようである。相当の大酒飲みであったようで、それも相当に酒癖も悪そうな感じである。とはいえ、在野でこれほどの天才であっても、決して恵まれた一生ではなかったということが哀しい。(2/19

013/048
『日本経済の奇妙な常識』吉本佳生
何事も理論通りには行かないのが世の常である。現在の日本経済衰退の最大の原因は、賃金の低下である。誰もがそのことに気づいていながら、それを是正できないのはなぜか。これはもはや経済学の問題ではなく、社会学か心理学はたまた政治学か一体何れの問題なのか。果たしてこれは理論だけで解決可能なのか。(2/19

014/049
『太陽の塔』森見登美彦
これが森見さんのデビュー作?なぜかファンタジーノベル大賞受賞作だとか。もし私がこの本を最初に手にしていたら、決してその後の彼の書物には手を出さなかったであろう。正直ちょいと勘弁して、という感じ。文句なしの快作?一番笑いこけた?こういうとき私にはセンスがないなぁと実感します。(2/21

015/050
『陽だまりの彼女』越谷オサム
こいつは全く切ないお話だなぁ。ハッピィエンドかバッドエンドかと言われたら、これはやっぱりバッドエンドだろう。主人公の彼、この先決して幸せにはなれないぞ。女子が男子に読んでほしい恋愛小説NO.1”ですか?世の中の女子諸君、あなたの彼に読んでほしいなんて進めてはいけません。ドン引きされますよ。(2/22

016/051
『いけばな 知性で愛でる日本の美』笹岡隆甫
若き家元による生け花と日本文化に関する随筆。京都を代表する伝統文化の担い手である一方で、優秀な日本伝統文化、伝統建築の研究家でもある。生け花の美しさについて、数字を使ってロジカルに説明する下りは、目から鱗の思いがする。(2/23

017/052
『ドン・キホーテの末裔』清水義範
何やら難しい構造の小説になっている。途中でミステリアスな展開にもなって、どうなるのかと思わせる。なかなか秀逸な作品。それにしても、“ドン・キホーテ”という小説が、このような背景で作られていたとは全く知らなかった。偉大なるパロディだったのね。(2/25

018/053
『連続殺人鬼カエル男』中山七里
ちょいと背筋が寒くなりそうなサイコミステリィ。それにしても二転三転、あっと思わせる大どんでん返し。一体どこまで行くのやら、、という感じ。この作品と“さよならドビュッシー”を新人文学賞に同時に応募するとは、とてつもない力量を持った作家であることが判る。(2/25

019/054
『河北新報のいちばん長い日』河北新報社
2011年3月11日、世界を震撼させ、万人の価値観・世界観を一変させたあの大震災で、被災地のお膝元において被災者に貴重な情報を提供し続けた地元新聞社の、数日間にわたる戦いの記録である。逆境に遭遇したときの人間は強い。被災地の地元紙として“被災者とともに”あろうとし続けた姿勢、気持ちはすばらしい。ずっと読みたくて図書館に予約し、ようやく読むことができました。期待以上。(2/26

020/055
『日本一のクレーマー地帯で働く日本一の支配人』三輪康子
全国チェーンのホテルらしいのだが、どこかは判らない。それにしても相当の肝っ玉支配人である。何よりも従業員を守りたいという心意気がすばらしい。人の上に立つ者にとっては最も大事なことだろう。(2/26

021/056
『死ぬときに人はどうなる』大津秀一
1976年生まれと言うからまだ30代の半ばという若いお医者さんの著書。医者とは言え、緩和医療医というから、“最期を看取る”ことが多くなる。単なる精神論や道徳の教科書のような書きっぷりではなく、あくまで実際の1000人以上の看取りの経験から導き出された“経験則”であることが内容についての信頼感を増している。自分が死ぬときはどうなるのだろうか。せめて我が父の最期は苦しまないで逝ってほしいと思うのみである。(2/26

022/057
あれから早一年が経とうとしています。先日来、あの日を振り返るような書籍に手が伸びます。この本もそのうちの一冊です。とはいえこの本は昨年のできごとではなく、さらに古い時代に三陸海岸を襲った3つの津波について、当時の記録や生き残った人たちへのインタビューを元に構成された、災害記録です。この本を読むと、あの地方は過去に(記録に残っているだけでも)何度も何度も大津波に襲われ、そのたびに甚大な被害を受けています。そう、“何度も何度も”です。決して昨年のあの津波は未曾有でも想定外でもありません。ならばこの痛い教訓を如何に生かすべきか、如何に後世に伝えるべきか。そこに知恵を絞らねばいけません。(2/29