2015年12月9日水曜日

2015年11月

お待たせいたしました。11月のどくしょかんそうぶんをupいたします。
11月は、全部で19冊。小説が12冊、その他が7冊という内訳でした。

長い出張があった割には、よく読めたと思っています。というか、むしろ長い移動時間が幸いしたと言うべきでしょうか。

ということで、この中から何冊か選んでみたいのですが、小説では、畠中恵、湊かなえ、若竹七海、朝井まかてと女流作家の作品がずらりと並びました。いずれも最近気に入って読んでいる作家ばかりなのですが、今回はSFの古典とも言えるケン・グリムウッドの『リプレイ』を挙げたいと思います。

ひょっとすると、もう書店では手に入らないのかもしれませんが、誰かが雑誌か何かで推奨されていたので、古書で買い求めました。途中から何か切なくなってくるような、そんな思いがする秀作でした。かなりの長編です。

その他の本では、思い切って『AKB48、被災地へ行く』を挙げさせてもらいます。

アイドル本の一種ではあるのですが、東日本大震災以降、彼女らが進めている取り組みの一端がよく解ります。“偽善”と切って捨てることは簡単ですが、そのおかげで、彼女らを応援する全国の若者たちが、震災のことを記憶に留めていてくれるのなら、それだけで大きな価値があるのではないでしょうか。

さて、今年も残り一月を切りました。あと数日、どんな本を読んで過ごしましょうか。

001/215
こいわすれ」畠中恵
これも先日テレビドラマ化されたシリーズ物。お気楽な主人公が、嫁をもらい、子供を授かり、さあこれからというところで、妻と生まれてくるはずの赤ん坊が命を落とすという、ものすごい展開。この先どう続けていくつもりなのか。気になる。(11/2)

002/216
旅先のホテルで、白と黒のどちらの枕を選ぶかによって、見る夢が大きく変わってしまうという物語。途中から夢と現実が混じり始め、奇妙な展開を見せる。不思議な物語。(11/5)

003/217
京都を舞台に、幽霊が出ると噂のある賃貸物件について、科学的にその原因を突き止めようとする女性が主人公。おもしろいかなと思って読み始めたのだけれど、途中から雲行きが怪しくなって、なんだか官能小説のようになってしまい、ちょっと引いてしまう。(11/7)

004/218
ときぐすり」畠中恵
先日読んだシリーズ物の続編。妻を失った主人公が、徐々に立ち直っていく様子を描く。将来的には、親の跡を継いで、町名主として町内の世話役を務める立場であり、いつまでも独り身とはいかないので、再び嫁取りの話が出てくるだろうが、まだそのような話は出てこない。でも、ひょっとしたら、今回その兆しが見えてきたのかもしれない。(11/8)

005/219
著者は、司法試験のカリスマらしい。答えのでない問題を考えるための手法を解く。今の教育制度では、このような思考法を教えることはない。以前も何処かで書いたことがあるが、おそらくこのような思考をする人間が増えることを良しとしない勢力が何処かにあるのではないかとさえ思ってしまう。何ごとにも疑問を持ち、深く考える癖を身につけたい。(11/8)

006/220
貞観政要」呉兢(ゴ・キョウ)、守屋洋訳
名君と呼ばれた唐の2代目皇帝太宗と臣下の問答を収めた物で、歴代の君主のバイブルともなった書である。本書では全10巻40編の約半分を紹介されている。常に部下からの諫言を望み、自らの行状を省みることに躊躇がない。彼の統治は貞観の治とよばれ、理想の政治とされた。現在の権力者にも読ませたあげたい。(11/9)

007/221
腸を整えることが健康に繋がるとはよく言われるところ。こういった本を読むとすぐに試してみたくなるのだが、結局長続きしないのがダメなところ。それを反省しつつ。書かれていることは非常に論理的でわかりやすい。また最新の知見も紹介されている。どうやら腸を整えるには、オリーブオイル(それもエクストラ・バージンオイル)が有効なようで、早速試してみたのだが、本当は食事と共に摂れればよいのだろうけど、結構難しい。(11/13)

008/222
母性」湊かなえ
母と娘の物語。主人公としての母と娘が、代わる代わる独白する形で物語が進む。ところがこの母親というのが、過度にその母親(祖母)に依存しており、それがこの母娘の行く末に大きな影を落とす。母親の愛に応えたいと思う気持ちが、自分の愛に応えてくれない娘への不満と困惑を招く。(11/15)

009/223
かねてから、『日本=技術大国』という物言いに疑問を持っていた。品質重視であることは疑いがないのであるが、過度な品質を追い求めることにどのような価値があるのか、実は理解できないのである。もちろんすぐに壊れてしまうようなものであれば、言うべくもないが、必要な機能が確保されていれば、問題ないのではないか。こういったオーバースペックを追求する姿勢が、技術革新を推し進めてきたことは間違いがないのだとは思うが、どこかでもう一度考えたほうが良いのではないか。(11/15)

010/224
さよならの手口」若竹七海
葉村晶シリーズ。最近、彼女の著作が体に合うようで、このシリーズは特におもしろくて、楽しみにしている。もう新作は出ないかと思っていたら、文庫版での書き下ろし。この調子でまた書き続けてくれないかな。(11/17)

011/225
リプレイ」ケン・グリムウッド
誰かが、とても褒めていたので、探して買った物。さっきまで健康だった主人公が、急に心臓病で亡くなったはずが、次の瞬間には若かった頃の自分として、人生を繰り返す。死んでしまう日は同じなのだけれど、さかのぼる期間は少しずつ短くなる。初めは永遠に思えた人生が、徐々に短くなっていき、生きるということの意味を考えるようになる。かなりの長編ではあるが、はまり込んでしまい、長さは感じない。(11/21)

012/226
アンフェアな国」秦建日子
先日、映画が制作されたので、その原作かと思って読んだのだが、実は全く別物。いつもの雪平らしさが満開で、誰もが見逃していた事件の真相を明らかにする。いい感じに仕上がっている。(11/23)

013/227
僕はもう憑かれたよ」七尾与史
どうやら、階段から転落死した人物の残留思念が、目撃者の意識に入り込んでしまったらしい、というのが物語の始まり。自分を階段から突き落とした犯人は誰なのか。それを突き止めるため、主人公が眠りに落ちると、入り込んだ人格が目覚め、夜を徹して活動する。そりゃぁ、疲れるわなぁ。(11/23)

014/228
気象庁の誕生から現代の最新技術による予報作業までをざっくりと解説した物。内容的には結構おもしろい物を含んでいると思うのだが、文章がちょっと。ぶつぶつと細切れに書かれているようで、私の好みではない。(11/25)

015/229
福島第一原発事故 7つの謎NHKスペシャル『メルトダウン』取材班
東日本大震災直後からの福島原発事故について、関係者の証言を丁寧に拾ったスペシャル番組を書籍化した物。これも丁寧に書かれてはいるのだが、さすがに映像から切り離されて状態では、かなりわかりにくい。ただ、現場が如何に混乱していたのかは、よく判る。再発防止のために、備えるべき機構は多い。(11/28)

016/230
藪医ふらここ堂」朝井まかて
最近特に気に入って読みあさっている著者の最新作。江戸の小児科医であるふらここ堂が舞台。藪医者だと思っていたら、どうやら結構名医らしい。さらに娘も知らない生い立ちにもかなりの秘密がありそうな。ハッピーエンドなので文句はないが、もう少し大きな盛り上がりがあってもよかったかな。(11/28)

017/231
リアル書店が舞台となったシリーズ2作目。ネット書店に押されて厳しい状況にあるリアル書店であるが、最近はアマゾンがリアル書店にも手を出し始めたようで、この業態が無くなることはないとは思うのだが、生き残りは難しい。今作では、転職、廃業、さらに女性書店員の出産など、ありがちなネタが散りばめられている。現実はきっともっと厳しいのだろうな。(11/29)

018/232
気がつけば、結構なシリーズになっている。市役所の苦情相談係が、見事な安楽探偵ぶりを発揮する。今作も、主人公である探偵は至って地味で、登場シーンも驚くほど少ない。変わった小説である。(11/29)

019/233
所詮アイドルと高をくくっている人が多いのだろうが、周りの大人達はいざ知らず、やっている本人達は至って純粋にその役割を演じている。偽善と陰口をたたくことはたやすいが、であれ、できるを施すことは決して悪いことではない。そのことで、全国の人たちが被災地のことを忘れずにいることに大きな価値がある。(11/30)

2015年11月8日日曜日

2015年10月

10月は、計17冊中、小説が11冊、それ以外が6冊というラインナップでした。
最近の休日は外出することが多く、週末に何冊かを一気読みするということがほとんど無く、落ち着いた数になりました。ここのところ、就寝前には肩のこらない小説を、移動の電車の中ではそれ以外の本を読むとことが定着しており、今のこの傾向は、その実態を如実に反映しているところです。
そんな中で、お薦めを選びますと、小説では本屋さんのダイアナその女アレックスがなかなか良かったです。いずれも既にいろんな形で高く評価されている本ですが、そのおもしろさを改めて認識いたしました。
それ以外の本では、寺院消滅下流老人が双璧でした。いずれも今後の日本に警鐘を鳴らす内容で、特に今の自分には、身につまされる中身でした。人口減少社会が話題になって久しいですが、その危険性をリアルに実感している人がいないせいで、その対策は全く執られていません。特に、政策を決定しているのは、いわゆる逃げ切り世代ですから、どうしようもありません。何とかしないと、と深く考えさせてくれる良書です

001/198
金曜日のバカ」越谷オサム
何とも甘酸っぱいような青春小説。昔々、こんな出会いを夢見ていたような時代があったなぁ。こういう小説って、基本的に男目線で書かれているのだけれど、女性から見るとどうなんでしょうね。感想を聞かせてもらいたいです。
(10/2)

002/199
彼の著作は基本的に好きなのです。著書の名前にもなっている人は仕事で磨かれるというのが、彼の基本的な考えなのだと思う。実は、私も基本的に同様の立場であり、人は甘えの許されない環境下において成長できるのだと思っています。そういう意味で言うと、社会との接点が少なければ少ないほど、成長できる機会は少なくなると言うことだと思います。常に心にストレッチを掛けていきたいと思っています。(10/7)

003/200
本屋さんのダイアナ」柚木麻子
互いに惹かれつつも、ある事件をきっかけに交流を断ってしまった二人の女性の物語。とても素敵な二人で、双方を応援したくなる。この小説は、女性が女性を主人公にして書かれた物なので、その心の描写には男の私には思いもつかないようなものもある。彼女の小説って、おもしろいですね。(10/8)

004/201
宰相A」田中愼弥
話題にもなったので、読んでみたのですが何とも難解。舞台は日本によく似ているけど、我々が知るこの日本とは違う、差別と監視が横行するどこか国での物語。(10/11)

005/202
明治・妖モダン」畠中恵
江戸から東京へ名前が変わり、江戸の暗闇を跋扈していた妖や物の怪達の棲み場も無くなってしまった。狐や狸も人を化かさなくなってしまったし、彼らの棲み場をこれ以上無くしてしまっていいのだろうか。(10/11)

006/203
みんなのふこう」若竹七海
世の中の不運を一身に背負ったような女性が、物語の主人公。彼女の友人が地方のラジオ局に寄せるはがきをなぞるように物語が進む。どう見ても主人公の女性は、可哀想で見ていられないのだが、一方本人は、全く気にせず明るく前向きに生きている。こんな人が身近にいたら、自分も前向きに生きられるだろうか。(10/12)

007/204
被災弱者」岡田広行
東日本大震災で被災し、今も尚復興の糸口もつかめない人たちが、たくさん残されている。いや、放置されていると言っても良いのかもしれない。もう4年も経つのに。どんな制度にしても、それから漏れてしまう人たちはいるのだが、できる限りそれから漏れる人を造らないことが重要で、さらにそういう人たちがあれば、それに合うよう制度を見直すのが更に重要。既存の制度は全く役に立たないと言う前提で当たらないと、この災害からの復興はあり得ない。(10/14)

008/205
話題になった書籍で、数ヶ月のを掛けてようやく図書館から借りることができた。正確には寺院消滅と言うより、集落の消滅であったり地縁の消滅と言った方が当たっているのかもしれない。更に言うと宗教の消滅ということもあるのかも。寺院や神社というのは、宗教施設であるのと同時に、ある種のコミュニティの中心施設とも言える。しかしながら、いわゆる地方消滅と言われるように、地域から人の姿が消えていくのと比例するように、コミュニティが崩壊し、場が廃れてくる。特効薬は見つからない。(10/15)

009/206
富士山大噴火」高嶋哲夫
東日本大震災以降、日本は火山の活動期に入ったと言われている。今は美しい姿を見せている富士山にしても、最後の大噴火はほんの300年前であるから、いつ噴火を起こしてもおかしくはない。逆に、そのうちいつかは起こりうる、と思いながら、事を進めていくというのが、通常の考え方なのだろう。翻って、今の日本はどうか。この物語は、そういった我々の意識の隙間にぐさりと突きつけられた刃物である、と同時にあるできことで大きな亀裂をつくってしまった父と娘の物語でもある。これはこれで泣ける。(10/17)

010/207
これも、女性二人が主人公の物語。とはいえ、その二人の関係はあまりに歪。実際にこうういう思考をする人が存在するのだろうかという疑問もあって、なかなか内容にどっぷりとは入っていけない。ちょっと期待とは違う。(10/18)

011/208
イスラーム圏で働く人たちの手記を集めた物。どうにも、自分の身近にない物に対してはついつい拒否反応が働くというのは、世の常である。それが世界三大宗教のの一つと言われるイスラームであっても同じこと。キリスト教が主流の欧米社会とは、どうにも相容れぬ関係になりがちであり、イスラーム圏からは遠くへだたっている日本では、なかなか理解が進まない。お互いがお互いを理解(しようと)することが、関係作りの第一歩である。(10/21)

012/209
掟上今日子の推薦状」西尾維新
シリーズ第2作。なぜか第1作から主人公の相棒が変わってる。なぜに?当然テレビドラマでは同じ人物が相棒役を務めている。(10/21)

013/210
その女アレックス」ピエール・ルメートル
昨年の海外ミステリ部門で各賞を総なめしたという触れ込みの本作品。海外ミステリを読むのは久しぶりで、ひょっとして途中でギブアップしてしまわないかなと危惧していたたところが、あにはからんやのおもしろさ。この前評判は伊達ではない。全体が3部にに分かれており、冒頭一人の女性が、何者かに誘拐される。ところが、それぞれのパートに異動する度、事件の様相ががらりと変わってしまう。最後までしっかり引き込まれる作品です。(10/23)

014/211
リバース」湊かなえ
ある日突然、自分が殺人者であるとの告発を受ける。実は主人公は、過去に亡くした友人の死に対して自責の念を抱いている。私から言わせれば、道徳的に自分で苦しむ分には納得できるが、他者から告発を受けるようなことなのかと思ってしまうのだが、それではいけないのだろうか?そして、物語の最後に新たなが明らかになる。
(10/24)

015/212
ミシュランのことをレストランガイドブックの出版元と理解している方がほとんどだと思うが、正しくはフランスのタイヤメーカー。タイヤを売るためにはモータリゼーションを進めることが重要と、旅行やレストランのガイドブックを作ったのが始まりで、最初は無料で配布していたとか。日本版は最近発行され始めたが、フランス料理以外の評価はほとんどできていないというの万人の正直な感想では無かろうか。初めて日本版を手に取った時、既存の各国版との違いに驚いたものです。
(10/28)

016/213
下流老人」藤田孝典
明日は我が身。この書は、現在の事例を確認する単なるルポルタージュではなく、老人予備軍である我々に対する警告の書として読むことが正しい。実際我と我が身を振り返ってみても、十分な蓄えがあるわけではなく、いつまでも元気に働ける自信があるわけでもない。ましてや、病気にもかからず健康に人生を全うできる保証もない。考えると、とんでもなく恐ろしくなってしまう。(10/30)

017/214
水鏡推理」松岡圭祐

新しいヒロインの登場。今このタイミングで出版されたのはどんな意味があるのだろうか?ストーリー展開やキャラクターなどを鑑みるに、近々テレビドラマ化されるのではなかろうか?(10/31)

2015年10月14日水曜日

2015年9月

9月は、21冊で、小説が12冊、その他が9冊という内訳になった。
今月は結構好きな作家の本もあったのだが、あまり心に残った物はない。ということで今月のお薦めを選ぶにも大変苦労する。

そんな中であえて選ぶとすると、小説では『at Home』でしょうか。この秋ドラマ化もされるようですが、家族をテーマにした読みやすい短編集です。

それ以外の本では、『ルポ 保育崩壊』でしょうか。これからの社会は“ヒト”が、最大の財産になります。ヒト無くしては、どんな社会も残っていきませんし、産業や教育、あるいは文化の担い手としても欠かせません。その最も大事な財産である“ヒト”を育てるための基本中の基本機関である“保育”が、今や崩壊しようとしている。ここを何とかしないと、この社会に未来はない。みんな解っているのだろうか。

001/177
『ドイツ帝国』が世界を破滅させる」エマニュエル・トッド
タイトルほどのインパクトはない。この本を読みながら、ドイツとフランスの関係は、日本と韓国の関係にどことなく似ているような気がした。もちろん、2国に分断された(した)という歴史ということでは逆であったり、そのまんまと言うことはないが、歴史ある国と急激な工業化で世界のトップレベルに上り詰めた国。さらには、この本のように一方の国が、もう一方の国を羨んだり貶めたりといったことが常態化している国同士の関係。(9/1)
   
002/178
ルポ保育崩壊」小林美希
超高齢化、少子化、晩婚化、人口減少。日本の将来を予想する言葉には、明るい未来を予感させる物が無い。日本の現状を憂いて様々な提言がされている。そして、判で押したようにそれらの提言の行き着く先は常にである。しかしながら、その人という資源が、最も枯渇化している。そんな中で明るい未来を語られても、まったく現実感がない。(9/4)

003/179
この鈴木さんは、スタジオジブリの鈴木敏夫さん。どうやらそれほどITには詳しくないそうで、彼にも判るように、ネットの将来をかみ砕いて書かれた物。今の子供達は、携帯電話やスマートホン、パソコン、インターネットが普通にある環境で育ってる。当然私たちが子供の頃は、そんな物はなく、大人になってから次々と世に現れてきた。幸いにして、今は何とかついて行けているが、そろそろ限界かなと思う瞬間も多々ある。(9/5)

004/180
at Home」本多孝好
表題作がこの秋にドラマ化されるそうで、その帯に惹かれて購入。非常に読みやすい短編集で、あっという間に読める。疑似家族を描いた表題作は、予想どおりのハッピーエンドで、安心して読める。(9/5)

005/181
恋愛小説のようで、ミステリ小説のようで、お仕事小説のようで。いろんな要素が絡み合った小説。彼女らしい小説なのかどうかは評価できないが、おもしろいことは間違いない。(9/5)

006/182
複製症候群」西澤保彦
彼特有の、SF推理小説。よくもこんなトンデモ設定で、小説がしかもロジックが求められる推理小説が書けるものと感心する。(9/6)

007/183
よくある未来への無責任な提言かと思って読んでいたのだが、予想を裏切る内容。著者自身が、商店街の再生に取り組みながらも挫折した苦い経験を持ち、その経験からくる有用な助言が書かれている。特に、何ごともお役所頼みという姿勢については、一刀両断。役人の身で言うのは気が引けるが、役所でやれることには限界があることは事実。(9/11)

008/184
Qrosの女」誉田哲也
話の展開がかなり強引。こうは進まないだろうという突っ込みどころ満載。(9/12)

009/185
奇跡の人」原田マハ
三重苦の偉人として誰もが名前を知っているヘレンケラーの物語を、同時代の日本に置き替えて作られた物語。かなり無理がある。(9/12)

010/186
営繕かるかや怪異譚」小野不由美
この著者の本は初めて。おもしろいという評判を聞いたので、手に取ってみた。どうやらこの手の怪談話がお得意なよう。まぁ、メチャクチャおもしろいという感じでもなく。(9/12)

011/187
前作に続き、発展途上国でのビジネスに挑戦する著者の自伝。とんでもない苦労をして、騙されて、それでもチャレンジし続ける著者のバイタリティに感動する。ここまで彼女を突き動かす物とは一体何なんだろう。信念だけであそこまでできるのか。(9/13)

012/188
世論調査の結果ほど当てにならない物は無い。というのが私の持論。質問の作り方で、どのような結果にでも誘導できる。よく比較対象に出される大手の新聞社の結果などはまさにそのとおりで、同じことを調査しているはずなのに、正反対の分析結果を導き出すことができる。如何に騙されずに自分の意見を持つか。それが大事。(9/14)

013/189
これまたかなり荒唐無稽な物語。(9/18)

014/190
まったなし」畠中恵
テレビドラマにもなった“まんまこと”シリーズの最新刊。妻と子を亡くした主人公が、まだ立ち直れていない。でも、いつまでもそのままじゃいけないよね。まだ若いんだから、早く前を向いて歩きださないと。と他人は気楽に言える。この先、このシリーズはどう進んでいくのだろうか。想像がつかない。(9/19)

015/191
蟻の菜園」柚月裕子
彼女の本はどれもおもしろい。この作品は、珍しくルポライターが主人公で、保険金殺人の謎に切り込んでいく。途中から結末が見え始めてくるのだけれど、それでもつい最後まで一気に読んでしまう。(9/19)

016/192
月光のスティグマ」中山七里
これはどうなんだろう、不満が残るわけでもなく、かといって手放しでおもしろいと言える作品でもなく、どうしたものかと思ってしまう。いつものえげつないような設定や凄惨な場面がなく、えらく抑えた感じが不完全燃焼として感じられるのか。(9/21)

017/193
プラトンの著作としては、師であるソクラテスが交わした対話編がすぐ頭に浮かぶ。果たしてそこでソクラテスの言葉として描かれている物は本当に彼の言葉なのだろうか。それともプラトンが師の言葉を借りて語ろうとしていた物なのか。ついつい哲学書を理解して読もうとして失敗してしまう。本来、哲学書は自分が考える際の指標にすべき物で、理解をしてしまっては、そこから先に進めない。考えることを癖にし、考えることを止めないように。(9/2)

018/194
現代と江戸時代とのタイムトンネルが古民家の押し入れに出現。その昔読んだ半村良の“時穴道行き”を思い出させる。この作品の主人公は、至って軽い調子で、何やら曰くありげなイケメン同心に熱を上げている。ドタバタ加減がお気楽で良い。(9/23)

019/195
街道をゆく12~十津川街道」司馬遼太郎
このシリーズを手にするのも久しぶり。紀行文でありながら、歴史をたどる旅であり、いつもながらその筆の運びに引き込まれる。同じ近畿地方の、それも平城京のすぐ南にこれほどの秘境があったとは、ほとんど意識していなかった。そういえば北海道の新十津川へ入植したのも十津川の人々だったとは、その昔何かの本で読んだのだったろうか。また、続けてこのシリーズを読んでみようかな。(9/23)

020/196
通天閣」西加奈子
一組の男女が主人公になっているのだが、なぜかこの二人は最後までお互いを認識することなく物語が進む。大阪のミナミで、一生懸命に生きる二人の物語なのだが、なんだかよく判らん。(9/29)

021/197

デジタル技術を使って、日本の古典美術品を再現しようというプロジェクト。今話題の風神雷神図屏風などが、当時の極彩色をもって再現されている。考えてみたら、どの作品でも当時の最高権力者などが発注元となって創らせた物だから、金に糸目はつけなかったはず。当時の最高技術が惜しげもなく注ぎ込まれた作品であったろうことは疑いない。でも、きっとそれって、変な先入観が邪魔をして、我々の目には受け入れられないんだろうな。(9/29)

2015年9月13日日曜日

2015年8月

8月は23冊で、小説が16冊、その他が7冊という内訳。先月ほどの充実感がないのは残念。
小説では西澤保彦さんのものが3冊もあって、読んだ本人が驚いている。確かに好きな作家ではあるが、新刊が待ち遠しいというような作家ではない。今でもそんな作家は数えるほどしかいないが、きっと私が知らないだけなんだろう。だれか教えてください。
というこことで、今月のお薦めなのですが、残念ながら小説では、これという作品には巡り会えませんでした。
その代わり、それ以外の本では、以外と良い本に巡り会えました。
まずは『日本の納税者』。これは、読む人に自己改革を求める本です。この本を読んで“変えるためには、まず変わらなきゃ”と思えない人は、かなり悲しいです。日本の未来のために、我が子、我が孫、我が子孫のために。皆さん立ち上がりましょう。
そして、次の二冊。『沖縄の不都合な真実』『騙されてたまるか』。
前者は、右寄りでもない、左寄りでもない沖縄の真実に目を向けさせるとても良い本に仕上がっています。
そして後者は、某社新雑誌の記者が著者と言うことで、かなり偏見を持って読み始めましたが、それがなかなか興味深い内容が書かれています。
『真実』って何なんでしょうね。

001/154
探偵の探偵」松岡圭祐
テレビドラマにもなっているシリーズ最新作で完結編(?)。まぁ、また続編が出てきそうな感じではありますが。今のドラマは、Ⅰ~を原作にしているそうなので、この後はでスペシャルドラマが一本つくられ、で映画化というのが既定路線か??ドラマと並行で読んでいるせいで、つい具体的な顔が浮かんでしまうのが若干の弊害。(8/1)

002/155
難民探偵」西尾維新
前から気になっている作家、はじめて読む。ペンネームは前から読んでも後ろから読んでもNISHIISHIN。立命館大学の出身らしい(ただし中退)。軽いタッチの小説であるが、今ひとつおもしろさを感じない。もう少し違う小説も読んでみないと解らないかな。(8/1)

003/156
笑う怪獣」西澤保彦
全編に怪獣宇宙人幽霊等が出てくる何ともばかばかしい小説。一応本格推理小説かとなっているが、いろんなタイプの小説を書く不思議な作家である。(8/2)

004/157
今年の芥川賞はお笑い芸人が受賞したことで話題になり、受賞作は200万部の大ヒットとなっているらしい(ちなみに、まだ読んでいない)。同賞は、受賞作もさることながら、その選評が全て公開されることで大きく話題にある。その過去の選評の中から特徴的な物を抜き出し、その傾向などからこれまでの受賞作の変遷や特徴を明らかにした物。過去の大作家達の傲慢な語り口や、どうしてもこの賞がほしくて様々なロビー活動をした太宰治の逸話などはとても興味深い。(8/4)

005/158
調査報道とは何か、ということについて自身の実例を絡めて紹介している。focusも創刊の頃はシャープな切り口でおもしろかったが、いつ頃から質が下がってしまったのだろうか。権力のチェック機能としてのマスコミのあり方については、著者の考え方に与するが、権力側の端っこにいる身としては、しっかり襟を正していかないといけないと改めて感じ入る。(8/7)

006/159
実在の人物らしい。人物像は、かなり脚色してあるようだ。おもしろければそれも良いと思うが、何やらちょっと全体的に調子が軽い。戦国時代後期の九州を舞台に女性の目を通して描かれたところはおもしろい。その辺りは著者の面目躍如というところか。(8/8)

007/160
貘の檻」道尾秀介
何か、変な小説。大きくはミステリ小説なんだろうが、無視や動物になる夢が長々と描かれる。初期の頃の作品はとてもおもしろかったのだが、最近はかなり路線変更されている。それを評価する向きもあろうかと思うが、残念ながら私には、あまり好きな作風ではなくなっている。今作は、若干昔に帰ってきたかと思うが、まだぴったりはまるという感じではない。(8/8)

008/161
利休の闇」加藤廣
戦国時代シリーズの一作。主人公は千宗易。元々は破天荒な人物であったはずが、茶道を究めていく中で、徐々に頑固にかたくなになっていく。一方彼の弟子であった秀吉は、大出世を遂げ、主客が転倒する。途中では、信長の死に関する謎を提供しておきながら、結局放ったらかし。何だかなぁ。(8/9)

009/162
ものづくりを忘れた国は滅ぶ」唐津一、加護野忠男
約20年前に書かれた本。今も昔も、ものづくりこそが実業であって、商、流通は一段下に扱われるものづくり信仰は不滅である。一方、今ではどこまでがものづくりなのか、その境界線を引くことも難しい時代になってきた。そんな時代のものづくりとは。ものづくりに固執した国は滅ぶ?(8/9)

010/163
必然という名の偶然」西澤保彦
架空の都市を舞台にした連絡短編集。笑顔に見える人の顔の裏側を垣間見せるような、そんなゾクッとするような恐ろしさが堪らない。(8/12)

011/164
沖縄の不都合な真実」大久保潤、篠原章
最近話題になっている某作家もどきの単なる沖縄たたきとは大きく一線を画す1冊。明治維新後現在に至るまで日本政府が沖縄に対して行った非道や今現在沖縄が直面している本当の危機がよく解る。意図的に仕組まれた基地依存問題を解決する道はとてつもなく険しい。これが解決されない限り戦後は終わらない。(8/15)

012/165
漱石先生大いに悩む」清水義範
夏目漱石が書いたとされる一通の手紙が、友人宅から発見されたことで、漱石が大作家としてデビューするきっかけとなた一連の出来事を少し悲しい物語としている。あたかも実際にあったことではないかと思わせる書きっぷり。(8/15)

013/166
デール・カーネギーなどに影響を与えたと言われる著作。これは、乱暴を承知で一言で言うと“すべては気の持ちよう”ということになろうかと思います。アドラーではないけれど、全ての結果は、自分がそれを選択したから現れた結果であって、それ以外の何ものでも無い。何かを変えたければ、自分の意思で変える努力をしなければいけない。自分を変えたいときも然り。(8/15)

014/167
日本の納税者」三木義一
納税者の役割とは何か。本来なら税金の使途をしっかり監視することがその最大の役割なのだと思う。しかしながら実態は全くそうはなっていない。その原因の一つが源泉徴収であることは間違いないだろう。税金を払っていることにあまりに無頓着であるため、その使途に全く関心が持てなくなっているのではないか。この本には、私たちが納税者として本来果たさなければいけない義務と本来持っている権利について書かれている。これらは我々が常識として思っていることとは全く違っている。先日、たまたま会った国税局の方にこの本の話を仕かけたが、全くご存じなかったのは、ちょっと残念。(8/19)

015/168
キネマの天地」井上ひさし
井上ひさしの代表的戯曲。読み方が下手なせいか、上手く情景を頭の中に描くことができない。戯曲の読み方にはコツが必要だとある人から聞かされたことがある。どうやったらつかめるのだろう。(8/19)

016/169
誰かと一緒に酒を飲むと、その人と一緒に時をさかのぼってしまう“特異体質”をもったオヤジの物語。一応完結する小説が連続して編まれていながら、全体として一編の小説となる。主人公の数十年の数奇な人生の全ての原因は、ここに書かれた数日間に起因している。って、ちょっと切ない。(8/22)

017/170
禁断の魔術」東野圭吾
もともとガリレオ探偵シリーズの短編として書かれた物を、改めて長編に仕上げた物。従来にも増して主人公が“人間くさく”描かれている。どうも、ドラマや映画がヒットしたせいで、特定の俳優の顔がちらついてしまうのは、いかんともしがたいところ。最近のこのシリーズは、どうも映像化が前提で書かれているようで、ちょっとがっかり。(8/22)

018/171
ゴミの定理」清水義範
短編小説集。特にテーマは定められていないように見受けられる。いずれも意表を突かれる題材で読みながらにやりと笑ってしまう。彼らしい作品群。(8/23)

019/172
“里山資本主義”に続く、NHKスペシャルの取材をもとに書かれた本。この本では瀬戸内海を舞台に、その海を“耕し“、”育てる”ことで地域内での経済を循環させ抵抗とする取り組みが紹介されている。ともすれば、“公共の物”である“海”に対する責任感と行ったものは軽く見られがちであるが、“公共物”であるが故に、みんなが責任を持つべきである。とっても当たり前のことに改めて気づかされる。(8/26)

020/173
掟上今日子の備忘録」西尾維新
今年の秋からドラマ化されるそうである。彼の本を読んだのは、これが2作目かな?とても評判の作家だそうだが、自分にはあまりしっくりと来ない。相性が悪いのかな?(8/26)

021/174
北乃杜高校探偵部」乾くるみ
ステキな青春小説なのである。ミステリ要素は、、、それほどない。」(8/29)

022/175
飲めば都」北村薫
とにかくお酒が大好きな女性が主人公のライトノベル。酒の上での失敗を重ねつつ、最後はハッピーエンドになるところが良い。(8/30)

023/176
誰そ彼れ心中」諸田玲子

最近話題の女流の時代小説作家の一人。初めて読んでみる。ミステリの要素をはらみつつも、ある種のホラー小説のような要素も強い。太古の昔から、最も恐ろしいのは“人”であるとされてきた。この小説も、そんな“人”の恐ろしさがしっかりと描かれている。この著者の得意分野は何だろう。少し気になる。(8/30)

2015年8月6日木曜日

2015年7月

7月は26冊、うち小説は15冊、その他が11冊となった。
久しぶりに、その内容も充実しており、ほぼ満足している。

まず小説では、朝井まかて、乾くるみ、柚木麻子の小説がそれぞれ2冊ずつ入っている。いずれも最初に読んだ本がおもしろかったため、続けて読んだもの。

どれもおもしろかったが、昨年の直木賞受賞作である朝井まかての恋歌が特に良かったかな。明治維新の動乱を描いた小説はたくさんあるが、女性の視点で描かれた物は非常に少ない。さらに幕府側にありながら藩内の意思が統一されておらず、奇妙な立ち位置にあった水戸藩が舞台となればなおのこと。かなりのお薦めです。

その他の本はかなり充実。お薦めでない方が少なく、どれも是も一読の価値有りと自信を持ってお薦めできます。ホントに選べないところを無理矢理に何冊か挙げるとするなら。

まずは戦後70年にちなんで、日本のいちばん長い日日本とドイツ ふたつの戦後。読後に受ける感想は人それぞれだし、書かれていることが全て正しい訳ではないとは思いますが、自分で考える上で、良いきっかけになる本だと思います。

ちょっと変わった本では、目の見えない人は世界をどう見ているのかという本がおもしろかった。目が見えている我々にはわからない世界のとらえ方が衝撃的でした。目が見えるだけで如何に物が見えていないか。これはおもしろかった。

最新の本ではありませんが、コリンパウエルの著書もかなりおもしろかったです。

あとは、以前から課題になっている古典の名作に手を伸ばす時間がなかったことが心残りですが、ほぼ満足できる月でした。

001/127
白い蛇の眠る島」三浦しをん
彼女の小説には珍しい伝奇物。こんな小説も書くんだね。古い因習でがんじがらめにされた故郷。ある意味住みやすくある意味住みにくく、愛憎が入り交じる場所である。濃密な空気に、逆に窒息死しそうになり、飛び出した。飛び出して、何年経っても居場所があることは、実はとてもありがたいことなんだと、この主人公はきっと思い返すことだろう。(7/3)

002/128
王妃の館 上」浅田次郎
映画の原作になった小説。ある種のドタバタ喜劇でありながら、登場する人物皆に何某かのドラマが用意されている。さらに偶然の邂逅。これでもかというくらいにエピソードが満載で、息をもつかせぬとはこのことか。さすがです。(7/4)

003/129
豆の上で眠る」湊かなえ
これはこれは長い長い物語。二十年に及ぶ謎がようやく明らかになる。明らかになった事実(?)を前にして、主人公はこの後どう折り合いをつけていくのだろうか。この後の長い長い物語は、きっと苦しい物語になるんだろう。(7/5)

004/131
しんがりの思想」鷲田清一
強いリーダーはいらない、と書かれている。確かにそうかもしれないが、強いリーダーシップは必要だ。実は中身を読むと個々人がリーダーシップを働かせなければいけないという内容。決して人に追随していくことを推奨する内容ではない。生きていく上で重要なことは、諸々の状況を斟酌して、自分で決定できると言うこと。これこそリーダーシップに他ならない。(7/9)

005/132
いやぁ、単なるアイドル本となめてました。全てを本人が書いたものとは思えないが、彼女の考えが反映された物であることは間違いないだろう。そこで見て取れるのが、自らを客観視する能力の高さ。自分を客観的に見ることができというのは、非常に得難い能力で、人生のあらゆる局面で有効に働くことだろう。現に彼女は、その能力をフルに発揮して、現在のポジションまで上り詰めたといえる。(7/9)

006/133
著者によるアメリカレポート最新作。オバマケアの実施で、崩壊するアメリカの医療現場を紹介すると共に、アメリカの医療産業界からの圧力により、日本の健康保険制度が破壊されようとしている現状がレポートされている。本当に大事な物の価値をしっかり理解し、積極的に護らないと、いつか知らないうちに消え失せてしまう。TPPの本質をしっかり理解しておかないと、大変なことになりそうだ。「どんなに素晴らしい物を持っていても、その価値に気づかなければ隙を作ることになる。そしてそれを狙っている連中がいたら、簡単にかすめとられてしまう。」肝に銘じなければ。(7/11)

007/134
リーダーを目指す人の心得」コリン・パウエル、トニー・コルツ
言わずとしれたアメリカの英雄の回顧録なのだが、しょせんは政治家が書いた物。中身をそのまま信用するほど素直な性格ではない。とはいえ、ここに書かれているリーダーシップ論などは傾聴に値する。部下とのつきあい方。報道との対処の方法。結構おもしろい中身になっている。(7/11)

008/135
リピート」乾くるみ
ある日、ある場所に突然現れる空間の裂け目に飛び込むと、記憶・意識だけが半年前の特定の時間に戻ってしまい、同じ人生を繰り返す。何処かで読んだことのある設定なのだが、記憶・意識だけがリピートするというのはGood Idea! これだと、タイムマシンパラドックスも生じない。知識も蓄積されていくと言うことは、いわば永遠の命を手に入れることと同値である。(7/11)

009/136
タイトルになっている辰巳麻紀=Tatsu Maki”が、もっと騒動を巻き起こしつつ活躍するのかと思いきや、期待はずれ。もっとハチャメチャで優秀というキャラクターを想定していたのですが。それほど破天荒ではない。(7/12)

010/137
女性が活躍できる職場というのは、実は大変魅力的な職場である。というより、女性だ、男性だと言っている時点で、すでに何かの呪縛にとらわれているとしか言えないのではないか(7/12)

011/138
恋歌」朝井まかて
幕末、幕閣の中にあって特異な地位にあった水戸藩の数奇な命運を、その藩士の基に嫁いだ一人の女性の目を通して描いた傑作。直木賞受賞作でもある。江戸期を舞台にした彼女の他の作品にくらべると、ひと味もふた味も違う作品。(7/14)

012/139
今年読んだ新書の中では、結構秀逸と言える一冊です。目の見えない人たちは、一体どのように世界を認識しているのか。空間認識、芸術鑑賞などなど。一般に5感と呼ばれている物のうち、最も格上と言われるのが視覚で、触覚が最も下位に位置づけられているそうです。まぁ、そんな与太話は横に置いておくとしても、視覚が失われると、世界が失われてしまうのではないかと思ってしまうのだが、どうやらそうではなく、全く違うとらえ方ができるらしいのです。特に、我々が物を見ると、その映像は二次元のとして認識されるが、目の見えない人は、三次元のとして認識しているという事実は非常に興味深い。つまり、目の見えない人の方が、よく見えているという状況にあるのである。まさに目から鱗が落ちるようとはこのことだ。(7/16)

013/140
レオナルドの扉」真保裕一
レオナルドダヴィンチの遺産を巡るナポレオンとバチカンの争い。ストーリー展開が何か違うなと思っていたら、後書きによると、この小説は元々著者がアニメの原作として書かれた物を基にしているそうで、モチーフ以外は全面的に書き直された物らしいが、随所にその片鱗が見える。(7/18)

014/141
著者の出世作となった、気持ちが優しくなるような作品集。昨年の本屋大賞ノミネート作品。何も取り柄がない(ように見える)主人公がやり手の女性部長アッコちゃんの内側に触れていくことで、成長を遂げる物語。この二名をメインに据えた中編2編とスピンオフのような中編2編からなる。どうやら続編も書かれ、最近ではテレビドラマにもなったらしい。全然知らなかった。私としては、最後のゆとりのビアガーデンが良かったです。(7/18)

015/142
ザ・対決」清水義範
ソクラテス対釈迦、楊貴妃対クレオパトラ、桃太郎対金太郎などなど。彼らしい一風変わった切り口で、全く違う風情の短編集に仕上げている。さすがにおもしろい。(7/19)

016/143
僕僕仙人シリーズの一冊。一行はチベットの山中へ向かい、その王家の後嗣争いに巻き込まれる。登場人物も替わり、主人公の王弁がさらに大きな成長を遂げ、新たな旅が始まる。(7/19)

017/144
今年の夏映画化されるそうである。平和の実現のため命をかけた人々が、描かれているようである。終戦日に企てられたクーデターの犠牲になった方々には、同上を禁じ得ない。一方で、多くのページが割かれている陸相の自決やクーデターの首謀者に至っては、責任逃れの敵前逃亡の極みであり、帝国軍人の名誉はどこへ行ったのだろう。重大事になればなるほど誰も責任を取らない日本人の典型と言える。(7/20)

018/145
火星に住むつもりかい?」伊坂幸太郎
日本の仙台市という架空の都市を舞台にした物語。この国では、国家警察による合法的魔女狩りが、住民の生活にじわじわと影を落としている。密告、拷問が横行し、真実に目を向けようとしない住民は、犯罪者処刑に狂喜する。いつか見た風景なのか、いつか来る世界なのか。その世界から逃げだそうとすれば、火星に住むしかない。(7/23)

019/146
話題の経済書の解説本。ベストセラーになったピケティの書籍だが、残念ながらまだ手にしていない。いろいろな書評によると、それほど複雑なことは書かれていないと言われているが、数式が出てくると、どうも体が拒否反応を示してしまう。資本収益率(r)と経済成長率(g)を比較すると、常にr>gとなり、持てる者と持たざる者の格差は更に拡大する。というのが彼の根本理論。それに対して、どのような対策を取るかというのが、政治である。今の政治は、格差をさらに広げる方向に舵を切り、更に加速させようとしている。サバイバルレースの先は暗闇。(7/25)

020/147
セブン」乾くるみ
数字のにちなんだ短編小説が7編収められている。どういう趣向で編まれたものかわからないが、一つ一つがとても良くできている。特に、いくつかの小説に数字遊びをテーマに書かれており、おそらくオリジナルがあるのだと思うが、それを上手く心理ゲームに仕立て、おもしろい小説に仕上がっている。ただ、数学が苦手な私は、ちょっと複雑な論理学にもついて行けず、せっかくの解説も、すっとは頭に入ってこない。(7/25)

021/148
現政権の経済政策を気持ちいいくらい痛烈に批判している。実際のところ、三本の矢と言いながら、本当に有効な政策が打たれたのかどうかは非常に疑わしい。現に、持てる者はさらに豊になり、持たざる者は、さらなる貧困スパイラルに巻き込まれていく。我々が選んだ道と言われればそのとおりなのだけれど、本当なのかと問いたい。今やほとんどが非正規で働く若者達の環境はどんどん悪くなっていく。さらに、こんなことに気を取られているうちに、我々の安心・安全はどんどん脅かされていく。この国の未来の姿をどのようにイメージしているのだろうか。(7/25)

022/149
テレビドラマにもなったドジなキャリア刑事の物語、第二弾。ある宗教団体によるテロを未然に防ぐという、どこかでみたようなストーリー展開。(7/26)

023/150
終点のあの」柚木麻子
有名お嬢様女子高校を舞台にした中編小説集。女子校の実態って、今も昔もこうなんだろうか?男にはさっぱり判らない世界である。(7/26)

024/151
実さえ花さえ」朝井まかて
著者のデビュー作。江戸時代の花屋を舞台にした小説で、完成度も高い。良い小説だと思うのだが、なぜか文庫化に当たっては、タイトルが大幅に変更されてしまっている。ひょっとして内容も書き換えられているのかもしれないが、どうなのだろう。(7/28)

025/152
人類哲学序説」梅原猛
人類哲学というのは著者の造語。彼が書いた歴史の謎に挑む数々の著書は、歴史家の中では異端と捉えられており、通説とはなっていないが、いずれもおもしろかった。彼がいたおかげで、専門家以外の者が歴史を語ることに障壁はなくなったのではないかと思っている。さて、本書では人類共通の普遍的な哲学について思索を重ねている。日本には借り物の思想を学ぶ学者は数多いるが、自らの思索を創造する真の哲学者は存在しないという指摘はおもしろい。まさにそのとおりだね。(7/29)

026/153

共に第二次世界大戦の敗戦国。大戦中に自国はもちろん、占領地域で凄惨な行為を行ったところも共通。しかしながら、戦後70年経った後の近隣諸国との関係はどうか。ここに両国の過去への向き合い方の違いが如実に表れている。戦勝国が敗戦国を裁くことそのものに異を唱える人は多いが、ドイツはナチスに関しては、その後も徹底的にその関連者を捜索し続けるなど、国民に対する犯罪であったことを明確にし、過去に向き合い続けている。翻って我が国は、戦後一貫して過去と向き合うことを避け続けている。おそらくこの先何十年何百年経とうと、この禍根はなくならないだろう。これまた先人達の大きな罪である。(7/31)