2019年8月12日月曜日

2019年7月


令和元年7月は計20冊、うち小説が11冊、それ以外が9冊という結果でした。
数もさることながら、内容的にもまずまず充実の月でした。

まず小説ですが、伊坂幸太郎さん、辻村深月さん、東野圭吾さんのお三方の小説は、文句なしの面白さで、いずれもお薦めです。

伊坂さんの作品は、私の好きな伊坂ワールド全開で、ほぼほぼ一気読みの面白さでした。元々は二つの小説から成っているのですが、もちろん一つの物語としても成立していて、合本にするのがもったいないくらいでした。

辻村さんの作品も、婚約者の失踪という少し重い内容の物語ですが、主人公の二人、特に女性の方が、幾多の困難を乗り越えて強くなっていく様が、感動的です。男は若干アカンたれに描かれていて、しっかりせんか!!と声に出してしまいたくなるようなやつですが、最後は期待どおり上手く収まってくれて良かったです。

東野さんの作品は、加賀さんが主人公ではない加賀シリーズなんですが、ミステリ要素より、親子の物語として描かれており、ひょっとするとシリーズ最高の傑作かもしれませんね。それくらい面白かったです。

このお三人以外では、初めて読んだ原寮さんの小説が面白かったです。いわゆるハードボイルド物なんですが、暴力シーンもなくて、純粋に楽しめる小説です。14年ぶりに書かれたシリーズ物とのことで、その初期の頃の作品も読んでみたいと思いました。

続いて小説以外の本ですが、これも結構充実してます。

まずは、読破するのに足かけ三ヶ月もかかってしまった悪魔の神話学です。日本人の宗教観の中に悪魔という存在はそれほどポピュラーではないように思われますが、西洋、特にキリスト教やイスラム教の世界では、絶対神を際立たせるために、絶対悪という存在を作り出しました。ある意味マーケティング上の策だったと思うのですが、それが行き過ぎて魔女という存在を作り出してしまい、大きく道を踏み外してしまいました。西洋人のメンタリティを理解する上でも有効な本かと思います。

それから宗教系が続きますが、社を持たない神々も面白かったです。日本の在来宗教であったアニミズムが、明治維新以降の国家神道化で、すっかり姿形を変えられてしまい、各地で本来信仰されていた神々の正体が見えなくなってしまっています。自然に対する恐れや憧れを今一度思い出してみるべきではないでしょうか。

図らずも、リクルートが就活生の内定辞退率をAIがはじき出し、それを学生に無断で企業側に提供していたという事件が発覚しましたが、このような事態について書かれたのが、あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠でした。この書籍では、アメリカでの実態(しかも数年前)について書かれていましたが、日本でも私たちの知らないところで活用されているようです。既に何かが始まっているようで、恐ろしい。

新書でも、良い本が続きました。

サイバーメトリックスの落とし穴は、野球好きの人にしか分からないような内容ですが、逆に野球好きであれば是非読んでほしい話題の一冊です。

%が分からない大学生も要チェック本です。文系大学の入学試験から数学がほぼ駆逐されてしまいました。結果として、論理的に物を考え説明するという能力を持たない社会人が山の様に生み出されてきました。国民は物を考えない方が都合が良いと考えた誰かがもたらしたこの実態を由々しき事態だと認識している人たちがどれくらいいるのか。国際社会で生き抜いてていかなければいけない次代の人たちには、なんとか自力で頑張ってと言うしかない。

バブル経済の深層は、バブル期に起こった4つの経済事件についてのルポルタージュなのですが、時事は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、まさに一編の物語を読むようですが、出てくる人物がどうしようもないくらい魅力的ではなく、小説としては成り立ちません。負った傷は深い。これも次代への負の遺産です。

冒頭に書いたように、7月は充実した月でした。8月に入るとともに猛暑が続き、なかなか本に集中できませんが、暑さに負けず、本探しに邁進したいと思います。


001/078
シーソーモンスター」伊坂幸太郎
中央公論新社による8作家の競作企画の中の一冊で、著者の最新作となる。このプロジェクトは螺旋という企画で、原始から未来にかけて、海族山族の対立を軸として、各作家が物語を紡ぐという企画で、他の作家の作品も順次発売されており、ちょっと楽しみ。是非とも全作読みたいと思います。ということで、この本ですが、昭和期を舞台にしたシーソーモンスターと近未来を舞台にしたスピンモンスターという二つの小説から成っています。それぞれが単独でも成り立っているのですが、併せて読むと尚良しという感じ。伊坂さんらしい小説で面白いですよ。(7/6)

002/079
給食のおにいさん」遠藤彩見
これは、知り合いから譲ってもらった本で、積ん読状態からようやく手に取った物です。一流の調理師だった主人公が、ほんの生活費稼ぎでやむなく努めることになった小学校の給食調理人として働くうちに、誰かのために料理を作ることについて考え、成長していく様を描いたお仕事小説です。自分が小学校の頃の給食って、基本的に学校で調理されていて、パンと牛乳が基本でした。私は給食大好き児童だったのですが、給食嫌いという児童の法が当時は多くて、結構珍しい存在でした。給食を残すことは罪悪のように指導されてもいましたが、今ではそれもあまりないようですね。改めて今の給食事情の実態に思いをはせる一冊でした。(7/6)

003/080
傲慢と善良」辻村深月
著者の最新刊(のはず)。面白かったです。ある日突然、婚約者の女性が失踪してしまい、途方に暮れた第一部の主人公が、彼女の過去を訪ね歩きます。彼女と自分自身のこれまでの恋愛歴や婚活経験をトレースしていくうちに、自分自身や彼女の周囲の人物の傲慢さに改めて気づかされ、彼女への思いを再確認していきます。第二部では失踪した彼女が語り部となって、失踪の理由やその後の生活が語られていきます。同じ事象を2人がそれぞれの視点や重さで捉えており、すれ違いが発生していきます。それを超えて大団円に向かうのですが、そこへ至るきっかけとして東日本大震災からの復興の風景が描かれています。そうだ、このことを忘れちゃいけないんだと言うことを改めて突きつけられる小説でもありました。(7/8)

004/081
著者は、野球に関しては全くの素人ですが、そのたぐいまれなる分析力でtweetを連発し、それがダルヴィッシュ投手と繋がったことで一気に広まり、この本となって結実しました。内容は非常に専門的かつ科学的で非常に面白く、いろんなところで高い評価を受けている理由がよく分かります。投手や野手の技術論から監督の采配、球団経営など、最近のメジャーリーグを席巻するいわゆるデータのみを重視する野球に対して疑問を投げかけています。日本野球のファンの端くれとしては、投手対打者の一対一の神経戦を楽しみたい。(7/10)

005/082
社をもたない神々」神崎宣武
今の日本では失われつつあるアニミズムについて書かれた本です。古来、私たちの周りにある万物には精霊が宿っており、私たちはそういった自然を恐れ敬う心を持ち合わせており、山、岩、水、樹木などなど自然物をご神体として崇める心を誰もが持っていました。後世、それが神社という形を取るようになり、明治維新以降は国家神道という一つの型にはめられて、衰退の途を取り始めました。現代の地域社会の崩壊とともにそれは加速し、あれほどたくさんいた神々はその存在を感じさせないようになっています。実は最近、知らない街を歩きながら、其処此処にある社を興味深く眺めています。どうしてここに?といろんなことに思いをはせるととても面白いです。(7/13)

006/083
不思議な迷探偵鵜飼探偵の烏賊川市シリーズの一作。ありえねーだろ!と言う突っ込みどころ満載のユーモアミステリです。トリックとして本当に成り立つのか、という心配はあるが、それなりに楽しめる一冊です。(7/14)

007/084
希望の糸」東野圭吾
著者の最新作、書店で見かけてつい購入、早速読んでみました。帯にはどこにも書かれていないのですが、あの加賀恭一郎シリーズの最新刊でした。誰からも恨みを買うようでないカフェの女主人が殺害されるという事件を、加賀のいとこである松宮刑事が捜査する。手がかりが全くない中で、小さな糸口から真相にたどり着きます。事件の捜査と平行して、親と子という大きなテーマの物語が描かれており、途中からはそちらがメインストリームとなる。この著者らしい息もつかせぬ展開で物語が進み、最後は充実感が残る。最近珍しい未発表の書き下ろしであるせいか、話の展開に無理が無く良い流れで書かれているように感じます。こいつは面白かったです。(7/15)

008/085
最近はお城がブームで、100名城のスタンプラリーなどはたくさんお方が参加されており、そのためのガイド本もたくさん出版されています。この本は、そういた書籍とは一線を画す珍しいタイプの専門書で、今に残された遺構や文書から城が作られてから、破却されるまでの一生をたどるとても面白い内容の本です。実は私もお城が好きで、いつか現存する天守閣をもつ12のお城を訪ね歩きたいと考えています。でも、そういった建物が残されていなくても、石垣や堀跡を見ているだけでも興味深く、建物の跡地に立って、ぼーっと過去に思いをはせるのもまた快感です。戦国時代に数多く作られたお城は、江戸時代になってかなり集約され、明治維新以降にほとんどが破却されています。その時代時代にとっては仕方の無かったことと思いますが、つくづく残念なことです。(7/15)

009/086
いろんなところで警鐘が鳴らされている今の日本の学校教育のあり方について書かれています。この本では、特に算数・数学の分野で、割合速度などの概念が理解できていない大学生が増えてきていることが紹介され、その原因としてマークシートによる大学入試とその対策に終始する教育システムをあげておられます。本来、数学で養うべき能力というのは、計算力では無く、論理的思考力です。しかしながら現在の日本では、逆に論理的な思考力を持たない人を養成しようとしているかのような教育がなされています。著者はそういった傾向に一石を投じようとして、大学内外での活動を行い、同種の書籍を世に出してこられました。これって、結構恐ろしいことだと思います。(7/15)

010/087
現代の職人 質を極める生き方、働き方」【PHP新書】早坂隆
全国で活躍する職人さんのレポートを纏めた物。知り合いの若い職人さんが載っていたので買い求めました。割と軽い読み物になっていて、40~50年前に同じタイトルで書かれた吉田光邦さんの文章とついつい比べてしまった。当時の職人さんに比べて、今の職人さんは、いろんな物・ことへのこだわりが強すぎるような気がする。私には、こだわりが強すぎる人には、良い物は作れないような気がするんですが、どうでしょうか。(7/18)

011/088
悪魔の神話学」高橋義人
先々月のレポートをあげたときに、とても面白い本を読んでいると紹介したのが、実はこの本でした。不本意ながら、途中で一度挫折してしまったのですが、改めてリベンジしました。私たちは、の力を増強するため、悪魔という存在を作り出しました。そしてさらには、それを使って、人々を分断して支配するための道具とすることを覚えました。なかなか面白かったです。各章のタイトルを最後にあげておきますが、これらを見ただけでもその面白さが伝わりませんか。序章:デモノロジーと西欧の影の精神史神の弟キリスト教とグノーシス堕天使という嘘原罪という嘘処女マリアという嘘魔女という嘘愛は悪魔よりも強し自由意志か奴隷意志か人間の本性は善か悪か。結構固い内容の本ですが、各章ともそれほど長い文章ではないので、拾い読みするだけでも面白いと思いますよ。(7/18)

012/089
殺し屋 最後の仕事」ローレンス・ブロック
シリーズの最終作となるはずたった作品です。主人公のケラーが、お仕事をするために訪れた街で、覚えのない暗殺者に仕立て上げられ、指名手配までされてアメリカ中を逃げ回るという物語です。手に汗握る展開で、最後の仕事を終えたところで、物語は終結します。どうやら、この後ももう一作書かれたようなので、それも今探しています。(7/18)

013/090
日本史の新常識」【文春新書】文藝春秋編
新常識と謳っておきながら、幾人かの歴史学者達が自説を展開していて、それをざっくりと纏めたものです。これだけ記録媒体が進化した現代でさえ、真実というものを誰の目にも明らかにすると言うことは不可能なわけで、それが遠い過去の世界であればなおさらです。残された記録の断片を拾い集めて全体を推理するわけですから、自ずと様々な読み方ができるわけで、いろんな説が乱れ飛ぶというのも仕方のないこと。逆にいうとだからこそ面白いとも言えるわけですよね。(7/19)

014/091
螺旋の手術室」知念実希人
作者にとっての実質的なメジャーデビュー作になるんでしょうか、結構面白かったです。ただ途中から真犯人がなんとなく想像できてしまい、結末もあまり好みではないかな。でも展開はお見事です。(7/20)

015/092
長かったシリーズもついに最新作に追いつきましたが、これでしばらく続きが読めないのはとても残念です。シリーズ当初から十数年が経ち、子ども達も大きくなりました。結構強引なストーリー展開があったり、かなり荒唐無稽な設定であったりと、若干惹いてしまうようなときもありますが、ほとんどがハッピーエンドで終わるので、安心して読めるところが救いですよね。次回作が発表される来春を楽しみに待ちたいと思います。(7/21)

016/093
誰に勧められたのか、何処で見かけたのか。さっぱり思い出せないが、昨年のこのミステリーがすごいの第一位だそうで、初めて読む作家さんと言うこともあって、楽しみに読みました。いわゆるハードボイルド物に分類されるような小説で、沢崎という私立探偵が活躍するシリーズ物です。とは言いながら14年ぶりの新作だそうで、著者自身寡作家で、生涯の著作が10冊にも満たないという筋金入りです。ということで、初めて読みましたが、スケールに若干物足りなさが残る作品でした。いろんな人の書評によると、シリーズ当初の方が面白いとの評判なので、次は昔の作品を探して読んでみたいと思います。(7/27)

017/094
これは、ビジネス誌の書評で読んだ物だったでしょうか覚えていないのですが、勝手に蒐集された私たちのデータが、全く別のところで分類されるために使われている。それを私たちは知らされることもない。こんな恐ろしいことが今のアメリカでは当たり前になっています。ある特定の地域に住んでいると言うだけで、ローンが組めない。就職時に差別される。こういう記事を見るといつも思うのですが、こういったシステムを作っているやつは、自分は決してあちら側にはいかないという根拠のない自信を持っているんでしょうね。バカじゃなかろうかと思います。最後に本書に書かれていた文章を引用します。ビッグデータは過去を成文化する。ビッグデータからは未来は生まれない。未来を創るには、モラルのある想像力が必要であり、そのような力を持つのは人間だけだ。私たちはアルゴリズムに、より良い価値観を明確に組み込み、私たちの倫理的な導きに従うビッグデータモデルを作り上げなければならない。未だ発展途上だと言うことを理解しておかなければなりませんね。
(7/28)

018/095
バブル経済事件の深層」【岩波新書】奥山俊宏、村山治
昭和の終わりから平成の初め、バブル景気と呼ばれた時代がありました。その時代を揺るがした4つの経済事件について、その深層を纏めたルポルタージュです。世の中が浮かれまくって、理性を失っていたあの時代。だれもが永遠に続くと思っていたあの時代。今振り返ればなんと愚かなと思うのですが、あの頃は誰もそれに気がつかなかったんですね。結果として、あの当時の傷は失われた30年と呼ばれるとおり、平成時代を通じて癒えることがなかった。むしろ、非正規労働の増加、出生者数の低下など別の形の問題となって、未来を脅かし続ける。誰か個人の責任ではないと思うんですが、じゃぁ、誰の責任なんだ?!(7/28)

019/096
彼の作品は好きなんですが。孫を誘拐された国会議員が、犯人からおまえの罪を告白しろと脅されるという事件が発生。首相を巻き込んだ騒動に発展し、結果的には何だかなぁと言う終わり方です。誘拐事件の真相も、何だかなぁと言う感じで、かなり期待外れでした。(7/30)

020/097
友人から、このシリーズの二作目をもらったので、その前に読もうと敢えて購入しました。弱小広告代理店が、地方の小さな村のPRを任せられ、とんでもない手法で世間をだまくらかそうとしたものの露見し、どうなることかと思ったら、結局はハッピーエンドという物語でした。最後の解説によると、出版当時は荻原浩=ユーモア作家と認識されていて、同分野での躍進が期待されていたようです。今のような躍進ぶりは想定外なのかもしれませんね。(7/31)