2024年5月12日日曜日

2024年4月

2024年4月は、小説が21冊、小説以外がたったの2冊、でもって合計23冊という先月に続いての非常に偏った結果となりました。

ちょっと最近、仕事の関係で法律やその解説書を読むことが多くて、どうしても頭を休めるために、軽い小説を求めがちになっています。しばらくはこの傾向が続くように思われますが、御勘弁ください。

そんな中でのお薦めですが、

万城目さんの『八月の御所グラウンド』は、満を持しての直木賞受賞作ということですが、さすがに面白かったです。京都と言えば、修学旅行先、駅伝の聖地、大学の町というイメージなのでしょうか。いずれも、人生の青春期に京都という町と触れ合う機会で、その後の人生に何らかの影響を与えるかもしれない貴重な機会でもあります。そんな刹那を取り上げられた万城目さんに敬意を表します。

続いて、翻訳ミステリを何冊か読みましたが、その中では、

『解錠師』が、面白かったです。本文にも書きましたが、ミステリというより青春小説のようで、主人公の切ないよな思いが伝わってきてとても面白かったです。何となく明るい未来を予感させるような結末もよかったです。

続いて『自由研究には向かない殺人』も良かったです。比較的最近のミステリで、SNSが謎解きのカギになります。主人公の無鉄砲さが若干気になるのですが、まぁ許容範囲内かなと思います。続編も出ているので、これは読もうと思っています。

小説以外が2冊しかないのですが、そのうちの『働き手不足1100万人の衝撃』はとても興味深い本でした。本文でも長めの感想を書いていますが、漠然と『少子高齢化問題』という言葉を聞くよりインパクトが大きく、課題の本質が理解できます。そしてそのしわ寄せは、機械代替可能性がない業務の担い手不足という形で現れます。恐らくこの流れは止めることができなくて、如何に遅らせるかというところに注力していかざるを得ないと思います。しかしながら、城攻めの際の籠城と同じで、援軍が期待できてこその先送り策でしかないので、抜本的な打開策が必要になる時期が必ず来ます。願わくは、100年前の愚策を繰り返すようなことがないことを祈るばかりです。

ゴールデンウィークの前半は、お天気も悪くて自宅で読書の時間が長かったですが、後半はお天気も良さそうで、散歩の予定も有之、読書量はそれほど増えないかもしれませんがが、また面白そうな本を散歩のお供にしていこうと思っています。

 

001/062

雨月 御宿かわせみ17」平岩弓枝

シリーズを折り返しました。幕末のきな臭さが少しずつ漂ってきます。この日常が少しでも続くことを祈りたいです。(4/2)

 

002/063

『働き手不足1100万人』の衝撃 2040年の日本が直面する危機と“希望”」古屋星斗+リクルートワークス研究所

これは、新聞か雑誌の書評で注目書籍と紹介されていたので、借りてきたものですが、とても興味深く参考になる書籍でした。今から十数年後に直面する働き手不足について、たくさんのアンケートやヒアリング、政府統計を駆使して分析したもので、これからの人材不足は、労働供給制約によって惹起される、過去に例のない大危機であるとされています。概略は同研究所の「未来予測2040」というレポートにも書かれており、この書籍もこのレポートを基にしたものです。この未来を迎えるに当たって、4つの解決策が提示されていますが、これも危機の到来を遅らせる効果はあっても、解決させるような効果は期待できないと断ってあります。私はすでにリタイアしてしまいましたが、公務職場で働く皆さんには、ぜひ目を通しておいてほしいレポートです。(4/5)

 

003/064

天災ものがたり」門井慶喜

歴史上のいくつかの大災害をモティーフに書かれた短編小説を集めたもの。一遍目が武田信玄を主人公にしていたので、その他もそうなのかと期待したのですが、二編目以降は明暦の大火、宝永の富士山噴火、明治の三陸大津波、三八豪雪などの大災害に翻弄される市井の人達の物語です。ちょっと期待外れ。(4/6)

 

004/065

秘曲 御宿かわせみ18」平岩弓枝

18巻目にして、とんでもない事実が明らかになり、主人公が大きな苦悩を抱えることになります。ちょっと大変。(4/6)

 

005/066

博物館のファントム 箕作博士のミステリ標本室」伊与原新

理系作家のミステリ小説は好きな分野なのですが、この作家さんはいわゆる生物・地学系を専門にされているようで、この作品では架空施設である国立自然史博物館が舞台となり、そこで起きる不思議な出来事の謎を解いていきます。専門用語も頻発しますが、読みやすい小説でした。

(4/7)

 

006/067

日本宗教のクセ」内田樹、釈徹宗

著者二人の宗教に関する対談をまとめたものです。テーマは『政教分離』『統一教会』などなど。近代日本が始まったとされる明治維新で、日本政府は宗教政策で大失敗しました。天皇中心主義を強化しようと、それまで存在すらしていなかった『国家神道』という概念を創造し、国民をその傘下におこうとして、却って神道そのものを破壊してしまいました。本当に愚かなことです。(4/7)

 

007/068

元禄百妖箱」田中啓文

この作家さんの作品は好きなのですが、これまで読んだ作品たちとは一風変わった妖怪ものです。時は元禄時代。この時代の最大の事件と言えば、江戸城松の廊下の刃傷事件と赤穂浪士の討ち入りです。この物語では、この事件の最大の謎である、浅野内匠頭の『動機』について、従来にない『トンデモ』案を持ってきます。ちょっとぶっトビ過ぎて驚きです。(4/10)

 

008/069

解錠師」スティーヴ・ハミルトン

2009年に本国で発表されたときは、各賞を席巻したそうで、邦訳された際も、翻訳部門でのミステリ各賞を受賞したという作品です。私もタイトルだけは知っていたのですが、内容は全く知らなくて、今回手に取りました。『ミステリ』とはされていますが、今作にミステリ要素はほぼなく、ある種の青春小説のような味わいです。主人公はある事件をきっかけに言葉を失った少年で、その後成長するにつれ、絵画と『解錠』に秀でた才能を発揮し、人生を踏み外していきます。しかしそこには、切ない事情もあって、という物語です。読みながら、何でそうなる!と突っ込みを入れたくなる瞬間もありましたが、後半は、引き込まれて一気読みという感じでした。面白かったです。(4/12)

 

009/070

かくれんぼ 御宿かわせみ19」平岩弓枝

19巻まできました。結構なペースで来てますね。世相が徐々に物騒になってきました。小さな子供たちが登場するようになって、この子たちが中心となるお話も増えてきました。ちょっと生意気でかわいくないですが。(4/13)

 

010/071

JKⅢ」松岡圭祐

文庫書下ろしバイオレンスシリーズの一作です。今作もむごたらしい殺戮場面が山のように出てきます。一応の結末が描かれているのですが、どうなんだろひょっとしてまだまだ続くのか。(4/13)

 

011/072

鈍色幻視行」恩田陸

先月読んだ『夜果つるところ』 にまつわる物語で、同作を映像化しようとするたびに乙津れる事件にまつわる謎を解こうとする作家とその夫が交互に語り部となる物語。途中で何度も『夜果つるところ』 の内容が描写されるのだが、おそらくこの本が掛かれていた頃は、まだ同作の詳細はできていなかったはず。にも拘わらず、しっかりと両者が成り立っていました。お見事です。(4/14)

 

012/073

貧乏お嬢さま、メイドになる 英国王妃の事件ファイル1」リース・ボウエン

こちらは、第一次大戦と第二次大戦の間の小康状態の時期のイギリスを舞台にした物語。主人公は、34位の王位継承権を持つ貧乏貴族の御令嬢。生まれ育ったスコットランドを離れロンドンで自活するなかで、殺人事件に巻き込まれます。その問い時の貴族の生活が偲ばれてなかなか面白いです。今のところ16巻まで出版されているようなので、ちびちび読んでいきたいと思います。(4/16)

 

013/074

羅針盤の殺意 天久鷹央の推理カルテ 」知念実希人

著者の代表シリーズ。どうやらテレビアニメ化されるらしいのですが、放映先が決まっていないようで、実現するのかと心配になる。近年様々なジャンルのミステリが話題になっているが、やはり彼の最大の持ち味である医学ミステリが一番面白い。(4/19)

 

014/075

自由研究には向かない殺人」ホリー・ジャクソン

数年前イギリスで出版され、本国はもちろん日本でも絶賛され様々な賞に輝いた習作です。5年前に起こった女子高校生殺人事件とその犯人との疑惑を受けて自殺した恋人。この事件に疑問を覚え、自由研究の一環として謎解きに挑む女子高校生が主人公。異国とはいえ、現代とは思えない生ぬるい警察の捜査とあまりに無鉄砲な主人公の行動には疑問があるが、SNSを手掛かりに証拠を集めるなど、現代ならではの捜査手法が面白い。なかなか良かったです。(4/20)

 

015/076

吸血鬼の原罪 天久鷹央の事件カルテ」知念実希人

この事件カルテと推理カルテの両シリーズが並立しているのですが、事件カルテが長編、もう一方が短編集という書き分けになっているようです。短編集の方が読みやすいですが、個人的には長編の方が好みです。この作品では、技能実習生の問題が取り上げられていて、その問題がこの物語の大きなカギになっているのですが、専門外であるためか取材不足なのか、描き方がやや薄っぺらく感じました。ちょっと残念。(4/21)

 

016/077

時計屋探偵の冒険  アリバイ崩し承ります2」大山誠一郎

テレビドラマにもなった作品の続巻です。いわゆる安楽椅子探偵物なのですが、かなり無理があるかなと思いながら読んでました。(4/21)

 

017/078

両手にトカレフ」ブレイディみかこ

現代のイギリスと大正・昭和初期の日本の格差社会を対照的に描いた物語です。「親ガチャ」という言葉があるそうです。人はどの親の元に生まれるかによって一生が決まってしまう。その運命から逃れることは不可能。自分の力ではどうしようもないという諦め。百年前ならいざ知らず、そんなことがまかり通ってしまうことに政治の貧困を感じます。(4/24)

 

018/079

贋作と共に去りぬ」ヘイリー・リンド

どこかの書評で取り上げられていたと記憶してあものを読んでみました。いわゆる絵画の贋作を巡る物語で、この業界のうんちくがちりばめられたミステリなのですが、如何せん主人公のキャラクターが頂けない。最後には謎解きをして収まるのだが、事件への巻き込まれ方、その後の迷走など、普通ならありえないような愚かな行動を重ねていく様はあまりに不快。イライラする。シリーズ化もされているのですが、プライオリティは低いです。(4/26)

 

019/080

お吉の茶碗 御宿かわせみ20」平岩弓枝

常に仲たがいを繰り返す老婆と孫娘を描いた『池の端七軒町』は、切なすぎてつらい作品でした。ハッピーエンドになってほしかったなぁ。(4/27)

 

020/081

八月の御所グラウンド」万城目学

万城目さんの直木賞受賞作ですね。短編と中編の二作品が収録されているのですが、短編の方は高校駅伝に参加する選手、中編は京都の大学で学ぶ学生が主人公の物語です。いずれも他の地方から、『縁』あって京都に集う人たちをテーマにされています。これに修学旅行生を加えると、京都に所縁を持つ人たちのルーツがわかるような気がしますね。こういった人たちが、通り過ぎるだけでなく、いつか留まりたいと願ってくれるようになる。そんな街にしたいですね。面白い作品でしたお薦めです。(4/27)

 

021/082

アリスが語らないことは」ピーター・スワンソン

主人公アリスについて二つの時制で語られるサスペンス小説です。謎解きではなく、主人公の人生が淡々と語られる不思議な小説でした。(4/27)

 

022/083

童の神」今村翔吾

今を時めく人気作家さんの実質的な長編デビュー作です。時は平安朝、藤原氏が権力をs中に収める過程で手足となって働いた武士たちに、最後まで抵抗した人たちの物語。あるものは鬼と呼ばれ、あるものは土蜘蛛と呼ばれ、人としての扱いを受けられず、討伐すべき対象とされた。彼らに対する作者の眼はとても優しい。結末が判っているだけに、さらに切ない。(4/29)

 

023/084

雨にシュクラン」こまつあやこ

アラビア書道というものを初めて知りました。いわゆる多文化共生などという小難しい言葉で語られる分野の物語なのですが、変な先入観や凝り固まった価値観が、人としての成長を邪魔するんだということがとても分かりやすく描かれています。おそらく中高生向けに書かれたものだと思うのですが、おっさんの私が読んでもとても面白かったです。(4/30)

 

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