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2018年1月4日木曜日

2017年12月

2017年の最後は計13冊。うち小説(戯曲を含む)6冊、それ以外が7冊という結果になりました。結果2017年は一年で、計164冊の本を読むことができました。

というところで、12月のお薦めですが、正直なところ小説にはこれという作品に出会えませんでした。期待が大きすぎて、読んだ後がもう一つという物が多く残念でした。

しかしながら、小説以外の本には、お薦め本が結構たくさんありました。
まずは、久米宏さんの回顧録。個人的に彼のファンだということもあって、とても興味深く読みました。彼自身が何度も話しているように、彼はニュースキャスターではなかったけれど、素晴らしいマスコミ人だったと思います。

次に新書で読んだ三冊が秀逸でした。

三つの石で地球がわかるは、とってもわかりやすく、中学生レベルの理科の知識で十分楽しめます。面白い一冊でした。

フランスはどう少子化を克服したかは、日本では絶対にまねできない内容ばかりで、読んでいてとても歯痒い気分にさせられました。母親が働くことに眉をしかめたり、うるさいからと保育園の建設に反対したりするようなおかしな連中が大勢を占めるような国に将来はない。こいつらがいなくならない限り、日本は少子化を克服できないだろう。

史上最強のCEO、民間の力だけで宇宙を目指そうとしているイーロン・マスクという人物については、かねてから興味を持っていたのだけれど、どっかの国の大統領のようないけ好かない金持ち野郎かと思っていました。しかしながら、どうもそうではなさそうで、かなりいい男のようです。今後も注目していきたいと思います。

あと格差と民主主義も面白かったです。暴走する資本主義の著者でもある元米国閣僚の手になる一冊です。誰に勧められて読んだ本だったかは思い出せないのですが、彼が指摘する新たな資本主義のルールが、多数の支持を得ながら何ら実現されていないという事実こそが、暴走し続けていることの証左ではないでしょうか。

2017年は、せっかくの年末休みを本も読めない状況で迎えてしまい、さんざんな形で終えてしまいました。毎年のように繰り返していますが、今年こそはこれぞという一冊に巡り会いたいものです。


001/152
テミスの剣」中山七里
先月読んだ本が、同テーマシリーズの続編と知って、先行する本作を読みました。別にそれぞれは独立した本なので問題はないのですが、やっぱ読む順序を間違ったかなぁ。テミスというのはギリシャ神話で描かれる正義の神。左手に平衡を表す天秤と右手に力を表す剣を持つ。正義の名の下に振るわれた剣に、ひとたび両断されたら、後にそれが誤りであったことが分かっても取り返しがつかない。ましてや、間違えることもある人間が、その力を振るうには、必要以上に慎重である必要がある。疑わしきは罰せず(12/1)

002/153
講談社ブルーバックスは、典型的文系人間の私にもとてもわかりやすく科学の知識を授けてくれる大変ありがたいシリーズです。特に地球や宇宙の成り立ちについて書かれた本は大好きで、今年も一体何冊手に取っただろうか。中でも今作は、私の少し苦手な岩石を切り口に地球の成り立ちを開設するという一冊で、とてもわかりやすく書かれています。ここで言う3つの石とは、マントルを構成する橄欖岩、海底地形を形作る玄武岩、大陸地形となる花崗岩の三種類の石。今の科学でここまで分かってしまうのですね。面白かったです。(12/1)

003.154
アップルのスティーブ・ジョブズが愛した和食料理人の半生をモノローグのような形で綴った物。決して、彼の専属料理人として働いていたわけではなく、あくまで行きつけの料理店主としての関係であった。従って、ジョブズとのエピソードはいくつか語られるが、決して踏み込んだ内容とはなっていない。あくまで一料理人が、如何にしてアメリカで成功するに至ったかという物語だと考えた方が良い。それにしてもそれほど深い内容が書かれているわけではないので、かなり消化不良です。(12/10)

004/155
少子高齢化対策が急務となっている日本にとって参考になることが書かれているのではないかという期待を持って読んでみたが、正直日本には導入できないだろうなと思うようなことばかりであった。そもそも日本という国には、子供を社会のみんなで育てていかなければ行けないという発想がなく、子供は家庭しかも母親が育てるものという固定観念から抜け出せておらず、どんな政策を持ってきても機能することはないだろう。おそらく明治維新までの社会においては、女性も貴重な労働力であったことから、子育ては社会で育てなければいけないという考えが主流だったのだろうが、明治維新後、子供は将来の戦力だと考えるようになってから、産めよ増やせよと女性を子育てに縛り付けること是とし、国民への洗脳が始まった。今もその洗脳は解けていない状況下では、実効性のある少子化対策なんて夢のまた夢。(12/10)

005/156
騙し絵の牙」塩田武士
グリコ森永事件をモティーフにした罪の声の著者による最新刊。俳優の大泉洋に当て書きしたとされる小説で、表紙にも彼の写真が使われている。いろいろなところで評価も高かったので、楽しみにしながら読んだ。結果、この主人公が大泉氏?と言うのがしっくりこず、その違和感を引きずったまま読むことになってしまい、面白みが減ってしまうことに。難しいですねぇ。(12/10)

006/157
ロバート・ライシュ 格差と民主主義」ロバート・B・ライシュ
アメリカで労働長官を務めたことのある経済学者の著書。アメリカ国内での貧富の差とそれを助長する仕組み、さらにはそのスピードをさらに加速させるための活動について書かれている。私たちには、それほど差し迫った実感はないのかもしれないが、日本も今では世界でも有数の格差の拡大が進む国の一つに数えられている。民主主義というのは、優れた制度かもしれないが、ある種の限界がある制度でもある。特に誰もが参加できるはずなのに、結果的にはお金持ちでなければ政治家にはなれない現実。アメリカの大統領選挙では、資金力のある候補者が圧倒的に有利であり、その結果当選後の政治姿勢は、その資金源の性質に大きく左右される。そして、ピケティが喝破したように、資産は集約される方向に進むことから、強者はますます強くなり、弱者はますます弱くなる。本来、それを解決することこそが政治の役割ではないか。(12/15)

007/158
スペースX、テスラ・モータース、ソーラーパワーズといった企業を率いる今注目の経営者であるイーロン・マスクの事績をたどった物。CEOの役割の一つに資金の調達と言うことがあるが、彼の元には様々な企業や団体から多くの資金が集まり、それを夢の事業に投資してきた。一躍名をあげたのは、スペースXプロジェクトで、NASAなどに比して10分の1のコストで宇宙船を打ち上げ、それをビジネスとして成り立たせることを目指している。当然、既存の利益団体である巨大企業などから見ると目の上のたんこぶに当たるのだが、それを物ともしない姿勢が痛快である。テスラの持つ電気自動車に関する特許権を全て解放し、自由に使用させることで、EV化のを進め、地球温暖化の阻止に貢献したいという彼の信念が、多くの共感を呼ぶのだろうか。初めて名前を聞いたときは、いけ好かない金持野郎かと思っていたが、意外に良い奴らしい。(12/15)

008/159
コージーミステリという分野に分類される少し軽めのミステリ。町長である祖母が、殺人事件の容疑者にされ、その無実を晴らすため孫娘が奮闘する。お約束どおり警察は無能で、結局その素人探偵が事件を解決してしまう。警察や刑事訴訟に関する彼我の違いが大きすぎて、上手くついて行けない部分も多く、心底楽しめる感じではない。海外ミステリは難しい。(12/17)

009/160
日本スゴイ本の大ブームだそうで、巷にはよく似たテイストの書籍やテレビ番組があふれかえっています。これって、日本人が自信を失いかけていることの裏返しなんだろうか。中国や韓国も同様の傾向にあるそうなので、東洋人の特質なのかな。かつて同様に日本(人)賛美の書籍があふれかえって時期があった。その当時は、世界の列国から日本が不当におとしめられ、自身を失いかけていたところ、破れかぶれの戦争に突入した。現在の状況が当時によく似ていると言うのが著者の主張である。ただ、どうも今の状況は、日本国内の様々な仕組みが制度疲労を起こしており、一歩間違うと破綻にまっしぐらとも言えるところを、眩ますために流されているように思えてならない。装ではないことを祈る。(12/17)

010/161
ロボットという言葉が初めて使われたのがこの戯曲だそうです。語源としてはチェコ語で賦役(強制労働)を意味するrobota(ロボッタ)とスロバキア語で労働者を意味するrobotnik(ロボトニーク)という言葉を合わせた造語だそうです。ここで描かれているのは、今我々がイメージするロボットと言うよりアンドロイドに近い物と思われる。人類に替わる新たな労働力として発明されたロボットが、自らの意思を持ち始め人類に対して反乱を起こしていく、その先にあるのは、、という物語。最近、人工知能の研究が加速的に進み、その進歩は目を見張るばかりである。ただ、どこまで行っても将来的に人工知能が自らの意思を持つことはないと思うのだが、まるで、意思を持っているかのように振る舞うことは、十分に考えられる。与えられた(自ら獲得した)データを元に最適解を求める作業の中で、人類を排除する方向に大きく舵が切られると言うことは十分に考えられる。今のこの流れは止められないと思うので、残る興味は、いつそのときが来るかという一点に絞られる。(12/23)

011/162
夢をまことに」山本兼一
この本を読むまで、その存在すら知らなかった国友一貫齊という幕末の大発明家の物語。鉄砲産地として有名な国友村で、鉄砲だけでなく万年筆や反射望遠鏡を制作し、太陽の黒点の観測まで行っていたらしい。実際の人物像はここに描かれているとおりかどうかは分からないが、その発明品を見ただけで諦めない強い気持ちを持っていた人だと分かる。こういった稀代の職人の力と技が、日本の工芸技術を発展させてきた。(12/24)

012/163
ぴったしカンカン”,“ザ・ベストテンニュースステーションなどなどの大人気番組でMCを務めた氏の回顧録。昔から彼のテンポの良いしゃべりが好きで、先ほどあげた番組も大好きでした。今では、ほとんどテレビで見かけることもないのでとても残念。氏がかねがね話していたことで、この本の中でも触れられているが、彼はいわゆる報道の経験がなく、キャスターと呼ばれることに抵抗があったようだ。ただ、マスコミの使命は権力の監視役であると言うのが彼の口癖でもあった。私がまだ学生だった頃、漠然とマスコミの世界に憧れていて、同じようなことを考えていたことを思い出します。といってもそれは、松本清張の小説に出てくるような、警察の捜査に疑問を覚え、自ら事件解決に邁進する新聞記者に憧れていただけなんですがね。(12/24)

013/164
掟上今日子の遺言書」西尾維新
2017年最後の一冊はこの本になりました。以前、新垣結衣さんの主演によるドラマの原作シリーズの4冊目になります。飛び降り自殺者の下敷きになり、大けがをしてしまいながら、なぜか殺人未遂の容疑を受けてしまうと言う容疑者体質の隠館の依頼を受け、主人公の忘却探偵が自殺未遂事件の謎を解きます。実は、調子に乗ってこのシリーズを3冊くらい買ってしまっていたのですが、ちょいと後悔しています。(12/29)

2017年12月10日日曜日

2017年11月

なんと言うことか、11月は9冊しか読めませんでした。内一冊は上下2巻の小説でしたので、10冊と言っていいのかもしれませんが、一桁になったのは、いつ以来でしょう。
9冊の内、小説が6冊、それ以外が3冊という結果です。

そんな中での、お薦めの一冊ですが、今回は全く迷うことなし。宮部さんのこの世の春。最高でした。傑作だと思います。感想にも書いてありますが、最初は妖しとかこの世ではないものなどが跋扈する物語かと思っていたのですが、読み進めて行くにつれ、そういった要素は姿を消し、ある意味非常に現代的な要素も兼ね備えた素晴らしい小説に仕上がっています。この冬に読む本に迷ったら、是非お買い求めください。絶対損はいたしません。

001/143
この世の春(上)(下)」宮部みゆき
文句なしに今年ナンバーワンの物語です。外れのない作家の名に恥じない一作です。ともすればオカルトに行ってしまいがちな彼女の真っ当な逸品です。現代医学の知己にも頼りつつも王道を外さない力量には参りました。上下2冊の長編ですが、恐らく5~6時間もあれば読み切れます、と言うかアッという間に引き込まれ、一気に読んでしまいます。滅茶苦茶面白い作品です。(11/5)

002/144
彼の小説は結構ハマります。特にこの北海道警シリーズは面白い。昔はミステリと言えば有能な探偵と間抜けな警察というのが通り相場でしたが、最近はよりリアリティが求められるのか、地道な捜査で犯人を挙げる警察官が主人公となったミステリが幅をきかせているようです。とはいえ、本流から外れたような刑事が、独特の嗅覚で真相にたどり着くというのはお約束のようですが。本作もその例には漏れないのですが、それを置いても一気の読めてしまう面白さです。(11/12)

003/145
AX」伊坂幸太郎
いっときは好きで読んでいた作家ですが、最近は少しついて行けなくなることがあって、しばらく遠ざかっておりました。今作は、恐妻家の殺し屋というアンバランスな組み合わせの男が主人公となったシリーズ物の完結編で、これなら大丈夫かなと思って読んでみました。昔に比べてかなり理屈っぽくなっているところはあるものの、比較的最初の頃に近いような読後感です。(11/19)

004/146
セックスと恋愛の経済学」マリナ・アドシェイド
原題DOLLERS&SEXと、かなり刺激的なタイトルですが、歴とした行動経済学の本です。本書では、恋愛も結婚もある種の経済活動と想定し、それにかかるコストとメリットを勘案して、意思決定していると考えます。何カ所か計算式も出てくるのですが、前提にしている数字が結構エエ加減で、それを前提に書かれてもなぁと言う気がします。ただ、この手の研究は決して舞えたらしい物ではなく、先行する研究が数多くあって、そこで得られたデータを頻繁に引用しつつ論が進められていきます。面白い本ではあるのだけれど、著者は女性であるにも関わらず、翻訳者が男性であることもあって、かなり扇情的な訳になっているのが残念です。(11/19)

005/147
ネメシスの使者」中山七里
彼の小説も結構好きで、外れっぱなしのこのミス大賞受賞者の中では、数少ない当たり作家です。ネメシスというのは、古代ギリシャの女神の名前で、義憤とも訳されている。物語は、凶悪犯罪を犯したにも関わらず極刑を免れた犯罪者の家族が、連続して殺害されるという事件がメインストリームとして展開される。そしてその犯人を捕まえてみれば、、。そして、終わったはずの事件が実は、、。という物語。彼にはつきもののおどろおどろしいシーンもなく、安心して読めます。(11/23)

006/148
宅配クライシス」日本経済新聞社編
今年の春先にマスコミを騒がせたヤマト運輸の危機を開設した日本経済新聞の連載記事を元に構成された本。何度も同じ内容の記事が出てくるのはやむを得ないところ。日本では、古くから物流に対する認識が低く、先の大戦で悲惨な戦争に突入していったのも兵站について何も考えずに戦線を拡大していったことが原因であると言われている。決して気合いで乗り切れるようなものではなく、単なるコストセンターでもない。宅配ネットワークは社会インフラであると言われた方があるらしいが、それも違うんじゃないか、あくまでサービスの一つなのではないかと思う。(11/23)

007/149
とるとだす」畠中恵
今は何シリーズと言っているのか、いわゆるしゃばけシリーズの最新刊なのである。安定の面白さで、安心して読めます。今作でも、若旦那が成長した姿を見せてくれます。(11/26)

008/150
観応の擾乱」亀田俊和
室町幕府の成立期、初代将軍である足利尊氏とその弟である足利直義との間で起こった戦闘で、凡そ20年にわたって行われた。ちょうど南北朝期に重なっていることもあって、何が何やら訳の分からない戦闘だというのが私の知識。結果的には、この戦闘を通して尊氏の権力基盤が強固なものになり、幕府の体制も固まったとも言える。そういう意味では必要な戦闘だったのかなとも思えるが、読んだ後も、何のための戦いだったのかは分からないままであった。本としては、戦闘の歴史を丹念に説明しようとするあまり、とても読みづらい構成になっています。もっと自由に筆を運んでもよかったのにとも思うが、こういう書き方しかできないような騒動だったのかもしれませんね。(11/26)

009/151
つぼみ」宮下奈都
彼女の新刊なのだが、実はここ十数年の間に書かれたものを集めたもので、残念ながら新作はない。いずれも凜とした素敵な女性が主人公で、うち数編はスコーレNo.4”のスピンアウト小説。読みやすい本でした。(11/26)


2017年11月1日水曜日

2017年10月

10月は、ほとんど本を読む時間が無く、計11冊で、うち小説が5冊、その他の書籍が6冊という結果でした。結構前半は順調だったのですが、中旬あたりから、夜に本を読む時間がとれなくなって、全く読まない日が続いてしまいました。昔なら、そんなときでも軽めのミステリ小説などを読んでいたものですが、この頃はそんな気にはなりませんでした。理由は特に無いんですがね。

ということで、数少ない中でのお勧めの一冊です。

小説では、久々に読んだアーチャーの本が良かったかな。彼の書く小説は、短編長編に関わらず結構好きで、長編では100万ドルを取り返せめざせダウニング街10番地ケインとアベルなどを若い頃に読んだことを思い出します。どれも面白かった。その後は、しばらく読むこともなかったのですが、本作のような短編集を何冊か拾い読みをしています。どれも外れがなくて面白い。本作もお薦めです。

東野圭吾さんの新作も面白いのだが、最大の見せ場あるべきメインストリームの謎解きがしっくりこなくて、少し残念なところです。でも全体としては面白く、お薦めです。

その他の本では、こうやって見ると歴史物が多かったですね。実は何度読んでも年号等は覚えられないけど、歴史特に日本史が好きなんです。本流であるところの政治史はもちろんですが、いわゆる民俗史というか、当時の人たち(支配層、庶民に関わらず)の暮らしにかかる歴史という物に大変妙味があります。ということで、目につくとすぐに買ってしまうのですが、読むスピードが追いつかず、積ん読になってしまいます。この月は、そんな本にも何冊か手を出しました。

というわけで、そんな歴史物も良かったのですが、あまりマニアックなのでそれらを除いた中からのお薦めですが、最近話題の宅配がなくなる日がとても面白かったです。この本は、今や飽和状態になってしまった宅配業務について、その課題を目新しい観点から分析し、ある種の解決策を提示しています。ぱっと見には良い策かと思えるのですが、どうも地方には目が向いていないのではないかと思えてしまいます。本来は、人口が減少し、超高齢化が進む地方にこそ、問題点はあるのじゃないかと思うので、そこを解決できる方策を、みんなが間あげないといけないんだろうなと思います。

11月に入り、一気に秋本番を迎えます。いわゆる読書の秋と言われる季節に突入するわけですが、さぁ今月は何から始めようかな。


001/132
この国のすがたと歴史」網野善彦、森浩一
日本を代表する歴史学と考古学の大家同士の興味ある対談集。二人ともその頭の中は一体どうなっているのだろうと思わせるほどの知識量に驚く。しかもそれぞれがお互いの分野にも垣根を越えて精通し、丁々発止の議論を戦わせるところも面白い。科学技術が発達することで、これらの分野でも新たに分かってくることが増えてきている。今後もこの両大家の想像のつかないような大発見があるかもしれない。(10/1)

002/133
当初は無関係に見えていた登場人物達が、実はいろいろと繋がりを持っていて、それが物語の進行とともに明らかになっていきます。途中からかなり荒唐無稽な物語になってきて、どこへ行くのかと心配になりましたが、無事に終わって良かった。(10/7)

003/134
花咲舞が黙ってない」池井戸潤
もともとは違うタイトルのシリーズだったものが、テレビドラマが当たったこともあって、そのタイトルを後追いで本のタイトルとしてしまった。内容的には、前作同様の組織内勧善懲悪もので、最後はスカッとするという物語で、すきま時間をつぶすにはもってこいの本。お出かけのお供でした。(10/7)

004/135
15のわけあり小説」ジェフリー・アーチャー
彼の小説は結構好きなので、時折気が向いて読みたくなる。長編小説もお見事なのだが、こういった短編集もウィットが効いていてとても面白い。著者自身はかなり毀誉褒貶に富んだ人物で、その人生も波瀾万丈である。ここにあげられた15の物語の内、いくつかは実話に基づく物語なのだそうだが、イギリスのゴシップに詳しくない我々としては、その区別には全く意味が無い。ある程度オチが見えてしまったりするものもあるが、基本的にはあっと驚く結末が用意されていて、なかなかに面白いです。(10/9)

005/136
『ぐずぐず』の理由」鷲田清一
いわゆるオノマトペといわれる擬音語、擬声語、擬態語にかんする評論。日本語には本当に多くのオノマトペがあり、地方によって違いもある。また、似たような言葉から派生したものもあれば、元になっただろう言葉とは全く関わりの無いような意味を持つようになったものもある。内容的には、とても難解で、読破するのに半月近くかかりましたが、それなりに興味深い一冊でした。(10/17)

006/137
劇場」又吉直樹
言わずと知れた芥川賞作家の受賞後第2作なのだが、実はその受賞作をまだ読んでいない。演劇の世界を志す青年が主人公なのだが、これがまたどうにもならんようなアカンたれで、読んでいてイライラくるような男。(10/28)

007/138
ネット通販が大隆盛を迎える中で、宅配の荷物が爆発的に増加し、いわゆるラスト・ワンマイルを担う部分に限界を超えるような付加がかかっていると言われている。とかく受領者のモラルに原因を求める向きもあるようであるが、本書では商品の選択支払いの各場面で同時性(ヒトとヒトが同時に存在することで成り立つ)が排除する方向で制度や技術が変化したにも関わらず、受け取りの場面では依然として同時性が求められていることに原因があるとする。そこで、その同時性を排除するための解決策をいくつか提示されているのだが、著者も言明しているとおり、都心部への人口集中がさらに進むことが前提となっており、地方では成り立たないのではないかと思えるような提案。本国のamazonは、自社内で物流機能まで抱えていることから、そこに弱点を持つ日本で、いつまでも外注しているとは思えない。いつかamazonが仕掛ける物流革命が起きるのではないだろうか。(10/28)

008/139
東京のホテルを舞台にしたシリーズ3作目(内1作は番外編)。本筋の殺人事件だけでなく、ホテルを訪れる人が織りなす様々な事件が、アクセントとして添えられている。相変わらず上手い展開で、面白く読んだのだが、サイドストーリーに手間をかけすぎたせいか、なぜか本筋事件の解決が甘い。残念だ。でもって、どうやらシリーズ第一作が来年には映画化もされるそうで楽しみなのだが、出演が、、、、(10/28)

009/140
禹王とは、存在が確認できる中国最古の王朝夏王朝の高祖で、紀元前2000年頃にいた人物だそうである。かの孔子も高く評価しており、中国国民にとっても誰もが知っている伝説の賢王であったらしい。その功績の一つとして知られているのが治水事業であり、当時暴れ川であった黄河を治め、国を大いに富ませたらしい。このと言う文字もという意を含んだ文字らしく、は古くは水害を表していたようで、それにちなんだ名とも思える。実は、この禹王が治水神として祀られているのが、日本であることはほとんど知られていない。古くは、京都の鴨川原にも祠があったようであるが、現存はしていない。本書は中国人の目から見たある種の文化論なのであり、自己を省みるには興味深い書である。ただ、禹王の伝説は周知のものとして、ほとんど触れられていないので、それが少し残念。(10/29)

010/141
香港出身の歴史社会学者による日本社会史論。なかなか気がつかない独特の視点で書かれており、とても面白い一冊だった。明治維新以降の近代化(つまりは、資本主義、民主主義の導入)をはかる上で、結果的に鉄道敷設が果たした役割は大きなものがあった(だたし、それはかなりいびつな形であったが)。そんな単純なものではないと、認めたくない気持ちもあるかもしれないが、冷静かつ客観的に結果から類推すれば、そういう結論が出てくるのだろう。実際、現在の新幹線神話、争奪戦を見ていると、まさにタイトルどおりなのではないかとも思う。国内の至る所まで鉄道網が張り巡らされ、しかもその中心点が一つであるような国家を私は知りません。ドイツなどはそれに近いと思うが、ネットワークはまさに網であって、中心点は存在しない。そういう意味でも、改めて著者の指摘は、相当に的を射た指摘なのではないかと思う。(10/30)

011/142
国家神道」村上重良
今から凡そ50年前に書かれ、今も読み続けられている名著と言っても良いでしょう。かなり古い言い回しで書かれていたり、明治期の法令が原文のままで書かれていたりと、かなり読みにくい本でしたが、明治維新以前にあった神道が、それ以降の国家神道政策に蹂躙され壊滅的な打撃を受けた様がとてもよく分かります。この書によると、書かれた当時は、再び国家神道の復活に向けた動きが活発になったとされているのだが、まさかそれはないだろうと思うのですが。最近は気の向くままに彷徨することが多く、その際は、そこにある神社仏閣にお詣りすることが楽しみの一つになっています。特に神社に行くと、本来の御祭神と明らかにその後に付加された祭祀が混在し、本来持っていたであろう土地の人たちに親しまれ愛された神々が遠くに押しやられてしまっているような印象を受けることがあります。もう一度本来の姿に立ち戻った方が良いと思うのですが。(10/31)


2017年10月3日火曜日

2017年9月

9月は、計15冊。うち小説が6冊、その他が9冊という内訳でした。まぁ、平均的という感じですが、新書が5冊もありますね。これらはほぼ通勤時に読んでいます。結構順調に読んでいますね。

さて、そんな中でのお薦めの一冊ですが、、

小説では、これだ!という本がなくて、あえて言えば少し古いですが、紙の月が面白かったです。彼女の小説は、映像化されて物がたくさんあって、そのどれもが結構評価が高いというのが特徴です。決して映像映えするというような小説ではないのですが、監督の腕の見せ所という部分もあるのかなと思います。

その他の本は、結構面白い本がたくさんありました。

あえて選ぶなら、AIが人間を殺す日と言う本が、とても面白かったです。感想の中でも触れていますが、かつてアシモフが考えたロボット三原則と言うものがあって、創作にもかかわらず、何となく皆の前提となっているような気になっています。しかしながら、それは幻想なので、どこかでルール(もちろんみんなが守ることが大前提ですが)を作らないと、とんでもない世界ができあがってしまうような気がします。少し恐ろしい。

続く物としては、埋もれた都の防災学は面白かったです。多くの場合災害は同じ場所を繰り返し襲うもので、その間隙には1年から数千年に至るまでの幅があります(歴史的に分かる範囲の話ですが)。古来、政治というのは、治水に代表される防災に係るものが、その多くを占めていました。そして、それは今も変わらないことだと思います。東日本大震災からの復興が望まれるところです。

それ以外にも、うつわを食らう禅語百選信じてはいけないなどもとても面白かったです。いずれもお薦めですよ。


001//117
今注目の技術、というか機能、システム。なんと言えば良いのでしょうか。いわゆる人工知能というヤツなんですが、世界的に研究が進んでいます。チェス、囲碁などのゲームの世界では、すでに人間の力を上回っていると言われており、あらゆる分野で導入が進んでいます。そんな中で、特に人の命に直結するであろう3分野について、現状と課題について掘り下げて検討されています。ある事象に対してAIがある答えを出したとき、人間側が、その思考経路をトレースして、検証できる状態にあれば、なんとなく安心できるのですが、どうやらある段階に達してしまうと、それがブラックボックス化してしまい、なぜその答えが出てきたのか、誰にもその理由が分からないという状況が生まれるようです。機械を全面的に信用するのではなく、人間のチェックを必須とするか、或いはヒューマンエラーを排除するため、機械に全面的に委ねるのか。かつてアシモフが考えたロボット三原則に勝るとも劣らない、新たな哲学的問題に直面しています。(9/7)

002/118
バベル九朔」万城目学
これまでの彼の作品とは一風変わった印象を受けます。現実世界とは、少し違う世界。感覚から言うと、一つか二つ隣の世界であった万城目ワールドが、今作では一気に10個くらい離れた世界と繋がってしまった感じ。どうも、読みながら心の中で風景を描くことが難しくて、たまたま今回のように途切れ途切れに読んでいると、尚更その心象風景を再構築することが難しく、ちょっと苦労しました。(9/7)

003/119
最近の考古学の世界では、前の震災の影響からか、過去の災害の痕跡を研究することにスポットが当たっている感がします。特に東日本大震災で未曾有の被害と言われた津波災害ですが、過去同規模の津波が内陸深くまで襲ったのではないかと言われています。この本では、地震だけでなく過去に起こった土砂災害や水害などの痕跡を調査し、災害が起きやすい地形についても言及している。昔、砂防課にいた頃に学び親しんだ音羽川災害デ・レーケ堰堤などには、ついついニヤリとしてしまった。(9/9)

004/120
失われた地図」恩田陸
なんとなく読んでいる分には良かったんだけど、最後までうまく理解できなかった。そういう意味では先日読んだバベル九朔に近いものがあるかも。彼女の描く不思議世界は、うまくはまると、その世界にドップリとはまり込んでしまって面白いのだが、最初にきっちりはまらないと、ちょっと苦労する感じ。私にとっては、後者かな。(9/10)

005/121
ジュンク堂書店というリアル店舗で、書籍の販売に携わっている方が書かれた本です。なぜか知らないけど、作者にはエラく難解な単語を使おうとする癖があるようで、もう少し優しく書かれて方が良かったのになぁと残念に思います。さて、私も、私の目の黒いうちは紙の本が滅びることはないだろうと考えていますが、未来永劫にかといわれると、さすがに自信がありません。この本の中では大きく一章をさいて、デジタル教科書について書かれています。私も、副教材としてデジタル教材があると、理解の手助けになるかなと思うだが、教科書本体がデジタル化されてしまうことには、一抹の不安があります。書かれている中身は同じでも、デジタルの平面的な画面よりアナログな紙の本の方が、見た目にも奥行きがあって、思索の深さも深まるような気がします。(9/12)

006/122
SNSを使うことが当たり前になってきて、誰もが陥りやすい誤りについて弁護士の方々が解説した本。書かれたのが3年前なので、今はさらにネット社会は広がっていますし、アプリケーションの機能も(良くなっているか、悪くなっているかは別にして)さらに変化しており、私たちが心ならずも加害者被害者になってしまう可能せいが高まっています。でも、おそらくそういうこと気づかなければいけない人たちこそ、こんな本には目もくれないんでしょうね。残念です。(9/13)

007/123
この作家のことは全く知りませんでした。時代小説を結構書いてらっしゃるんですね。長崎県壱岐島出身らしくて、海をテーマにした作品をたくさん書いておられるようです。本作は、いったん隠居したものの、請われて総目付として復帰した十時半睡を主人公とする短編集なのだが、事件帳とはいいながら、いわゆる謎解きを刷る物語ではなく、浄化で起こった様々な事件を老練に裁いていくという物語。決して謎を探って解決しようという物ではありません。(9/16)

008/124
私たちが普通に使っている食器について、その歴史などについて詳しく紹介した物で、今から20年ほど前に出版された物を、再び改版して再発行した物。今の仕事の関係もあって、興味を持って読んでみました。この20年の間に大きく変わってしまったことがあって、それが異常に発達したコンビニエンスストアと独居世帯の増加。この二つは日本人の食生活を大きく変えてしまったと考えています。を使わない食生活が、日本人の生活に急激に広まっているような気がします。こういった社会の中で、如何にを使ってもらえるように働きかけるか。とても難しいことです。(9/17)

009/125
終戦直前にこんなことがあったとは。寡聞にして全く知りませんでした。いわゆる731舞台と同様に、戦時下の狂気といってしまえばそれまでなんですが、よくこんなことができたものだと空恐ろしく感じます。そして、それに増して恐ろしいのが、責任を部下に押しつけて、自らは助かろうとする汚い連中の動き。戦中は強固な権力を握っていたはずの軍部の無責任さ。かつて中空構造と揶揄された今も変わらない日本の権力構造がそこにある。(9/17)

010/126
紙の月」角田光代
数年前に映画化された作品。日常の繰り返しの中で、ふとした弾みでお金に絡む犯罪を犯してしまう女性が主人公。淡々と描かれる日常の風景と犯罪に手を染めてしまう一瞬の対比がとても恐ろしい。映画は残念ながら見ていないのだが、結構面白そうな感じです。そういえば八日目の蝉も原作、映画ともに面白かった。(9/18)

011/127
ひとめぼれ」畠中恵
時は江戸時代、町名主とその見習い、さらには同心見習いの幼なじみ三人が、町内で起こる様々な事件を解決していくシリーズ物。どうも、途中の一冊を飛ばしてしまったような気がするのだが、あまり気にせず読んでみた。この作者のもう一つのしゃばけシリーズが、が跋扈するSFちっくな物語であるのに対し、そういった飛び道具に頼ることなく、読ませてくれるということもあって、気に入っているシリーズである。今作でも主人公達の人生に大きく関わる出来事を大筋としながら、ちりばめられたいろんな事件を解いていく。ところで、途中にとても魅力的な人物が登場するのだが、ひょっとして今後もこのシリーズに登場してくるのだろうか。そうなったらいいな。(9/19)

012/128
前身となった組織を含めるとまもなく発足70年になる自衛隊の最大の活動となった東日本大震災についての記録である。自らも家族も被災者でありながら、ほかの被災者を最終戦に行動する彼らの姿は非常に美しい。特に福島原発事故での活動は、そのが見えないだけに、恐怖心たるやいかばかりかと思われる。国内外を問わず、こういった災害が発生すると、訓練された軍組織が、その救援や復旧に当たるとことになっている。本当は、両者を切り離して考えるべきだと思うんですけどね。日本のように大災害が毎年発生するような国には、災害救助のための専門組織が必要だと切に思います。(9/24)

013/129
我が家のお寺が曹洞宗ということもあり、には少なからぬ興味があります。以前からここにもそれに関する本を紹介していましたが、これもその一環。この本は、禅について書かれた書物の中から100の言葉を選び、その解説をする中で禅についての理解を深めようというものです。ただ本当は、理解するという態度が禅からは大きく外れています。曹洞宗の開祖である道元が説くとおり只管打坐というのが、禅に取り組む唯一の道なのです。之は難しい。(9/24)

014/130
帰ってきた腕貫探偵」西澤保彦
いわゆる安楽椅子探偵物。自らは捜査することも行動することもなく、与えられたヒントだけで謎を解く。このシリーズの場合、その探偵が、よろず相談窓口である市役所の苦情相談係の出張サービスをする公務員というところにおもしろさがある。結構好きで読んでいる。今作では、特に事件を解決すると言うより、本当に日常の困りごとに一つの解を与えるという物語になっており、ついに幽霊までが相談に訪れる。これまでより、若干重く感じてしまうのは気のせいか。(9/29)

015/131
いまやインターネットの世界では、ありとあらゆる情報が乱れ飛んでおり、受け取る側の私たちにも、その情報の真偽を判断し、嘘を拡散しないようにする能力が求められている。ここにあるフェイクニュースというのは、何らかの意思を持ってでっち上げられた、根拠に乏しいニュースのことを指し、昨年のアメリカ大統領選挙の結果を左右したとも言われている。まぁ、その大統領自身がフェイクニュースをばらまいているというのだから、なにをか況んやであるが。真実を見極める能力と自分に都合の良いことだけを信じるのではない謙虚さを大切にしたい。(9/30)

2017年9月2日土曜日

2017年8月

8月はちょいと少なめ、計14冊で、小説とその他が7冊ずつという結果でした。
暑さのせいか、休日もあまり本を読む気になれなかったと言うこともあるかと思います。

そんな中でのお薦めの1冊ですが、小説では昨年のベストセラーの1冊でもあった“桜風堂ものがたり”がとてもおもしろかったです。本文でも書いていますが、“悪人”が出てこない小説で、どの登場人物に心を重ねても安心して読むことができます。また、実際に書店で働く人たちの様子がとても巧く描かれていて、全国の書店員さんに愛されたと言うこともよく解ります。心温まりたい方にはお薦めです。

それ以外の分野では、アイドル本なども読んでしまいましたが、講談社のブルーバックスを3冊集中して読みました。昔からこのシリーズが好きで、時折取り憑かれたように集中して読みたくなることがあります。今回はたまたまその周期に当たったみたいです。いずれもとてもおもしろかったですが、特に地球の歴史に関する2冊は秀逸でした。誰も見たことのない過去の歴史が、こういった地道な研究で少しずつその一端が垣間見えてくることに、大いなるロマンを感じます。自然科学が苦手な私にもとてもわかりやすく書かれていて、お薦めです。

8月は、何故かいろんな人から、いろんな本を教えられ、薦められることの多い月でした。
こうやって、自分の読書記録を公開することは、とても恥ずかしいことなのですが、人から薦められる本というのは、自分では絶対手を伸ばさないだろうなと言うような本もあって、とても興味深い物があります。今年の残りは、そんな本も読んでいきたいと思っています。

001/103
朝日新聞紙上でのコラムをまとめたもの。書かれている中身は興味深く面白いものもあるのだが、字数に限りがあるためか、数多く引用されている他の書籍や記事などの内容までは書かれておらず、非常にストレスがたまる構成になっている。ちょっと読みづらい。(8/4)

002/104
あまりに外れが多くて、絶対に手を出してはいけないと思っているこのミステリがすごい大賞の受賞作。そんな先入観はいけないと、久しぶりに読んでみたのだが、残念ながら私には合わなかった。末期ガンの治療を巡るミステリで、専門用語も多数出てきて、それだけでも詰まりがちなところ、文章自体のリズムも私には合わない。どうもこの賞とは相性が悪いようだ。(8/6)

003/105
刺激的なタイトルに惹かれ図書館で予約。このタイトルは、当初計画されたような規模の平安京は、そもそも必要なかったのではないかということを問うている。794年に造営された平安京であるが、結局のところこの造営計画は完成を見ることなく終わっている。その理由を著者は大きく二つあげている。まずは実用的ではなかったということ。実際この都は、大内裏から羅城門へ向かう朱雀大路を中心に、左京右京に分かれているが、この大路が幅80m以上もあって、なおかつこの大路に面して門を造ることはできないとされていて、ほぼ人や物が流れる道路としては設計されていない。もう一つは大きすぎということ。現に、都城の辺境地域になると、ほぼ人が住まない土地であるとともに、実際何度も災害で消失した後も、同規模で再建されることがなかったことが判っている。だが、この巨大なる都市計画のおかげで今の京都は、存在できているわけで、その建設趣旨は最後まで全うできなかったとしても、その後何度かの政権交代を重ねつつできあがった今の京都の基礎は平安京にあるといえるのではないでしょうか。(8/16)

004/106
桜風堂ものがたり」村山早紀 
昨年の本屋大賞にノミネートされ、各書店に山積みされているのを見て、とても気になっていた本でした。今は大変厳しくなったリアル書店の店員さんが主人公の物語です。いろんな書評を読んでいると心暖まる”“泣けるといったフレーズが並んでいるのですが、私が本当にいいなぁと思ったのは、作中に一人の悪人も出てこないことです。唯一出てくるのは、不特定多数の大衆という悪人達で、匿名性の殻に隠れて、一人の書店員の人生を狂わせます。本のあとがきにも書かれているとおり、どうやらこの物語は、長い物語の序章のようで、今後シリーズ化もされるようです。ちょっと彼女の本が楽しみになってきました。(8/18)

005/107
よるのばけもの」住野よる
悪意に充ち満ちた中学生の物語。とある同級生をいじめることで、とりあえずの均衡を保っているクラスでボロを出さないように振る舞う少年が主人公。周りの空気を読みすぎて、心の中に大きなを抱えすぎたせいか、深夜になるとその姿形を変え、ばけものと化してしまう。その主人公が、本当の気持ちを吐露したことによって、ばけものは姿を現さなくなる。(8/19)

006/108
火天風神」若竹七海
猛烈な勢力を持った台風が直撃する湘南のリゾートマンションを舞台に起きるパニックミステリ。極限の状況に置かれた登場人物達は、心の奥底に潜む悪意を剥き出しにし、お互いが疑心暗鬼になる中で、恐怖の一夜が明ける。彼女の小説は好きなのだが、これでもかというくらい人の悪意が描かれると、ちょっとやり過ぎじゃない?と思ってしまう。(8/20)

007/109
すべての理由」山本彩
アイドル本なのですが、ついつい興味があって読んでみました。華やかな世界で働く著者ですが、現在の状況からは考えられない挫折の時期も経験しているそうです。この本を読む限り、相当にまじめなタイプのようで、そんな人にこんな仕事が務まるんかいなと心配になってしまう。(8/20)

008/110
地球の歴史をたどる旅はとても興味深い。今私たちの地球は温室効果ガスの影響で、徐々に温暖化していると認識している。しかしながら、地球上に残された様々な痕跡を見ると、気が遠くなるほど長い地球の歴の中では、決して異常に暖かい状況ではないことが判っている。残念ながら、過去の気候の歴史が判ったところで、今後の地球環境の行方が明らかになるわけではない。でも、私たちには想像もできない方法で、過去の痕跡を探す作業は、とても面白い。(8/24)

009/111
秋山善吉工務店」中山七里
彼にはとても珍しいタイプの小説。突然の火災で父を亡くし、その父の実家に身を寄せた母子が、最初は疎ましく思っていた祖父秋山善吉に心を開いていく物語。そこに火災の原因を探る刑事が絡んで、ミステリの要素も兼ね備えるとても面白い物語。一章ごとに主人公が替わり、主人公の真っ当な生き方に惹かれていく様が気持ちよい。ミステリとしての完成度はそれほど高いわけではないが、下町人情物語としては、いい感じの小説である。(8/25)

010/112
シリーズ第二弾。あまり物事を深く考えたくて、気分転換に読みたい本が欲しいときにお薦めします。それくらいの本です。私は休日のお出かけのお供。バッグに忍ばせて、列車に乗りました。(8/26)

011/113
ヒポクラテスの憂鬱」中山七里
これまたシリーズ第二弾。大学の法医学研究室が舞台。変死事件を扱う法医学者であるが、予算の関係で、解剖に廻される変死遺体は、ほんの一部。この小説では、変人でありながら絶対的な知識と技術、経験で、隠された真実を白日の下にさらすカリスマ法医学者と彼の下で修行する新人、さらには埼玉県警の刑事が絡んで、いろいろな事件を解決していく。さらに今回からはラブロマンス(?)的要素もちらほらと。(8/28)

012/114
私たちが毎日口にするお茶について、その歴史、おいしさの秘密、さらにはおいしく飲むための淹れ方までを詳しく解説する本。今回は図書館で借りて読んでしまいましたが、本来は手元に置いて、折に触れ参照する方が相応しいような一冊です。今の我が家では、自宅ではティーパックで飲むことが多くて、昔のように急須で淹れるということはほぼ無くなりました。また、昔はわざわざ買ってまで飲む代物でもありませんでしたが、最近外出先で水分補給する際は、緑茶かミネラルウォーターというのが定番になりました。本当はここに書かれているように、丁寧に淹れたお茶を楽しみたいものです。(8/29)

013/115
とても面白い本です。我々が暮らす地球の表面を覆う海、すべての生命の源と言われていますが、その海がどうやってできたのか、原子のはどのようなものだったのか、そして何よりもはどこから来たのか。46億年に及ぶ地球の歴史を一年間のカレンダーに置き換え、現在のような海になるまでがわかりやすく書かれています。それで言うと、地球に海が誕生したのは、2月9日頃になるようです。すべては、太陽と地球の絶妙な距離がすべての源だったんですね。これは人と人の関係にも言えるかも。(8/31)

014/116
誰がアパレルを殺すのか」杉原淳一、染原睦美

日本経済新聞系の雑誌記者が書いたアパレル業界のレポート。今の仕事は和装などの伝統的な工芸品産業を振興することが中心になっており、これもある種のアパレル産業であろうと、とある方が薦めておられたので買ってみました。かつて、作れば売れると言われたファッション業界が、ニーズを無視した商品作りや独特の商取引、ある種構造的な業界特有の問題点をないがしろにしてきたことから、一気に衰退が始まったようです。また、それが一業種にとどまらず、百貨店や巨大SCなど流通業者の主力商品であったことから、連鎖的に流通業界の衰退へと繋がっていきます。実はこれって、きものがたどってきた道と極めて似ていると思ってしまいます。だからといって将来への答えがあるわけではないのですが、考えるヒントとなる一冊でした。(8/31)

2017年8月20日日曜日

2017年7月

7月は計17冊で、うち小説が9冊、その他が8冊という結果でした。
暑い日が続きましたが、なんとなく数は思ったより多かったかな?

そんな中では、小説以外の本、特に新書に面白い本がたくさんありました。なかでも面白かったのは漢字と日本人。かなり前に出た本で、別の本の中で紹介されていたのをが気になって買い求めた物です。同じ新書の翻訳語成立事情もとても面白く、気がつくと、いわゆる言葉であったり国語であるようなテーマの本が今月は多かったですね。

先月のブログで、とても面白い本を読んでいると絶賛していたのが、この翻訳語成立事情でした。

もともと、言葉には興味があって、いろんな本を読んだが、日本語を漢字で表すことの不自然さについては、全く気がつかなかった。考えてみれば当たり前のことだが、漢字がこの国に到来する前から、この国には話されている言葉があって、たまたまその言葉を書き表す文字を持っていなかっただけ。そのため、この外来の文字を使って日本語を表記するために、いろいろな工夫をする。とにかく面白い一冊です。

小説では、すでに評価されたベストセラーも良かったですが、諸田玲子さんの時代小説も意外と良かったです。もう少し読んでみようかなと思わせてくれました。

さて、7月は比較的読書も進んだのですが、8月に入って暑さがさらに増し、若干読書は低調気味で、先月の半分にも届かないのではないでしょうか。少し的を絞って、興味を引きそうな本を中心に読んでいこうかなと思います。

001/086
阿蘭陀西鶴」朝井まかて
最近文庫化された一冊。お気に入りの作家なので、早速買ってみた。主人公はご存じ井原西鶴、彼の娘の語りで話は進む。この娘は実在する人物で、目が不自由であったらしいが、この本に描かれているような人であったか否かは定かではない。破天荒に見えながら、人一倍この娘をかわいがっていた西鶴の姿が垣間見えて微笑ましい。目が見えていない人の心象を推し量りながら見事に描かれている。と思う。(7/1)

002/087
燃える闘魂」稲盛和夫
プロレスラーが書いた本ではなく、経営の神様が書かれた本である。経営破綻した日本航空の経営再建を成し遂げた後に書かれた本で、著者が考える企業経営においては、燃える闘魂こそが最も重要と説いている。とは言いながら、単なる精神論ではなく、それ以前にリーダーとして、自分と他者を冷静に観察し、目標を確と定めたなら、その目標に向かって不屈の闘志を持って臨まなければならないと説いている。(7/1)

003/088
はじめてわかる国語」清水義範
著者が、学校で習う教科について著した随筆シリーズの一冊。著者自身が国語の教員免許を持っているということもあって、かなり完成度の高い一冊である。思えば、彼の小説を初めて読んだのは、国語入試問題必勝法だった。風刺の効いた内容にしびれた記憶がある。さて、私にとっても国語という教科は、非常に不思議な教科で、勉強の仕方というのが全くわからず、唯一の勉強法というのは、本を読むことかなぁ、と単純に思っていた。そういえば、昔は批判的に読むことは許されなかったよな。それが許されるようになったのは、大学に入ってからだったろうか。その頃から、ノンフィクション物が読めるようになった気がする。おかげで読書の幅が広がりました。(7/2)

004/089
手のひらの京」綿矢りさ
昨年出版されて、綿矢版細雪として話題になった一冊。たまたま図書館で見つけて借りることができた。期待に違わぬ面白さで、とても満足度の高い小説だった。主人公は代々京都市内に住む一家の三姉妹で、それぞれが全く違うキャラクターに描かれており、それぞれが非常に魅力的である。みんなが悩みながらも溌剌と活きており、休むことなく最後までぐいぐい読まされていく。最後の一章は衝撃的で、この先どうなるのかと気を持たせて終わることも心憎い。ところで、読み終わってから、ふと思ったのだが、この手のひらって、誰の手のひらなんだろう。(7/2)

005/090
ありがたいことに、今の私が働いている部署にいると、ここに書かれているようなことにとても身近に接することができます。規模の拡大を追いかけない。人のまねをしない。目先の利益を追いかけない。ほんまに京都ちぅところは、難しいところですわ。と京都にいても思います。でも、少しわかってくると、どこに地雷があるかなんとなく分かってきます。面白いところです。(7/8)

006/091
シリーズ物なんですが、最初の頃に比べて面白みがなくなってきたなと思っていたところ、ひょっとしてさらばなのかな?作者得意の軽めのコミックミステリなんですが、最初に犯人が分かっている倒叙式のミステリというとても面白い形。かなり無理矢理感があって、しんどいなと思ってしまった。(7/9)

007/092
翻訳語成立事情」柳父章
これは、おもしろい。明治維新前後から西欧諸国との交流が活発化し、新しい言葉が押し寄せてきた。それは言葉だけでなく、その言葉が含んでいる概念もセットで伝わってきたのだが、その概念に相当する日本語が存在せず、相当に苦労しながら、新たな言葉を当てはめていったようである。この本の中では、社会”“個人”“といったような言葉もあげられており、その言葉に落ち着くまでの様々な言葉が紹介されている。面白いのは、それまでになかった概念を含む言葉に、漢字を当てはめたことによって、その漢字が持つ概念が、逆に元の言葉の概念を理解するにミスリードをしてしまう傾向が見られるという指摘である。考えてみれば、漢字が日本に入ってきたときにも、従来の大和言葉と外来の漢字とを相応させる作業をやっていたわけで、固有の文字を持たない日本は、同じようなことを繰り返してきたのだなと改めて思う。(7/9)

008/093
夢十夜」夏目漱石
急にふと読みたくなって、読みました。かなり寓意に満ちた作品群で、すぐに読めるところも嬉しい。彼にしてはとても珍しいタイプの小説で、なぜこんな物を書こうと思ったのか。その動機が気になるところである。(7/11)

009/094
巷説百物語」京極夏彦
人気シリーズの第一作。読みながら気になったのだが、ひょっとして前に読んだことがあるかも?でもなんとなく楽しめたので、最後まで読みました。(7/16)

010/095
最近百年後の日本を想定し、京都の伝統産業政策はどうあるべきかを考えるための材料として読んでみた。現在に比べて、人口は確実に減少するし、今消費の中心にある豊かな高齢者も確実に減少していることだろう。その中で、限りある生産年齢に属すると言われる人たちが、どの分野の産業に従事してもらっていることが、日本の未来にとって望ましいことなのか。そんなことを頭の中でぐるぐると考えてしまった。まぁ、こういった書物の常として、解決策は提示されていないので、だからどうなんだという突っ込みどころが満載です。(7/17)

011/096
翼がなくても」中山七里
途中で結末は想像ついてしまい、著者渾身のトリックなのかもしれませんが、かなり無理がある筋書きだと思われます。怒濤のようにたたみかけるいつもの調子ではなく、最後まで比較的タンタンとする進み、この著者にとっては、やや珍しいタイプの小説です。つまり、ちょっと期待外れでした。(7/17)

012/097
発達障害などの子供たちを対象にした東京大学先端科学技術研究センターの異才発見プロジェクトについてのルポルタージュ。この本を読む限りにおいては、なかなかに進んだプロジェクトのようなのだが、これだけの手間暇をかけても、対象にできるのは20名程度の子供たちだけ。今本当に重要であるはずの未来への投資である教育への政策、投資があまりにも貧困ではないか。(7/18)

013/098
かなり初期の頃の彼女の連作短編集。ちょっと斜に構えた感じの魅力的な主人公が活躍するあたりは著者の本領発揮である。大きな犯罪ではない、日常に潜む小さな謎を解くミステリって面白いですね。好きです。(7/19)

014/099
京都を舞台にした小説を多数世に送り出している著者の対談集。いろいろ興味深い人たちと話し合うのだが、同じ京都大学出身で、京都を舞台にした小説を書く万城目学氏との対談が興味深かった。先月、テレビの対談でも二人を交えた鼎談があって、そのとき、とても面白く視ていたのだが、二人の物書きへの考え方、取り組み方の違いが垣間見えて、秀逸である。こういう本の出し方もあるんだね、という別の驚きも。(7/24)

015/100
ベストセラーになった君の膵臓を食べたいを書いた著者の小説。非常に特徴的で独特の語り口の小説で、内容もとても面白い。それぞれの登場人物の特性が際立っていて、常にお互いがお互いを思いやっている彼ら彼女らの振るまいが、とても爽やか。へたしたら際物扱いになりかねないような素材、設定でありながらも、素晴らしい青春小説に仕上がっており、なかなかやるなぁ、とうなってしまう一冊。(7/25)

016/101
漢字と日本人」高島俊男
こいつは面白い。別の本を読んでいた中で紹介されていた物で、今から17年前に出版され、当時ベストセラーにもなったらしい。何年ながら当時は全く知らなかったのだが、そんな事情で、今手にして読んでみた。もともと文字を持たない国であった日本が、海外から移入された文字漢字を使って、当時の大和言葉を書き表すようになり、それがために今もなお、ある種の無理が生じている。とにかく面白い一冊。別に漢字マニアでなくても十分に楽しめます。(7/26)

017/102
狸穴あいあい坂」諸田玲子

彼女の本は初めて手にする。どんなもんかなと思って手に取ってみた。時代物の小説が結構好きで、いろいろと手を出しているのだが、この本も結構面白い本だった。ある種の謎解き物なのだが、火盗改めの孫娘が主人公で、町方同心との恋物語が横軸となって、なかなかうまい話に仕上がっている。この小説は何冊かシリーズ化されているようで、機会があれば続きを読んでみよう。(7/29)