灼熱の7月は、小説が7冊、その他の本が15冊で、合計22冊というかなり偏った結果でした。
小説ばかり読んで、その他の本をほとんど読まない時期もあったのですが、その揺り戻しでしょうか、一冊の本をきっかけに数珠つなぎのように関連書籍を読み続けるという流れとなりました。
てなところで今月のお薦めですが、初めて読んだ作家さんに良いものがありました。
まずは『僕の悲しみで君は跳んでくれ』です。なかなか情景が浮かびにくい描写でしたが、様々な視点から語られると、その情景が浮かび上がってくるのが不思議です。若さがあふれる物語は、おじさんには眩しかったです。
もう一冊は『その本はまだルリュールされていない』です。『ルリュール』という言葉はこの本で初めて知りましたが、ヨーロッパには古くからあるお仕事ですね。主人公の心の動きが或る意味もどかしくザワザワする感じもあって、ページをめくる手が止まりませんでした。とても面白かったです。
数ある小説以外の本からも二冊お薦めしたいと思います。
まずは『無理しない観光』です。私自身は観光振興の業務に直接かかわったことはありませんが、常日頃思っていたことが、しっかりと言語化されていて、読みながら腑に落ちる部分がとても多かったです。観光振興で町おこしが如何に難しいか、良く理解できると思います。行政の担当者の皆さんは読まれない方が良いと思うような一冊でした。
もう一冊は『厚利少売』という本です。こちらは、偶々図書館で見かけて読んだのですが、京都の伝統産業振興を進めている立場からとても参考になることが書かれていました。関係されている皆さんにはことあるごとにお薦めしているのですが、内容的にも分かりやすく書かれているので、この手の本は苦手という方にもお薦めです。
7月は22冊のうち、積読を解消できたのは若竹さん関連の二冊のみ。せめて毎月五冊くらいは解消していきたいのですが、関連書籍数珠つなぎが続いているので、それも難しく大いなる悩みどころです。
猛暑が続くとなかなか本を読む気にもならず、お散歩も滞りがちで、自宅で冷房をかけながら呑んだくれていることが多くなりましたが、体と脳ミソのためにも、生活習慣を改善した方がよさそうですね。反省します。
001/124
「知識ゼロでもだいじょうぶ withコロナ時代のためのセキュリティの新常識」那須慎二
こちらもいわゆる企業向けのハウツー本で、最近注目が集まっているセキュリティに関する概説書です。私自身企業の現場で働いた経験がなく、実態が良く分かっていないのですが、私が経験した職場では、結構ルーズな取り扱いがされていたと改めて認識しました。また理論としてわかっていることと実践できることは全く違っていて、実践させるための仕組みづくりこそが重要と気が付きました。(7/2)
002/125
「ビジネスと人権 人を大切にしない社会を変える」伊藤和子
最近出版された新書で、出版時からとても気になっていました。近年、企業の社会的責任とかCSRが”ブーム”になったことがあって、あたかも企業の人権意識は高まってきたかのように思われていましたが、ジャニーズ問題やそこに所属していたタレントのおぞましい行動、それを知っていながら容認していた多くの大企業。それが明るみに曝され、ビジネスの世界で人権を踏みにじる行為は、むしろ褒められる行為であったことも明らかになりました。もちろん最も大きな責任を感じなければいけないのは、我々消費者であることは論を待ちません。いろんなデータやレポートが紹介されていて、参考にはなったのですが、書籍としては総花的である印象は免れず、もう少し具体例が紹介されていればよかったのになと思いました。(7/4)
003/126
「『無理しない』観光 価値と多様性の再発見」福井一喜
これは面白かったです。昨今の観光立国至上主義にある種の疑問を持っていた身としては、かなり腑に落ちる内容でした。地域振興のために観光に頼るというのは既にブームのようになっており、どこの自治体も力を入れ、特にインバウンドに対する期待は大きいものがあります。しかしながら、結局のところインバウンドでお金が落ちるのは、東京を中心とした大都市に限られており、却って地域間格差が拡大し、地方はさらに衰退するということがデータからも実証されています。タイトルは『無理をしない観光』となっていますが、私は観光振興なんて考えは捨てて、『暮らしやすい地域づくり』こそが結局は地域を救うんだと読みました。行政の担当者にも読んでほしい、とても興味深い書物でした。面白かったです。(7/4)
004/127
「金庫破りとスパイの鍵」アシュリー・ウィーバー
こちらは、シリーズ前作を読んで面白かったので、借りてきた第二編です。前作で第二次大戦下のイギリス諜報部の手伝いをすることになった主人公の金庫破り。今作も持ち前の行動力と推理力で敵国スパイとの戦いに挑みます。結果が判っている勧善懲悪のスパイミステリで、安心して読めます。最近第三巻も出版されたので楽しみに読みたいと思います。(7/6)
005/128
「図解 知識ゼロからの協同組合入門」監修 杉本貴志、北川太一
今年は国際協同組合年だそうで、行き過ぎた資本主義を修正する仕組みとして、国際的にも『協同組合』という社会形態が見直されているそうです。ただ日本の場合、その行動には法的な規制が強くかけられていて、世界で期待されているような活躍は難しそうです。私が特になじみが深いのが『中小企業事業協同組合』という存在でして、数ある協同組合のなかでもかなりの少数派です。相対的に弱い存在である中小零細企業にとっては、協同化して事業を進めることが、強みに繋がると信じています。この本で、『労働者協同組合』という制度?存在を初めて知りました。ちょっと勉強してみようかと思います。(7/8)
006/129
「僕の悲しみで君は跳んでくれ」岡本雄矢
初めて読む作家さんで、全く知らなかったのですが芸人さんでいらっしゃるのですか?内容はとてもピュアな青春小説です。とある高校で一緒になった6人の男女が、7年後に再び巡り合う。恋愛要素は希薄で、仲間を信頼し合う情景がとても美しく、癒されます。なかなか良い小説でした。(7/9)
007/130
「厚利少売 薄利多売から抜け出す思考・行動様式」菅原健一
『薄利多売』の反対語として考えられた造語ですが、京都の伝統工芸を振興するという職業柄、そのヒントになればと思い手に取りました。内容的は、至極当然のことが書かれているのですが、その思考方法・順序が、私にとっては斬新でとても心に刺さりました。私が普段お会いしている伝統産業の従事者の皆さんにもぜひ手に取ってほしい一冊です。(7/10)
008/131
「現場から考える国語教育が危ない!『実用重視』と『読解力』」村上慎一、伊藤氏貴
たまたま見かけて借りてきたのですが、今『国語教育』って、迷走に迷走を重ねて、とんでもないことになっているんですね、改めて認識しました。我々の高校時代は、現代国語と古典(古文、漢文)でしたが、近年の指導要綱改正によって、【必修】「現代の国語」【必修】「言語文化」「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」となっているそうです。そして、論理国語では文学は扱えないということになっているそうです。言語の重要な役割は、コミュニケーションと思索です。その際、論理とか文学とか関係ないんちゃいますか?考えることを放棄させるような教育というのは、亡国への道をまっしぐらに突き進もうとしているようにしか思えません。ヤバいです。(7/10)
009/132
「報道しないメディア ジャニーズ性加害問題をめぐって」喜田村洋一
芸能界では有名だった芸能事務所社長による性加害について、何度も問題になりながら、一切報道されることなく、却って助長するような行動をとっていたマスメディアを糾弾するものです。そのような社長の下で育ったタレントの中から、当然のように同様の行動をとる人たちが出てきても仕方がないわけで、同様にそれを助長するマスメディアも依然として存在するわけで、芸能界だから、スポーツ界だから、政界だから治外法権とはいかないのは当然のこと。ジャーナリズムが育たない社会だとこれが当たり前になってしまう。氷山の一角かと思います。(7/10)
010/133
「〈必要〉から始める仕事おこし 『協同労働』の可能性」日本労働者協同組合連合会編
先日読んだ書物から、『労働者協同組合』という制度にちょっと興味を持って読んでみました。日本では最近制度創設されたそうですが、もともと失業対策事業の終了とともに生まれた事業団が母体になったものが多いようで、当初想定していたイメージとはかなり違った実態があるようです。個人的には、需要の減少で厳しい状況にある伝統産業の職人さんたちのネットワークができたら良いかなと思っています。(7/14)
011/134
「競争しない競争戦略 消耗戦から脱する3つの選択」山田英夫
前に読んだ本の中で紹介されていた本を数珠つなぎで読んでます。商売をする以上、競争のない“ブルーオーシャン”で颯爽と商売したいと思うのは当然のことですが、競争がなく波穏やかな水面なんだけど、広沢の池くらいの広さしかないという状態でそこに留まっていることはどうなんだろうか。出口がなければ死に絶えていくしかないのかと思いますが、もし流れは速いけど出口があるのなら、それに乗っていくしかないのではないか。行きつく先は青い海か赤い海か、それはわかりませんが、舵を間違えなければ青い海へたどり着けるものと信じています。(7/15)
012/135
「ぜんぶ、すてれば」中野善壽
寺田倉庫前社長による初めての書籍です。百貨店からアパレル業を経て寺田倉庫のCEOになり、劇的に業態を変更し、唯一無二の機業へと成長させた方が、初めてその考えを文字として残されたものだそうです。その思想には、何物にも執着しない“仏陀の教え”が根底にあるようで、その徹底ぶりはなかなかまねができない。“こだわりの”というとさも誉め言葉のように使われますが、本来は、こだわりを捨て、物にとらわれずに生きることこそが成長への王道です。(7/15)
013/136
「殺人鬼がもう一人」若竹七海
何度も書いていますが、好きな作家さんで、出てすぐに買って、積まれていたものを発掘しました。さすがに期待どおりの面白さです。悪人ばかりが登場するという非常にブラックなライトミステリですが、嫌みは全くありません。都内にある老成化した架空の町を舞台に、スカッとするというより、ニヤリとする感じの短編が収められています。面白いですよ。(7/16)
014/137
「売上最小化、利益最大化の法則 利益率29%経営の秘密」木下勝寿
ネット通販会社である(株)北の達人コーポレーションの代表取締役である著者が、利益率29%という超優良企業を経営するに至った考え方やノウハウを惜しみなく明らかにされていますが、結構すごい内容かと思います。業態が違うとすべてをそのまま当てはめるというのは難しいかもしれませんが、『売上より利益』というのは、どの業種にも当てはまることだと思います。面白かったです。(7/17)
015/138
「競作 五十円玉二十枚の謎」若竹七海ほか
かなり古い本です。10年位前に購入したまま放ってありました。内容は、若竹さんが遭遇した毎週末書店のレジに現れ、20枚の50円硬貨を千円札に両替していく謎の人物をお題に、プロアマの作家による解答をまとめたアンソロジーです。元のエピソードは40年近く前のことなので、なかなかイメージがつかみにくく、今読むのはかなりつらかったです。(7/21)
016/139
「ペンツベルクの夜」キルステン・ボイエ
たまたま図書館の新刊コーナーで見かけたもので、第二次大戦敗戦前夜のドイツバイエルンの一地方都市での惨劇を描いた児童文学です。ナチスの制圧下にあったドイツも西からアメリカを中心とした連合国軍が各都市を“解放”していく中、ミュンヘン近郊のペンツベルクという町で起こった惨劇を描いています。連合国軍の解放前夜、それを待ちわびていた人たちが、ドイツ軍の暴走を止めようと立ち上がったところ、ドイツ軍はその人たちをすべて捕らえて処刑するという暴挙に出ました。戦争はすべての人を狂気に追いやってしまう典型例です。この惨劇の翌日ヒトラーは自殺しました。過去、自分たちが行った愚行を忘れないため、子供向けに書かれた書物でした。日本とは大きな違いを感じずにはいられません。(7/21)
017/140
「日本のシン富裕層 なぜ彼らは一代で巨万の富を築けたのか」大森健史
最近日本にも現れてきたらしいニュータイプの富裕層について、海外移住のコンサルタントをする著者が、その実像について書かれたものです。内容的には、彼らが多額の資産を得るに至ったプロセスや、我々には縁のない海外移住のポイントなどが中心で、最も知りたかった彼らの消費性向などについての記述がほぼなかったのが残念です。(7/21)
018/141
「コモンの『自治』論」斎藤幸平+松本卓也編
最近“資本主義の限界”について考えることが多くなっています。資本主義が私たちの暮らしを豊かにしてくれる時代は既に終わってしまったのではないかと。その分岐点はいつだったのかは定かではありませんが、新自由主義が跋扈し始めたころが、その始まりだったのではないかと思います。そんな中で、『コモン』という概念が脚光を浴びています。行き過ぎた資本主義を修正する切り札となるのか、あるいは単なる負け犬の遠吠えになるのか。加熱する経済活動がもたらした環境変動が加速する現在、いつか破滅を迎えてしまいそうな嫌な予感がします。(7/24)
019/142
「NEW TYPE ニュータイプの時代」山口周
この著者の書かれる書籍はとても好きで、良く読んでいたのですが、気が付けばすっかりご無沙汰になっていました。この本も五年以上前に書かれた本で、あまりタイムリーではないかなと思いながら読みましたが、結果的にはとても面白くて、めちゃくちゃメモも取りました。”豊=金がある”としか考えられないような思考能力では、本当に豊かな未来を創造していくことは不可能だろうと考えます。とても学びのある一冊でした。(7/25)
020/143
「受け手のいない祈り」朝比奈秋
昨年の芥川賞作家さんの受賞後第一作です。現役のお医者さんだそうですが、主人公はとある病院で働く外科医。感染症後の医療崩壊が進む中で、過労死と狂気に挟まれた激務をこなしていく様が背筋を寒くさせる。救いようがない世界に光は差すのか。(7/27)
021/144
「街場の米中論」内田樹
この著者の書籍は心に響くことが多くて、時折読んでいます。アメリカ人にとっての『自由』と『平等』のバランスについての考察はとても良く理解できました。確かにその行動原理の奥底には『自由』の比重がはるかに重いということが見えてきます。特に現在のトランプ政権って顕著ですよね。でもこれは顕著なだけであって、特殊なわけではありません。今は突出した経済力で世界を牛耳っていますが、その優位性がなくなったときアメリカという国が何をしでかすのか、若干恐怖ではあります。(7/30)
022/145
「その本はまだルリユールされていない」坂本葵
初めて読んだ作家さんなのですが、とても面白かったです。『ルリュール』とは、フランス語で本の装幀や製本を手作業で行うことまたはその職人という意味だそうです。主人公は親の職業を継ぐために資格試験に挑みながらも果たせず、非正規の学校図書館司書として働く女性。そんな彼女が住まうことになったシェアハウスの大家さんは製本職人さん。そこで様々な人と出会い、人生をルリュールさせていくという物語です。とても素敵なお話でした。(7/31)
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