ほとんど梅雨らしさを感じなかった水無月は、小説が15冊、小説以外が7冊で合わせて22冊という結果になりました。散歩も程よく行けて、まずまずというところでしょうか。
というところで、この月のお薦め本ですが、例によってシリーズ本も何冊かあって、対象は絞られる中で3冊挙げたいと思います。
まずは今年の本屋大賞『カフネ』です。タイトルからは内容が全く想像つかなくて、どんな本かいなと手探りで読んでいたのですが、主人公の2人の女性のキャラがしっかり確立していて、さすがと納得の一冊でした。
次がかつての本屋大賞作『流浪の月』です。これも最後にタイトルの意味が分かるという本でしたが、主人公の心象描写が秀逸で、とても面白かったです。この後続け様に佳作を連発しているのはさすがです。作者の凪良さんは、京都市在住とも側聞していますが、応援したい作家さんです。
最後は今年の新刊ですが、『青い鳥、飛んだ』です。本文にも書いていますが、今の社会問題をかなり大胆に作品の中に描き込んでいて、ややもすると”おなか一杯”となりがちなところを、絶妙な塩梅で食い止めています。初めて読んだ作家さんですが、結構書かれているようなので、他の本を読んでみたいと思います。
続いて小説以外の本ですが、今月は珍しくいわゆるハウツー本が紛れ込んでいて、それはそれで面白いのですが、それ以外の本から挙げさせていただきます。
まずは『糸を出すすごい虫たち』でして、きもの、絹織物について文献を探している中で目についたものなのですが、そのメカニズムは謎の部分がほとんどなのですが、その特性について専門的な事柄をこれほどわかりやすく解説されていることに感服しました。読み物としてもとても面白かったです。
もう一冊は『BLACK BOX』です。出版されたときはセンセーショナルな話題が先行して、書物として正当に評価されたとは言い難かったように思います。時間が経って当事者たちや尻馬に乗った政治家の多くが退場した今改めて読むと、当時の異常な取り扱いが実感できます。世界に冠たるマチズモ社会とそれに固執する異常な人たちはまだ健在ですが、創造的な未来社会を実現するためには、しっかり取り組むべき課題を提起した書物だと思います。
最後に番外編として、かねてから改めて”古典”に親しみたいと書いていましたが、その一環として『若きウエルテルの悩み』を初めて読みました。概略は知識として知っていたものの初めて読むという恥ずかしさもあるのですが、めちゃくちゃ面白いですね。翻訳が読みやすかったということもあるのですが、ページを繰る手が止まらなくなるほどでした。すでに読まれている方がほとんどだと思いますが、もし私同様未読という方がいらっしゃるなら、ぜひ手に取ってみてください。ホンマにお薦め。
6月中に梅雨が明けると同時に、驚くような猛暑がやってきました。例年であれば梅雨空の下で、仕方なく本でも読むか、となっていたところが若干様相が変わってきています。炎天下で散歩に行くか、冷房の効いた部屋で読書をするか、悩ましい日々が続きそうです。
001/102
「外科医、島へ 泣くな研修医6」中山祐次郎
シリーズの6作目。主人公が現場からの派遣依頼を受けて、半年間離島の診療所へ赴任する。診療所では、外科だけでなくあらゆる診療科の診察をしなければならず、医師としての幅を広げるために赴任することとした。医療技術は進歩したものの、人間としての成長は難しいようだ。(6/1)
002/103
「ナースの卯月に視えるもの」秋谷りんこ
中堅のナースである主人公は、あるときを境に、入院患者の傍らに人の姿が視えるようになる。恢復には影響はないものの、その患者さんの”思い残し”の解消を手伝うことで、いつしかその姿も見えなくなる。設定そのものは特殊ですが、ある種の家族小説です。続編も出ているようですが、おそらく読まないと思います。(6/1)
003/104
「追憶の彼女 警視庁文書捜査官」麻見和史
人気シリーズの最近巻です。現場にダイイングメッセージと思しき血でしたためられたメモが残された殺人現場。主人公たちが解決に向けて捜査を始めていくと、かつて主人公の同級生が亡くなった事件との関連性が浮かび上がってくる。いつもながら面白かったです。(6/1)
004/105
「迷うな女性外科医 泣くな研修医7」中山祐次郎
シリーズの最新刊で、この巻では主人公の指導医である女性外科医の新人時代から現在までの姿が描かれる。ちょっとこれまでに描かれた姿とはイメージが違うかなと思います。とりあえず、これでこのシリーズはひと段落です。続巻の刊行を待ちたいと思います。(6/2)
005/106
「カットバック 警視庁FCⅡ」今野敏
今野さんの一風変わったシリーズの第二弾です。前作はやや消化不良でしたが、今作は映画の撮影現場での殺人事件と、FCらしい設定です。さらに彼の人気シリーズ”隠蔽捜査”のスピンアウト作品とのコラボで、警視庁大森署の面々も登場します。まぁ、安定の面白さでしょうか。(6/5)
006/107
「糸を出すすごい虫たち 」大﨑茂芳
こちらは、以前から気になっていた書籍なんですが、たまたま見つけて借りてきました。糸を出す虫と言えば、まずは蚕が頭に浮かびますが、この本では次の素材として脚光を浴びている”蜘蛛の糸”が中心です。著者は、早くからこの素材に注目し研究されていた研究者ですが、私も知らないことだらけで、とても面白かったです。蜘蛛の糸にもいくつか種類委があって、最も丈夫な糸が、垂直にぶら下がっているときの糸だそうで、ちょうど個体の重さの2倍の重量に耐えられるそうです。しかもその糸は、2本の糸が並行になっているそうで、これはつまり、万が一一本の糸が切れても、もう一方の糸だけで何とか落下せずにすむという構造になっていて、自然の仕組みの美しさに感嘆します。(6/6)
007/108
「プレゼント」若竹七海
こちらは、”積読”からの一冊で、私の大好きな作家さんの人気シリーズの第一冊目になるんではないだろうか。初期の頃の硬さがそこここに感じられて、新鮮でした。やっぱり期待通りに面白かったです。(6/7)
008/109
「死はすぐそばに」アンソニー・ホロヴィッツ
ここ数年、年間ミステリ選で上位常連となった作者の作品で、2つのシリーズのうち、ホーソーン・シリーズと言われているものの最新作です。今回はすでに解決済みであるはずの事件について、探偵役であるホーソーンがたどった途を、登場人物でもある作者がトドっていくという変わった趣向の物語です。ただ、結果的にはどうなんだろう。解決したと言えるのか否か。評価が分かれる作品かな。私はあんまり好きじゃない。(6/11)
009/110
「カフネ」阿部暁子
言わずと知れた今年の本屋大賞の受賞作ですが、初めて読んだ作家さんでもあります。主人公である女性二人が、最初はかたくなであったところが、お互いの体温で徐々に解きほぐされていきます。決定的とも思える出来事が続き、関係は断ち切れそうになりますが、願ったような結末でホッとしました。大賞としてはどうかとも思いましたが、面白い本でした。当然お薦めします。(6/12)
010/111
「非接触の恋愛事情」短編プロジェクト編
こちらはタイトルからも判るとおり、コロナ禍真っ只中に、緊急で企画された短編集を引っ張り出してきました。社会のありようががらりと変わり、新しい世界が始まると思っていたあの頃でしたが、どうでしょうか。我々の周りで何が変わったでしょうか。なにやら分断と憎しみだけが強くなったように感じるのは私だけでしょうか。書かれている方々は、初めてお見かけする方がほとんどで、ある意味新鮮でした。(6/13)
011/112
「シリーズ古代史をひらくⅡ 摂関政治 古代の終焉か、中世の開幕か」吉川真司責任編集
お気に入りのシリーズ第二弾もこれで完結。長かったです。謎の多い日本の古代史を新たな視点から読み解こうというシリーズなのですが、最後は”摂関政治”。果たしてこの時期は古代なのか中世なのか。個人的には、漠然と『中世=封建制度』というイメージを持っていたのですが、良く考えてみたら、院政期を古代と呼ぶのはかなり抵抗があって、改めて『中世の始まりとはいつなのか』というところに注目するようになりました。答えは特にないのですが、こうやって時空をさまよいながら本を読むのも楽しいです。(6/14)
012/113
「流浪の月」凪良ゆう
2020年の本屋大賞受賞作ですね。本の奥付けをみたら3年前に購入したまま放置されていたものでした。相次いで両親を失い、引き取られた叔母の内にも居場所がなく、知り合った大学生のうちに転がり込んだ少女。誘拐の罪で罪に問われた大学生が、15年の時を超えて邂逅する。主人公二人の内心的描写が美しく、一気に読んでしまいました。納得の大賞受賞作。めっちゃ面白かったです。読まれている方は多数おられると思いますが、お薦めですね。(6/14)
013/114
「小説」野﨑まど
これも、今年の本屋大賞候補作(第3位)になった一冊で、初めて読む作家さんです。章立てどころか、段落すらはっきりせず、次の行に移るときに一気に数年の時が流れているという独特の文体。これはこの作者の特徴なのでしょうか。途中までは淡々と進むのですが、終盤は怒涛の展開で、おいていかれそうになりました。小説を読むことをこよなく愛する主人公。感想を述べることもせず、ひたすら読むことだけを追求する主人公。ましてや文章を書くなんて。少し理解できます。(6/16)
014/115
「人魚が逃げた」青山美智子
作者にとっては、5年連続なった今年の本屋大賞候補作。いつかは対象を獲らせようという天の執念を感じます。東京銀座の歩行者天国に突然、人魚を探し求める王子が出現します。そんな彼の周りに偶然通りすがった5人の人達の物語が綴られます。それぞれは独立しているけれど、偶々人生の岐路に立ってしまった人たちの物語は、不思議につながって最後には一つの輪になっている。ハートフルな物語でした。(6/17)
015/116
「『子どもに会社をつがせたい』と思ったとき読む本」中谷健太
こういったノウハウ本はほとんど手を出してこなかったのですが、仕事柄中小企業の皆様とお話しすることが多いので、基礎知識を増やすために読みました。内容は、事業承継に関する書籍なのですが、過去の実例などを引きつつ、とても分かりやすく解説されています。マネジメントに関する部分や法律に関する箇所は馴染みもあったのですが、税制、特に相続税に関する部分は、知らないことが多かったので、良かったです。実際的でもあり、まさに役立つ本だと思いました。関係される皆さんにはお薦めしたい一冊です。(6/18)
016/117
「逃亡者は北へ向かう」柚月裕子
この小説も、お気に入りの作家さんの近作です。舞台は東日本大震災直後の東北地方。傷害事件を起こした青年が、震災による特例措置でいったん釈放されていた間に、誤って人を殺めてしまう。その後、坂道を転がり落ちるように運命が暗転し、警察官の命を奪い、拳銃を手に逃走を図る。その目的地は?あまりにやりきれなくて哀しい物語。結末も悲しすぎる。(6/23)
017/118
「日本漁業の真実」濱田武士
第一次産業の中で、最も人力で計画的に生産することが難しい産業。その実態については知らなさすぎることがあまりにも多い。「漁業協同組合」や「漁業権」というものにあまりに無知すぎて、これまでマスコミなどに騙され、踊らされていたということが良く分かります。もはや国内では、持続可能な水産業というのは夢物語なのだろうか。(6/24)
018/119
「若きウェルテルの悩み」ゲーテ
250年前、ゲーテが25歳の時に書いた小説です。あまりにも有名な作品ですが、実はこれまで読んだことがありませんでした。かなり昔に買ったまま放置してあったものを発掘して読みました。翻訳も良かったのかもしれませんが、めちゃくちゃ面白いですね。当時の若者が夢中になり、主人公の真似をして社会問題になったの言うのが良く分かります。(6/25)
019/120
「蚕 絹糸を吐く虫と日本人」畑中章宏
先日来、改めて絹織物について興味が湧いてきて、いろんな資料を読んでいます。その大元である蚕について書かれた本ですが、昆虫学からのアプローチではなく、社会・民俗学からのアプローチで書かれていて、日本の各地で”お蚕様”がどのように扱われていたのか、各地を訪ねながら、その断章を集めてあります。そういえば、私の生家も昔は蚕を買っていたので、茅葺屋根の家屋の天井裏は”蚕室”となるよう作られていました。私の生まれたころは既に蚕業からは離れていましたが、近所にはまだ何軒かあって、”カイコサン”と呼んでいたことを思い出します。60年近い昔のことです。(6/26)
020/121
「Black
Box」伊藤詩織
これは、”事件”とならなかった”大事件”の一方の当事者による”告発の書”です。ご本人はそのようには考えておられなかったと思いますが、実質的にはそのような経過をたどりました。時の総理大臣の”オトモダチ”の御用記者が、その影響力で犯罪を犯しながらも罰を逃れる。この元首相のオトモダチの筋の悪さは筋金入りで、今のモラルなき社会を招いた張本人だと思っています。適正に評価されることなく、この世を去ってしまわれたことが残念でなりません。(6/28)
021/122
「小さな会社・お店の 新・個人情報保護法とマイナンバーの実務」影島広泰
事業者支援のため最低限必要と思われる知識を仕入れるために読んだものですが、若干版が古かったようです。基本的なことは代わっていないと思うのですが、改めて新しいものを読んだ方がよさそうだ。(6/29)
022/123
「青い鳥、飛んだ」丸山正樹
初めて読む作家さんで、たまたま目について借りてきました。主人公の一人は、頻発する万引きを忌み嫌うコンビニの店長で、その日も万引き犯を追って店外で確保しようとしたときに誤って相手を死に至らしめ、過失致死罪に問われ、職も家族も失ってしまう。もう一人の主人公は、両親を亡くし児童養護施設で暮らす中で、万引きの”スリル”はまる中で県公判で捕らえられてしまう。そんな二人が執行猶予期限の直前に偶然出会う。今の社会問題をこれでもかと詰め込んだ作品ですが、過剰な満腹感はなく、程よい分量でよかったです。結末も気に入りました。結構お薦めかもしれません。(6/29)
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