2024年4月2日火曜日

2024年3月

新型コロナ感染症に苦しんだ3月でしたが、小説が19冊、それ以外が3冊、計22冊という結果になりました。

先月も書きましたが、療養期間中はあまり読む気にならなくて、皆さんの想像からはちょっと遠かったのではないでしょうか。

かわせみシリーズが4冊もありますが、今月はそれ以上に面白いシリーズを見つけてしまいました。

第二次大戦直後でまだまだ戦争の傷跡が残るロンドン市内を舞台にしたアリスン・モントクレアさんの『ロンドン謎解き結婚相談所』シリーズがそれで、主人公をはじめとする登場人物がとても魅力的で、ストーリーも面白く、結構分厚い小説でしたが、一気に3冊読み切ってしまいました。続編の翻訳が待ち遠しい。お薦めのミステリ小説です。

あとは医師である知念さんの本を2冊読みましたが、そのうちの『十字架のカルテ』が良かったです。精神鑑定の現場を描いた小説は例が少ないように思うのですが、さらにそれを現役の医者が描いたというのは本当に稀だと思います。ミステリとしてもよくできていたと思います。

小説以外では、『京都を壊した天皇、護った武士』が良かったです。一般には意外かもしれないですが、私が持っている天皇、公家に対するイメージを補完してくれる良い資料でした。面白かったですよ。

3月はなかなか暖かくなりませんでしたが、4月に入って嘘のように暖かくなり、近年では珍しく、これから桜の見ごろを迎えます。私にとっては、桜より本を片手に外出できることがうれしくて、カフェや公園のベンチで本を広げる機会も増えてきました。あんまりお仲間はいませんがね。

お天気が続いたらいいな。

 

001/040

時の呪縛 凍結事案捜査班」麻見和史

警察小説の名手による新しいシリーズです。楽しみに読んだのですが、主人公がも一つ魅力に欠けるなど登場人物のキャラクター設定に納得感が少ない。どうもなぁ。(3/1)

 

002/041

ヨモツイグサ」知念実希人

なんでこんな小説書いちゃったんだろう。医療ミステリだと面白いのに、途中からいったいどこへ行くんだろうと不安になってしまう。(3/1)

 

003/042

ぼんぼん彩句」宮部みゆき

お仲間の俳句サークルの方々による一句からひねり出された短編小説集。ストレートな小説はほぼなく、ひねりが効いたいやミスのような作品群で、彼女らしくない作品が並んでいます。試みとしては面白い。(3/2)

 

004/043

鬼の面 御宿かわせみ13」平岩弓枝

シリーズは前半のヤマ場へ。いよいよ主人公たちは結ばれるのか。(3/3)

 

005/044

夜果つるところ」恩田陸

同じ作者による『鈍色幻視行』という作品の中で核となる作品だそうで、同作中で作者とされている(らしい)方の本の上に恩田さんのカバーが掛かっている不思議な装丁になっている。この作品だけ読んでも面白さは伝わらないのか?どちらを先に読むべきだったのか。悩む。(3/9)

 

006/045

神かくし 御宿かわせみ14」平岩弓枝

主人公たちは未だ結ばれない。そしてかわせみはどうなるのか。(3/10)

 

007/046

京都を壊した天皇、護った武士 『1200年の都』の謎を解く」桃崎有一郎

『平安京はいらなかった』という衝撃的なタイトルの本を書かれた方の書籍で、時代は下がって鎌倉から室町にかけての京都について書かれています。この時期、その後秀吉によって、ほぼ現在の街並みに近い京都が作られるまで、京都の町は大きく変化しております。この本では、その京都の町が天皇によって壊され、時の武家政権によって再建された様子が、資料を基に検証されています。要は、自分の金ではなく人の金で作ってもらった街なので、愛着も何もなく、気に入らなければ壊してまた作ってもらったらいいや、という連中のおもちゃにされていた感じですね。住んでいる人たちにはたまらんですね。(3/11)

 

008/047

約束」石田衣良

とある小学校の襲撃事件にインスパイヤされて書かれた表題作などを収めた短編集です。大きな不幸に見舞われながらも、立ち上がり再び歩き出そうとする人々を描いた物語ばかりで、読んでいても気持ちの良い本でした。彼の小説はあまり読んだことがないのですが、とても良い小説集でした。全部良かったですが、個人的には最後の『ハートストーン』がとても気に入りました。(3/12)

 

009/048

ロンドン謎解き結婚相談所」アリスン・モントクレア

久しぶりに面白い翻訳ミステリに出会いました。舞台は第二次世界大戦直後のロンドン。そこで結婚相談所を営む二人の若い女性が主人公です。一人は大戦中にスパイの訓練を受けていたようで、そのスキルが十分い活かされます。またもう一人の女性は、上流階級で育ち結婚したものの、大戦で夫を喪い、失意の中立ち直りつつり、さっそうと立ち上がる。相談所を訪れた女性が殺され、紹介した相手の男性が容疑者として逮捕されます。その容疑を晴らすために奮闘する二人。作品はシリーズになっており、今は3冊が邦訳されていますが、すでに短編集を含めて7冊出ているようで、今後の出版が楽しみです。面白かったです。(3/13)

 

010/049

『男女格差後進国』の衝撃 無意識のジェンダー・バイアスを克服する」治部れんげ

私が働いていた公務員の世界では、比較的男女の格差が少なかったように感じています。あくまで『比較的』ですが。今思い出すだけでも、公務員生活の半分は、直属の上司が女性だったように記憶しています。そんなこともあって、『仕事の上では』女性だからと言って特別な目で見ることはなかったと思いたい。しかしながら、ひとたび仕事を離れるとそうはいかず、『男だから』『女だから』という染み付いた概念はなかなかはがすことができないものです。常に意識していないと、ひょいと顔を出してしまうものになっています。この本の最後の方に触れられているのですが、娘を持った父親にとっては、この課題は現実問題として時に実感を持って捉えられる傾向にあるようで、二人の娘の父である私にとっても、とても重要な課題です。娘たちにとって生きやすい社会にするため、私たちがやるべきことは多い。(3/14)

 

011/050

新古事記」村田喜代子

『古事記』と銘打たれていますが、神々は出てきません。ましてや日本が舞台でさえありません。物語の舞台は、太平洋戦争真っ只中のニューメキシコ、ロスアラモス。主人公はそこで働く科学者の婚約者(のちに結婚)。今年のアカデミー賞では、『オッペンハイマー』が作品賞を受賞しましたが、この物語にも彼が登場します。全米から集められた優秀な科学者たちが、極秘の研究に従事している一方で、その家族やペットの犬たちも基地内で共同生活を送っている。その姿は平和な日常その物。淡々と描かれるその風景が何やら不気味に感じられる。不思議な作品でした。(3/17)

 

012/051

恋文心中 御宿かわせみ15」平岩弓枝

長い物語の折り返し近くになって、ようやく主人公の二人が夫婦となることができました。何やら感動的です。気が付けば時代は幕末のきな臭さがプンプン漂ってくるころで、どうやら主人公たちもこの大きな渦の中に巻き込まれていきそうな予感がしています。(3/17)

 

013/052

王女に捧ぐ身辺調査 ロンドン謎解き結婚相談所2」アリスン・モントクレア

先日第一巻を読んで、とても気に入って続編を借りてまいりました。今回は英国王室に絡んだ物語で、最後はド派手な大団円を迎えます。この直前の時代のロンドンを舞台にしたスーザン・マクニールのスパイものの翻訳が少し途切れている中、とてもありがたく思っています。でもこちらも既訳はあと一冊。いずれも続編が待ち遠しい。(3/21)

 

014/053

超・殺人事件」東野圭吾

彼の十八番のブラック・短編ミステリ集。一応ミステリとしても成立しています。でもあんまり好みではない。

(3/23)

 

015/054

いまこそガーシュウィン」中山七里

天才ピアニスト岬洋介が探偵役として活躍するシリーズなのだが、今作では趣をがらりと変えてある。まず、物語が始まってもなかなか事件が起きない。そんな中で、事件を起こす人物の心理描写が続けられる。そして何より、前のアメリカ大統領がアメリカ社会に持ち込んだ分断と排除、それに抗う人々をテーマとして描いている。ちょっと珍しい小説でしたが、どうしてこのシリーズの一策として描いたのかは謎。(3/23)

 

016/055

777」伊坂幸太郎

彼の作品を読んだのは久しぶり。東京のホテルを舞台に繰り広げられる怪しい人物満載のドタバタ劇。登場人物のキャラクター設定と言い、せりふ回しとし言い、まさに伊坂ワールド全開の物語です。(3/24)

 

017/056

教室が、ひとりになるまで」浅倉秋成

今度映画化されるミステリの原作者として注目されている作家さんの旧作です。いろんな賞を受賞したそうで、よくできたストリーになっています。単なるミステリではなく、特殊能力ものと呼ばれる分野の物語で、その能力がミステリの謎を解くカギになっています。仕方ない終わり方かなとは思いますが、若干のフラストレーションが残ります。(3/26)

 

018/057

八丁堀の湯屋 御宿かわせみ16」平岩弓枝

お気に入りシリーズです。変わらず面白いです。(3/27)

 

019/058

疑惑の入会者 ロンドン謎解き結婚相談所」アリスン・モントクレア

今月見つけたお気に入りシリーズの三作目であり、最後の邦訳です。主人公二人の相談所業務は好調で、事務所も拡大されます。初めてアフリカ系の人物からの入会申し込みがあり、この人物と主人公の一人の舅が絡んで大きな事件が起きます。巣人口たちの捜査も慣れたもので、この後の翻訳が待たれます。(3/29)

 

020/059

シャーロック・ホームズたちの新冒険」田中啓文

シャーロックホームズや明智小五郎といった名探偵に正岡子規が主人公となって謎を解く短編集。彼らへのオマージュとなっています。最後のホームズが探偵をしていない世界を描いた作品は面白かったです。(3/30)

 

021/060

ユー。ジャニーズの性加害を告発して」カウアン・オカモト

昨年の社会を大騒ぎさせたジャニーズ性加害事件の被害者の一人が著した手記です。稀代の天才プロデューサーでありながら極悪非道な犯罪者である加害者。何が一体彼にそうさせたのか。周りのみんなは知っていたにも関わらず、どうして止められなかったのか。20数年前の裁判で実態が明らかにされたにも関わらず、その後も繰り返されていたのはなぜか。そして先日明らかになりましたが、彼以外にも性加害を加えていた社員が複数名存在していた。想像を絶する世界です。(3/30)

 

022/061

十字架のカルテ」知念美希人

ある個人的な理由から精神鑑定医を目指す若い医師が、経験を積み、個人で抱えていたトラウマを克服していく物語。鑑定医が行う面談の様子がとても具体的で、眼に浮かぶようです。さすがです。やっぱり彼は医療現場を舞台にした物語が上手い。面白かったです。(3/31)