2018年12月3日月曜日

2018年11月


先月11月の成果は15冊。うち小説が9冊、その他が6冊という結果でした。
この月は、読めるときは一気に読めるけど、読めないときは、それが数日継続するという極端な月でした。15冊も読んだ割には、これと言える本も少なくて、何をお薦めできるかと苦慮いたしました。
そんな中でのお薦めは、すでにあちらこちらで大きく取り上げられていて、たくさんお方が読まれているだろうという本になってしまいました。

まず小説では、三浦しをんさんのののはな通信ですね。
著者も主人公もすべて女性ということで、おっさんの自分にどれほど内容が理解できていたかは自信がありませんが、主人公の女性二人の切ない物語です。すべてが、二人の文書のやりとりで構成されていて、二人にしか通じない暗示的な表現や赤裸々な表現が、物語の幅を広げます。物語の設定時期が、2011年に近づくにつれ、結末を予想し始めていたところ、ブン!と全く違う方向に振られ、してやられたという感じです。物語が続いてほしいなぁ。

その他の本では、“AI Vs. 教科書が読めない子供たちが秀逸でした。
いろんなところで、取り上げられていてので、かなり前に購入していたのですが、ついついそのままになっていたところ、さすがに気になって、ようやく読むことができました。いやぁ、とても興味深い内容でした。感想は本文を参照頂きたいのですが、実は、関心はそこだけではありません。この本の著者もAIを研究する数学者の方なのですが、特に最近理系の方が書かれる文章がわかりやすく思えるようになり、逆に文系の方が書かれる文章への理解力が年々衰えてきたように感じています。それもあって、ここのところブルーバックスシリーズなどにも手が伸びるようになってきています。特にこの本、最新理論や実証実験に基づいて論理的に書かれており、飽きることはありません。タイトルに惹かれた方、この際是非読んでみてください。お薦めです。

さて、以前ある方から、たくさん本を読んでるけど、途中で飽きたときは、どうしてんの?と尋ねられたことがあります。実は、結構途中で放棄していることもたくさんあって、今月から末尾に途中放棄した本も載せていきたいと思っています。もちろん理由も付して。ただし、あくまで個人的な意見ですから、ご承知おきくださいね。


001/155
日本の歴史とともにあった天皇制ですが、歴史とともあったということは、そのときの状況であり方も変化していたということです。そういった中で、現在の天皇を巡る諸制度の多くは、明治維新以後に作られ、現在まで続いており、この書籍の中では、山稜、祭祀、皇統、暦、元号という5つの分野で語られています。たとえば、現在○○天皇陵と呼ばれているものの多くは、江戸時代に適当に決められたものであることはよく知られたお話です。また、宮中祭祀の中には明治維新後に新たに始められ、いつしか伝統的な行事とされたものもたくさんあるそうです。ここでは、元号についても書かれていますが、一世一元号とされたのも明治以降のことで、それまでは在世中であっても様々な理由をつけて改元されました。平成という元号も来年4月末までと決まっていますが、次の元号は直前まで発表しないことになったそうです。そういえば、今販売されているカレンダーには5月以降の元号が書かれておらず、先日も皇室のある方でさえ、西暦を使ってお話をされていたとニュースで大きく取り上げられておりましたが、一般の生活では、ますます元号離れが進んでいきそうですね。(11/3)

002/156
東日本大震災の2年後から継続して新聞紙上に月一で掲載されたコラムをまとめたもので、その間の社会の動きをトレースしている。毎年2、3月には震災からの復興について筆を走らせるほか、小池都政、安保法制、辺野古問題、米大統領選などについても、タイムリーに論評している。これらの問題の多くは、今も継続しているはずなのに、すでに過去のこととして語られなくなってしまっているのはなぜだろうか。大震災の後しばらくは、日本が大きく変わっていくのではないかと思われていましたが、今はどうなんでしょうか?
(11/5)

003/157
日本のルールは間違いだらけ」たくきよしみつ
私たちが普段使っている漢字や交通ルール、公職選挙法やわいせつの基準など、あいまいなルールを取り上げて揶揄するだけの本。そもそもルールというのは、合致しているのが正しくて、合致していないものが間違っているという、基準になるものなので、ルールが間違っているというのは、言葉としては如何なものか。この場合曖昧とするのが正しいと思うのですがどうでしょうか。まぁ、雑学のたぐいの本ですね。(11/8)

004/158
この著者の本は初めて。歴史上の謎を独自の視点で解説していくという趣向の物語。どうやら正体のわからない覆面作家さんらしく、ほかにもSFあるいはミステリの形式で、たくさんの作品を書いておられるようですね。ジャンル的には興味のない分野ではないのだが、短編形式で次々と謎を取り上げていくので、消化不良感も半端なし。たぶんこれ以外には読むことはないでしょう。(11/9)

005/159
天久鷹央の推理カルテ」知念実希人
なんと言うこと!いつか読もうと思って買っていたのに、それをすっかり忘れて、図書館から借りて読んでしまった。不覚。ということで、同シリーズでも先に長編の方を読んでいたので楽しみにしながら読んだシリーズ第一作です。一作目と言うことで、主人公である天才医師のキャラクター設定には、若干ブレがあるように感じられましたが、なかなかに面白く読みました。長編も面白いけど、短編でも十分に面白い。また続編を読みたいと思います。次は間違えないように。

006/160
ののはな通信」三浦しをん
これは面白かった。名門女子高校で出会った二人の女性が成長していく様を描いた小説で、二人の間で交わされる書簡のみで構成される面白い構成となっている。途中からはeメールが主な伝達手段となるのだが、最初の頃は授業中にやりとりされる手紙なども混じっていて、時代を感じさせる。小説の中身は明かしませんが、普段作者が好きだと公言している世界とは正反対の世界を扱っていて、それはそれで興味深い。高校時代に出会った二人が、2度に渡る別離を繰り返し、その後交わることのなかった軌跡が、20年の時を超えてクロスする。そして訪れる3度目の別離。途中想定していた結末とは違ったけど、胸アツの結末でした。(11/12)

007/161
美女と竹林」森見登美彦
これはエッセイなのか小説なのか。京都大学の大学院で竹の研究をしていたらいい著者が、雑誌の企画で竹林整備を取り上げることになり、その一年間をまとめたもの。途中、夜は短し歩けよ乙女が文学賞を受賞して、急に多忙を極めるようになり、整備も中途半端に終わってしまうと言うていたらくで大団円を迎えます。激動の一年を振り返る意味からも面白い一冊です。

008/162
悪玉伝」朝井まかて
江戸時代徳川吉宗治政下に実際に起こった疑獄事件を題材にした物語。上方の商家の相続問題であったものが、上方の奉行所の沙汰に不服があった者が、江戸の評定所の目安箱に訴え出たことから、役人を巻き込んだ大疑獄事件に発展する。最後に裁いた大岡越前守の手記にも残されているなど、訴訟記録も多く残されていることから、過去にいくつか小説化もされているらしい。本作では、乗っ取りを謀ったとして罰を得た者を主人公として語らせることにより、面白い小説に仕上がっている。とても面白い一冊でした(11/18)

009/163
たまたま目について借りた本ですが、いわゆるスピリチュアル小説というたぐいの本だそうです。小説の形式をとっているが、あくまで著者が実際に経験したことを下に描かれた小説というところがミソでだそうで、非常に不思議な物語です。ただ、その設定を除くと平板な私小説の様で、どっちつかずとも言えそうです。ただ、この世にはこんな本もあるんだなと勉強になりました。(11/23)

010/164
鯖猫長屋 ふしぎ草紙」田牧大和
この作者の時代物小説は過去にも何冊か読んでいて、なかなか上手な作者だなと思っています。本作は、どうやら過去に何かあったような怪しい絵師が主人公で、妙に存在感のある彼が飼っている一匹の三毛猫と一緒に、長屋で起きる様々な事件に関わっていきます。どうやらこれらの事件は、彼が過去に関わったあることにつながっているようで、、という感じで物語は進みます。時代物がお好きな方には、お薦めの作家さんです。(11/24)

011/165
いつものバンドワゴンシリーズのスピンオフで、語り手を変え、それぞれが主人公一家と関わりを持つようになった出来事などを綴っています。それぞれは、ちゃんと物語として成立しているのですが、一冊に10編の物語を詰め込んだため、一つ一つが短くて、消化不良になっている物もあるような。。。(11/24)

012/166
乙霧村の七人」伊岡瞬
なかなか面白いミステリ小説を書く作家だと気がつき、少しずつ読もうと思っています。とある村で起こった一家惨殺事件の現場に、大学のサークル仲間がゼミ旅行で訪れたところで、新たな事件が起こり、恐怖の一夜を送ります。いろんな伏線がしっかり回収されていて、ミステリとしても良い感じになっています。最後に明かされた事実は、さすがに想像もできないことで、こうきたか!と思わず膝を打つような、どんでん返しでした。(11/25)

013/167
シリーズの第二弾です。前作同様大胆な設定で描かれており、ミステリとしてもよくできているし、スピード感もあって、とても読みやすい小説です。ただ、やや官能的な描写が多く万人にお薦めできる内容ではありません。ミステリとしての完成度は高いので、引き続き読んでいこうかなとは思っていますが、ほかのシリーズに切り替えようかな。と思案中。(11/25)

014/168
著者に講演の講師をお願いしていたこともあって、事前に読んでおこうと思い購入しました。実は、私自身はたねやさんもクラブハリエも全く知らなかったのですが、特にクラブハリエのバームクーヘンは、とても有名らしいですね。三方よしで有名な近江商人を地でいくような同社の経営や、革新を繰り返すことで伝統を作り上げていく姿勢には頭が下がる思いがいたします。京都の老舗の皆さんも、もう一度その精神を思い出していただきたいと思いました。(11/27)

015/169
話題になった本で、かなり前に買っていたのですが、なかなか読む機会がなく、ようやく読むことができました。前評判どおり、とても興味深い一冊でした。ほんの構成は大きく二つに分かれており、前半にはAIの今後の可能性について、述べられていて、巷間言われているような、AIの能力が人間の能力を凌駕してしまうような事態は絶対に起こらないということが明快に述べられています。気になる理由は、是非本書を読んでください。そして、後半に述べられているのが、非常に憂うべき現状。著者が、AI技術の研究を重ねる中で、その能力の判定方法として開発した読解力判定のためのテストを、小中学生対象に実施してみたところ、多くの子供たちが、教科書に書いてある文章をほとんど理解できていないことが明らかになってしまったということが述べられています。結果として、AIに代替されてしまうような仕事はたくさん出てくるとしても、AIにはできないクリエイティブな仕事は、依然として私たちの仕事として残っていくはずが、このまま人間の能力が低下していくと、とてもそんな仕事に就くことはできないだろう。これは恐ろしいことです。興味を持たれた方は、是非ともお読みください。損はしません。面白いです。(11/27)


<途中放棄>
「職場のハラスメント」大和田敢太
ハラスメント防止に向けた法規制が議論されると言うこともあって、ちょいと読んでみようかと思ったのですが、どうも法律屋の書く文章はわかりにくい。自分も法学部出身のはずなのに、なんでこんなに読みにくいんだ!と三分の一を読んだところでギブアップしました。

「落陽」朝井まかて
時代小説家の著者にとっては、少し珍しく明治時代を舞台にした小説で、決して面白くなかったわけではなく、ただ単に図書館の返却期限が過ぎてしまったため、泣く泣く断念して返却いたしました。いずれリベンジしたいと思っています。

2018年11月13日火曜日

2018年10月


読書の秋に入った10月は、22冊。うち小説が11冊、その他が11冊という結果でした。結構、数は読んだのですが、その中でお薦めできるものというと、、、

まずは、中山七里さんの作品2作。
前にも書いたかと思いますが、彼の小説は好きなので、できるだけ追いかけるようにしています。今月読んだ作品は、最近の作品で、ここのところかなり量産されているように思われます。量産すると、品質が低下しがちというのが世の常ですが、彼の場合、それはあまり感じられません。ただ、ごくまれに陰惨な場面が描かれることがあるので、それは玉に瑕ですね。

もう一作、村山早紀さんの星をつなぐ手 桜風堂ものがたりが、よかったです。前作の続きなんですが、一生懸命に働く人たちに幸せが訪れるという物語は、ほのぼのとしてとても安心して読むことができます。前作を読んだ方は、是非読んでください。下にも書いていますが、前編後編といってもよいくらい二冊で一冊という構成になっています。

さて、それ以外の分野なんですが、ノンフィクションが二冊。
いずれも古い本なんですが、道迷い遭難モンスターマザーがよかったですね。

まず道迷い遭難ですが、下にも書いているとおり、生命の危機に陥りながらも、奇跡の生還を果たした人たちから、その失敗の経過を丹念に聞き取っています。ある種の失敗学の教科書的な本で、こういった経験談から、できるだけ失敗しない方法被害を最小に押さえる方法リカバーする方法を学ぶことが大切ですね。世の中に失敗しない人なんていないわけですから。

次にモンスターマザーですが、私はこの事件の記憶が全くなく、当時、どれくらいマスコミで騒がれたのかもよく知りません。ですが、このレポートを読む限りでは、金になると分だ弁護士と、取材をしない無責任なルポライターが騒ぎを大きくしていった様がよくわかります。実は、この有名なルポライターさんの本は一度も読んだことがなくて、縁があれば一冊読んでみようかなと思うのですが、ちょっと今は読むべき本が溜まっているので、もう少し後にしようと思っています。

あとは、産業政策の一翼を担うを仕事にしていることもあって、イノベーションはなぜ途絶えたかという本は、非常に興味深いものでした。今の政治・社会のシステムが、イノベーションが起きないように設計されていて、それを帰るには、まさにコペルニクス的な発想の転換が必要だということがわかります。つまり、このシステムこそイノベーションが必要だということなんですね。道は遠く険しいけれど、これは、親世代の負の遺産を引き継いでしまった私たちの世代の責任かと思います。

読書の秋に入った10月は、前半がとても調子よかったのですが、後半になると一気に失速し、いつも通りのレベルに落ち着きました。特に夜は寝落ちすることが多くなり、自宅での読書が進まなかったことが原因でしょう。

今年も残り2ヶ月。200冊はちょっと難しそうですが、どうでしょうか。



001/133
雑誌山と渓谷に連載され、山行き中に道に迷って遭難し、奇跡の生還をした人たちからの聞き取りをまとめたもの。どこで見つけて、こんな本を図書館で予約しようと思ったのか、今となっては全く思い出せないが、結構人気があるようで、数ヶ月待たされ、ようやく読むことができました。一言で言うと、非常に興味深い内容でした。第三者が、当事者自らが犯した失敗について、振り返りながら語るのを聞くと、判断を誤った時点”“場所と言うのがはっきりしています。でも、何故そんな単純なミスを犯したのか、という段になると、曖昧さが増し、はっきりしません。人間誰しもパニックに陥ると、絶対に犯さないようなミスを犯すんだという実例です。くれぐれも人生に遭難しないように生きていきたいものです。(10/1)

002/134
悪徳の輪舞曲」中山七里
元殺人犯でありながら少年法に守られ、施設退所後司法試験に合格し、弁護士となった主人公に、かつての家族の弁護が依頼される。100%有罪間違いなしの絶体絶命のピンチの中、独特の論理展開で反撃していく法廷ミステリです。いつもながら心をつかんで離さないスピード感のある展開で、大好きです。なかなかこの主人公のキャラクターは好きにはなれないが、彼の小説はいつも面白い。また図書館で予約していた新作が読めそうなので、楽しみにしています。(10/3)

003/135
増え続ける一方だった登場人物が、ついに一人減ってしまった。大家族の一員でありながら、ある意味周辺に居た人ではあるが、こういった物語にとっては、タブーとされがちな事も、この小説ではしっかり描くんだなと改めて感心いたしました。(10/5)

004/136
井上ひさしの日本語相談」井上ひさし
およそ30年前の週刊朝日で連載されたコラムをまとめたもの。大野晋、丸谷才一、大岡信、そして井上ひさしというそうそうたる面々が、一般読者から寄せられた日本語に関する相談に答えるという企画で、回答者ごとに1冊の本に纏められて出版されている。彼らしいユーモアに富んだ回答もあるが、言葉を大切に扱った作家らしく、多くの相談にまじめに答えている。この本を読んで、とてもうれしいでしたという表現があることを初めて知りました。(10/7)


005/137
赤毛のアンナ」真保裕一
読み進めていく内に、以前読んだことがあることを思い出しました。それも比較的最近に、、。逆境に生まれながらも、周囲の人たちに笑顔と優しさを振りまいていた主人公が起こした傷害事件の事を聞いたかつての同級生達が、彼女から受けた恩に報いようと活動をするという物語。胸アツです。(10/7)


006/138
まる子だった」さくらももこ
先日急逝されたさくらさんのエッセイ集です。彼女自身を主人公として描かれた漫画は、あたかもエッセイのようで、主人公と作者を同一視するように読まれている。この本にも、まるでアニメの原作のような話がたくさん含まれています。あのアニメを通して、山本リンダさんや西城秀樹さんを知った方もたくさんあったそうです。顔に斜線を描いて、あきれた様子を表すというのもこの漫画が先駈けだったと思います。サザエさん同様、作者が亡くなってもアニメは続いていくことと思います。私より、3~4歳年下だったと思いますが、若くて才能がある方が亡くなることは、本当に悲しいものです。心から御冥福をお祈りいたします。(10/8)


007/139
自分の中では外れが多くて、手を出すときは要注意と勝手にレッテルを貼っているこのミステリーがスゴい大賞の5年前の受賞作品。基本的には新人を対象とした賞なので仕方が無いと思う部分はあるが、設定があまりに荒唐無稽で、現実からはあまりに遠く感じられ、せっかくの魅力的なキャラクターが活かされていないように思われる。ミステリ=どんでん返しという固定観念があると、ついつい効果を狙って大仰な舞台を設定しがち。主人公は良かったので、せっかくだから、二、三作は追っかけてみるつもりです。(10/8)


008/140
幕末に跋扈したテロリスト達の活躍によって成し遂げられた明治維新後、徹底的に否定された時代ですが、最近ようやく、その際評価が進んでいるように思えます。徳川政権勃興期の武断政治から文治政治、急激な経済成長、自然災害によるしっぺ返し、最後は外圧による崩壊へと4つの大きな出来事を境に、政権のありようが変化していった様子を解りやすく描いています。必ずしも、前半はそれほど急激な変化では亡かったのですが、災害、外圧は十分な準備が整っていない中での出来事であったため、最後の崩壊に繋がっていったのでしょうね。徳川政権時代には260年にわたって平和な時代が続いたと描かれ、その対比でその後の相次ぐ戦争が続く時代との違いを際立たせようとされているのかもしれませんね。この本にも書かれているとおり、当時の経済は米を中心に廻っています。租税もほとんどが米だったことを考えると、その税源の涵養にあまりに無策だったのではないかと思われ、私自身は、そこまで賞賛しようとは思わないのですが。特に、幕府の施政が及ばない独立国である各藩において、その傾向がひどかったように考えています。(10/10)

009/141
今、政府が旗を振っている地方創生事業についての疑義を糺す良書です。この主張に対しては、必ずしも同意するものではないけれど、普段私たちが業務の中で感じる疑念について、著者なりの答えを提示してくれています。本来、都市地方は依存し合いながら存在しているものを、それぞれがエゴを主張し合うようになってしまい、その共存社会が壊れつつある。結果的に、勝ち組であるところの都市に人口が集中し、地方が衰退する。そして都市化が人口減少を加速させる。残念ながら、これに対する処方箋は見つかっておらず、考えられる未来は非常に暗い。私たちは、それを押しとどめなければいけない立場であるが、私には名案が浮かばない。(10/13)

010/142
元文化庁長官でもある著者が、世界の様々な神話を題材に、そこで書かれている物語の背景にある、その社会における価値観などについて考察した物。とても興味深い一冊でした。物語と日本人の心シリーズの一冊としてまとめられたもので、他にも興味深いタイトルの物があり、少し読み続けたいと思っている。キリスト教の世界では、神が世界、人類を創造し、その人類が神に禁じられた果実を食べてしまい、楽園を追放される。人類は生まれながらにその罪(=原罪)を抱えて生きている。日本の神話では、混沌の中から神が大地を作り、そこに降臨して人類の祖先となる。私たちが自分の行動の意味を考えるとき、この根本の違いはとても大きいような気がする。どちらが正しいのかと言うことではなく、よって立つ基礎が全く違う人たちと、つきあいながら生きていかなければならないと言うことを理解しながら生きていかなければいけない。つまりそういうことだ。(10/14)

011/143
この著者については、漠然とSF作家だよな、と思っていたところ、結構ミステリ小説も書いていて驚いた。この本はそんなミステリの一冊で、警視庁におとり捜査官として採用された主人公が、徐々に周りの信頼を得つつ、事件を解決に導くという物語。原書名が、かなり官能的なタイトルであったこともあって、あまり評価されなかったと言う過去もあったらしいが、ミステリとしてちゃんと成立もしており、しっかりとした力量を持っていることもよく分かる。数冊のシリーズになっているので、次も読んでみよう。(10/14)

012/144
元々は理数系の学生でありながら、外国の大学で研究する内に日本史の面白さに目覚め、ついにはハーバード大学で超人気の日本史講座を開催するに至る物語。音楽やエクササイズを交えながら考えるこの授業形態は、アメリカの大学なら許されるだろうが、まず日本の象牙の塔に守られた大学では実現しない講座だろう。そもそも学ぶそれを支援する教える教わるという風に、学生と教授陣との関わり方も彼我では大きく違うような気がする。こんなことではまずます世界の流れから置いて行かれてしまうよ。(10/14)

013/145
ウドウロク」有働由美子
今春永年アナウンサーとして務めたNHKを退職した著者が、数年前に描いたエッセイ。退職後、新たに文章を書き加えられた上で、改めて文庫として発行された物。読まれる事を意識して書かれてものとは思われるが、かなり思い切った内容で書かれていて、気持ちよい。(10/14)

014/146
中野のお父さん」北村薫
東京からの帰りの新幹線のお伴として、昔結構好きで読んでいた作家の作本を久しぶりに手にした。仲野にある実家から離れて暮らす主人公が勤務する出版社を舞台に起こる、様々な日常の謎を、その父がわずかなヒントを手がかりに解き明かすという物語。読み手の興味を離さない上手い語り口なのだが、この父の過度な博覧強記ぶりが、却って興をそいでいるように感じるのか気のせいか。ちょっと書きすぎではなかろうか。(10/14)

015/147
私には全く記憶にないのだが、今から10数年前、長野県丸子実業高校のバレー部員がいじめを苦に自殺したとされて事件の真相を求めて書かれた渾身のルポルタージュ。生徒の自殺を受けて、その母親が学校や教師、同級生達を目の敵にし、虚実取り混ぜて執拗なまでに追い詰める様が、恐ろしいまでに読み手に迫りくる。かさに掛かってその母親の暴走を助長するマスコミの姿も浅ましい。また、(ある意味当然かもしれないが)母親の証言(二転三転する)を鵜呑みにして学校側を恫喝した弁護士(結果的に弁護士会から懲戒処分を受けている)、同じく二次資料だけでルポを書く鎌田慧という作家(昔は優秀なルポライターだったはずなのに)。など、登場人物も多士済々。いったん生徒の自殺=がっいじめの存在=学校の責任と構造ができあがると、それを修正するのは、本当に難しいことだろう。ここで描かれている母親の姿は、かなり恐ろしい。万が一、このような人のターゲットにされたらと考えただけで、恐怖にすくんでしまう。結構ハードな内容です。(10/14)

016/148
伊坂氏得意のストーリー展開。陽気なギャングシリーズ(というのがあるんだろうか?)の最新作、といっても前作から10年近く経っている。一筋縄ではいかない展開で、あちらこちらに伏線がちりばめられており、それらを見事に回収しながら、あっと驚く結末まで一気に駆け抜ける感じ。お見事です。(10/14)

017/149
もう少し面白い本かと期待していたのだが、かなり期待外れ。今では見る影も無くなってしまった企業ではあるが、かつては、とても面白い製品を世に出してきた企業だった。その創業メンバー達が、井深氏と語り合っているのだが、残念ながら、ややもすると過去の自慢話ばかり。後輩達への具体的な激励の言葉が欲しかった。(10/18)

018/150
同名小説の続編です。心神喪失者の行為は、罰しないとする刑法39条の規程に正面から取り組むミステリ。この場合の被害者の感情はどこへ向かえば良いのか。非常に悩ましいところ。私がはじめて法律を学んだときも、刑法の最初の講義の中で、投げられた問いだったと記憶している。罪を憎んで人を憎まず残虐系である死刑の廃止人は更正しうる。本当に難しい。(10/20)

019/151
シリーズ第7弾。思えばたくさん読んできましたね。登場人物がしっかり年を取って、その年齢なりの悩みを抱きながら生きていく物語であると言うところが良いですね。さて、続きはどうなるのでしょうか。(10/25)

020/152
地方のリアル店舗を舞台に書かれ、2017年本屋大賞第5位となった桜風堂ものがたりの続編。だが著者のあとがきによると、もともと2冊分の無いようであったものを、二冊に分けて書籍化した物だそうなので、2冊読んでようやく完読ということか。逆に、これで書ききってしまったので、更なる続編は考えられないと言うことのようである。決まった本を買うのはネットが楽なんだけど、本を選ぶ楽しみはリアル店舗でなければ味わえない。この本を読んで、リアル店舗を応援する人が少しでも増えてくればいいのにね。(10/27)

021/153
万引き家族」是枝裕和
話題になった映画の原作と言って良いのかな。それともノベライズ物なのだろうか。実は映画を見ていないので、小説を前に読むことが良かったのかどうか解らないだが、まか、このあとで映画を見てもがっかりすることはなかろうと思いながら読みました。(10/27)

022/154
PanasonicSHARPSONYなどの例を見るまでも無く、かつての日本はベンチャー企業によるイノベーションが活発で、その経済発展を支えてきた。ところが、いつからかそういったベンチャー企業が育たなくなり、世界の潮流から大きく後れを取っている。その理由はどこになるのか、と言うことに一つの答えを提示する一冊である。まずは企業内でのすぐに金にならない基礎研究が軽視され、研究所が閉鎖されて、科学者が事業部門に配置されることで、分野を超えた交流の場が無くなってしまった。さらに、行政の側にもベンチャー事業の評価ができる人材がおらず、適正な支援ができていない。誠に耳の痛い話である。本の中でその解決策を提言されてはいるが、現状ではその実現を望むべくもない。イノベーションというのは、科学技術の分野だけに起こるのではなく、本来なら社会科学の分野でもそれは起こりうると思っている。イノベーションの起きない社会は衰退していくしかない。何とかしなければ。(10/31)

2018年10月7日日曜日

2018年9月


9月は、22冊。うち小説が12冊、その他が10冊という内訳でした。
20冊を超えたのは久しぶりですね。結構頑張って読みましたが、それ以上に合う本が多かったようで、一冊一冊に時間が掛からなかったことが大きいのかもしれません。

さて、そんな中でのお勧めですが、小説は古い物、決まった作家さんの物が多く、初めて読んだ作家さんとなると、伊岡さんの代償だけですね。本編でも触れていますが、誰かのエッセイか書評に取り上げられたのを見て、読んだものですね。それが、誰だったか全く思い出せないのですが。内容的にも、とても面白かったです。やや厚めの文庫でしたが、長さは感じなくて、一気に読み通しました。どぎつい表現もあるので、万人向けでは無いかもしれませんが、ミステリ好きの方であれば、お薦めです。

いつもの作家さんの中では、宮部さんのあやかし草紙がピカイチでした。
10年以上にわたって書かれているシリーズなんですが、毎回楽しみにしています。初期の頃の作品には、人間の醜い面が増幅されて現れてくるような、ホントに怖い物が多くて、それもまた楽しみだったんですが、今作はややソフトな中身で、以前のような楽しみ方はできなくなりましたが、それぞれの物語の構成といい、語り手、聞き手のキャラクターといいとても良い作品だと思っています。ただ、今作で第一期が終わり、次回作(再開は未定、熱望してます)は、少し様相が変わるようなので、若干不安もあります。

あとは東京バンドワゴンシリーズ殺し屋シリーズ葉村晶シリーズは、安定の面白さで、皆さんにも是非一度手にとって頂きたいと思います。

あと、今年の本屋大賞かがみの孤城も期待に違わぬ面白さでした。すでにたくさんお方に読まれている本なので、改めてお薦めというものではないですが、さすが全国の本屋さんが薦めたくなる一冊だなと思わせる作品です。未読の方は是非とも、図書館に御予約を。

小説以外の10冊には、お薦め本が山盛りです。
順番に、まずは岩波新書の原民喜。どこの書店へ行っても山積みにされていて、皆さん一度はごらんになったことがあるのではないでしょうか。実は私は全く知らなかったのですが、原民喜というのは有名な作家さんで、美しい詩や私小説的な物語を残しているそうです。この本は、そんな作家の生涯を描いたもので、彼が何故このような物語を書いたのか、その背景に迫っていきます。彼の最大の理解者であった妻との出会い、別れ、広島での被曝体験が彼の作品に大きな影響を与えていきます。読みながら、どんどん引き込まれていく素晴らしい本です。

ちょっと毛色の変わったところで、教育勅語と日本社会も興味深い一冊でした。教育勅語と聞くだけで、なんとなくウヨク的な匂いがし、遠ざけてきましたが、ちゃんと目を通した上で、しっかりと評価しないといけないという思いで読んでみました。ちょうど、先日も新任大臣が会見でこれに触れて、自らの読解力のなさを露呈させてしまっていましたね。詳しい感想は本編に譲りますが、讃えるにしても腐すにしても、しっかりと中身を知ってからでないとフェアでは無いですよね。そんな思いで読んだ本です。

最近はまっている講談社のブルーバックスからは、科学者はなぜ神を信じるのか。全ての学問の淵源は“哲学”であり、最も離れているように見える科学もその例に漏れません。哲学と宗教は同一のものではありませんし、宗教と哲学に親和性があるとは言えませんが、哲学の大きなテーマの一つである“存在”というものを考えるとき、“神の存在”は避けて通れない課題でもあります。私達の周りで起こる自然現象は、その原因が理解できず、全ては“神のみ業”でした。しかしながら、それらを追究する人たちの力によって、少しずつ“神の力”が、そぎ落とされてきました。それでもなお、いつまで経っても解明できない謎が残ります。そして、それはやはり“何か大いなる存在=神”の力と考えざるを得ないのではないか。謎が解明されればされるほど、残された謎は神秘的になっていきます。

次は日本人はなぜ存在するか。出張のお伴に携えていった文庫本ですが、東京からの帰りの新幹線の中で、読みふけってしまいました。タイトルは“日本人”ですが、これは“日本文化”であっても“日本の伝統”であっても同じことで、“日本人”は、こういった定義づけや議論が好きなんですね。最近、世界最高峰のスポーツ競技大会で優勝した女性選手を巡って、またぞろ“日本人論”が賑やかに交わされています。ある種、偏狭なナショナリズムのなせる技だと思いますが、こういう議論がわき起こること自体が、面白い、不思議なことですね。もちろん、読み物としてもとても面白かったです。お薦めの一冊です。

最後はかなり古い岩波新書で“この世界の片隅で”。終戦後20年を経た広島の様子が綴られた秀作で、目を背けたくなるような描写や今では書けないような表現が、出版当時のままで最近増刷されました。最初にこの本の存在を知ったときは、“品切れ中”だったのですが、時を置かず増刷発行されたので、すぐに購入いたしました。今の私たちは、当然のように平和を謳歌していますが、ほんの少し前の世代にはどんなことがあったのか、私たちは知らなければいけないと思います。もちろん、直接知ることは不可能なので、こういった資料に頼らなければいけないのですが、資料として存在させておくだけでは無く、私たちの血肉にしなければいけません。是非手に取ってみてください。

今月は、最近では珍しい量・質ともに豊作の月でした。これだけ良い本に出会えると、それだけで嬉しくなってきます。いよいよ“読書の秋”本番です。次はどんな本との出会いがあるのか、とても楽しみです。


001/111
東京バンドワゴンシリーズの主要キャラクターである堀田勘一、サチ夫妻の出会いを描いたサイドストーリーというか前日譚。シリーズでは初めての長編小説で、全作までに登場した様々なキャラクターとの馴れ初めもしっかり説明されている。舞台は終戦直後の東京、GHQややんごとなき筋までを巻き込んだ大騒動の中、二人が出会い結ばれるというお話。物語の背景設定には、やや強引な感が否めないが、安心して読める大河小説です。(9/1)

002/112
カレーライスの誕生」小菅桂子
私も大好きなカレーライス。インド発祥のカレーがイギリス経由で日本に伝わり、ごはんと合わせることで新たな和洋折衷料理が生まれた。今では、海外の日本料理店に行ってもメニューに載せられています。文章そのものには、時折読みづらい部分もあるが、東の高級路線に対して、関西の大衆化路線。東は豚肉、西は牛肉といった比較や、カレー粉の輸入、カレールウ、レトルトカレーの発明、激辛カレーブームといったカレーの歴史など、カレーだけを題材にここまでまとめ上げられていて、とても面白い。今から10数年前に書かれた本なので、全国チェーン展開から世界進出を果たした“coco壱番の登場など、その後の歴史もきっと面白いでしょうね。(9/4)

003/113
これも、最近とても話題なっていて、あちらこちらで高評価を受けているということもあって、購入いたしました。いつもなら買うだけで満足し、手に取るのは少し先になるというのが当たり前なのですが、本書に限っては、殆ど買ってすぐに読み始めました。この本を読むまでは原民喜という作家がいたことすら知らなかったのですが、どうやらとても興味深い作家のようです。副題にあるとおり、冒頭に彼=原の死の場面から始まるのですが、ある種の社会不適合者であった彼が、妻という理解者を得たものの、早くにこれを失い、希望を失いかけたときに被爆し、この惨状を記録していくことが自分の使命だと思い定め、それを成し遂げた後に自死するという、とんでもない数奇な人生をたどります。是非彼の小説を読んでみたいと思いました。最後にこの本の著者の言葉で悲しみを充分に悲しみつくさず、嘆きを置き去りにして前に進むことが、社会にも、個人の精神にも、ある種の空洞を生んでしまうという文がありました。とても心に響く言葉ではないですか。悲しみや嘆きを押し殺して封印してしまうのではなく、それを解放した後にこそ、本当に前に進めるんじゃなかろうか。(9/4)

004/114
殺しのリスト」ローレンス・ブロック
先月から御紹介している殺し屋シリーズの第二作。一応長編の形を取っているが、元々は、ばらばらに短編、中編として発表された物をつなぎ合わせた物らしい。まぁ、つなぎ合わせても作品として成立するという、それだけでも画期的な作品と言えるのでは。前作同様、いろいろなことに悩みながらも淡々と仕事を片付けていくのだが、その悩みというのが、趣味の切手収集のことであったり、自分の運命であったり、自分を殺そうと殺し屋の出現であっt利と、種は尽きないのだが、自分の殺し屋稼業については、疑問を持たないというのが、クールで面白い。とりあえず、シリーズの次作も読んでみよう。(9/4)

005/115
昨年、とあることでクローズアップされた教育勅語について、ある種の警鐘をならす、まさに岩波書店らしい良書です。実は私もこの本の中で初めて315文字からなる教育ニ関スル勅語というものを読んだ。まず、法律学的にいうと、この勅語は、いわゆる法的な根拠を持たない文書君主の著作であって、改変することも廃止することもできない不思議な文書であった。そして、そこに書かれているのは、それまでのによるある種の地方分権が進んだ状態から、西欧列国に対峙できるよう一体化した中央集権国家、天皇を中心としたあるべき姿を作り出すための精神的支柱とするべく作られたものである。いま、この勅語に再び命を吹き込もうとする勢力があるそうです。そんなことはあってはいけない。いつか来た道を戻ってはいけないんです。絶対に。(9/4)

006/116
科学と神との関係と言われてすぐに頭に浮かぶのが、ガリレオ・ガリレイそれでも地球は回っているですね。この本では、コペルニクスやガリレオ、ニュートンからアインシュタイン、ホーキングに至るまでの数々の偉業を成し遂げた科学者と信仰との関係を綴ったユニークな本です。著者もキリスト教の聖職者なのですね。実は恥ずかしながら、ガリレオはあんなに迫害されたのに、同時代のケプラーなどにはそんな気配が無い事が不思議で仕方が無かったのですが、この本の中で至極単純な理由が書かれていて、驚きながらも納得しました。時は宗教改革のまっただ中、カソリックの権威が揺らいでいた時期に当たり、敬虔なカソリック信者であったガリレイとプロテスタント、英国教会の社会に生きていた人たちとは、置かれている環境が全く違ったのですね。今では、宇宙はビッグバンから始まり、その前は何も無かったということが通説となっていますが、では最初のきっかけは一体何だったのか、考え続けていくと、そこに何か大いなる存在を感じないわけにはいきませんね、ある人はそれをと呼ぶのではないでしょうか。(9/7)

007/117
これは面白かったです。電車での移動中に時間を忘れて一気に読んでしまいました。まずは、日本人の定義って一体何だろうと言うことを考えることからこの本は始まります。そうやって正面から突きつけられると、はっきりこれだと言い切れない自分が居ます。著者は、なんとなくこれが定義だよなと思える物が前にあって、それに当てはまる物が正しい物と認識してしまう。著者はこれを再帰性と呼んでいます。自分の中にあるべき姿を作ってしまい、それに該当しない物を強く排除しようとする動き、今の社会に多く見られる現象ですね。これからの社会はもっと多様性に富んだ社会であって欲しい。そんな事を強く思いました。(9/8)

008/118
今のクルマは、ガソリンエンジンが主流で、それにハイブリッドや電気自動車、燃料電池自動車などが増えてきています。現在のところ、コスト的にもガソリン車が優勢で、それが逆転するのも30年、40年先だろうと言われています。でも間違いなく将来の主流は電気自動車EVになっていくことでしょう。何と言っても構造が非常に単純化されます。内燃エンジンの構造は非常に複雑で、またエネルギー効率を良くし、安全に制御するためには非常に高度な技術が必要です。一方EVは、モーター駆動ですからエンジンに比べると単純な構造で組み立てることができ、制御も簡単です。もう一つの流れが児童運転に関する動きです。高齢化社会の到来とともに、高齢者が安全に移動する手段が必要とされており、自動運転が切り札になるでしょう。その際には、構造の複雑なガソリンエンジンやハイブリッドでは無く、EVになることは明らかで、海外では伝統的な自動車メーカーではないIT企業による開発が進んでいます。長い間、日本の自動車産業は世界のトップレベルで、国内経済を牽引する存在でした。でも、何か手を打たないと今後はそうはいかない。そんな警鐘を鳴らす一冊です。(9/8)

009/119
百貨の魔」村山早紀
2017年の本屋大賞にノミネートされた桜風堂ものがたりの最初の舞台になった星の百貨店にまつわる不思議な物語を集めた物です。この人の作品は、悪者がほとんど出てこず、心暖まるお話しが多いので、読んでいても安心です。テロだ、殺人だ、と言った殺伐なお出来事を扱う本も好きですが、合間にこういった本を読むとほっこりします。地方の百貨店は、いずこも経営の危機に見舞われています。この百貨店も同様で、閉店の噂もちらほら出ているくらい。そこに新たな救世主が現れるのだが、はたしてこのピンチを愛だけで乗り切れるのか。続編が楽しみ。(9/9)

010/120
シリーズの5作目に当たるそうです。だんだん仕掛も大がかりになってきて、首都圏を襲う大規模テロがテーマになっています。例によって、主人公のキャリア刑事が、突飛な発想で事件を解決に導くのですが、なかなかに痛快です。今作は、終わり方が暗示的で、さらに大きな敵の存在が見え隠れしています。設定はかなり荒唐無稽ですが、気楽に読めて好きなシリーズです。(9/9)

011/121
凶犬の眼」柚月裕子
映画にもなった弧狼の血の続編。暴対法施行前の広島での暴力団の抗争を取り扱う、かなりハードな小説である。前作で大きな成果を上げたものの、に睨まれ、地方の駐在所に飛ばされた主人公が、本部復帰を果たすため、やくざと対峙していく物語。女性が書いているとは思えないハードな内容です。今では、暴対法もできて、暴力団と警察のこんな関係も想像しづらいのですね。(9/15)

012/122
私の記憶の中では、昔テレビに出ていた一風変わったアメリカ人宣教師。そんな人が一体何を書いているのかと興味を持って読んでみました。結構同内容の本をたくさん書いているようで、こういったお話しが好きな日本人に好まれ、彼の本は昨年(2017年)の新書売り上げ第一位にもなったそうです。一読する限りでは、非常に強い信念に基づいて書かれているのだろうと想像できる。特に根拠無く、あるいは想像で、こうと決めつけ書かれている部分が大半で、それだけでも彼の信念の強さが感じられる。おそらく、他の本も同様の調子なのだろうなと想像できるだけに、もうほかの本は読む必要が無いかなと思う。(9/15)

013/123
がみの孤城」辻村深月
今年の本屋大賞ですね。皆さん絶賛されているとおり、とても面白い作品でした。最近は彼女の本をいくつか読んでいて、どれも面白く感じています。これからも活躍して欲しい作家さんです。さて、本作ですが、テーマは不登校。様々な理由による7人の不登校生徒が、鏡の中にある城の中で出会い、1年間を過ごします。鏡の中と外は、自由に行き来できるのですが、ある時間になると、絶対に残っていてはいけないという制限もあります。そんな閉鎖された空間においても微妙な人間関係によって、溶け込めないと感じることもある主人公が、少しずつ壁を壊していく様子が、けなげで応援したくなる。最後の謎解きは、おおっ! そうきたか!という幹事で、ミステリ作家としてもなかなか優秀ですね。面白かったです。(9/16)

014/124
錆びた滑車」若竹七海
これまた、大好きな不運探偵葉村晶シリーズ。前作が昨年のこのミスで第2位にランキングされるなど、非常に玄人受けのするシリーズでもあります。今作でも、無傷な状態でいること自体がほぼ無いというくらい、これでもかというくらいの不運に見舞われながらも事件を解決していきます。文章のテンポもよく、ユーモアにも溢れていて、とても好きなシリーズです。次回作を楽しみしています。(9/17)

015/125
桃色トワイライト」三浦しをん
彼女のエッセイは、とんでもなく面白い。妄想全開のこの作品も、ここまでさらけ出して大丈夫かと心配になってしまうほどのハッチャけぶりである。多くは語るまい。面白いです。(9/22)

016/126
この世界の片隅で」山代巴編
大ヒットした映画、ドラマの原作ではない。ある種のルポルタージュである。編まれたのは戦後20年を迎えた1965年。その間の被爆地ヒロシマの様子が綴られている。被爆者であることに因る差別に部落差別が重なり、信じられないような暮らしを強いられている人たちが多数登場する。そして最後には、ヒロシマで被爆した後、オキナワでクラス人たちも描かれていて、そこではさらに別の差別も付加される。私たちは、もの二度とこのような悲惨な状況を生み出してはいけないし、決して忘れてはいけない。何度も品切れになりながら、この夏に増刷された物を購入して読みました。決して読んでいて面白い本ではないけれど、読んで良かったと言える良い本でした。(9/22)

017/127
愛しの座敷わらし」荻原浩
父親の会社の都合で地方に転勤になり、古い大きなお屋敷に住むことになった5人家族の物語。それぞれが問題を抱え、ぎくしゃくとしながらも暮らしていたのだが、そこに6人目の家族が現れることにより、家族を取り戻していく。最後まで安心して読めるとてもハートフルな物語です。個人的には、最後の一行に、思わずニヤリ(9/24)

018/128
代償」伊岡瞬
これは誰に勧められた作品だったでしょうか、思い出せない。何年か前にドラマ化もされているようですね、知らなかった。若手弁護士として活躍する主人公が、小学生時代にひどい目に遭わされた同級生に、弁護を依頼され、葛藤しながらも正義を実現させるという物語。小説の中では、悪役が、人の心理をもてあそぶように洗脳していく様が描かれるのだが、これって相当の演技力が無いととても見てられないように思われます。作中では、気持ち悪いような場面も描かれて、必ずしも読んでいて気持ちの良い作品ではなかったが、最後まで心を捉えて離せない面白い作品でした。(9/24)

019/129
気がつけば今月2作目でしたね。今作は通常作品で、一番小さな登場人物達が1歳を迎えるまでの一年間の物語。例によって、いろんな事件が起こるのだが、登場人物の一人が、本当の意味で病気から立ち直る様を描いた最終話が、ホロリときました。まだまだ5作目、先は長いぞ。(9/24)

020/130
これは、どこかの本の中で取り上げられていたのだったかな?よく覚えていないけど、結構人気があるみたいで、図書館で数ヶ月待ちといった状況でした。内容的には、いろんな豆知識をかき集めたどうってことのない本でした。例えば、初詣が始まったのは、鉄道会社の戦略だったとか、バレンタインチョコや恵方巻きもお菓子屋とお寿司やさんの販拡戦略だったとか、なんとなく前から知ってなぁと思うようなことが集められています。まぁ、それだけの本なんだけど、唯一ホゥ~ッと思ったのが、YOSAKOIソーランについての記述。約30年前に北海道の大学生が始めたイベントが、今や北海道の一大イベントにまで成長しており、今後もきっと続いていくんだろうが、タイトルをYOSAKOIとしたことで、伝統とはなかなかならないんだろうな。きっとそうなんでしょうね。今、私たちが伝統だと認識しているもののほとんどは、明治期に始められたものが大半です。すでに150年と考えるかたかが150年と考えるかは、個人の趣味だと思うのですが、それを日本古来のと言葉を弄されてしまうと、何かやましいことがあるんちゃうかと勘ぐってしまいます。(9/27)

021/131
新選組の料理人」門井慶喜
江戸時代の末期、京の都に跋扈したテロリスト達を取り締まるために幕府が置いた新選組。元が浪士であったこと、結果的にテロが成功して、革命が起きたため、負け組となって、後の政権からは徹底的に忌み嫌われた集団です。このお話の中でも、そういった血なまぐさい話が出てくるのですが、物語の語り部は、その集団の中で賄い方を務める料理人です。彼の口を通して、隊士であった原田左之助を語らせると言う構成となっている。語り口は軽妙で、読みやすく面白い本になっています。(9/29)

022/132
10年以上続く、大好きな作家の大好きなシリーズです。とても楽しく読みました。シリーズ初期は、人の恨み辛みといった醜い感情から生まれた怪異を描いた恐ろしいお話しが多かったように記憶しているのですが、今作は、愛嬌のある妖かし達が跋扈する恐ろしくないお話しが多くなっています。改めてこれら5冊を見ると、いずれも連載誌はもちろん、発行社も全て違うという不思議な本なんですね。さらに私としては、かなり好きなシリーズなのですが、あれだけたくさん文学賞を取っているにも係わらず、なんの賞にも当たっていないと言う不思議。今作で、百物語の内、4分の1が終わり、ここまでが第一期だそうです。早く再開し、ライフワークとして、あと30年掛かっても完成させて欲しいものです。それにしても、今作で主人公が交代してしまうのは、かなり残念。(9/30)