2019年12月9日月曜日

2019年11月


11月の読書感想文は、計15冊となりました。うち小説が5冊、それ以外が10冊という結果でして、久しぶりに小説がぐっと少なくなっています。

そんな中でのお薦めですが、まず小説については、好きな作家の作品を結構厳選して読んでいましたので、いずれもお薦めです。久しぶりに読んだ筒井康隆さんの作品も面白かったですし、門井さんの2冊も良かったです。明らかに相性が悪いという作品はありませんでした。

敢えて1冊選ぶとするなら、門井さんの屋根をかける人特に良かったと思います。
主人公のヴォーリズという名前は知っていましたが、これ尾ほど興味深い人物だとは知りませんでした。近江八幡には何度か行きましたが、ヴォーリズ関連の史跡はほとんど訪れていないので、これは是非ともいつかのゴモ散歩で訪ね歩いてみたいと思います。

続いて小説以外の本ですが、これがまたかなりの粒ぞろい。
分野が結構多岐にわたっているように見えますが、過去のいろんな読書歴がアメーバのように広がって、結果こうなった感じです。

まず、NETFLIX好き嫌いとは、よく似たテーマで、前者がアメリカでのスターアップ企業が、いかに成長してきたかと言う視点で書かれており、その成功の鍵として、ユーザーに対していかに次の作品を薦めるかというプロモーション作業のため、新たなアルゴリズムを開発し、それがある意味決定打となったとされています。後者では、そのお薦めシステムについて、完全にゆだねてしまうことの恐ろしさなどについて考察しています。この本は、別にどこかで合わせて紹介されていたわけではなく、偶々関連があったもので、どちらから読んでも大丈夫かと思いますが、どちらも面白かったです。

次に、いろいろ評価は分かれると思いますが、帝国の慰安婦は、表現は適当ではないかもしれませんが、とても興味深かったです。このテーマで書かれた本のほとんどは、相反する極端な立場で書かれた物ばかりで、反対意見を無視する、罵倒することに終始してているように見受けられます。そんな物ばかりの中では、過去の記録を丹念に拾い上げ、事実を追求しようという立場を崩していません。そして、その障害となている記憶の変化についても、なぜその変化が起こったのかという所にまで踏み込んで考察を加えています。超大作ですが、とても読みやすくて良い本だったと思います。お薦めです。

あとは芸能人はなぜ干されるのかもとても面白かったです。ここ数年、SMAPの独立騒ぎや吉本興業の不思議な契約関係など、芸能人と事務所の契約、独立後の不利益な慣行が社会問題として大きくクローズアップされるできごとが続いて発生し、世間の注目を集めました。だからといって改善されたわけではなく、この不健康な関係は依然として継続しているものと推察されます。この本では、アメリカハリウッドのタレント達が、いかにして搾取される側から対等な関係を結ぶまでに至ったかが詳しく書かれており、日本では、そのような動きが広まらないよう、あらゆる勢力を使って阻止されています。情報量の非対称性を絶対に崩さない。この世界に限らず、あらゆる社会で支配層が考える武器ですが、それに盲目的に従うのもイケてないですよね。

そのほかの本も本文を読んでいただければ分かるとおり、とても面白い本が続きました。少しでも共感されたら、是補読んでみてください。

2019年も残り1月となりました。何かと忙しい毎日が続く中で、この後どれくらい読めるか分かりませんが、ここ数日で大量に書籍を買い込みましたので、年末年始の長い休みもフル活用しながら、面白い本を読んで参ります。
次月は、この年末の追い込みをとくとご覧ください。


001/139
好き嫌い 行動科学最大の謎」トム・ヴァンダービルト
何かを好み、何かを嫌悪する。とても普通の感情ですが、その根拠・定義って何だ。私のこのブログでは、各書籍にamazonの該当ページについてリンクを張っています。だから私がこれまでに読んだ本はすべてamazonに知られていることになります。すると、どんなことが起こるかというと、私が好みそうな本がずらりと並び私に薦めてきます。私の場合、分野がばらばらなので、結構はちゃめちゃなお薦めをしてくるので、結構面白いのですが、この本では、このAIによる人の好み分析のアルゴリズムについても取り上げられています。これが結構くせ者で、人によっては思わぬ被害を被る場合もあるとか。書かれている中身は非常に興味深く面白いのですが、特に前半の文章が読みにくく、これは翻訳のせいかなとも思います。途中からその書きっぷりにも慣れて(?)きて面白く読めるのですが、そこまで気持ちが保つかどうかがポイントかと思います。(11/1)

002/140
高校事変」松岡圭佑
松岡さんの得意な女性が主人公のハードアクション小説の最新シリーズ。今作は女子高校生が主人公です。とはいえ、普通の女子高生ではなく、かつて国家転覆を謀ったテロリストの娘で、子どもの頃から武器や格闘技に親しんでいてたが、今はひっそりと暮らしているという設定です。アイデアがすごいですね、よく思いつくなと感心します。これもすでの第4作まで発売されていますので、引き続き読んでいきます。(11/3)

003/141
氷獄」海堂尊
著者のデビュー作であるバチスタシリーズの最新作であり、事件の弁護を行った新米弁護士の視点から描いたサイドストーリーでもある。何年間かに分けて発表された物を纏めた物なんですが、おそらく長大なシリーズすべてを読んでいないと深い意味までは理解できないような内容にもなっています。書籍の半分を占めるのが表題作なんですが、バチスタ事件のその後が書かれています。そんなことあるか??とも思いますが、読み物としては面白いかな。(11/4)

004/142
最近特に気になって読んでいる日本語に関する本です。日本語の中でも特殊な地位を占める漢字、特に戦後定められた当用漢字について書かれたとても面白い読み物です。戦後の青春小説の金字塔である青い山脈に出てくるの取り違えや福丼県の話しなど、とてもわかりやすくて面白く、一気に読めてしまいました。十数年前に書かれた本ですが、最近は文字を書く機会が少なくなってきて、漢字に対する興味や注意もおろそかになりがちです。どの文字を使うかによって、理解が進んだり誤解を招くこともあるのが漢字でもあります。奇抜な文字まで憶える必要はないけれど、より正確なコミュニケーションがとれるような良識だけは備えておきたい。(11/6)

005/143
モナドの領域」筒井康隆
彼の小説を初めて読んだのは小学生時代、名作時をかける少女がその一冊でした。以来、はちゃめちゃな短編集を中心にいくつか読みましたが、最近はとんとご無沙汰でした。本作は、著者曰く最高かつ最後の小説だそうで、随所にその片鱗が見受けられます。最初はミステリ風に始まり、最終章で哲学論争になったったかと思ったら、最後はとんでもない掟破りで小説を終えるという面白さです。ある意味筒井さんらしい面白い小説でした。また、彼の小説を読みたいな。(11/9)

006/144
一般の方を対象にしたAI”“バイオ”“資本主義に関するセミナーを書籍化した物で、こういった課題について、問題点やポイントを捉えて解説してありとても読みやすい哲学書です。たとえば、古典的な哲学課題である暴走するトロッコ(前方が二つに分かれており、まっすぐ進むと5名の人、ポイントを切り替えた前には1名の人がいる。さてどうする)の問題。かつては単なる思考実験でしたが、AIによる自動運転が現実の話しになってくると、いずれを選択するか、前もってプログラムしておかなければならない。どんな問題もいつか本当に答えを求められる局面がやってきます。ちゃんと考える週刊を身につけておきたいですね。この本には、お薦めの本が多数掲載されていますので、またそのリストからピックアップして読んでいきたいと思います。(11/11)

007/145
これは、なかなか興味深い一冊でした。内容はかなり衝撃的で、日本の芸能界の悪しきしきたりや反社会勢力との関わりなどひょっとしたらと思っていたことが実名で赤裸々に綴られていて、かなりやばいんじゃないか、大丈夫かと思ってしまいます。内容が内容だけに流通にはなかなか乗られないようで、電子書籍版で読みました。最近、ジャニーズ事務所や吉本興業の契約について多くの問題点が明らかになり、ある種の奴隷契約とも言われるしまつです。ハリウッドのあるアメリカ・カリフォルニア州では、タレントとエージェントの契約は、厳しい法律で規定されています。これもひとえに長年にわたる労働闘争の成果でもありますが、日本ではなかなか難しいようです。(11/15)

008/146
これは面白い。いわゆる第二次世界大戦中の朝鮮人の従軍慰安婦問題について、肯定派も否定派もあるいは無関心派も含めて、何が問題点なのかと言うことを知るためにも是非とも読んでほしい本です。韓国人の作者が日本語で執筆した本で、非常に冷静な筆致で書かれています。実際私には、軍が関与した強制による慰安婦があったのかなかったのか、と言う点について意見表明できないのですが、この本の中では、記憶の変遷あるべき記憶ということに多くのページが費やされています。一方がそれを声高に叫び、一方がそれを完全に無視するという対立構造が、永遠に果てることのない日韓の論争として続いています。この問題の解決は本当に難しい。解決不能なのではないかとも思える。ところで、今もなその傾向は変わっていないのですが、日本という国家は、個人レベルでも同様ですが、自分にとって不都合な記録はすべて破棄して一切残さないということを当たり前のように繰り返してきました。バレなければOKというこの行動は、神の前では隠し事はできないという規範の下にある人たちには理解できないだろうなとも思います。
(1116)

009/147
歴史学と考古学が交錯する日本の古代史を探究するシリーズの第一巻です。新聞広告を見て面白そうと思い図書館で借りてきました。想定どおり、かなり専門的で簡単に読める本ではなかったのですが、なんとか全シリーズ6冊を読み遂げたいと思います。さて、この新シリーズの初巻に取り上げられたのが前方後円墳という日本独自の形式を保つ古墳です。関西に住む私たちは、最近世界遺産にも登録された中百舌鳥や奈良盆地の古墳を真っ先に思い浮かべるのですが、同型式の古墳は関東から九州までの広範囲に広がっています。どうもこれが、ヤマト政権の広がりを表していると言われています。当時の歴史をひもとく上で、古墳の調査というのは数少ない手がかりだと思うのですが、その多くは天皇陵に比定されていて、ほとんど調査が及んでいません。これは非常に残念なところですね。いつか開かずの扉が開けられることを希望するのみです。(11/17)

010/148
たぶんどこかの書評に書かれていたか、誰かが勧めておられたのをチェックしていたものを図書館で予約していました。いわゆるジェンダー論なのですが、世の中の男性に向けて自分の行動を見直せと迫ってくる厳しい本で、女性の皆さんが読むと、大いに納得できる内容なのではないでしょうか。ただ、これを単にジェンダー論で片付けるのは不満で、結局私は人によるとしか言えないんじゃないかと思っています。もちろんそれは男性だから言えることと言われればそのとおりで、かなりのバイアスがかかっていることは自覚しています。でも敢えて、人格というものは、周りの環境で形成される物だと思っているので、その人の育った環境によって、人はどのようにでもなる。それは生物学的性差よりも影響は大きい、と考えています。人と人の関係性なんて、その人同士でなければ生まれない関係であって、ある一つの特徴を持って、他の人とも普遍的になり立つものとは思えないのです。(11/21)

011/149
時間は存在しない」カルロ・ロヴェッリ
最近とても評判になっているので、図書館で借りて読んでみました。いろんな書評を読むと、わかりやすいと書いてあったので、真に受けて読んでみたのですが、とても難解でした。時間とは過去から未来への不可逆的に流れるもの。過去は既に存在しない、未来はまだ存在しない、ただがあるのみ。など、時間に関しては、いろんな人がいろんなことを言っています。この本の中では、アリストテレスやニュートンなど古典的な説からアインシュタインの相対性理論まで様々な考え方を紹介しつつ、ループ量子重力理論という聞き慣れない言葉が現れた辺りから、さっぱりついて行けなくなりましたが、超弦理論と並ぶ最近流行の時空理論なんだそうで、ひょとするとSFファン最大の夢である時間旅行にも繋がるのではないかと勝手な妄想を膨らませています。でも、存在しなければ、それを超えるのも不可能なような。。(11/21)

012/150
屋根をかける人」門井慶喜
この本はまだ読んでないな、と何も考えず軽い気持ちで借りてきた本でしたが、想像以上に面白くゴモ散歩のお供に持ち出し、一気に読み切りました。主人公は、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ。明治から昭和にかけて、近江八幡で活躍した建築家です。かのメンソレータムを日本に紹介した近江兄弟社の創始者なんですね。結婚後日本に帰化したものの、太平洋戦争中には軽井沢に追放され、不遇の時期を過ごします。戦後は、マッカーサーと近衛文麿の階段を取り持ったりと、いわゆる国体の護持にも貢献されたと伝えられており、その数奇に飛んだ一生がスピード感たっぷりに描かれていて、とても面白いです。以前、近江八幡に行ったのは、郊外の長命寺にお参りに行った途中に立ち寄ったのみで、ゆっくり町並みを見て回ることができませんでしたが、戦前の洋風建築があちらこちらに残されていたのを憶えてます。また何かの機会に彼の足跡を訪ねて散歩をしてみたいと思います。(11/23)

013/151
中学生時代、いじめに苦しんだ著者が、今、いじめに苦しんでいる子ども達に向けて送るメッセージです。ただ一言死ぬんじゃねーぞと。自分たちの小学生時代にもクラスみんなが特定の子どもをばい菌のように扱うといういじめがありました。自分も加害者の側でした。逆に一時期被害者となった時期もありました。その間は、学校へ行くのがイヤでイヤで仕方がなかったのですが、当時は不登校という選択肢は考えられず、登校し続けていました。前のいじめの対象となっていた子も、学校には必ず来ていましたが、どんな思いで来ていたんだろうと思うと、本当に申し訳ない取り返しのつかないことをしていたと悔やんでも悔やみきれません。今のいじめは、さらに陰湿になっていて、逃げ場がない状態にあるとよく言われています。この本は、いじめられている人たちに向けたメッセージと、周りにいる大人達に向けたメッセージが含まれています。子ども達がこんなことで苦しむことのないような環境を整える義務が大人達にはあります。この本の中で、いじめの被害に遭った経験者の方が話した言葉が印象に残っています。この世からいじめはなくならないだろう。でもいじめで自殺する人をなくすことはできる。私たちの責務だと思います。(11/23)

014/152
これは、かなり前に雑誌の書評欄に紹介されていた物で、図書館で予約してやっと借りられた物です。今は日本にも上陸して、映画のストリーミングサービスをメインにしていますが、私自身は利用していません。原著は2012年にアメリカで出版されたのですが、今年になって日本語訳が出版されました。物語は、店舗式のVHSビデオレンタルが全盛を迎えていた頃のアメリカで、新たなメディアとして登場したDVDソフトをネットで申し込みを受け付け、宅配で届けるというビジネスモデルを創出しスタートアップとして出発した小さな企業が、既存のレンタル事業者などと壮絶な生き残り合戦を繰り広げ、最後は勝利するという所までで終わります。その後、同社はさらに急成長を遂げ、今ではGAFAと並び称されるまでに至りました。その成功物語もさることながら、本場アメリカのスタートアップの実態が分かるとても面白い記録です。同社だけでなく、競合各社にも丹念に取材されており、ある意味時代を記録した記念物的書籍とも言えます。慣れるまでは進みませんでしたが、後半三分の二は、ほぼ一気に読んでしまいました。面白かったです。(11/26)

015/153
キッドナッパーズ」門井慶喜
表題作は、直木賞作家となった門井さんが、有名な新人文学賞を受賞した幻のデビュー作だそうで、初めて書籍として出版されました。本作は、それにミステリ要素の強い作品を集めた短編集です。表題作は、作品としてはかなり荒削りな気がしますが、どんでん返しもあって、面白い作品になっています。選評でも、期待のミステリ作家として評価が高かったようですが、最近はあまりその系統の本は書かれていないようですね。最近では、江戸川乱歩賞を受賞してデビューしたが、今では企業小説として大成された池井戸さんのような存在もありますが、できればもっとミステリも書いてほしいなと思います。(11/30)