2024年11月12日火曜日

2024年10月

読書の秋の始まりである10月は、小説が12冊、その他が3冊、計15冊という結果になりました。月の途中で、全然読めない日が続いたので、若干少なめですね。

そんな数少ない中でのお薦めの三冊を。

まずは、森見さんの『シャーロック・ホームズの凱旋』は面白かったです。途中から読者である自分の位置が良く分からなくなって、不思議な感覚になりました。発想と言い、展開と言い、予期せぬ結末と言い、やられました。面白かったです。

二冊目は、『本売る日々』が良かったです。淡々とした筆運びですが、今は簡単に本を買うことができ、あまつさえ電子書籍のおかげで、収納場所に悩むこともないという幸せを改めてかみしめることができて良いです。

三冊目は、『あの本は読まれているか』でしょうか。かなりの長編で二つの場面を行ったり来たりするので、切り替えが難しいですが、実話に基づくお話だけについつい没入してしまいます。お薦めで。

小説以外の本は3冊しかないので、あえて1冊選ぶなら、この秋の解散総選挙の結果を決定づけたともいえる『検証 政治とカネ』でしょうか。政権与党による下手糞な錬金術、国民をだますテクニックについてとても分かりやすく書かれています。さて、あの選挙結果を得て、私たちが次にすべきことは何でしょうか。

11月に入ってようやく秋らしくなってきましたね。朝夕が涼しくなってきました。雨ではない週末はずっと出かけていて、散歩のお供の文庫本もいい感じで読めています。

やりたいこと、、やらなきゃいけないことも山積みなんですが、ついつい散歩と読書に逃避しがちです。気を付けないと。

 

001/230

新書版 性差の日本史」国立歴史民俗博物館監修、「性差の日本史」展示プロジェクト編

ご存じの方もおられると思うのですが、私は日本の歴史にとても興味があり、歴史の解説書や歴史小説を読んだり、歴史的な遺跡などに足を運ぶことが大好きなのですが、中でも興味があるのが、いわゆる『庶民の生活史』です。いわゆる『表の歴史』ではなく、そのとき、一般の人達はどのように行動したのか、どのように考えたのかということに興味があるのです。ご存じのように、私たちが日本史の授業で学ぶ事柄は、ほとんどが男性中心の歴史でして、女性に関しては、今話題の『紫式部』などについても本当の名前すらも記録に残っておりません。この本は、数年前に国立歴史民俗博物館で行われた特別展の中身を、ほんのさわりだけ集めた本だそうで、とても面白い内容の展示会だったのだろうと思われます。思わず、博物館にこの図録(1.5Kgあるそうです。)を発注してしまいました。数日中に届くと思いますが、とても楽しみです。(10/2)

 

002/231

家政婦は名探偵」エミリー・ブライトウェル

初めて読む作家さんです。舞台はビクトリア朝のロンドン。善人なんだけど捜査能力が著しく劣るロンドン警察の警部補のお屋敷に住まう家政婦が、雇用主である警部補のために他の従業員を率いて、事件解決をこっそり支援するという物語です。警部補本人は、手伝ってもらっていることに全く気付かず、運よく事件を解決できたと思っているところが、何とものどかな物語です。原シリーズの出版情報はすぐにはわからないのですが、国内ではあと3作シリーズ化されて出版されているようです。また、気が向いたときに読もうかな。(10/2)

 

003/232

貧乏お嬢さま、イタリアへ 英国王妃の事件ファイル11」リース・ボウエン

シリーズも11作目となりました。今作でも王妃の要請で、イタリアへ行くことになり、例によって殺人事件に巻き込まれます。主人公の結婚への関門もようやくクリアになったようで、続きが楽しみです。ところで、今回初めて気が付いたのですが、原書にも”A Royal Spyness Mystery”という副題がついていたのですね、知りませんでした。(10/4)

 

004/233

シャーロック・ホームズの凱旋」森見登美彦

話題の一作です、予約してから長く待ちました。舞台はビクトリア朝時代の京都。寺町通221Bに居を構える名探偵シャーロック・ホームズの苦悩を描きます。一大スランプに陥ったホームズは無事凱旋することができるのか。どういう結末になるのかと心配していましたが、最後のどんでん返しには感服しました。さすがです。(10/6)

 

005/234

近畿地方のある場所について」背筋

話題の一冊ですね。近畿地方のある場所にまつわる雑誌記事からSNSを集め、全体として一つのホラー小説になっている。これまで見たことのない形式です。電子書籍で読んだので、非常に読みづらく難儀しましたが、スタイルの目新しさもあって、堪能しました。ホラー小説なので、別に解決編は必要ないのですが、できれば腑に落ちる結末であってほしかったと思います。(10/8)

 

006/235

医学のひよこ」海堂尊

海堂氏の著作群の中核をなす『桜宮』シリーズのスピンオフ小説です。今作の主人公は中学生4人組。かつて児童書として書かれた小説の続編のような立ち位置でしょうか。しかしながら時系列は全く無視し、コロナ禍後の出来事としてさらりと進められています。話の中心に据えられているのは、不思議な卵とそれから孵化した生き物。物語は唐突に終わってしまうのですが、ちゃんと完結編も準備されていました。(10/13)

 

007/236

あの本は読まれているか」ラーラ・プレスコット

ここに出てくる『あの本』というのが『ドクトル・ジバゴ』という有名な小説なのですが、この小説にまつわる実話を基にした超大作です。ミステリの専門レーベルからの出版ですが、ある種のスパイ小説に見えなくもないですけど、悲劇の恋愛小説ともいえます。『あの本』は、戦後冷戦期のソ連で書かれたものですが、国内では出版が許されず、ひそかに持ち出されたイタリアで最初に出版されます。その後、アメリカの情報部がロシア語に翻訳・製本し、ひそかにソ連国内に流通させるというプロパガンダを実行しました。この際の機密資料が近年機密解除され世に出たことから、作者はこの小説を着想したそうです。重いテーマで、暗い描写も続きますが、いい小説でした。(10/15)

 

008/237

医学のつばさ」海堂尊

先に読んだ小説の完結編です。日本政府だけでなく米軍なども登場しての大騒ぎ。どう始末をつけるのかと心配しましたが、その心配どおり何とも言えない結末でした。(10/15)

 

009/238

ポスト資本主義社会」P・F・ドラッカー

今から約30年前、日本でいうとバブルがはじけた直後くらいに書かれた本ですが、そこここに日本を評価する言及がされており、その後の失われた20年を引き寄せたのはいったい何だったのか、大きく悩むことになりました。同時にこの時期は、共産主義が破綻し、世界のほとんどが資本主義社会になったころでもありますが、すでに資本主義社会も破綻するだろうということを見通していたことになります。当時資本は手段でしたが、今は資本が目的になっています。知識労働者の社会になるというところまでは正しかったですが、社会の目的がこのように変化することは想定外だったのかもしれません。(10/17)

 

010/239

本売る日々」青山文平

江戸時代の本屋が主人公の物語です。当時の書籍は希少品で、どこででも買えるものではなく、この主人公も小さな店で小売りをしながら、本を抱えあちこちで行商して回ります。その行商で回った先で関わることになった3つの事件を記録したものです。必ずしも本に関わる事件ばかりではなく、世間を騒がすような大事件でもないのですが、淡々と語られる日常がなかなかに興味深い。(10/19)

 

011/240

貧乏お嬢さまの結婚前夜 英国王妃の事件ファイル12」リース・ボウエン

シリーズ12作目にして、主人公がようやく結婚にこぎつけられることとなりました。ところが、貧乏故住むところが決まらず悩んでいたところに、母親のかつての夫から屋敷の無償提供の申し出。喜んで移り住んだところで何やら怪しげな事件が続発。ここ数作の傾向で、婚約者である男性が役立たずの雑魚キャラに追いやられたようで、若干面白みが減っています。ちょっと残念です。(10/21)

 

012/241

原因において自由な物語」五十嵐律人

作者は一生懸命説明するのですが、私にはどうにもタイトルと中身が合致していないように見受けられます。ちょっと凝り過ぎじゃないか。(10/21)

 

013/242

プラチナハーケン1980」海堂尊

いわゆる『桜宮サーガ』の一冊で、シリーズの前日譚を描いている。このシリーズを読んだのはかなり前で、最近テレビドラマにはなったようですがそれは見ていないので、ストーリーを追いかけるのに苦労しました。この形式で書くのなら、発行時期をもう少し考慮して、うまくつなげてもらわないと、難しいですね。(10/27)

 

014/243

検証 政治とカネ」上脇博之

たまたま一昨日が総選挙で、ご存じのような結果となりました。まさにこの本に書かれていることが選挙の焦点であり、そのきっかけを作った大学教授の著書で、この問題の肝がとても分かりやすく書かれています。結果的に、この問題のけい解決に積極的ではなかった政党が、今回の総選挙で退潮することになりました。政府が今後どのように改革を進めていくのか、私たちがしっかり監視していかなければならないと、改めて実感しました。(10/29)

 

015/244

六月のぶりぶりぎっちょう」万城目学

直木賞にに輝いた作品の続編、とはいえ作品自体には全くつながりがないので、続編ではないかもしれませんが、一連の世界観、いわゆる万城目ワールドを共有する物語です。最初にタイトルを読んだときは、何じゃこりゃと思ったのですが、『ぶりぶりぎっちょう』は漢字で『振々毬杖』と書くそうで、平安時代に実際にあった子供の遊びだそうです。二編の小説が収められていまますが相互に関連はなく、タイトルになっている作品は、歴史上最大のミステリの一つ『本能寺の変』について書かれたSF要素たっぷりの物語です。面白うございました。(10/31)

2024年10月2日水曜日

2024年9月

台風あり、猛暑日ありの9月は、小説が19冊、それ以外が9冊で計28冊という結果になりました。

ご存じの方もあるかと思いますが、一念発起して新たに始めたプロジェクトのことを考える時間が多くて、読書に充てる時間が少なくなってきているのですが、なんか結果的には思った以上に読めているのが不思議です。

そんな中でのお薦めですが、お気に入りのミステリ小説シリーズがたくさんあって、それ以外の中から選らぶとなると次の三作でしょうか。

まずは、夏川さんの『スピノザの診察室』。今年の本屋大賞にもノミネートされていました。出世作である『神様のカルテ』とは違った味のする医療小説でした。また、京都が舞台になっているのも、物語が身近に感じられて良かったです。命の大切さを実感させてくれる良い小説だったと思います。

次は、柚月さんの『風に立つ』です。今やミステリ小説の大家ですが、今作では事件は起きません。どこの家庭にも起こりうる問題を描き、作者にとっては新境地ともいえるとても良い物語だったと思います。また、南部鉄器の製作風景を丁寧に描かれているのもとても好感が持てます。お薦めです。

最後の作品は貫井さんの『紙の梟』です。これは一転して次から次へと殺人事件が起きる小説ですが、死刑廃止論・肯定論、ポリティカルコレクトネス、いじめ問題など様々なテーマを持ち込んで描かれた短・中編を集めたものですが、非常に考えされられる物語集だと思います。考えようによってはかなり重い本ですが、お薦めです。

その他小説以外の本でのお薦めですが、数を読んだ割にはあまり多くない。

三浦さんのエッセイ集である『しんがりで寝ています』は、とりあえず面白い文句なしのお薦めです。まずは読んでみてください。

別格の一冊のほかには、次の二冊の新書が良かったかな。

まずは、『やりがい搾取の農業論』です。ちょうど、コメ不足、価格高騰が話題になっている中で読んだので、それに対する不満も感想の中にぶちまけていますが、戦後の農地解放以降に行われた農業政策はどうだったのか。結果的に今の工業・農家はどうなっているのか。改めて考えさせられた本でした。かつては過保護と言われた時代もありましたが、それは方法が間違っていたわけで、国民に必要かつ十分な量と質の食料を供給するという目的は間違っていなかったと思います。今となっては、その目的も空虚に響きますが。農業に縁のない方にもおすすめの一冊です。

もう一冊は『体験格差』です。これは、拡大する経済格差、貧困率の上昇、シングルマザー問題、貧困の連鎖などといった問題の一つの表出形態として見られる事象について、データ、インタビューを交えて詳細にレポートされています。したがって、この点だけを捉えて是正しようとしても、根本のところを是正しないとどうにもならないよねという無力感も感じます。でも、格差・貧困という問題を考えるうえで、見逃してはいけない側面であることも事実かと思いました。ただ、残念ながらケースの中に”シングルファーザー”は出てこないんですね。医っとあると思うんだけどな。



001/202

「しんがりで寝ています」三浦しをん

著者が月刊誌に連載しているエッセイをまとめた第二弾です。恐らく時系列に並べられていると思われるのですが、ちょうど新型コロナウィルス感染症のパンデミックが始まった時期にも当たり、当時の状況が蘇ってきます。ただ、著者自身は元々外出嫌いの作家業ということもあって、ほとんど生活に変化がなかったようですが。内容的には、前作同様のぶっ飛んだお話の連続で、らしさ満開。変わらず面白く読ませていただきました。(9/1)


002/203

「冬季限定ボンボンショコラ事件」米澤穂信

春夏秋ときて、ようやく冬、これで四季がそろいました。とはいえ、秋の出版から15年は、さすがに空きすぎではないかい。主人公は大学受験直前の高校生男女。雪道での帰宅途中でひき逃げ事故に遭い、男子生徒が瀕死の重傷を負います。同時並行で描かれる3年前、主人公の二人が出会うきっかけとなった、中学生時代に遭遇した同級生のひき逃げ事件。その二つの事件の謎に主人公たちが挑みます。とりあえず完結してよかった。(9/1)


003/204

「貧乏お嬢様、ハリウッドへ」リース・ボウエン

主人公は、母親のお供でアメリカへ。ひょんなことから母が映画に出演することになり、ハリウッドへ着いていくことになったところで、またもや殺人事件に遭遇。今作では、事件が起きるのは小説の後半からで、それまでは往路の豪華客船の船内、ハリウッドでの映画撮影の様子が細かく描かれていて、それはそれで面白い。美味でした。(9/3)


004/205

「怒れる老人 あなたにもある老害因子」安藤俊介

世の中には”怒れる老人”が蔓延していると言われます。いわゆる老害の人ですね。還暦を超え、立派な老人となった自分への戒めのため読んでみました。アンガーマネジメントの専門家でもある著者は、老害因子として『執着』『孤独感』『自己顕示欲』の三つを挙げ、御丁寧にセルフチェックができるようにされています。それによると、私は『執着度がやや高く』『孤独感もやや高い』『自己顕示欲の大きい』人だそうで、立派な老害予備軍です。また『年を重ねてからの自己顕示欲の強さは、老害への必死の抵抗』という記述もありました。それでいうと、自己顕示欲チェックのほとんどの項目は、現役時代に感じていたことなので、年とともに弱くなっているのかもしれませんね。とりあえず、これからは周りの邪魔にならないように生きていきたいと思います。(9/5)


005/206

「華族夫人の忘れもの 新・御宿かわせみ2」平岩弓枝

新シリーズになって2巻目なのですが、旧シリーズでは最後まで明かされなかった秘密が、なんとも無造作に明かされていて、手を抜いた感が漂います。(9/5)


006/207

「筑紫と南島 シリーズ地域の古代日本」吉村武彦、川尻秋生、松木武彦編

日本の各地域ごとの古代史にフォーカスしたユニークなシリーズで、この巻は九州・沖縄地区の歴史。ざっくりとした通史と大宰府、宗像神社、南西諸島を深堀した後半の3章が興味深い。特に南西諸島については、文字として歴史が残されていないことから、発掘調査が主流となるのだが、当時の人達の普段の生活が垣間見えるようで、とても楽しい。(9/5)


007/208

「やさぐれトラックドライバーの一本道迷路   現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます」橋本愛喜

あれだけ騒がれた2024年問題ですが、ドライバーの働き方に大きな制限が加えられて、すでに半年が経ちました。この本の中にも書かれていますが、物流のほとんどは、企業間のモノの動きです。今回の改定では、その部分に多大な費用が発生せざるを得ない設計になっていましたが、どうなんでしょうか。そこは改善されたのでしょうか。過日、巨大物流センターを描いた『ラストマイル』という映画を観てきました。労働者人口が急激に減少する近未来。私たちの生活がどうなっているのか不安でしかありません。そんな時代を遺していくことになる子どもたちに申し訳ない気持ちでいっぱいです。(9/5)


008/209

「猫の姫、狩りをする 妖怪の子預かります6」廣嶋玲子

以前、時間つぶしに読んでいた小説の続きを読んでみました。今作では、人を嫉む気持ちが作り出す物の怪が世間を騒がせます。(9/6)


009/210

「笑い神 M-1、その純情と狂気」中村計

今や一大イベントと化したお笑いの祭典『M―1』グランプリの裏側を綴った物語です。実は私自身は、M―1には全く興味がなく、テレビもほとんど見た記憶がありません。それでも一夜にして、成り上がるシンデレラストーリーは毎年マスコミを騒がせています。この書籍では、初期のM―1の申し子とも呼ばれた笑い飯を軸に、彼らを取り巻いていた歴代のチャンピオンたちの笑いに対する狂気を取り上げています。ややボリュームはありますが、もともと雑誌の連載だったためか読みやすく書かれていてよかったです。(9/6)


010/211

「君が手にするはずだった黄金について」小川哲

今年の本屋大賞にノミネートされていたとのことで読んでみたのですが、初めての作家さん。数年前に直木賞も取られていたのですね。知りませんでした。本作は、著者自身を思わせる主人公と彼を取り巻く人たちが登場する連絡短編集で、中毒性がある不思議な香りがする本でした。彼のほかの本も読んでみたいと思います。面白かったです。(9/8)


011/212

「巡査さんと超能力者の謎 英国ひつじの村6」リース・ボウエン

シリーズものの第6作で、本国では10巻まで出ているのですが、国内で翻訳されているのはこの巻まで。この後どうなるのか興味津々です。今作では、超能力やケルト人の古代宗教が取り上げられるのですが、それらに対して登場人物であるキリスト教の信者たちからかなりひどい言葉が掛けられる描写が出てきます。物語上必要だったのか疑問が残るところでした。(9/8)


012/213

「花世の立春 新・御宿かわせみ3」平岩弓枝

新シリーズの主人公である子供世代の登場人物の婚礼の様子が描かれた表題作他、新時代の動乱期に起こった事件を、彼らが解決していくのですが、前シリーズと違って、彼らには警察権がないので、かなり無理がある展開になっています。いろんな方が書かれていますが、破綻の兆しが見えているように思われます。(9/9)


013/214

「琴乃木山荘不思議事件簿」大倉崇裕

以前にも何度か書きましたが、この作家さんは映画の脚本も手掛けられる方なのですが、一方で山岳小説の書き手でもあります。この短編集は、山岳雑誌にれ連載されたものをまとめたもので、一作一作はかなり短いつくりとなっています。結構無理やりに作ったような作品もありましたが、まずまず面白かったです。(9/9)


014/215

「ふしぎな日本人   外国人に理解されないのはなぜか」塚谷泰生、ピーター・バラカン

お二人のよく知らない方々の対談です。一方はヨーロッパで働く日本人、もう一方は日本で働く外国人ということで、それぞれを代表してお話しされているようです。稲作に代表される日本の農耕文化が日本人のメンタリティを創造したという前者の指摘は、外れてはいないと思うのですが、それですべてを語ろうとするのは危険かとも思います。日本人が全体主義的というのは確かかもしれませんがね。(9/11)  


015/216

「泥棒は詩を口ずさむ」ローレンス・ブロック

お気に入りシリーズです。なかなか読めなかったものを府立図書館のネットワークを使って借りることができました。主人公と相棒との出会いが描かれているのですが、このとき相棒のキャラ設定完璧に出来上がっていてとても興味深いです。(9/12)


016/217

「ゴジラS.P<シンギュラ・ポイント>」 円城塔

全く知らずに読んだのですが、アニメのノベライズ版なのですね。SF小説の大家の作品なので、てっきりオリジナル化と思って読んでおりました。道理でよく分からん小説でした。これは、アニメを補完する小説のようで、前にアニメを見ていないと単独では成立しづらい物語であるように思えました。(9/16)


017/218

「貧乏お嬢さまと時計塔の幽霊  英国王妃の事件ファイル9」リース・ボウエン

シリーズの9作目は、主人公が国王の第二王子の結婚相手のお世話掛かりとして活躍する傍ら出くわした殺人事件に挑みます。いつもながら神出鬼没で心悩ませられる恋人の存在に心を揺さぶられながらも事件を解決に導きます。今作では初めて物語が終わらず、次巻に続く形で終わっています。次巻も楽しみです。(9/16)


018/219

「妖怪奉行所の多忙な毎日 妖怪の子預かります 7 」廣嶋玲子

以前、気に入って読んでいたシリーズものですが、久しぶりに読みました。軽快な内容で、バスの車内で立ったままスマホで読んでも大丈夫。(9/18)


019/220

「泥棒は野球カードを集める」ローレンス・ブロック

大好きなシリーズで、最後まで探し出すのに手こずった一冊でした。結果的には府立図書館を通じて、相互貸し出しシステムを使い、府南部のある都市の図書館から融通していただき読むことができました。感謝感激です。主人公の泥棒さんは、またもやいわれなき罪に問われ、仕方なく事件の謎を解かざるを得なくなってしまいます。これで、この著者の『泥棒バーニィ』『殺し屋』のシリーズを読了しました。作家の伊坂幸太郎さんがお薦めの作家さんだったのですが、何か彼のルーツを見たような気がするとても面白いシリーズでした。(9/19)


020/221

「『老害の人』にならないコツ」平松類

作者はお医者さんで、いわゆる老害の人にならないための指南書という体の本なのですが、この本を手に取るような人は、自分でもそれに気を付けている人が多いと思われるため、どれほどの効果があるのだろうと疑問に思いながら読んでいました。自分はそうならないように、気を付けたいと強く思いました。(9/19)


021/222

「貧乏お嬢さま、駆け落ちする 英国王妃の事件ファイル10」リース・ボウエン

とても意味深な終わり方をした前巻から引き続く物語で、主人公の王妃と恋人が駆け落ちをするつもりでドライブを続ける途中、恋人の父親が殺人の罪で逮捕されるというショッキングなニュースを目にします。とても駆け落ちどころではなく、それどころか最愛の恋人から別離を切り出されてしまいますが、そんなことには負けない王妃は事件解決に奔走します。主人公の大きな成長が伺える一作でした。(9/21)


022/223

「スピノザの診察室」夏川草介

今年の本屋大賞で4位に輝いた一冊です。医師でもある著者にしか描けないような物語。舞台は京都で、大学病院で内視鏡手術の名医であった主人公ですが、3年前たった一人の身内である妹が息子を残して他界。その甥っ子との暮らしのため大学病院を辞め、市内の小規模病院で勤務しています。そこでは、世間の注目を浴びるような大事件は起きませんが、命の大切さを改めて認識させるような出来事が起こります。『神様のカルテ』とは違った形の良いお話でした。(9/23)


023/224

「100分間で楽しむ名作小説 曼珠沙華」宮部みゆき

宮部さんの最新刊かと思い、勇んで予約したのですが、実は15年前に出された著者の名作である『三島屋変調百物語』を始めるきっかけとなった冒頭の一話を別冊にまとめたものでした。初めて読んだときの感動は変わらず、これから始まる物語への期待と人の心に潜む悪意に戦慄しながら読んだのを思い出しました。(9/23)


024/225

「『やりがい搾取』の農業論」野口憲一

著者は農業法人を経営する傍ら民俗学者としても活動されている。茨城県霞ヶ浦でレンコンを作っておられるようで、一本5000円の高級レンコンを市場に出しておられます。著者は一貫して低価格に押さえつけられている国内の農作物事情につき、農業従事者のモティベーションを搾取することが状態となっており、後継者が育たない現状に警鐘を鳴らしています。この夏は、店頭からコメが消えてパニックとなり、それが収まった今でも価格の高騰も大きな問題となっています。しかしながら、思い出してみてほしいのですが、今から40年前コシヒカリの小売価格は10kgで約5000円でした。それから考えると、これまではその頃の価格よりも安かったわけで、どう考えても農業=食料生産業という産業を持続可能な産業として考えてこなかったことが明らかです。今さら何言うテンねんという感じですね。向かう先は絶望しかないのでしょうか。(9/25)


025/226

「風に立つ」柚月裕子

大好きな作家さんなのですが、今作は珍しくミステリではなく、社会派の小説のようです。舞台は南部鉄器の工房なのですが、語り部となる職人の父である工房主が、ある日突然に補導委託という制度に手を挙げる。問題を起こして家庭裁判所から送られてくる少年を預かる制度だそうで、そんな制度のことは全く知りませんでした。もともと父と息子の間にはわだかまりがあって、お互い理解しあえていないと思い込んでいたようですが、一人の少年を預かることで、その関係に変化が起き始めます。なかなかに重厚でよい話でした。(9/25)


026/227

「ワインレッドの追跡者 ロンドン謎解き結婚相談所」アリスン・モントクレア

シリーズの4作目では、主人公の一人が殺人事件の容疑者として警察に逮捕されます。本来なら主人公二人で事件解決に臨みたいところ、パートナーの方は大事な裁判のため自重せざるを得ません。どう決着をつけるのかと訝しんでいたところ、事件の結末は思わぬ形で迎えます。原書では次作も最近出版されていますので、おそらく来年には邦訳が出されることでしょう。楽しみです。(9/28)


027/228

「紙の梟 ハーシュソサエティ」貫井徳郎

その理由、動機に関わらず人を殺すと死刑になる社会が舞台です。大きく二部に分かれていて、一部では様々な殺人事件が描かれます。恐ろしいのは、一人殺してしまえば、どうせ死刑になるのだからと連続殺人に発展するケース。自殺志願者が、自分では死にきれず誰かを殺して死刑を願うケース。さらに、人を殺したと思われていたもののそれが冤罪であった場合。なかなか重いテーマの物語が続きます。そして、第二部の中編は、とても哀しい物語でした。良かったです。(9/29)


028/229

「体験格差」今井悠介

数年前に話題になった”想像もしていなかった格差”についてのレポートです。子供は成長の過程で、家庭や学校だけでなく社会の中で、様々な体験を重ねることで社会性を身に着け成長していきます。例えばキャンプなどの集団行動、音楽やスポーツ、文化体験など。しかしながら、これらの活動には高額な経費や保護者の時間が削られるなど犠牲が伴います。特に最近増えてきている一人親世帯にとっては見過ごせない犠牲です。こういった格差について、様々データを基に解説しているほか、数名の親御さんにインタビューもされています。大きな問題提起にはなっているのですが、持続可能な解決策はあるんだろうか。(9/30)


2024年9月8日日曜日

2024年8月

憂慮された台風10号は、列島に甚大な被害をもたらしたのた後、ようやく消え去ったようです。長い人生を歩んできましたが、こんな不思議な台風は、記憶にありません。被害に遭われた皆さんに心からのお見舞いを申し上げます。

さて、激変する天候に翻弄された8月は、小説が14冊、その他の本が3冊で計17冊となりました。先月の反動か、少し低調でしたかね。

そんな中でのお薦めですが、小説では次の二作。

まずは三浦さんの墨のゆらめきです。やや抑えた感じの筆致から、突然に爆発するような描写に転ずる様は圧巻でした。そしてその後の独特のゆるさ。完敗です。彼女の小説はしばらく手に取っていなかったように記憶していますが、やっぱり面白い。お薦めです。

次は翻訳ミステリで、三部作シリーズの二作目となる優等生は探偵に向かないです。前作が大好評となって、続編を書かれたようですが、この二作はうまい具合に融合していて、前半は二つの物語が並行して進むようです。今作でも、高校生の女の子がSNSを駆使して現在進行中の犯罪を明らかにしていく過程が描かれます。スピード感もあり、よくできた物語だと思います。お薦めします。ただし前作から順番に読んでください。この本だけでは成立しない物語です。

続いて小説以外では、賃金の日本史が秀逸でした。個人的に、日本史の中では庶民の生活史に興味があって、彼らが当時どのような生活をしていたのかという疑問に直球で答えてくれる本でした。皆さんご存じのように、日本の中世には通貨を発行できる政体が存在しませんでした。そんな中で当時の庶民は、どうやって生計を維持していたのか大変な興味があります。この本で、そのすべてが解明されたわけではなく、さらに興味が募り、知りたくなってきます。そんな意味で、とても興味深い一冊でした。ややマニアックなお薦めです。

9月に入り、台風などの災害が頻発する時期に入りました。また、例年以上に残暑も厳しくなりそうです。南海トラフ地震も懸念されるところで、始終びくびくしながら過ごすことが増えそうです。せめて、本を読んでる間は心安らかにいたいものです。

8月まででちょうど200冊。このままいくと年間300冊のペースですが、今読んでいる本も面白いのですが、かなり分厚くて読み切るまでに少し時間が掛かりそうです。読書の秋とは言いますが、秋はまだまだ遠そうです。のんびりと味わって読んでいきます。

 

001/185

巡査さんを惑わす映画 英国ひつじの村5」リース・ボウエン

第二次大戦中に山中の湖に墜落沈没したドイツ戦闘機の引き上げ作業の記録映画制作を巡って巻き起こる殺人事件。平和な村が大騒動。(8/1)

 

002/186

ウナギNOW 絶滅の危機!伝統食は守れるのか」静岡新聞社、南日本新聞社、宮崎日日新聞社編

ニホンウナギの幼生であるシラスウナギが、絶滅危惧種に指定され、私たちの食卓からウナギが消えてしまうのではないかと騒がれた時期に、ウナギ養殖の大産地である三地区の地元新聞社が共同で展開した新聞記事をまとめたもの。単純にまとめただけなので、重なる内容が何度も出てくることになり、若干混乱します。私の頭の中では、国産ウナギ=浜名湖というイメージから全く更新されておらず、今は九州産が多いんですね。知りませんでした。ウナギの生態には謎が多すぎて、それがために完全養殖ができない稀有な魚でもあります。個人的には、かば焼き以外の食べ方を知らず、無くては困るというような存在でもないのですが、その生態には興味があります。(8/1)

 

003/187

踏切の幽霊」高野和明

十数年ぶりに書かれた小説だそうです。ちょっと興味を惹かれて読んでみました。何の変哲もない都会の踏切。時折踏切への立ち入りが運転手に目撃されるのですが、特に事故が起きるわけでもなく、不思議な踏切として認識されています。どうやらかつてその踏切近くで、殺人事件があったようで、いまだ解決を見ていません。この不思議な踏切の幽霊の正体とは。(8/4)

 

004/188

別冊図書館戦争2 図書館戦争シリーズ6」有川浩

シリーズの完結編です。結構長いシリーズだったんですね。(8/6)

 

005/189

生物学探偵セオ・クレイ 街の狩人」アンドリュー・メイン

シリーズものの第二弾で、前作が抜群に面白かったので、とても楽しみにして読みました。前作で、生物学の知見を武器に、誰もが気づかなかった長年にわたる連続殺人事件を発見し、その真犯人までたどり着くという主人公でしたが、今作では、その経験を買われて、とある政府機関に雇われます。しかしながら、そこでは能力を発揮することができず、悶々としている中、新たな事件に巻き込まれていきます。国内では、この後の続編が翻訳されていないのですが、何故なんだろう。面白いのになぁ。(8/11)

 

006/190

続巷説百物語」京極夏彦

これも息の長いシリーズですよね。前作を読んでからかなり長いブランクが空きました。弟子である宮部みゆきさんと同じように、化け物の怖さではなく、人間の怖さが存分に描かれる作品ばかりです。名作ですよね。(8/12)

 

007/191

貧乏お嬢さま、恐怖の館へ」リース・ボウエン

お気に入りのシリーズも7作目となりました。これくらい長くなってくると、特に必要もないのにレギュラーキャラクターを登場させたりしてしまうのが、目につきます。また、明らかにキャラクターが変わってしまった登場人物も出てきます。まぁ、限られた紙幅で物語を収めようとすると、それも仕方がないのかなとは思います。文句は言ってますが、面白いですよ。(8/14)

 

008/192

食道楽」村井弦斎、村井米子編訳

これは、誰かの本の中で紹介されていたのだと思いますが、誰だったのか全く記憶にない。作者は、明治時代の大衆小説からしいのですすが、今検索しても、この本ぐらいしかヒットいたしません。この本は、主人公である明治期の文学青年が、友人の妹に恋心を抱き、結婚の約束をしたまでは良かったが、田舎から家が決めた許嫁が押しかけ、てんやわんやの大騒動となる様子を描いた小説なのですが、本筋とは別に、数百種類を超える料理が作品中に紹介され、今のグルメ漫画の元祖のような書物となっています。紹介される料理は和食に限らず、中華、洋食と多種多様、読んだだけではどんなものかさっぱり判らないものまで登場します。当時の庶民生活が垣間見えるようでなかなか興味深かったです。(8/19)

 

009/193

賃金の日本史 仕事と暮らしの1500年」高島正憲

古代から近代まで、働く人の賃金はどのように変遷してきたのか、とても興味深いテーマをぐっと掘り下げた大作です。賃金と言いつつも、ご存じのように奈良時代に、和同開珎から皇朝十二銭という政府発行の硬貨が発行されたものの、その後江戸時代まで数百年にわたって、政府が発行する銭は存在しませんでした。そこで、著者は当時通貨としての性格を持っていたといわれる米に着目し、当時の労働対価について考察を深めます。どうやら当時の労働者の中で、最も高給を得ていたのは、大工だったようで、それなりの収入を得ていたようです。しかしながら、その下で働く非熟練労働者においては、かなり低い給与で働かざるを得なかったようで、長い間その待遇が改善されることはありませんでした。なかなか興味深い一冊でした。(8/22)

 

010/194

SS探偵事務所 キボウのミライ」福田和代

これも、最近ちょっとはまっているシリーズの最近作です。この方の作品は結構面白くて気に入っています。今作でも、警察官と自衛官上がりの二人の女性が、謎のコンピュータウイルスを相手に大活躍を見せる一作です。(8/22)

 

011/195

黄色い家」川上未映子

今年の本屋大賞候補作になったということで読んだのですが、約600ページの超大作で、一週間以上かけて読むことができました。主人公の少女と、彼女を取り巻く二人の同世代の少女と人世代上の不思議な女性の奇妙な共同生活が描かれます。自宅には居場所がなく、共同生活をしながら、生きるために非合法な仕事にはまっていきます。描かれている世界が重くて、なかなか順調に読み進めるという感じの本ではありませんでした。キツカッタ。(8/24)

 

012/196

一夜 隠蔽捜査10」今野敏

人気シリーズも10作目まできました。今作では、小田原市に住む人気作家の誘拐事件が発生したにもかかわらず、犯人からの接触がほとんどなく、混迷を深める中、別の作家からの押しかけ支援を受け、誘拐事件の真相に迫るという物語です。このシリーズには珍しく、なんかチョッとミステリっぽい作品でした。(8/24)

 

013/197

キャント・バイ・ミー・ラブ 東京バンドワゴン」小路幸也

こちらもシリーズ19作目。超大作ですね。登場人物が一作ごとに着実に一歳年を取っていくという大河小説。初期の頃は子供だった子たちが、成長し、立派な大人となって物語を彩ります。最初期は時代もリアルタイムだったのですが、途中で何巻かスピンオフで、過去の出来事を書かれて物もあって、今では数年遅れとなっています。この巻でいよいよコロナ禍に突入するかなと思っていたら、そうではなく、おそらく次巻がコロナ初年度に当たるのではないかと思われます。物語もそれを予感させるような展開になっています。次巻がかなり楽しみです。(8/25)

 

014/198

墨のゆらめき」三浦しをん

ホテルマンと書道家という異色のコンビの物語。女性はほぼほぼ登場しません。二人の出会いから互いの信頼が生まれるまでの展開は、著者らしくユーモアたっぷりの物語だったのですが、残り2割を切ってからの怒涛の展開が素晴らしかった。予定調和のハッピーエンドでなく、ちょっと斜に構えた感じの書きっぷりも良かったです。(8/27)

 

015/199

優等生は探偵に向かない」ホリー・ジャクソン

前作『自由研究には向かない殺人』に続く第二弾。前作も面白かったのですが、今作も秀逸でした。SNSを駆使して友人の失踪事件を追う主人公は高校生の女の子。前作で有名人となったことで、同級生から失踪した兄の行方を探すよう依頼される。二度と、探偵役はしないと心に誓ったものの、度重なる懇願に負け承諾してしまう。最後はやや苦い結末となりましたが、500ページを超える長さも全く気にならない作品でした。面白かったです。(8/28)

 

016/200

アスリート盗撮」共同通信運動部編

数年前から大問題となっている事象ですが、そのきっかけとなった共同通信社の調査報道の裏側を記録したものです。この事象そのものは、40年以上前からあって、当時はその撮影のためのマニュアル本やそんな写真を集めた雑誌が、普通に書店に並んでいたことを覚えています。誰も疑問に思っていなかったあの時代から考えると隔世の感があります。今では、当時の一眼レフカメラがスマホになり、雑誌がネットになり、その写真で大儲けをしている輩が多数いるそうです。モラルに頼るだけではとても解決できない問題。しかしながら一律に取り締まることに非常な困難を伴う問題でもあります。先のパリ五輪では、さらにエスカレートして、選手への誹謗中傷が蔓延するドンでもない五輪となりました。アスリートへのリスペクトは何処へ行ったんだ。(8/29)

 

017/201

新・御宿かわせみ」平岩弓枝

8月の最後は、御宿かわせみの新シリーズ。元のシリーズから数年後、幕末の動乱が終わり、新しい明治の世を迎えていますが、主人公であった東吾は乗船した船が難破し行方不明に。源三郎は事件の捜査中に賊の凶弾に倒れ絶命。主人公たちの子供世代が成人した後の世界を描いています。この間に、様々な事件があったようですが、新シリーズの主人公が、ヨーロッパ留学を終えて、帰国したところから物語がスタートします。そして、彼らがどうしても解決しなければならない事件の捜査へと没頭します。舞台の変化が大きすぎて、やや戸惑い気味。この先が少し不安です。(8/31)

2024年8月4日日曜日

2024年7月

灼熱地獄の7月が終わりました。この月は小説23冊、その他6冊、合計29冊という結果になりました。これだけ読んだのは久しぶりですね。あまりに暑いため、冷房の効いた場所を探して読むのですが、やっぱり移動中というのが一番いいですね。通勤途上やゴモ散歩の際に結構読めました。荷物になるのが難ですが、その点電子図書館はとても便利。

てなところで、今月のお薦めですが、

まずは初めて読んだ『生物学探偵セオ・クレイ』が、秀逸でした。東野圭吾さんのガリレオシリーズに代表されるように、科学者が探偵役となって事件の謎を解くという物語は多数ありますが、生物学者が探偵役というのは寡聞にして知りません。その生物学に関する知識だけを武器に事件んも謎を解く様子は、かなり面白い。とりあえず、続巻は借りてきましたが、その後は全く翻訳されていません。そても残念です。

続いては、『リカバリー・カバヒコ』でしょうか。彼女の本は、以前本屋大賞の候補作となった作品を読んで以来なのですが、いずれもハートフルな良い物語でした。誰も傷つかず、温かい気持ちになる物語はとても良いですね。気持ちが落ち着きます。

もう一冊は、芦沢央さんの『バック・ステージ』でしょうか。本文にも書きましたが、登場人物のキャラクター設定には若干異議があるのですが、物語としては面白かったです。

小説以外の書籍からのお薦めですが、

まずは『歩く江戸の旅人たち』。これは文句なしに面白かったです。よくもこんなテーマで深く調べられたものと敬服いたしました。詳しくは本文に書いてます、とにかくお薦めの一冊でした。

もう一冊は、『寺院消滅』。かなり前に書かれた本で、これ以降もさらにし深刻さを増していることに疑いはありません。特に昨今のカルト教団の事件で、宗教に対する国民の忌避感が増しているように思われ、伝統仏教も余波を受けているように思われます。自身の宗教観のアップデートも含めて、お読みいただきたいと思います。お薦めです。

8月に入りましても暫くは熱中症予報で『極めて危険』と表記されるような猛暑日が続くようで、必要がない限り外出しようという気にはなれません。とはいえ、自宅でじっとしているのもなんだかなぁ、という感じで、気に入ったお供を片手に、隙を見て散歩に出ていこうと思います。

 

001/156

歩く江戸の旅人たち スポーツ史から見た『お伊勢参り』」谷釜尋徳

偶々図書館で本を物色していて出会った本なのですが、これがまた滅茶苦茶に面白かった。江戸時代の庶民の旅の様子を、彼らが残した旅日記を基に考察しているもので、当時の名所図会などに出てくる旅装姿なども織り交ぜつつ、鮮やかに再現されていされています。良く、江戸時代を描いた小説や時代劇などで、人は平均毎日10里歩いたとされていますが、著者の研究によると、平均値はそれより若干短いようですが、日によっては70km以上を歩くこともあったようで、興味は尽きません。また、旅には欠かせない草鞋、杖、旅銀などについても、それぞれ章を設けて詳しく述べれています。200ページ足らずの本でしたし、一気に読み切りました。これは強くお薦めします。(7/4)

 

002/157

巡査さん、合唱コンテストに出る 英国ひつじの村3」リース・ボウエン

日本にいると分からない、イングランド・ウェールズ・スコットランド・アイルランドのそれぞれの違いが、若干極端に描かれていて、その点でも面白い。中でもウェールズ地方が舞台となったミステリは少ないんじゃないだろうか、知らんけど。シリーズ三作目で、主人公が都会を出て、この田舎町にやってきた理由の一端がうっすらと見えてきます。(7/4)

 

003/158

そうだったんだ!日本語 子どものうそ、大人の皮肉 ことばのオモテとウラがわかるには」松井智子

10年以上前に出版された日本語を学び直すシリーズの一冊で、この巻は言葉というよりコミュニケーションについての考察で、著者は認知科学の専門家です。人は成長の過程で、話される言葉が全て本当ではないということに気が付きます。そして次の段階で、話されていることばにはウラの意味があるということにも気がつくようになります。そういった前提があって初めてコミュニケーションが成り立つのだそうです。私は、コミュニケーションのイニシアティヴは伝える側にあって、もし伝わらないことがあるとすれば、それは受け手ではなく送り手に責任があると思っています。受け手側への過大な期待と送り手側の過信が、ミスコミュニケーションの元凶だと、著者も結論づけています。それには納得。(7/6)

 

004/159

アフターコロナの観光学 COVID-19以後の『新しい観光様式』」遠藤英樹」編著

アフターコロナ・ウイズコロナ時代の新しい観光様式についての提案や提言が書かれているのかと期待して読んだのですが、大きな期待外れ。お見かけするに執筆陣は若手の研究者の方が多いのではと推察するのですが、内容が難解すぎて、さっぱり理解できませんでした。一般向きではない書籍でした。(7/6)

 

005/160

貧乏お嬢様と王妃の首飾り 英国王妃の事件ファイル5」リース・ボウエン

今作もイギリスを離れて、南仏ニースを舞台に事件が起きます。主人公が行くところに何故か大事件が起こり、そして主人公は、その渦中に飛び込んでいってしまう。今作でも、危うく殺人事件の犯人として逮捕されてしまうところでした。(7/7)

 

006/161

パンデミックを阻止せよ NUMAファイル」クライブ・カッスラー、ポール・ケンプレコス

カッスラーの本は久しぶりに読みました。レイズ・ザ・タイタニックで、一躍国内でも有名になった「ダーク・ピットシリーズ」がお気に入りで、結構読みふけっていた時期もあったのですが、いつしか疎遠になってしまっていました。これは、それに続く新しいシリーズnの中野一冊なのですが、SARSの流行直後に書かれた本書では、中国発の新たな新型コロナ感染症に米中共同で立ち向かおうとしたところ、思わぬ邪魔が入るというストーリーで、相変わらずスピード感満載で面白い本でした。また久しぶりに昔のシリーズを読んでみようかな。(7/7)

 

007/162

生物学探偵セオ・クレイ 森の捕食者 」アンドリュー・メイン

たまたま図書館で見かけて借りてきたのですが、めちゃくちゃ面白い。久々のスーパーヒットです。主人公は本来生物学者で、かつての大学での教え子が、森林でのフィールドワークの最中に羆に襲われ死亡してしまう。ところが、その死に疑問を持った主人公が、その死の謎を突き止めようとするのだが、その結果が思わぬ方向へ進む。とにかくスピード感もあって、一気に読んでしまいました。原書では、4作以上出ているようですが、邦訳は最初の2冊だけ。とりあえず、もう一冊は読みますが、その続きも読みたい。誰か翻訳して~~!!(7/10)

 

008/163

泥棒はクロゼットの中」ローレンス・ブロック

ブロックの3つのシリーズもののうち、お気に入りのバーニィのシリーズです。これも府立図書館のネットワークから南部の公立図書館にある蔵書を貸し出してもらいました。今作でも、主人公が盗みに入った先で殺人事件に巻き込まれ、容疑者として追跡されます。その火の粉を払いのけるために、真犯人を探し出すという物語。面白かったです。(7/12)

 

009/164

駅に泊まろう! コテージひらふの早春物語」豊田巧

これまた、過日から読み始めたシリーズものの第二作。長い冬から開けた早春の北海道の風景が描かれます。また、道東への列車の旅も描かれていて、今から50年近い昔に、一人で旅した当時の風景を思い出しました。当時は列車で移動したところが、軒並み廃線になっているのは残念な限り。これからもさらにローカル線は減っていくことでしょう。(7/14)

 

010/165

のち更に咲く」澤田瞳子

今大河ドラマで話題の平安朝を舞台にした物語。大河の主人公もちょい役で出てきます。内容的にはある種のミステリの形式をとっていて、面白かったです。(7/15)

 

011/166

こちら空港警察」中山七里

成田空港を舞台にした警察小説なんですが、語り部は航空会社で働くグランドスタッフ。空港警察の新署長が着任して以来、いろんな事件が起きるのですが、最後には立てこもりテロまで。空港で働く様々な人たちが、それぞれの持ち場で全力を尽くす様が描かれます。(7/16)

 

012/167

変わらざるもの 」フィリップ・カー

30年近く前、ベルリンに住んでいた頃にある人から教えてもらったベルリン三部作と呼ばれるハードボイルドミステリがありました。とても面白くて、職場でも回し読みし皆に紹介していたことを思い出します。結局、そのシリーズはその三作だけで、それ以外は単発の小説をいくつか書いておられたのですが、ここ数年は全くノーマークでした。ところが、最近ベルリン三部作の続編を書いておられることを偶々知って、手にしたものです。主人公は若干年老いて、かつてのようなスマートさには欠けるようですが、それでも獲物を逃がさない気質を最後の最後に見せてくれます。続編は全部で三作書かれたようなので、あと二冊読みたいと思います。(7/17)

 

013/168

ブレイク」真山仁

再生可能エネルギーである地熱発電を巡る物語です。東日本大震災でその弱点を露呈した原子力発電ですが、産業界を中心に見切り発車で再稼働させようという動きが出ています。どこまでが事実に基づくのかは不明なのですが、この本では、地熱発電の仕組みや可能性だけでなくその難しさにも言及されていて、さらなる研究の必要性に思いが至ります。火山大国である我が国にとって、非常に可能性のあるエネルギー源なのではないでしょうか。(7/17)

 

014/169

十三歳の仲人 御宿かわせみ32」平岩弓枝

シリーズ最終盤が近づくにつれ、事件物から人情物へと姿を変えてきました。表題作では、かわせみで女中として働く女性と大工の棟梁の間を取り持つ子供たちの活躍が描かれます。(7/19)

 

015/170

図書館内乱 図書館戦争シリーズ2」有川浩

久々に、ベタ甘のラブコメ戦争物の同シリーズに手を付けました。作中作として、著者の代表作(私も大好き)である『レインツリーの国』が登場します。物語を書く人たちだけでなく、行政の仕事も『言葉』を使う仕事で、その『言葉』の選び方には細心の注意をはらってきたつもりです。使い方を誤るととんでもなく人を傷つける武器にもなってしまう。気を付けないと。(7/19)

 

016/171

石を放つとき」ローレンス・ブロック

ひと月に二作もブロックの作品が!!こちらは、彼の超人気シリーズである『マット・スカダー』シリーズの短編集。主人公の晩年の様子が描かれます。実は彼のシリーズもののうち、このスカダーシリーズはほとんど読んでいなくて、そうとは知らず借りてきた本なのです。とても分厚かったけど、あっという間に読めました。面白かったです。(7/20)

 

017/172

巡査さん、フランスへ行く? 英国ひつじの村4」リース・ボウエン

平和な村で起きる連続放火事件。よそ者を狙ったかのように続く事件は、ついに殺人事件を引き起こします。事件の謎を解くため、海底トンネルを通って花のパリまで乗り込みます。しかも車で!!英仏海峡トンネルに車載シャトル便があるって初めて知りました。(7/21)

 

018/173

SS探偵事務所 最終兵器は女王様」福田和代

コンピュータにやたら詳しい女性警察官と女性自衛官が活躍する単発小説が面白かった記憶があり、借りてきました。二人がそれぞれの組織に居られなくなって、立ち上げた探偵事務所が舞台。残念ながら、IT関連の依頼はほとんどなく、行方不明のペット探しが主な業務のよう。今作では、主人公の一人の両親の過去の失踪事件の謎がテーマ。面白かったです。(7/21)

 

019/174

小判商人 御宿かわせみ33」平岩弓枝

シリーズも終盤です。表題作は幕末、海外との取引が増えてきたころ、日本と海外で金銀の交換比率が違ったことから、国内の金が海外に流出していった時期があり、それに欲をかく悪徳商人を取り巻く事件です。お気に入りは親子の情愛を描いた『初卯まいりの日』。(7/21)

 

020/175

図書館危機 図書館戦争シリーズ3」有川浩

シリーズの後半です。べたアマのラブコメに、家族との確執が加味されています。(7/22)

 

021/176

バック・ステージ」芦沢央

とある人気演出家の演劇を軸にして、それにまつわる様々な人たちを主人公とした4篇の連作のミステリで、それらを幕間の再度ストリーで繋ぎ、全体で一つの物語になっている感じ。この作家さんの小説はあまり読んだことがなかったのですが、面白かったです。登場人物のキャラクターと幕間ストーリーはも一つでしたが。(7/24)

 

022/177

図書館革命 図書館戦争シリーズ4」有川浩

シリーズの完結作です。とりあえずハッピーエンドです。(7/25)

 

023/178

貧乏お嬢さまのクリスマス  英国王妃の事件ファイル6」リース・ボウエン

主人公のキャラクターが少し変化してきたように思われます。今作では、誰もが不思議に思わなかった連続事故死事件に係る謎を解いていきます。これまでは、なぜか危機に巻き込まれていく主人公でしたが、今作では自ら危険に飛び込んでいきます。まさに九死に一生。(7/26)

 

024/179

別冊図書館戦争 図書館戦争シリーズ5」有川浩

本来なら4作で終わるはずが、大人の事情で書くことになったそうです。その後の図書館戦争。(7/26)

 

025/180

公文書危機 闇に葬られた記録」毎日新聞取材班

毎日新聞の特集記事の裏側を記録したもので、当事者たちのインタビューも載せられています。私も元公務員の端くれなので、官僚たちが記録を残したくない、できれば隠しておきたいと思う気持ちはよく理解できます。欧米では、トップの言動記録はすべて公的に残されており、後の時代に検証することが可能です。日本の政治家は、後世に検証されることを好まないため記録を残させない。それだけ後ろめたいことをしているという自覚があるんでしょうね。だから同じ間違いを何度でも犯してしまう。歴史に学ばない国に未来はないと思います。(7/27)

 

026/181

リカバリー・カバヒコ」青山美智子

今年の本屋大賞のノミネート作品の一つですね。惜しくも第7位だったそうですが、とてもハートフルで素敵なお話でした。とある公園にあるカバの遊具。カバヒコと名付けられたその遊具を巡っていくつかの物語が綴られます。とても良かったです。(7/28)

 

027/182

ザイム真理教 それは信者8000万人の巨大カルト」森永卓郎

元専売公社のMOF担だった著者が、現在の財務省の財政均衡主義を徹底的にこき下ろします。1980年代のバブル経済に懲りた当時の政府は、その後の財政政策で大失敗し、空白の十年と揶揄あれる暗黒時代を生み出しました。それが、すべて諸悪の根源である当時の大蔵省の徹底的な政権コントロールのせいだというのが著者の主張です。ほとんどの点で合意できるのですが、この財務省支配に徹底抗戦した稀有な存在としてあべ安倍元首相をエラく評価しています。そのかわり変なトモダチばかりを側近において、日本を滅茶苦茶にしましたけどね。(7/28)

 

028/183

浮かれ黄蝶 御宿かわせみ34」平岩弓枝

ついに最終巻です。江戸時代のかわせみシリーズは終了です。主人公の二世世代が活躍する物語が増えてきました。そして、最後の物語では、主人公が登場せず不思議な不思議な終わり方でした。(7/28)

 

029/184

寺院消滅 失われる『地方』と『宗教』」鵜飼秀徳

著者は、お寺の副住職をしながらビジネス誌に記事を書くという二刀流。私が役所で宗教法人を担当していた昭和末期から問題になっていた不活動宗教法人について、その実態をまとめた大作です。特に地方においては、檀家の減少で維持できない寺院が多数あり、その数は主務官庁も把握できていない。この本では、当時問題になった法人格の売買や売買した法人格を悪用した脱税、犯罪といった事件については触れずに、地方における信仰の問題を取り上げています。私の実家のお墓のあるお寺の住職も、周辺のいくつかのお寺の住職を兼務されています。また、まだ後継者も決まった様子がないので、将来どうなるのか危惧もしています。地方が疲弊し東京だけが巨大化していくという今の在り方を変えることは今さら不可能だと思いますので、あとは座して破滅を待つよりほかないのでしょうか。(7/29)