2016年11月9日水曜日

2016年10月

10月は13冊、うち7冊が小説、その他が6冊という結果になりました。
10月迄で159冊ですから、今年はどうやら200には届かなさそうですね。今年は天気の良い休日は、できるだけ出かけるようにしていたので、まぁ、ほどよい感じでしょうか。

小説では、宮部みゆき、池井戸潤、若竹七海、柚月裕子など好きな作家の作品が並んでいて、いずれもおもしろかったです。ただ、池井戸さんはワンパターン化にさらに磨きがかかったように思えてしまい、少し残念です。宮部さんは、最近はこのシリーズしか現代ミステリを書いておられないように思えるのですが、できればまた“火車”のような本格社会派ミステリを書いて欲しいです。若竹さんのこのシリーズはおもしろく、このキャラクターは特に気に入っていて、続きが楽しみです。柚月さんの法廷ものもお気に入りの分野で、今回はあまりなじみのない家庭裁判所の調査官が主人公です。

その他の本は、いずれもおもしろかった。特に外れは見あたりません。ただ、今ベストセラーとなっている“言ってはいけない”ですが、確かに内容はおもしろいのだが本文にも書いたように、直前に読んだ別の本と内容・表現がかぶっているところが多かったのだが、参考文献には全くあがっていないので、ちょっと奇異に思っています。

読んだ本が少ないと、ここに書ける中身もやや少なくなってしまいますね。

(001/147)
著者お得意のイヤミスの短編集。ミステリとはいえ事件の謎と言うより、日常にある小さなミステリが描かれている。全体を通して、親子の確執がテーマになっており、げに恐ろしきは、肉親の憎悪。(10/1)

(002/148)
相手の体や表情筋の動きで大脳皮質に語らせる。声に出して語らなくても、すべての真実が明らかにされてしまう。どこかで読んだような、まるで“千里眼”!?連作短編集なのだが、全体を通して主人公である女性捜査官が過去に関わった事件に係る謎解きも同時並行で描かれる。まだまだシリーズとして続くようだけど、あんまり次作へは食指が伸びない。(10/3)

(003/149)
人間の性はなぜ奇妙に進化したのか」ジャレド・ダイアモンド
原著作名が“Why Is Sex Fun?”というとんでもないタイトルなのですが、内容は至ってまじめな本です。念のため。で、書かれているのは、人類が種の保存のために行う生殖行為が、他の生物と比較して非常に特異であることを実例を挙げて論証していきます。もちろん生物の進化については、今ある事象からさかのぼって想像していくしかないわけで、それが正しいかどうかは誰にも解りません。でもこうやって見てみると、不思議でおもしろい。タイトルさえ気にしなければ、おもしろい本ですよ。(10/8)

(004/150)
かつて“筆談ホステス”を書いた女性の近著です。昨年の春、市会議員に当選して、音声読み上げソフトが議会に導入されたというニュースは読んでいたのですが、前著以降に未婚で出産し、子育てをしながら今の仕事している様子が書かれています。耳が聞こえないという大きなハンデを抱えながらも、最新の情報機器などを駆使しながら、楽しそうに子育てされている様子が伝わってきます。当然、楽ではない。大変だとは思うのですが、たとえドン亜ハンデがあろうと、国民皆が活躍できる社会であって欲しい物ものです。(10/10)

(005/151)
最近話題になって、書店の店頭や書評で大きく取り上げられているので、ついつい買ってみた。内容的には、努力はもちろん大切だけれど、結局持って生まれたものが人生の多くを決めてしまうんだよということが書かれている。論拠としては、過去に書かれた論文を引いてこられていて、ショッキングでありながら、それなりに説得力があるようにも見えるけど、そもそも過去の実験や統計はどうなのか、本当にここに書かれているようなことが原典にも書かれているのかは不明。と言うのは、参考文献としてたくさんあがっているのだけれど、直接引用がほとんどなくて、これって本当にそう書かれているの?とついつい思ってしまうのです。おまけに、つい先日読んだ“人間の性はなぜ奇妙に進化したのか”とほぼ同じ文章が何カ所か出てきているのですが、参考文献には挙げられていない。本当?なんか胡散臭い。参考に挙げられている書籍を、ちょいと探してみようかな。(10/12)

(006/152)
消滅 Vanishing Point」恩田陸
久しぶりに読んだ彼女の小説。近未来の空港で外国から帰国した数名の男女がテロの容疑で足止めを食らってしまう。一室に集められた彼は、期限までに自分たちの力でテロリストをあぶり出すことを要求される。その理由というのがまた脱力ものなのだが、そのプロセスがそれなりにミステリの謎解きっぽくておもしろい。あくまで“ぽい”だけでミステリではないので誤解のなきよう。この人は、こういう小説も書くんだと改めて再認識いたしました。読み進めやすくて、おもしろかったです。(10/16)


(007/153)
翻訳と日本の近代」丸山真男 加藤周一
現代日本を代表する二人の知の巨人が、日本の近代化とそれに海外の文化が如何に寄与したか。それをどのように受け入れたかなどについて語り合ったもの。必ずしも対談ではなかったようだが、彼らが話したことを上手くまとめてある。もともとは、明治維新の前後に西洋のシステムや概念を日本に持ち込むに当たって、どのように日本語を当てていったのかといいうようなプロセスについて語っているのかと思っていたところ、よく考えたら、それまでの日本文化であっても、そのほとんどは中国から輸入されたもの。であるなら、中国の事物を日本化する際にも“翻訳”という過程を経ていたわけで、この本を読んで改めてそのことに気づかされた。それにしても、二人の会話の中では、これまで聞いたことのないような人名や書物が、次々に飛び出してくる。まさに知の巨人。(10/16)

(008/154)
仏教最古の経典と言われる“スッタニパータ”の日本語訳。“ブッダのことば”と書かれているとおり、説教臭さよりも、ブッダが聞く人にわかりやすく語りかけている様子が彷彿される。言葉も平易でわかりやすく、多くの文章に “詩”というタイトルが付いていることからよく分かるとおり、リズミカルな文章もたくさん出てくる。解説によると、後の整備された教義の原型となっているような言葉も散見され、原初仏教の教えに近いものが記されているのだろう。執着(こだわり)を捨てよということが幾度となく出てくるが、それほど宗教臭も強くなく、読みやすい本です。(10/18)

(009/155)
静かな炎天」若竹七海
葉村晶シリーズの最新短編集。主人公も40歳を超え、四十肩に悩まされるようになってしまった。かつてのような激しいハードボイルドなやりとりはなくなり、クールなやりとりが続く。まるで、海外の小説の翻訳版を読んでいるような感じになる不思議な本。彼女の書く本はどれもおもしろくて好きなのだが、このシリーズは特にお気に入り。この先この主人公は、どんな風に年を取っていくのだろうか。(10/22)

(010/156)
希望荘」宮部みゆき
これもこの著者の代表作にもなってしまったシリーズの最新作。最初からシリーズ化を念頭に書かれたものなのか疑問なのだが、前作で思わぬ展開を見せたこのシリーズも、独り身になった主人公が、探偵事務所を開設し、心機一転人生をスタートさせたところからお話しが始まる。過去の一連の作とは、全く違うシリーズと言えなくもないが、あえて過去の葛藤を抱えたままの主人公を動かしていくことで、どのような結末をこのシリーズに用意しているのか、とても気になるところ。最近の彼女の著作の中では数少ない社会派の推理小説でもあるので、大事に書いていって欲しい。(10/23)

(011/157)
神の民俗誌」宮田登
およそ40年前に刊行された新書で、信仰の拠り所である“カミ”について、民俗学の観点から解説されたもの。まだ神道という形に体系化される前、どのようにとらえられていたのかとても興味深く思い、購入したものである。漠然と、まずは大自然(特に災害など)に対する“恐れ”が発端にあり、それを鎮めるための“カミ”が生まれたのかなと思っていたのだが、この書籍にはその観点は出てこず、“ケガレ=気枯れ”とその清浄化という観点からカミに繋げておられます。ということで現在では若干不適切かなと思うような表現も出てきますが、民俗学の分野では切り離せないことかと理解しています。(10/28)

(012/158)
陸王」池井戸潤
“技術や強みを持った中小企業”対“理不尽な大企業、金融機関”のバトルで、最後は中小企業が勝つという王道のような作品。最初に登場する金融機関の担当者が従来とは違い、おやッと思わせたのですが、結局は落ち着くところの落ち着くという展開。今回はそれにスポ根要素も加わるのだが、あまりに王道過ぎて、そろそろ違う要素を付け加えるのもありかなと思うのだがどうだろう。おもしろくない訳じゃないんだけど。展開が読めてしまってねぇ。(10/29)

(013/159)
あしたの君へ」柚月裕子

彼女の裁判ものはお気に入りで、今作は家庭裁判所の調査官というなかなか縁のない職業に光が当てられている。家庭裁判所の取り扱う案件は、大きく家庭内のいざこざと少年審判に分けられ、この小説ではそれぞれの分野で起こる事件を、調査官補といういわば見習い職員が解決していく様を描いている。物語を通じて主人公が成長していく様が上手く描かれている。(10/30)