遅くなりましたが、先月は小説が18冊、それ以外が3冊、合計21冊という結果でした。
ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、今月初めに新型コロナ感染症にり患いたしまして、およそ一週間自宅に籠っておりました。皆さんには、その間は読書し放題ですねと言われたのですが、巷間よく言われているように、発症後は倦怠感と集中力不足がなかなか取れず、今も若干のしんどさが続いています。
てなことで、今月のお薦めですが、まずは直木賞受賞作でもある『木挽町のあだ討ち』は意外な結末で面白かったです。途中までは、いったい何をダラダラと読まされているんだろうと思っていたのですが、最後のどんでん返しには驚かされました。あんまり煽ってしまってはいけないとは思いますが、よかったです。
続いて、安定の面白さは朝井まかてさんの作品です。実話をもとにしたフィクションではあるのですが、思い切ったせってにされたなぁと感服します。同じテーマで松井今朝子さんも書かれているそうなので、ぜひ読み比べてみたい。
小説以外では、『吠えない犬』が良かったです。決して無条件にアメリカを礼賛するわけではありませんが、権力と対峙するジャーナリズムの矜持が感じられます。それに引き換え我が国にはジャーナリズムの存在は全く実感できません。甘い飴をもらってしっぽを振りまくっているバカ犬ばかり。情けないったらありゃしない。
最初に書いたとおり、ここのところは本を読むのも一苦労で、以前のように読み進めることが叶いません。ちょっとスピードもダウンしそうです。しばらくは仕方がないのかな、暖かくなってくれば少しは好転するんだろうか。
001/019
「日本の歪み」養老孟司、茂木健一郎、東浩紀
なんか、自分たちは頭がいいけど、一般人は頭良くないよね、という言葉が行間に埋め込まれているようで、読んでいても愉快にはなれない。(2/1)
002/020
「よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続」宮部みゆき
人気シリーズの八作目なのですが、以前は怪異現象を扱うことは少なかったのに、今作ではこれでもかというくらい出てきます。本当は「人」こそが、この世で一番恐ろしいというがこの本のテーマであったように思うのですが、それが変わってしまったようで、ちょっと残念です。(2/3)
003/021
「獣の奏者Ⅲ 探究編」上橋菜穂子
一度終わらせてしまった作品を再び動かすというのは、とても難しいことだと思いますが、うまく滑り出せたように思います。いよいよ次は完結編。(2/4)
004/022
「マインドエラー」永山千紗
初めて手にした作家さん。ミステリ小説なのですが、謎解きの要素は少なく、ある種の社会はミステリの様相。東日本大震災のエピソードが挿入されているのですが、果たしてそれは必要だったのか。若干の取ってつけた感。(2/5)
005/023
「あの日、松の廊下で」白蔵盈太
「本作品は歴史上の事件を題材にしたフィクションです。」と巻末に書かれており、かの忠臣蔵の発端となった江戸城松の廊下での刃傷事件からさかのぼること3か月から書き起こされた物語は、結果的に浅野内匠頭による凶行を羽交い絞めにして抑え込んだ梶川与惣兵衛の一人語りとして語られる。物語では、吉良も浅野も非常に真面目で高潔な人物であるにもかかわらず、いつの間にか両者の間に齟齬が生じて、大事件が起こったとされている。なかなか新しい視点で、ちょっと面白かったです。(2/6)
006/024
「刑事の枷」堂場瞬一
彼の警察小説は久しぶりに読みましたが、相変わらずトーンが暗いです。あまりに暗すぎて、せっかく事件解決しても爽快とはいかないのが残念です。(2/8)
007/025
「悪玉伝」朝井まかて
徳川吉宗、大岡越前守が活躍した時代に実際にあった上方の商家の相続争いを描いた物語。他にも同じ題材で書かれた小説もあるようですが、本作はがらりと趣を変えて書かれているそうです。当時の裁判制度の知識が貧困なもので、展開にはついていけない部分もあったのですが、最後に明かされた秘密が、なかなか刺激的で、創作だから書けた結末だなぁと感嘆いたしました。面白かったです。(2/9)
008/026
「木挽町のあだ討ち」永井紗耶子
昨年の直木賞受賞作ですね。あるあだ討事件について、その周りにいた複数人に語らせるという趣向の物語です。これで、いったい最後は何処にもっていこうとしているのかと気をもんでいると最後は何とも意外な結末。途中があまりに淡々と進むのでどうなのかと心配していましたが、そう来たかと、驚きました。面白かったです。(2/11)
009/027
「機械仕掛けの太陽」知念実希人
2020年初頭に始まった新型コロナウイルス感染症によるパンデミック下の社会を医療従事者の視点から描いたフィクションです。著者自身もお医者さんなので、かなりの部分が実話に基づいているのだろうなと想像します。作中ではさらりと書かれているのですが、都会からの旅行者に対する差別や嫌がらせ、医療従事者の家族、特に子供への差別は、相当陰湿だったと報道されていましたね。今は、のど元過ぎて、すっかり忘却の彼方へ無理やり追いやっている人たちが、特に政治家の皆さん方に多数いるように思えますが、次を起こさないためにも、今回のパンデミックを正確に記録し、将来検証できるようにしておかないといけないですね。(2/12)
010/028
「二十六夜待の殺人 御宿かわせみ11」平岩弓枝
これで、全体の3分の1となりました。ますます絶好調です。(2/14)
011/029
「流れる星をつかまえに」吉川トリコ
何気ない高校生たちの日常を描きながら、若者の貧困、シングルマザー、性的マイノリティ、在日韓国朝鮮人、さらには新型コロナウイルス感染症によるパンデミックなど、実際にすぐ近くにある出来事がテーマとして取り上げられています。その描写の仕方がお見事で、嫌みなく読み進められます。それほど期待していなかったのですが、結構面白かったです。(2/15)
012/030
「獣の奏者Ⅳ 完結編」上橋菜穂子
いったん終わった物語をどうやって再度終わらせるのだろうかと興味津々で読みましたが、最初のⅠ、Ⅱ巻で書かれていた部分から、あたかも予定されていたかのように伏線として回収していく様はお見事でした。ただ、完結させようと思うと、このように結ばざるを得ないんだろうなとは思っていましたが、やっぱりこうなるよね。仕方ないけど寂しかった。(2/18)
013/031
「鍵のない夢を見る」辻村深月
今や超売れっ子で、書けばベストセラーとなる著者の直木賞受賞作ですが、これ以前にも何回か候補になったはずが、どうしてこの作品だったのだろう。女性を主人公にした作品を集めた短編集なのだが、彼女らがどうにもイタい女性ばかりで、彼女の作品にはかなり珍しいのではないかと思います。ただ、最後の一遍だけは少し毛色が違って、結末は早くから想像がついていたにも拘らず、最後まで一気に引きずられていくような心理描写はお見事でした。(2/19)
014/032
「<洗う>文化史 『きれい』とは何か」国立歴史民俗博物館・花王株式会社編
ちょっと面白い分野の生活史です。掃除とか洗濯という仕事については、もともと生活に密着した事柄であるだけに歴史的な文献として残されているケースがほとんどない。この本では、『清潔』を守るための入浴、手洗い、歯磨きなどの生活習慣について限りある資料からその断片を見せてくれます。一方で、心理的な清潔感については、祓や禊といった言葉に代表されるように宮中行事や法令として残されていることが多く、それらが捻じ曲がって『穢れ』という概念を生み出し、先般のコロナ禍でも散見された忌むべき差別を生み出しました。なかなかに面白かったです。(2/21)
015/033
「平成古書奇談」横田順彌
ハチャメチャSFの対価として知られる著者のもう一つの顔である古書収集家としての知識が存分に発揮されたオムニバスストーリーです。21世紀とは思えない古風な言い回しはご愛敬でしょうか。SF黎明期の小説を紹介する大著も興味深く、初巻を途中まで読んで放ってあります。また再開しようかな。(2/21)
016/034
「夜鴉おきん 御宿かわせみ12」平岩弓枝
シリーズ12巻です。主人公の幼馴染についに二世が誕生しました。血なまぐさい事件とは無縁ですが、とある大名の姫君の掌話は、ほのぼのと切なくよかったです。(2/21)
017/035
「妖怪姫、婿をとる 妖怪の子預かります5」廣嶋玲子
これもシリーズもので、久々に読みました。遊び人の男が本物の恋をして結ばれ、心を入れ替えて真っ当に生きる。ただ、ちょっと他と違うのは、そのお相手が。(2/21)
018/036
「三年長屋」梶よう子
この方も時代小説の名手ですね。長屋、人情物はこうでなきゃいけないという手本のような作品でした。(2/26)
019/037
「吠えない犬 安倍政権7年8ヶ月とメディア・コントロール」マーティン・ファクラー
マスコミの最大の役割は権力の監視である。それがこの10年位の間にすっかり牙を抜かれ、見る影もなくなってしまった。著者はニューヨークタイムスの東京支局長を務めたジャーナリストで、トランプ政権下のアメリカの状況と安部政権下での日本の状況を対比しつつ、その問題点について冷静にレポートしている。詳細は読んでいただくのが一番なのですが、吠えないどころか、盗人から餌をもらい、しっぽ降って媚びるさまはあまりに見苦しい。我が邦にマスメディアは多数あれどジャーナリズムは存在しない。悲しいことです。(2/26)
020/038
「獣の奏者外伝 刹那」上橋菜穂子
全四巻からなる大作のスピンオフ。主人公の母親、夫、師にフォーカスを当てた物語。(2/27)
021/039
「ラスプーチンの庭」中山七里
あまりに多作な作家さんであるためか、ちょっといただけない作品でした。初めて読んだ頃はとても面白くて、外れが多いこのミス大賞受賞作家の中では数少ない期待が大きな作家さんであるためか、チョっと残念でした。しばらくお休みしようかな。(2/28)
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