2013年10月6日日曜日

2013年9月

先月は休日も多く、本を読む時間もたっぷりとれたので、22冊の本を余裕で読むことができました。うち12冊が小説、それ以外は10冊。
小説では、柚月裕子、大倉崇裕の本が2冊ずつ。初めて手にした作家でしたが、とてもおもしろく他の作品にも手を伸ばしたいと思います。それ以上におもしろかったのが東野圭吾の新作。いわゆる加賀恭一郎シリーズなのですが、とにかくおもしろい、お薦めです。
小説以外では、古典の岩波新書を何冊か読みましたが、特に“人間と政治”は戦後の社会情勢が読み取れるとても興味深い本でした。今も失ってはならない視点が満載です。

001/186
“チャイナナイン”の著者による中国本。今作ではなかなか理解し得ない日中両国について、そもそものボタンの掛け違えである“ヤルタ会談”“ポツダム宣言”に立ち返り、中国側の不合理や大国主義、ひょっとするとこれこそが帝国主義なのではなかろうか、について丁寧に書かれている。この原点が、しっかり理解できないと、この“噛み合わない日中の歯車”は永遠に噛み合うことが無いのではなかろうか。(9/1)

002/187
検事の本懐」柚月裕子
裏切られてばかりの“このミスシリーズ”ということで、さほど期待もせずに読んだのだが、それが何と結果的には大当たり。とてもおもしろい小説でした。主人公は見た目ぱっとしないものの、正義感溢れる検事、佐方。彼を主人公にした推理小説、ミステリではなく、正統派の社会小説で、5つの短編からなっている。今、この続編が新刊で店頭に並んでいるが、是非手にしたい一冊である。(9/3)

003/188
人間と政治」南原繁
戦後の東京帝国大学総長を務めた著者の講演録。そのほとんどは同大学の卒業式に当たって、学生向けに語った物であるが、時の政治情勢を反映し、幾多の命を犠牲にしてようやく手にした平和の維持。その後突然あらわになったと東西両陣営の対立へ危惧、朝鮮戦争。アメリカ帝国主義陣営への加担と再軍備への懸念など、現在の政治・社会においてもしっかり考えなければならない事柄について、明確なメッセージを世に語りかけるものとなっている。(9/4)

004/189
20世紀の初め、中国で出版された本の解説書らしい。厚黒学とは、『恥を恥と思わない面の皮の厚さ、権謀術数に長けた腹黒さ』と言う意味だそうで、そうでなれば社会では勝者となり得ない。というのがこの書物の主張です。それを手がかりに中国古典の英雄を評価しています。まぁ、これもトンでも本の一種だろうか。守屋先生がこんな本に肩入れしていいのか?(9/7)

005/190
没後15年。まだなお様々な影響力を持ち続ける作家です。そんな彼が1960年代に少年少女雑誌やPR雑誌に書いた作品の中から、単行本に収録されてない作品を選んで収録した物。子供向けに書かれた小説などは、大人にはやや物足りないものの、大胆に30年、40年後の世界を描いてみたりと、なかなかにおもしろい。さらに巻末には嬉しいサプライズも用意されている。でも私はこれをもらう資格があるのだろうか。少々検証してみる必要がある。(9/8)

006/191
毎日新聞の記者がアフガンへの従軍取材を通じて見聞きしたアメリが軍の病巣を描いたルポルタージュ。大義無いままに始まった戦争は、すでに泥沼化し、どうやって終わらせるのか、その手立てを探す術は残念ながら見つからない。そして今また、次なるターゲットシリアへの派兵が秒読み段階となっている。大丈夫なのか。(9/8)

007/192
人類哲学序説」梅原猛
日本の人類哲学は「草木国土悉皆成仏」であるというのが梅原説。そしてそれは渡来仏教ではなく、日本固有の神道にその淵源があるとのこと。近代科学の基礎となったデカルトの思想を批判し、「草木国土悉皆成仏」の考えこそがこれからの人類の生きる道はである。おそらくその方向は間違いなく正しい。でもその淵源が神道にあるというのはいかがなものか。大きな実りや災いをもたらす大自然こそが当時の一般人の畏敬の大賞であったというのはまちがいないだろうが、それは神道ではない。神道というもののとらえ方が私とはかなり違う。(9/14)

008/193
ぼくの考古古代学」森浩一
先日亡くなった森先生の講演録を含む考古学エッセイ。縄文人を原始人と呼ばず、非常に高度な文明を持った民であったことを力説する。実際彼らが作った銅鐸を現在の技術ではまだ復元できないそうである。そしてまた新しい試みとして“地域学”の提唱をされている。まだまだ活躍して頂きたい学者であった。(9/15)

009/194
祈りの幕が下りる時」東野圭吾
東野圭吾の最新作は加賀恭一郎シリーズの新作、しかも書き下ろし。今やガリレオシリーズと並ぶ二枚看板だが、主人公の魅力といいストーリー展開といい、こちらの方が数段おもしろい。今作では、殺人事件捜査の過程で主人公加賀と母親との過去の謎が明らかになる。あっと驚く展開で最後まで息つく間もない。おもしろいです。(9/15)

010/195
隠蔽捜査5 宰領」今野敏
こちらもシリーズ物で番外編を入れると6作目になり、“隠蔽捜査”というメインタイトルは今や全く意味をなさない。リーダーたる者かくありたいと願う。(9/15)

011/196
強い会社の教科書」小山昇
二度にわたって日本経営品質賞を受賞した武蔵野の社長の著書。中小企業経営についての社長の心得を説いたもの。なかなかの傑物。(9/16)

012/197
バチスタシリーズのうちの一冊。ここでは医師一年生のジェネラルルージュ速水が登場する。この作品群では、生々しい医療政策の話題は比較的少なく、純粋なメディカルノヴェルとして楽しめる。(9/16)

013/198
ようこそ、我が家へ」池井戸潤
著者が直木賞を受賞した頃に雑誌に連載していた作品。鳴り物入りで文庫化された物。物語は銀行から中小企業へ出向をしている主人公を中心に、職場と家庭で同時進行する不正や犯罪を描くサスペンス調の作品になっている。元々江戸川乱歩賞でデビューした作家であり、ページをめくる手を止めることがないよう上手く書かれている。世の中の不正義に立ち向かう勇気のない小市民である我々には胸が痛い。(9/21)

014/199
最後の証人」柚月裕子
期待はずれが多い“このミス大賞シリーズ”の中では、出色の作家。派手さは全くなく、真摯に食味に忠実であろうとする“ヤメ”検弁護士の主人公がとても魅力的に描かれている。本作はこの主人公が登場するシリーズの一作目として書かれ、その後、それ以前の検事時代のエピソードを集めた短編集(先月読みました)と最近続編が出版されている。結構おもしろいです。(9/22)

015/200
井上ひさしと考える日本の農業」井上ひさし(山下惣一編)
今年200冊目は、井上ひさしが農業、コメについて語った文章を集めたもの。ウルグアイラウンドでの貿易交渉の中でコメが生け贄に出されたことに怒り、農業を守ることは日本の文化を守ることだと言い切る。そして今、時代はTPPへと向かう。議論は尽くされたのだろうか。泉下の井上はどう考えているだろうか。(9/22)

016/201
プライド」真山仁
生きていく上でのプライドとは、矜持とは。社会で生きていく上で決して失ってはいけないものをテーマに書かれた短編集。それぞれの作品には全く関連性はないが、それぞれの主人公が考える真摯な生き方について、筆は進む。ただ一編だけ、政治家を主人公とした一作については、さっぱり意味がわからない。だれのどこにプライドの欠片を感じるというのか。疑問。(9/23)

017/202
僕僕少年」仁木英之
内容は全く関係ないにも関わらず、タイトルを著者の人気シリーズに合わせて改題して出版するという暴挙。登場人物もあまりに薄っぺらくてがっかりする。(9/23)

018/203
単なる英語本か思いきや、英語のテキストはほとんど無く、外国人とのビジネス上の交渉のための姿勢や考え方を説いた物で、非常に参考になる。いわば英語による交渉術の本なのだが、その神髄は日本人通しの交渉でも十分に通用するスタンダード。ここで提示されているいくつかのフレームワークは使える。(9/23)

019/204
日本美の再発見」ブルーノ・タウト 、篠田 英雄訳
桂離宮を再評価したブルーノ・タウトの有名すぎる著書。多分に翻訳者の言葉の選び方に読者の受ける印象が左右されるのであるが、彼が、日本旧来の洗練されていない形に対して高い評価を与えていたことには疑いがない。それ以外の近代の形は全ていかものである。(9/27)

020/205
ソクラテスやプラトンなどお堅い哲学者を題材にした小編集。途中までは作者の注書きがおもしろかったのだが、最後の方になると少々息切れしてきたのは残念。(9/28)

021/206
福家警部補の挨拶」大倉 崇裕
(9/29)
022/207
福家警部補の再訪」大倉 崇裕
(9/29)

この二作については、手を抜いて一度で済ませて頂きます。見た目は冴えない女性警部補が、鋭い推理と雑学を駆使して犯人を追い詰める倒叙スタイルのミステリー。先に犯行の全貌が明らかにされ、話が展開する様は、著者が愛して止まない刑事コロンボのスタイルで、これに成功した数少ない傑作と言える。また古畑任三郎スタイルとも。当然のことながら映像化にはぴったりの題材であり、おそらくその日も近いのではないか。