台風あり、猛暑日ありの9月は、小説が19冊、それ以外が9冊で計28冊という結果になりました。
ご存じの方もあるかと思いますが、一念発起して新たに始めたプロジェクトのことを考える時間が多くて、読書に充てる時間が少なくなってきているのですが、なんか結果的には思った以上に読めているのが不思議です。
そんな中でのお薦めですが、お気に入りのミステリ小説シリーズがたくさんあって、それ以外の中から選らぶとなると次の三作でしょうか。
まずは、夏川さんの『スピノザの診察室』。今年の本屋大賞にもノミネートされていました。出世作である『神様のカルテ』とは違った味のする医療小説でした。また、京都が舞台になっているのも、物語が身近に感じられて良かったです。命の大切さを実感させてくれる良い小説だったと思います。
次は、柚月さんの『風に立つ』です。今やミステリ小説の大家ですが、今作では事件は起きません。どこの家庭にも起こりうる問題を描き、作者にとっては新境地ともいえるとても良い物語だったと思います。また、南部鉄器の製作風景を丁寧に描かれているのもとても好感が持てます。お薦めです。
最後の作品は貫井さんの『紙の梟』です。これは一転して次から次へと殺人事件が起きる小説ですが、死刑廃止論・肯定論、ポリティカルコレクトネス、いじめ問題など様々なテーマを持ち込んで描かれた短・中編を集めたものですが、非常に考えされられる物語集だと思います。考えようによってはかなり重い本ですが、お薦めです。
その他小説以外の本でのお薦めですが、数を読んだ割にはあまり多くない。
三浦さんのエッセイ集である『しんがりで寝ています』は、とりあえず面白い文句なしのお薦めです。まずは読んでみてください。
別格の一冊のほかには、次の二冊の新書が良かったかな。
まずは、『やりがい搾取の農業論』です。ちょうど、コメ不足、価格高騰が話題になっている中で読んだので、それに対する不満も感想の中にぶちまけていますが、戦後の農地解放以降に行われた農業政策はどうだったのか。結果的に今の工業・農家はどうなっているのか。改めて考えさせられた本でした。かつては過保護と言われた時代もありましたが、それは方法が間違っていたわけで、国民に必要かつ十分な量と質の食料を供給するという目的は間違っていなかったと思います。今となっては、その目的も空虚に響きますが。農業に縁のない方にもおすすめの一冊です。
もう一冊は『体験格差』です。これは、拡大する経済格差、貧困率の上昇、シングルマザー問題、貧困の連鎖などといった問題の一つの表出形態として見られる事象について、データ、インタビューを交えて詳細にレポートされています。したがって、この点だけを捉えて是正しようとしても、根本のところを是正しないとどうにもならないよねという無力感も感じます。でも、格差・貧困という問題を考えるうえで、見逃してはいけない側面であることも事実かと思いました。ただ、残念ながらケースの中に”シングルファーザー”は出てこないんですね。医っとあると思うんだけどな。
001/202
「しんがりで寝ています」三浦しをん
著者が月刊誌に連載しているエッセイをまとめた第二弾です。恐らく時系列に並べられていると思われるのですが、ちょうど新型コロナウィルス感染症のパンデミックが始まった時期にも当たり、当時の状況が蘇ってきます。ただ、著者自身は元々外出嫌いの作家業ということもあって、ほとんど生活に変化がなかったようですが。内容的には、前作同様のぶっ飛んだお話の連続で、らしさ満開。変わらず面白く読ませていただきました。(9/1)
002/203
「冬季限定ボンボンショコラ事件」米澤穂信
春夏秋ときて、ようやく冬、これで四季がそろいました。とはいえ、秋の出版から15年は、さすがに空きすぎではないかい。主人公は大学受験直前の高校生男女。雪道での帰宅途中でひき逃げ事故に遭い、男子生徒が瀕死の重傷を負います。同時並行で描かれる3年前、主人公の二人が出会うきっかけとなった、中学生時代に遭遇した同級生のひき逃げ事件。その二つの事件の謎に主人公たちが挑みます。とりあえず完結してよかった。(9/1)
003/204
「貧乏お嬢様、ハリウッドへ」リース・ボウエン
主人公は、母親のお供でアメリカへ。ひょんなことから母が映画に出演することになり、ハリウッドへ着いていくことになったところで、またもや殺人事件に遭遇。今作では、事件が起きるのは小説の後半からで、それまでは往路の豪華客船の船内、ハリウッドでの映画撮影の様子が細かく描かれていて、それはそれで面白い。美味でした。(9/3)
004/205
「怒れる老人 あなたにもある老害因子」安藤俊介
世の中には”怒れる老人”が蔓延していると言われます。いわゆる老害の人ですね。還暦を超え、立派な老人となった自分への戒めのため読んでみました。アンガーマネジメントの専門家でもある著者は、老害因子として『執着』『孤独感』『自己顕示欲』の三つを挙げ、御丁寧にセルフチェックができるようにされています。それによると、私は『執着度がやや高く』『孤独感もやや高い』『自己顕示欲の大きい』人だそうで、立派な老害予備軍です。また『年を重ねてからの自己顕示欲の強さは、老害への必死の抵抗』という記述もありました。それでいうと、自己顕示欲チェックのほとんどの項目は、現役時代に感じていたことなので、年とともに弱くなっているのかもしれませんね。とりあえず、これからは周りの邪魔にならないように生きていきたいと思います。(9/5)
005/206
「華族夫人の忘れもの 新・御宿かわせみ2」平岩弓枝
新シリーズになって2巻目なのですが、旧シリーズでは最後まで明かされなかった秘密が、なんとも無造作に明かされていて、手を抜いた感が漂います。(9/5)
006/207
「筑紫と南島 シリーズ地域の古代日本」吉村武彦、川尻秋生、松木武彦編
日本の各地域ごとの古代史にフォーカスしたユニークなシリーズで、この巻は九州・沖縄地区の歴史。ざっくりとした通史と大宰府、宗像神社、南西諸島を深堀した後半の3章が興味深い。特に南西諸島については、文字として歴史が残されていないことから、発掘調査が主流となるのだが、当時の人達の普段の生活が垣間見えるようで、とても楽しい。(9/5)
007/208
「やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます」橋本愛喜
あれだけ騒がれた2024年問題ですが、ドライバーの働き方に大きな制限が加えられて、すでに半年が経ちました。この本の中にも書かれていますが、物流のほとんどは、企業間のモノの動きです。今回の改定では、その部分に多大な費用が発生せざるを得ない設計になっていましたが、どうなんでしょうか。そこは改善されたのでしょうか。過日、巨大物流センターを描いた『ラストマイル』という映画を観てきました。労働者人口が急激に減少する近未来。私たちの生活がどうなっているのか不安でしかありません。そんな時代を遺していくことになる子どもたちに申し訳ない気持ちでいっぱいです。(9/5)
008/209
「猫の姫、狩りをする 妖怪の子預かります6」廣嶋玲子
以前、時間つぶしに読んでいた小説の続きを読んでみました。今作では、人を嫉む気持ちが作り出す物の怪が世間を騒がせます。(9/6)
009/210
「笑い神 M-1、その純情と狂気」中村計
今や一大イベントと化したお笑いの祭典『M―1』グランプリの裏側を綴った物語です。実は私自身は、M―1には全く興味がなく、テレビもほとんど見た記憶がありません。それでも一夜にして、成り上がるシンデレラストーリーは毎年マスコミを騒がせています。この書籍では、初期のM―1の申し子とも呼ばれた笑い飯を軸に、彼らを取り巻いていた歴代のチャンピオンたちの笑いに対する狂気を取り上げています。ややボリュームはありますが、もともと雑誌の連載だったためか読みやすく書かれていてよかったです。(9/6)
010/211
「君が手にするはずだった黄金について」小川哲
今年の本屋大賞にノミネートされていたとのことで読んでみたのですが、初めての作家さん。数年前に直木賞も取られていたのですね。知りませんでした。本作は、著者自身を思わせる主人公と彼を取り巻く人たちが登場する連絡短編集で、中毒性がある不思議な香りがする本でした。彼のほかの本も読んでみたいと思います。面白かったです。(9/8)
011/212
「巡査さんと超能力者の謎 英国ひつじの村6」リース・ボウエン
シリーズものの第6作で、本国では10巻まで出ているのですが、国内で翻訳されているのはこの巻まで。この後どうなるのか興味津々です。今作では、超能力やケルト人の古代宗教が取り上げられるのですが、それらに対して登場人物であるキリスト教の信者たちからかなりひどい言葉が掛けられる描写が出てきます。物語上必要だったのか疑問が残るところでした。(9/8)
012/213
「花世の立春 新・御宿かわせみ3」平岩弓枝
新シリーズの主人公である子供世代の登場人物の婚礼の様子が描かれた表題作他、新時代の動乱期に起こった事件を、彼らが解決していくのですが、前シリーズと違って、彼らには警察権がないので、かなり無理がある展開になっています。いろんな方が書かれていますが、破綻の兆しが見えているように思われます。(9/9)
013/214
「琴乃木山荘不思議事件簿」大倉崇裕
以前にも何度か書きましたが、この作家さんは映画の脚本も手掛けられる方なのですが、一方で山岳小説の書き手でもあります。この短編集は、山岳雑誌にれ連載されたものをまとめたもので、一作一作はかなり短いつくりとなっています。結構無理やりに作ったような作品もありましたが、まずまず面白かったです。(9/9)
014/215
「ふしぎな日本人 外国人に理解されないのはなぜか」塚谷泰生、ピーター・バラカン
お二人のよく知らない方々の対談です。一方はヨーロッパで働く日本人、もう一方は日本で働く外国人ということで、それぞれを代表してお話しされているようです。稲作に代表される日本の農耕文化が日本人のメンタリティを創造したという前者の指摘は、外れてはいないと思うのですが、それですべてを語ろうとするのは危険かとも思います。日本人が全体主義的というのは確かかもしれませんがね。(9/11)
015/216
「泥棒は詩を口ずさむ」ローレンス・ブロック
お気に入りシリーズです。なかなか読めなかったものを府立図書館のネットワークを使って借りることができました。主人公と相棒との出会いが描かれているのですが、このとき相棒のキャラ設定完璧に出来上がっていてとても興味深いです。(9/12)
016/217
「ゴジラS.P<シンギュラ・ポイント>」 円城塔
全く知らずに読んだのですが、アニメのノベライズ版なのですね。SF小説の大家の作品なので、てっきりオリジナル化と思って読んでおりました。道理でよく分からん小説でした。これは、アニメを補完する小説のようで、前にアニメを見ていないと単独では成立しづらい物語であるように思えました。(9/16)
017/218
「貧乏お嬢さまと時計塔の幽霊 英国王妃の事件ファイル9」リース・ボウエン
シリーズの9作目は、主人公が国王の第二王子の結婚相手のお世話掛かりとして活躍する傍ら出くわした殺人事件に挑みます。いつもながら神出鬼没で心悩ませられる恋人の存在に心を揺さぶられながらも事件を解決に導きます。今作では初めて物語が終わらず、次巻に続く形で終わっています。次巻も楽しみです。(9/16)
018/219
「妖怪奉行所の多忙な毎日 妖怪の子預かります 7 」廣嶋玲子
以前、気に入って読んでいたシリーズものですが、久しぶりに読みました。軽快な内容で、バスの車内で立ったままスマホで読んでも大丈夫。(9/18)
019/220
「泥棒は野球カードを集める」ローレンス・ブロック
大好きなシリーズで、最後まで探し出すのに手こずった一冊でした。結果的には府立図書館を通じて、相互貸し出しシステムを使い、府南部のある都市の図書館から融通していただき読むことができました。感謝感激です。主人公の泥棒さんは、またもやいわれなき罪に問われ、仕方なく事件の謎を解かざるを得なくなってしまいます。これで、この著者の『泥棒バーニィ』『殺し屋』のシリーズを読了しました。作家の伊坂幸太郎さんがお薦めの作家さんだったのですが、何か彼のルーツを見たような気がするとても面白いシリーズでした。(9/19)
020/221
「『老害の人』にならないコツ」平松類
作者はお医者さんで、いわゆる老害の人にならないための指南書という体の本なのですが、この本を手に取るような人は、自分でもそれに気を付けている人が多いと思われるため、どれほどの効果があるのだろうと疑問に思いながら読んでいました。自分はそうならないように、気を付けたいと強く思いました。(9/19)
021/222
「貧乏お嬢さま、駆け落ちする 英国王妃の事件ファイル10」リース・ボウエン
とても意味深な終わり方をした前巻から引き続く物語で、主人公の王妃と恋人が駆け落ちをするつもりでドライブを続ける途中、恋人の父親が殺人の罪で逮捕されるというショッキングなニュースを目にします。とても駆け落ちどころではなく、それどころか最愛の恋人から別離を切り出されてしまいますが、そんなことには負けない王妃は事件解決に奔走します。主人公の大きな成長が伺える一作でした。(9/21)
022/223
「スピノザの診察室」夏川草介
今年の本屋大賞で4位に輝いた一冊です。医師でもある著者にしか描けないような物語。舞台は京都で、大学病院で内視鏡手術の名医であった主人公ですが、3年前たった一人の身内である妹が息子を残して他界。その甥っ子との暮らしのため大学病院を辞め、市内の小規模病院で勤務しています。そこでは、世間の注目を浴びるような大事件は起きませんが、命の大切さを改めて認識させるような出来事が起こります。『神様のカルテ』とは違った形の良いお話でした。(9/23)
023/224
「100分間で楽しむ名作小説 曼珠沙華」宮部みゆき
宮部さんの最新刊かと思い、勇んで予約したのですが、実は15年前に出された著者の名作である『三島屋変調百物語』を始めるきっかけとなった冒頭の一話を別冊にまとめたものでした。初めて読んだときの感動は変わらず、これから始まる物語への期待と人の心に潜む悪意に戦慄しながら読んだのを思い出しました。(9/23)
024/225
「『やりがい搾取』の農業論」野口憲一
著者は農業法人を経営する傍ら民俗学者としても活動されている。茨城県霞ヶ浦でレンコンを作っておられるようで、一本5000円の高級レンコンを市場に出しておられます。著者は一貫して低価格に押さえつけられている国内の農作物事情につき、農業従事者のモティベーションを搾取することが状態となっており、後継者が育たない現状に警鐘を鳴らしています。この夏は、店頭からコメが消えてパニックとなり、それが収まった今でも価格の高騰も大きな問題となっています。しかしながら、思い出してみてほしいのですが、今から40年前コシヒカリの小売価格は10kgで約5000円でした。それから考えると、これまではその頃の価格よりも安かったわけで、どう考えても農業=食料生産業という産業を持続可能な産業として考えてこなかったことが明らかです。今さら何言うテンねんという感じですね。向かう先は絶望しかないのでしょうか。(9/25)
025/226
「風に立つ」柚月裕子
大好きな作家さんなのですが、今作は珍しくミステリではなく、社会派の小説のようです。舞台は南部鉄器の工房なのですが、語り部となる職人の父である工房主が、ある日突然に補導委託という制度に手を挙げる。問題を起こして家庭裁判所から送られてくる少年を預かる制度だそうで、そんな制度のことは全く知りませんでした。もともと父と息子の間にはわだかまりがあって、お互い理解しあえていないと思い込んでいたようですが、一人の少年を預かることで、その関係に変化が起き始めます。なかなかに重厚でよい話でした。(9/25)
026/227
「ワインレッドの追跡者 ロンドン謎解き結婚相談所」アリスン・モントクレア
シリーズの4作目では、主人公の一人が殺人事件の容疑者として警察に逮捕されます。本来なら主人公二人で事件解決に臨みたいところ、パートナーの方は大事な裁判のため自重せざるを得ません。どう決着をつけるのかと訝しんでいたところ、事件の結末は思わぬ形で迎えます。原書では次作も最近出版されていますので、おそらく来年には邦訳が出されることでしょう。楽しみです。(9/28)
027/228
「紙の梟 ハーシュソサエティ」貫井徳郎
その理由、動機に関わらず人を殺すと死刑になる社会が舞台です。大きく二部に分かれていて、一部では様々な殺人事件が描かれます。恐ろしいのは、一人殺してしまえば、どうせ死刑になるのだからと連続殺人に発展するケース。自殺志願者が、自分では死にきれず誰かを殺して死刑を願うケース。さらに、人を殺したと思われていたもののそれが冤罪であった場合。なかなか重いテーマの物語が続きます。そして、第二部の中編は、とても哀しい物語でした。良かったです。(9/29)
028/229
「体験格差」今井悠介
数年前に話題になった”想像もしていなかった格差”についてのレポートです。子供は成長の過程で、家庭や学校だけでなく社会の中で、様々な体験を重ねることで社会性を身に着け成長していきます。例えばキャンプなどの集団行動、音楽やスポーツ、文化体験など。しかしながら、これらの活動には高額な経費や保護者の時間が削られるなど犠牲が伴います。特に最近増えてきている一人親世帯にとっては見過ごせない犠牲です。こういった格差について、様々データを基に解説しているほか、数名の親御さんにインタビューもされています。大きな問題提起にはなっているのですが、持続可能な解決策はあるんだろうか。(9/30)
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