令和2年の1月は15冊、うち小説が8冊、それ以外の本が7冊という結果となりました。
年始めの休暇中は、大量に読めたのですが、その後は、夜に行事が続く不規則な生活に陥ってしまい、体調も狂ってしまったことから、とても本を読むような状況にはならず、一気に失速してしまいました。2月に入り、少し落ち着いてきたので、また面白い本を探していきたいと思っています。
さて、そんな中でのお薦め本ですが、小説ではミステリの3冊をお薦めいたします。
まずは、私の推し作家のひとり、若竹さんの“不穏な眠り”です。今年に入り、NHKでもドラマ化されていますが、このシリーズはお気に入りです。主人公も年を重ね、昔のようなハードボイルドさはなくなってきましたが、非常に魅力的なキャラクターに育ってきたなと思っています。ただ、ドラマのほうはちょっとどうかな、ピタッと嵌まっているとは思えないのですが、今後に期待でしょうか。
続いては、すでにあちらこちらで激賞されているようですが、鮎川哲也賞受賞の2作、“屍人荘の殺人”と“時空旅行者の砂時計”が良かったです。
まず“屍人荘の殺人”ですが、これは昨年末に映画化され話題になっていましたが、原作とは若干設定が変えられており、どちらでも楽しめるようになっています。そんなに読みにくい本ではないので、半日もあればさくっと読めますので、お時間のあるときにゆっくり読んでみてください。続編も出ていますので、これも早く読んでみたいと思っています。
また、“時空旅行者の砂時計”も、結構掟破りかと思うのですが、一応本格ミステリとして仕上がっており、きっちり楽しめます。西澤保彦さんが、この手の小説の名手なのですが、この方は、今作がデビュー作でもあるので、この後、どんな小説を書かれるのか楽しみなところです。
続いて、小説以外の分野ですが、今回も、我ながら呆れるくらいバラバラの分野から読んでいますね。その中で面白かったのが次の2冊です。
先ずは、“誰もが嘘をついている”です。これはビッグデータ分析よって見えてくる、人間の隠された欲望について書かれた物で、ある種の思考実験の材料としてとても面白く読ませてもらいました。逆に言うと、私たちが何気なく使っている端末から発信しているデータを“上手く”使う人がいたら、私たちの心の底なんて、簡単に見透かされてしまうのではないかという恐怖を覚えます。今となっては、この便利な生活を手放すことは考えづらいので、こういった危険性もしっかり理解しておかなければいけないと言うことですね。
もう一冊が、“古代史をひらく”シリーズです。これは、岩波書店から送られてくる“図書”という雑誌の広告で見かけたことから、楽しみ読んでいるのですが、未だに謎の多い古代史について、最新の知見を踏まえつつ纏められているものなのですが、今作は特に面白かったです。万世一系といわれる皇室ですが、奈良時代の末期、長く続いた天武系の天皇が途絶え、冷遇されていた天智系の天皇への切り替わったのが桓武天皇。彼が過去を一気に精算するために行ったのが、平安遷都であり、長岡京は、その大いなる実験台だったというストーリーがとても興味深かったです。“京都”の創始者として、平安神宮にも祀られている方ですが、とても興味がわき、彼について少し勉強したいと思います。皆さんも是非ご一読を。
2月に入って、少し落ち着いてきたので、生活のリズムをちゃんと取り戻して、好きな本を読む時間をしっかり確保したいと思っています。
小説は、どうしても好きな作家の本に偏ってしまいがちになるので、気をつけたいと思いながらも、昔読んだ小説を、もう一度読み返したいと思うことも結構あります。たとえば、宮部みゆきさんの初期の本や松本清張さん、司馬遼太郎さん、新田次郎さんなどなど。
その他の分野の本では、歴史(特に古代史)、民俗(特に江戸期)、食の歴史、哲学、日本語学などなど、興味の分野は尽きません。
今読み始めた本も、なかなか興味深いのですが、さてこれは、上のどの分野に当たるのか。はてさて。
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「日本の異国 在日外国人の知られざる日常」室橋裕和
令和2年の一冊目はこの本です。といっても、前年の読み残しで、年をまたいで読むことになりました。関東圏を中心に日本に住まう外国人の日常を描いた物で、様々な国々の独自のコミュニティについて取材されています。日本に来られた経緯は留学であったり、結婚であったり、そして難民であったりとこれまた様々です。特に、イスラム圏から来られた方々は、住みにくさを感じておられるのだろうなと思うのですが、それ以上に、時刻での迫害・困窮に耐えかねて、やむを得ず“不法”入国せざるを得なかった方々もたくさん居られます。我が国は、こういった難民と呼ばれる方々への扱いが最も厳しい国と言われております。一方で、人口減少社会における貴重な労働力として、外国人に期待を寄せる向きもあります。ただ、それがご都合主義の便利使いに傾いており、大いに危惧しております。100年後の日本を考えたとき、今取るべき道は何なのか。難しい問題です。(1/1)
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「友情 平尾誠二と山中伸弥『最後の一年』」山中伸弥、平尾誠二・惠子
ノーベル賞の山中さんとミスター・ラグビーの平尾さんって、同い年なんですね。そのお二人が、出会ってから別れるまでの数年間について、ふりかえった記録です。最初の一章は、山中さんが平尾さんの発病から最期までの数年間について、詳しくお話されていて、第二章では、平尾さんの奥様が、平尾さん夫妻が、どれほど山中教授に助けられたか、感謝を持って語られています。最後の第三章には、二人の最初の対談が採録されています。平尾さんは、最後までラグビーワールドカップ日本大会を楽しみにされていたようで、昨年の日本代表の躍進をご覧になっていたら、どれほど喜ばれただろうと、胸が熱くなります。二人は、私から見ると一学年下になるんですが、別の分野で頂点を極めた二人が、どれほどお互いを尊敬し合っていたかがよく分かる素晴らしいエピソードでした。続編というか、第二巻も出ているので、いつか読みたいと思います。(1/2)
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「教育と愛国 誰が教室を窒息させるのか」斉加尚代、毎日放送映像取材班
今の教育現場でいったい何が起ころうとしているのか。毎日放送が、法律では絶対に許されていない、いわゆる政治の教育への介入について取材・放映したドキュメンタリー番組を書籍化したもので、短いながらも読み応えのある一冊でした。前半は、その番組について、後半は大阪を舞台に実行されている“教育改革”にスポットを当てて紹介されており、その内容には恐怖すら覚えます。先日とあるテレビ番組で、橋下元大阪府知事・市長が、毎日放送のことをこき下ろしていた理由がよく解りました。彼の人間に小ささがよく解るエピソードです。残念ながら、この放送は全く知らなかったのですが、今でもどこかで見られるなら、是非見てみたい。とても面白い一冊でした。(1/2)
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「むらさきのスカートの女」今村夏子
昨年の芥川賞作品ですね。あまりネタバレになるような紹介はしないように心がけているのですが、これはどう書けば良いのか、少し悩んでいます。芥川賞作品なので、いわゆる純文学に分類されているのはずなのですが、若干のミステリ臭も漂います。ただ、それも徹底されているわけではなく、最終的には、何なんだろう??という感想が残ってしまうような作品でした。最初からそれほど期待して読んだわけではないのですが、疑問ばかりが残った作品でした。(1/2)
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「不穏な眠り」若竹七海
私の推しの葉村晶シリーズの最新作です。御年40歳超にして、最も不幸な探偵さん。今回も、持ち前の律儀さが災いして、思わぬ事件に巻き込まれてしまいます。シリーズ初期のハードボイルドっぽさは薄まっているのですが、主人公の謎解きのプロセスがクールで格好良くて気に入っています。ミステリ好きの方にはお薦めです。(1/3)
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「屍人荘の殺人」今村昌弘
これまたミステリですが、これは2018年のミステリ関係の賞を総なめにした作品で、昨年末には映画化もされました。実は先に映画を見てしまい、大まかなストリーを知った上で本作も読んだのですが、それでも活字になった物を読むと、改めて良くできた小説だと感嘆いたします。普通のミステリでは考えられない物を登場させ、それをトリックに使うなんてことは我々凡人には考えられないことで、それだけでもこの作家の実力が実感できます。本作で残された謎を追う続編が出版されているそうで、これまた楽しみなことです。既に映画を見た方も未だの方も、どなた様にもお薦めです。(1/4)
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「誰もが嘘をついている ビッグデータ分析が暴くにんげんのヤバい本性」セス・スティーブンズ=ダヴィッドウィッツ
執筆者は、典型的な“ビッグデータ・オタク”で、出てくる単語が非常にディープで面白い。前半では、人はWeb上の匿名性の高いアンケートであっても、決して本心を明かすことはなく、ついつい“盛って”しまいがちであることを、Google検索についてのビッグデータや公的な統計などを通して明らかにしていきます。その行程が、人間の本能の部分を突いていて、なかなかに興味深い内容になっています。その後は、ビッグデータを用いてどのようなことが可能になるかと言うことを綴っていきますが、最後はその限界についても正直に書かれているところがに好感が持てます。かなり分厚い本で、中間は若干退屈になってきますが、まずまず面白い本でした。(1/5)
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「のっけから失礼します」三浦しをん
稀代のエッセイの名手である三浦さんのエッセイ集なのですが、これが女性向けの月間ファッション誌の巻頭に書かれていたエッセイだそうで、ほぼ4年間にわたる文章が集められています。内容としては、本人曰く、とても女性ファッション誌にふさわしいとは思えないような中身で、なかなかにチャレンジングだと感嘆いたしました。(1/5)
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「ユニクロ潜入一年」横田増生
企業潜入ルポの傑作と紹介され、図書館で借りて参りました。以前、ユニクロという会社について、センセーショナルな記事を書いたことで、“目を付けられていた”筆者が、改めて同社の店舗スタッフとして働き、そこで見聞きしたことを雑誌でレポートしたところ、それが社規に抵触した廉で解雇されるまでの記録が綴られています。まぁ、“受け”を狙って若干オーバーに書かれているような気がしないでもないですが、かなりの“ブラック体質”、“トップダウン体質”が伺えます。今は改善されていると信じたいですがね。(1/12)
010/010
「神前酔狂宴」古谷田奈月
これは、どこで誰が紹介されていたのか記憶にないのですが、なにやら面白そうだったので借りてきました。東京のとある大神社併設の結婚式場を舞台にした物語で、そこで働き始めた青年が、成長していく様が描かれています。“厳粛”に、“神の前”で愛を誓う2人、そのお祝いを裏で支えるスタッフ。その空気感の違いが感じれる物語ではありますが、期待していたほどではありませんでした。(1/13)
011/011
「誘拐遊戯」知念実希人
本当はもっと面白い小説がかけるはずなのに、かなり残念です。やっぱり医療ミステリに特化した方が良いのでは。登場人物のキャラ設定も、ストーリー設定もかなり不満が残ります。最後の動機の設定に至っては、醜悪とさえ思えました。本当に残念です。(1/14)
012/012
「時空旅行者の砂時計」方丈貴恵
これも、最近の鮎川哲也賞の受賞作です。前の“屍人荘の殺人”もそうでしたが、サイエンスフィクションの要素を織り込んだ本格ミステリ小説という手法が斬新なのでしょうか。この作品にはタイムトラベルという“飛び道具”が使われており、その世界では“常識”であるタイムパラドックスが、謎解きのツールとしても活かされています。ある意味、SFファンもミステリファンも満足させる小説でもあるのかもしれませんね。なかなかに面白かったですよ。(1/19)
013/013
「本と鍵の季節」米澤穂信
彼の旧作である“古典部”シリーズの流れを汲む高校を舞台に起きる日常のミステリを描いた小説。主人公は男子高校生2名。面白いんですが、古典部シリーズ同様、2人がませすぎ、と言うのがあまりに気になります。ちょっと老成しすぎじゃないか。学園を舞台にしているだけに、あまりにミスマッチかと思います。(1/19)
014/014
「いけない」道尾秀介
架空の街、蝦蟇倉市を舞台にした連作ミステリで、確か最初の一編は、他の作家とのアンソロジーにも収録されていたような記憶があるのですが、気のせいだろうか。著者自身はいわゆるミステリを本職とされているわけではないので、その筋の方から読むと突っ込みどころ満載なのかもしれませんが、その思い込みを除ければ、それなりに楽しめる小説だと思います。ただ、ばらばらの時期に書かれた3つの短編小説を、無理矢理一つの話しに纏めるため書かれた最終章は、かなり強引な気がしましたが、如何なもんでしょうか。
(1/26)
015/015
「シリーズ古代史をひらく 古代の都 なぜ都は動いたのか」吉村武彦、吉川真司、川尻秋生編
シリーズの2冊目なんですが、面白かったですね。各章を担当されている筆者の方が、最新の知見に基づきながら書かれていることから、自分が描いていた古代像を少しずつ書き換えてくれる楽しみがあります。この本では、藤原京、平城京、長岡京についての記述に多くが割かれていますが、なぜそれぞれの都が築かれたのかという理由については諸説有り、そこが古代史ファンには、たまらないのでしょうね。本の最後に、各章の著者を集めた対談が載せられているのですが、これが秀逸です。これを読むだけでも価値があると思いますよ。余談ながら、この本の中で馬場基さんが書かれた文章で、心に刺さった文章がありますので、長いですが引用させていただきます。“武士道が幕末から明治期以降に喧伝されたように、『伝統』は失われつつあるタイミングで整備され、失われてから美化されるようである。”ちょっと良くないですか。(1/31)
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