灼熱の8月は小説14冊、それ以外が4冊、計18冊となりました。
18のうち、上下巻物が一組、4巻物が一組ありましたので、実質はもう少し多かったかなという感じでした。
今月も、小説が目立ちます。また初めて読んだ作家さんも結構ありました。
そんな中でのお薦めですが、小説では。
『大誘拐』は、およそ半世紀前の作品ですが、着想といい、物語の運びといい、トリックといい古さを全く感じさせない作品でした。かなり長い小説ですが、一気に読めます。さすがに20世紀の最高ミステリに選ばれただけのことはあります。
『あの子とQ』も万城目ワールド全開で面白かったです。前半はコミカルなタッチで軽妙なお話になるのかと思いきや、あるシーンを境に一気に重厚な物語に転換します。この切り替えが見事で、後半はある種の冒険小説として楽しめます。キャラクターも魅力的に描かれていて良です。
『光のとこにいてね』は、初めて手にした作家さんで、BL小説や漫画の原作を主に手掛けておられるらしい。十数年おきに邂逅する二人の女性が主人公で、お互いがお互いを必要とし合っているようで、そうではないようで、読んだことはないですがBL 小説の筋運びがこんな感じなのかなと想像します。本文にも書きましたが、結末の次のページが気になる、そんな小説でした。
『ほうき星』も一人の女性の前半生を描いた大河小説です。ほうき星の下に生まれた主人公が、周りの人々に愛され慕われているさまが胸を打ちます。とんでもない不幸にも見舞われますが、それを跳ね返す強さ。とても素敵な三代の女性が描かれます。お薦めです。
ここまでは、すべて女性が主人公。
そして最後は、夢枕獏さんの『沙門空海~~』。今考えるとスーパーマンとしか考えられない弘法大師空海を主人公にした超大作で、その持てる知恵で中国を舞台に国家的な危機から国を救います。十数年をかけて書かれたにも関わらず、芯がぶれていないことが素晴らしい。かなり有名な本なので読まれた方も多いと思いますが、ワクワクしながら読みました。お薦めです。
続いて、小説以外の本なのですが、実は4冊ともとても面白くて、全部お薦めしたいところですが、詳細は本文を読んでいただくとして、簡潔に。
『武器になる哲学』、武器になるかどうかは別にして、実学を含むあらゆる学問の基礎的素養として哲学的な思考方法は必須かと思います。
『民主主義の壊れ方』、壊れないうちに改めてデモクラシーというものについて考えるべきかと思います。壊れてしまわないうちに。その時はすぐそこに来ていると思います。
『ギフトショー』、モノづくりに携わる方々で、新たな販路を開きたいと考えておられる方、マーケティングの基礎を学びたい方に向けた基本書としても読めます。自慢話ばかりが書かれているに違いないとお思いのかもと思います。その傾向が全くないとは言いませんが、わかりやすいのでいいですよ。お薦めです。
『観光と性』、日本人として、沖縄問題に蓋をしてはいけません。しっかりと向き合うためにも差別の歴史を学ぶべきです。アメリカも絡んだ話なので、国連からは問題提起がされないだけに、私たちが自主的に学びに行く姿勢が重要です。
8月は連日猛暑日で、屋外活動が止められたおかげで、結構たくさん読めました。いい本にも数多く出会うことができ充実した読書生活だったと思います。
これで順調に月15冊ペースに戻すこともできましたので、読書の秋を楽しみたいと思います。
001/109
「大誘拐」天藤真
今から45年前に書かれたミステリ小説で、」20世紀最高の傑作と呼ばれています。ほかにもいくつか小説を書かれているようですが、京都市の電子図書館を使って初めて読みました。紀伊山中の大地主の女性を誘拐して身代金をゆすり取ろうとした3人の小悪人でしたが、その額の少なさに激怒した女性に誘拐事件の主導権を握られ、まんまと100億円をせしめるという痛快エンタメ小説です。携帯電話も監視カメラもない時代だからこそ成り立つ犯罪ですが、ミステリはこうじゃないとね。面白かったです。(8/1)
002/110
「武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50」山口周
彼の書く物は結構好きで、見かけるたびに読むようにしています。この本は哲学の入門書ともいえる本で、人生を生き抜くために役に立つとともに、雑学の友としても有用かと思います。不思議なのは、ここに挙げられている50のキーコンセプトと哲人たちがすべて西洋哲学の方々で、東洋哲学は一切含まれていません。これは行ったどうしてなんだろうと、思ってしまいます。(8/4)
003/111
「あと15秒で死ぬ」榊林銘
15秒という短い時間にいったい何ができるのか。そこにフォーカスして、様々な突拍子もない状況を設定して作り上げた不思議な短編ミステリ集です。テレビドラマの原作となった作品も含まれているそうです(私は視ていませんが)。ご都合主義との評価もあるようですが、よくこんな状況を考え出したなというのが率直な感想です。(8/5)
004/112
「江戸一新」門井慶喜
江戸時代初期、知恵伊豆と呼ばれた松平伊豆守信綱を主人公にした歴史小説です。慶安の変や島原の乱を抑え込んだ強権の冷血漢という評価もあるようですが、本作では悩める官僚トップとして描かれています。江戸城の天守閣が焼失した明暦の大火で、焼け野原になった江戸の町を一新するために様々な課題に立ち向かいます。トップは孤独ですね。(8/6)
005/113
「午前零時のサンドリヨン」相沢沙呼
霊媒探偵シリーズで売れっ子作家になった著者のデビュー作にして鮎川哲也賞受賞作ともなった小説です。主人公はサンドリヨンというマジックバーでアルバイトをする女子高校生。彼女が日常の謎を解いていくというミステリですが、彼女が心理的な葛藤を乗り越えていくという裏テーマがあって、それなりに楽しめる小説でした。ちょっとくどかったけどね。(8/11)
006/114
「爆弾」呉勝浩
昨年のミステリ各賞を総なめにした作品です。犯人が先に逮捕されていて、取調室で犯人と警察が謎解き合戦をするという小説なのですが、登場人物のキャラが少しずつずれているというか、むず痒いというか、そんな設定必要?と思うような箇所もいくつかあったように思います。でもこれが今の流行なのかなぁ。(8/11)
007/115
「教誨」柚月裕子
幼女二人を殺害し、死刑になった遠縁の女性の遺骨を引き取ることになったことから、その事件の真相を追いかける女性を主人公にした物語です。犯罪の動機が不明で、それを探し求める旅なのですが、最後に明かされる秘密にちょっとがっかり。彼女の小説は好きで新刊が出ると必ず読むのですが、作者の自信作といわれた割には少し残念。(8/12)
008/116
「民主主義の壊れ方 クーデタ・大惨事・テクノロジー」デイヴィッド・ランシマン
アメリカでとんでもない大統領が選出されて間もなくに出版された物ですが、その2016年の大統領選挙に費やされたページは少なく、民主主義が危機に陥る三つの事象について考察されています。でもおそらくですが、民主主義の崩壊はもっと静かに気付かないところで緩やかに進んでいるように思えてなりません。今の日本のように。2016年の選挙結果についてはある民主主義にとっての『危機』が懸念されていました。全米の有権者による得票数では圧倒していた民主党の候補が選挙結果を受け入れず、共和党への政権移譲を暴力的に拒むようなことがあうのではないかと。実際4年度にその懸念は現実となりました。それも大統領が扇動するって。(8/12)
009/117
「あの子とQ」万城目学
主人公は人間社会でフツーの学園生活を送る吸血鬼、ある日目前に控えた十七歳の誕生日で迎える儀式のための監視が突如現れる。その監視者を巡るドタバタ劇で始まるのですが、途中で大事件が発生し、事態は思わぬ展開を見せます。万城目ワールド全開の楽しい小説です。とても面白かった。お薦めです。(8/12)
010/118
「光のとこにいてね」一穂ミチ
昨年度の各文学賞の候補作となった習作です。二人の女性が主人公で、どちらも『普通』ではない家庭に育ち、小学校入学前に一瞬の邂逅があり、十数年後高校入学時に再会します。しかしながら、その関係も数か月で途絶え、再びそのきずなも切れてしまったかのようです。ところが、主人公も知らないところで細々とつながっていた糸を手繰り寄せる人がいて、十数年後に、『再び、再会』します。大人になった二人はいったいどうなるのか。結末はとても美しく、思わず『がんばれ!』と声をかけたくなります。結末の次のページが読みたい、そんな小説でした。お薦めです。(8/19)
011/119
江戸時代終盤、空に大きなほうき星が現れたときに生まれた女の子が主人公。幼くして大きな悲しみに襲われますが、家族、縁者、隣人だけでなく初めて会った人たちにも愛され、最後には大きな幸せをつかみ取ります。祖母、母の生きざまが孫に幸せをもたらす、三代にわたる女性の大きな愛の物語かとも思います。長さを全く感じさせない傑作でした。お薦めします。(8/19)
012/120
「此の世の果ての殺人」荒木あかね
あと数か月で地球に小惑星が衝突し、世界は終わりを告げる。衝突地点と目される九州北部はゴーストタウンと化している。そんな場所で起こった奇妙な殺人事件。意図せぬうちに事件解決に巻き込まれてしまった主人公の女性。極限世界を舞台にしたミステリは、古今東西にたくさんありますが、本作は江戸川乱歩賞の受賞作なんですね。本賞の最近の受賞作ってほとんど読んでいませんが、結構際物にも範囲を広げたんですね。(8/20)
013/121
「汝、星のごとく」凪良ゆう
彼女にとっては二作目の本屋大賞受賞作ですね。一組の男女の十年にわたる恋愛小説なのですが、ヤングケアラーとか貧困とか現代社会の諸問題をまとめてぶち込んだ感じの小説です。とても面白かったし、主人公の女性には幸せになってほしいですが、男性の方は、私にはどうにもならないクズにしか見えなくて、彼女のためには仕方がないとは思うのですが、ちょっとモヤモヤが残ります。(8/23)
014/122
「ギフト・ショー 日本最大級の消費財見本市 創造と進化の奇跡」芳賀信享
国内最大の消費財見本市となった『東京ギフトショー』の主催者であるビジネスガイド社の社長が著したもので、ある種の社史でもあります。昔しばらく住んだことがあるドイツは、世界に名だたる見本市王国で、毎日のように国内のどこかで、見本市が開かれています。その分野は多岐にわたり、ベルリンでは性具の見本市も開催されていて、皆さん真面目に新製品の大人のおもちゃを片手に商談されていました。この手の見本市は、いわば問屋の機能を果たしているとされていて、卸問屋業という独特の業態が幅を利かす日本では、見本市というのは成り立ちにくいと言われています。最近は、問屋業を専業にする事業者も減ってきて、製造事業者からの直販というのも広がってきています。私はその物、人に合ったいろいろな流通が準備されているというが理想的と思っているのですが、どうなんでしょう的外れですかね。 (8/24)
015/123
「観光と『性』 迎合と抵抗の沖縄戦後史」小川実紗
独特の観点からまとめられた沖縄の戦後史です。奇しくもこの文章を書いているとき、辺野古埋立訴訟で沖縄県と国との裁判で、県側の敗訴が確定しました。本書では、戦後の復興で観光が脚光を浴びつつも、いわゆる買春ツアーなどの性観光が主流だったことが取り上げられています。大きな話題になった米兵の幼児暴行事件だけでなく、本土男性の性暴力も歴史の一つです。本土に住む我々は、一貫して沖縄を差別し、アメリカに貢物として差し出すことに何の躊躇もしてきませんでした。日本に駐留する米軍基地の7割が沖縄になることに何の不思議も感じていません。かつて、琉球王国を無理やり併合し、ある種の植民地としてから、沖縄はいつでも切り捨てられる存在であったわけです。おそらく今も。私たちは、このことを恥じるべきです。大きな怒りを覚えながら読破しました。私は自分が恥ずかしい。(8/25)
016/124
「新謎解きはディナーの後で」東川篤哉
ベストセラーになった小説の最新刊です。初めて読んだときは、結構衝撃をもって読んだのですが、今回はそれほどの感動を覚えませんでした。かんな感じだったっけ。(8/27)
017/125
「チョウセンアサガオの咲く夏」柚月裕子
この作者にとっては珍しい短編集です。この作者の良さは短編だと伝わりにくいのかなと実感しました。(8/28)
018/126
「沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ一~巻ノ四」夢枕獏
かなりの大長編ですが、初出も4つの雑誌を渡り歩きながら17年間にわたって連載されたものだそうです。よく同じ調子で描けたものと感心しています。弘法大師空海が密教の奥義を体得するため、遣唐使とともに渡航し、わずか一年で灌頂を受け帰国するまでの一年間に遭遇した事件について描かれています。もちろんフィクションなのですが、楊貴妃や白楽天といった歴史上の人物と交わりながら国を揺るがす大事件を解決に導きます。獏さんお小説は、陰陽師シリーズを何冊か読んだくらいで、あまり馴染みはなかったのですが、思いのほか面白かったです。(8/28)
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