令和3年8月は30冊、小説は18冊、それ以外は12冊という内訳でした。8月は暑い日も続きましたが、五輪中継を観ることもなく、比較的順調に読めました。
最近の興味分野は、“民主主義とは”、“ポスト資本主義”、“リベラル”、“人類史”、“人工知能”、“日本史”、“民俗史”そしてすべての思考の基礎となる“哲学” などなど、多岐にわたっています。きっとこの幅もどんどん広がっていくのではないかと期待しています。そしてその合間に、面白い小説を。
001/165
「一緒にいてもスマホ SNSとFTF」シェリー・タークル
毎日、電車とバスを乗り継いで通勤しているのですが、その車中にいる殆どの方はスマホの画面を眺めておられます。また、会議や面談中もテーブルの上にスマホが置かれているというのも、ありふれた風景になっています。この本の中には、家族や恋人と一緒にいるときでもスマホを手放せなくなっている現代人に対する注意喚起に溢れています。皆さんの記憶されているでしょうか、つい先日、踏切内に閉じ込められていた女性が、スマホ画面を見ながら歩いていたため、線路内にいることに気づかず電車にはねられて亡くなるという痛ましい事件がありましたが、実は彼女の周りには多数の方がおられたのですが、全員がそれぞれスマホ画面を眺めていたので、誰も彼女に気づかなかったというとんでもなく恐ろしいオチまでついていました。私たちは、利便性を手にしたことで大事なものを失ってしまいました。(8/1)
002/166
「疫病短編小説」R・キプリング、K・A・ポーター他、石塚久郎監訳
新型コロナが蔓延する現代に合わせたようなアンソロジーです。過去に世界を恐怖をもたらしたペストやコレラなどを題材にした小説が集められています。実はそれぞれの小説としては特に面白いものがなかったのですが、冒頭に収められているポーの“赤い死の仮面”は、昔子供向けの雑誌(小学館の学習雑誌だったと記憶しているのですが)に載せられていて、とても怖い思いをしながらも何度も読んだ記憶があります。(8/1)
003/167
「神仏分離を問い直す」神仏分離150年シンポジウム実行委員会編
これは山口大学で行われたシンポジウムの内容を纏めた本です。明治維新の際に行われた“神仏分離”“廃仏毀釈”について、宗教学や歴史・民俗学の立場から考察されたものです。この明治政府の愚策については、神道の国教化、仏教や新宗教への弾圧という形で語られることが多いのですが、私自身は、この政策によって日本古来の“八百万の神々”たちも粛正されてしまった被害者だと考えています。このシンポジウムには、神道側の発言者がなく、かなり不満が残る内容でした。面白かったですけどね。(8/2)
004/168
「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード 東京バンドワゴン」小路幸也
バンドワゴンシリーズの最新作です。イギリスを舞台にした長編となっています。いつもの登場人物のいつもの風景が描かれています。実は昨年前作の読後感想で、コロナ禍でこの物語はどう変わるのか興味があると書いたのですが、今作では全く触れられていませんでした。今後も無視してこの先も進めて行かれるのか、それとも登場人物の一人が医療の道に進んだこともあり、この災禍を正面から取り上げるのか。次作を楽しみにしたいと思います。(8/4)
005/169
「食と日本人の知恵」小林武夫
発酵学の専門家である著者が食に関して書かれた随筆を纏めたものです。食材から調理法などあらゆる切り口から書かれており、一節読むたびにその食材を食べたくなります。空腹時には読んではいけない危険な本だと思います。他にもたくさん著書があるようなので、また探して読みたいと思います。(8/4)
006/170
「スカラムーシュ・ムーン」海堂尊
バチスタシリーズの中のサイドストーリーです。たまたまインフルエンザ・ワクチンがテーマになっていて、ちょいと驚きました。それだけです。(8/7)
007/171
「フォルモサ 台湾と日本の地理歴史」ジョージ・サルマナザール
東アジアの海上にあり日本の実効支配を受けている“フォルモサ”という国について書かれた“偽書”だそうです。17世紀の初頭に書かれているのですが、よくもまぁこれだけのことをでっち上げられたなぁと感心するような内容です。素晴らしい才能だと思います。だれかこの架空の国を舞台に小説を書いてくれないかなぁ。(8/8)
008/172
「羊は安らかに草を食み」宇佐見まこと
今年読んだ中でナンバーワンの面白さでした。80歳前後の3人の女性のうち、最年長の女性の認知症が進んだことから、3人でその女性の思い出の地を訪ねる旅に出て、その旅先で彼女の壮絶な生い立ちに、他の2人それぞれの悩み事を絡めながら、物語が進みます。途中で挿まれる壮絶が過去のエピソードの描写が秀逸で、ページをめくる手が止まりません。初めて読んだ作家さんですが、とても良かったです。(8/8)
009/173
「六人の嘘つきな大学生」浅倉秋成
新聞広告を読み興味を持って読んでみました。最近注目を浴びている作家さんです。就活中の六名の大学生が、特殊な採用面接に臨まされるところから物語が始まります。そこである事件が起きるのですが、前半部分である人物が犯人とされたものの、一転して後半では別の人物が犯人だと誘導されますが、実は、、、、という二転三転するミステリです。ただ、残念ながら、最後の推理の根拠がイマイチ。残念。(8/9)
010/174
「オリヴァー・ツイスト」チャールズ・ディケンズ
ディケンズの二作目の小説です。孤児として生まれた主人公オリバーが、悲惨な運命をたどりながら、最後に大どんでん返しの大団円を迎えるという物語です。かなりご都合主義の部分があって、今読むとかなり白けてしまいそうな展開ですが、当時は良かったのかなぁ。(8/13)
011/175
「エレジーは流れない」三浦しをん
この著者もお気に入りの作家さんです。2人の母親に育てられる高校生が主人公という奇天烈な設定であるにも関わらず、当の本人はそれを異常とも感じていないというなんとも不思議な物語です。最終的には、その秘密は明らかになってくるのですが、当の母親たちは、本人も知っているものと考えていたという“ユル”さが物語の魅力を高めています。いつもながら面白い物語でした。(8/14)
012/176
「国を救った数学少女」ヨナス・ヨナソン
先日読んだ前作が面白くて、二作目に挑戦。アパルトヘイトの南アフリカで生まれ育った少女が、数学的才能をてこに最下層社会から脱出し、“普通の”生活をつかむまでの物語。前作同様、その過程はシッチャカメッチャカで、話の展開が読めません。まだ何冊か国内で出版されていますので、読んでみようと思います。面白かった。(8/15)
013/177
「民主主義の死に方 二極化する政治が招く独裁への道」スティーブン・レビツキー、ダニエル・ジブラット
思った以上に面白い本でした。本書では、過去に民主主義が危機に陥ったとき、その多くは合法的な選挙によって破滅に向かったとされています。この本は、アメリカで稀代のポピュリストが大統領に就任した約一年後に出版されたもので、その間に行ったことが、過去に合法的に民主主義を死に追いやった人たちと非常に似かよっているとしています。司法を抱き込み、メディアを沈黙させ、社会に極端な二極化と差別を持ち込む。本書では、今後の政権の未来を予想していますが、結果的に世界的な感染症に対する危機管理無能力により政権を去りました。往生際は悪かったですが。翻って我が国では、首相が二代にわたって、この大統領のろくでもないところだけを真似て、日本からただでさえか細い民主主義の灯火を消そうとしています。もっとまじめにやって欲しい。(8/17)
014/178
「論理が伝わる世界標準の『議論の技術』 WinーWinへと導く5つの技法」倉島保美
5つの技法とは、①伝達の技術②傾聴の技術③質問の技術④検証の技術⑤準備の技術を指します。こういう本が書かれると言うことは、世界標準の議論の技術が日本には普及していないということを意味しています。まさにその通りで、この本にモデルとして書かれているような形で御論が進むことは、全く考えられません。ドメスティックではなくグルーバルな環境で活用できる技術かと思います。(8/18)
015/179
「食卓を変えた植物学者 世界くだものハンティングの旅」ダニエル・ストーン
めちゃくちゃ面白い本でした。20世紀の初め、アメリカの農家で栽培できるくだものなどを求めて、世界中を旅したデヴィッド・フェアチャイルドという植物学者の伝記です。子供の頃、自宅を訪ねてきた学者に、ジャワ島の植物いついての話を聞き、いつかは行ってみたいと思っていたところ、政府からアメリカにとって有用な植物を世界中から探してくるとう職を得るとともに、バーバー・ラスロップという大富豪からその旅費、滞在費をすべて援助されるという幸運に恵まれ、アメリカの食生活に多大な貢献を果たしました。その中には日本の桜もあって、有名なワシントンの桜並木の実現に大きな貢献があったそうです。当時は、種子の保護とか植物検疫の概念もなく、そういう意味ではアメリカの帝国主義への貢献はあったかもしれませんが、その他の国にとっての貢献は全くなかったとも言えます。それをおいても、なかなか面白い読み物でした。(8/19)
016/180
「知りすぎた男」G・K・チェスタトン
ブラウン神父シリーズで有名な著者の作品です。一応謎解きミステリなんですが、イマイチ分かりづらい、すとんと腑に落ちないお話ばかりです。時代背景(第一次大戦前後)の難しさもありますが、探偵役の“知りすぎた男”の設定と鼻持ちならない態度のせいかな。(8/20)
017/181
「灰の劇場」恩田陸
話題になった近著ですが、読後感としてはイマイチな感想。昔読んだ新聞記事から着想を得て、書かれた物語なのですが、その小さな記事から著者が一つの物語を作り上げていく過程の物語とその物語が舞台化されることで図らずも主人公たちが実体化してしまうことに戸惑いを覚える作者の葛藤を描いた物語、さらにその記事になった背景を想像しながら描いた本来の物語、この3つの物語が同時並行で語られます。読みながらこちらの頭が混乱してきて、なれるまでは純粋に楽しむと言うことができませんでした。なれてきた後半部分は面白く読むことができたのですが、全体としては読みづらかった。(8/21)
018/182
「ふたつの星とタイムマシン」畑野智美
以前この作者の本を一度読んでから少し気になっていました。タイムマシンや念力、恋人ロボットなどSF要素を絡ませた短編青春小説集です。SF小説が苦手な人でも純粋に楽しめる本かと思います。私は結構好きです。(8/21)
019/183
「スーツアクター探偵の事件簿」大倉崇裕
彼のミステリは結構好きで是までに結構読んでいますが、この本は知りませんでした。いわゆる怪獣ものの特撮映像作品に登場する着ぐるみの中で演技する役者さんのことをスーツアクターというそうです。アメリカの特撮ものでは、CG処理されることの方が多いような印象があるのですが、日本の映画ではまだまだこちらの方が主流なのではないでしょうか(映像を見ている限りの印象ですが)。この本では、特撮業界の裏事情なども描かれており、お仕事小説として面白い本でした。(8/21)
020/184
「立川忍びより」仁木英之
“僕僕シリーズ”でブレークした作者ですが、この作品は現代劇。しかしながら登場人物は、現代に生きる“忍び一族”という物語です。この一族に入り婿候補として迎え入れられた主人公が、悪戦苦闘しながら一族に馴染んでいきます。当初からシリーズ化が意図されていたようで、今作は導入部だけで終わっています。続編も出ているようなので、機会があれば読もうかな。(8/21)
021/185
「日本の食文化6 菓子と果物」関沢まゆみ編
日本の食文化について、たくさんの専門家が執筆したシリーズの最終巻です。古代の人たちにとって非常に貴重な甘味を提供してくれていたのが果物たちです。そしてその果を素に加工したものが菓子です。江戸時代に琉球から砂糖が移入されるようになってから、そのバリエーションが拡大しました。本書では、代表的な果実である柑橘、柿、栗から菓子の原初型である搗栗、焼栗、干柿から中国から伝わった唐菓子などの解説がされていますが、従来のシリーズからすると若干表層的な記述に終始しているように思えます。少し残念です。ところで、私にとってなじみの深い果物は、なんと言っても柿、栗、ミカンの三つです。自宅の庭に大きな柿の木があって、秋になると毎日のように屋根に上って柿をもぎって食べていました。また、近くに祖父が植えた大きな栗の木があって、毎年そこで栗を拾うのが子供の仕事でした。自宅消費するだけでなく、果物屋さんに買ってもらっていたことを覚えています。そしてミカンは、母の実家でミカンを栽培していたので、毎年食べきれないくらいのミカンをもらっていました。毎日手が黄色くなるまで食べていた記憶があります。この三つは今でも特別な果物ですね。(8/22)
022/186
「生か、死か」マイケル・ロボサム
めちゃくちゃ面白かった。単発もののミステリなのですが、主人公は現金強奪事件の犯人として10年の刑に服していたものの、刑期満了日の前日に刑務所から脱獄する。途中まではその目的が分からず、大きな謎を抱えながら読み進めていくのですが、それが全く苦にならず、一気に読み進めていけます。最後の手に汗握る展開も見事です。残念ながら、国内で紹介されている著書は少ないのですが、他の本も読みたいと思わせる作品でした。お薦めです。(8/25)
023/187
「AIvs.民主主義 高度化する世論操作の深層」NHK取材班
2016年のアメリカ大統領選挙を取材したスペシャル番組を基に書籍化されたものです。この選挙では、SNSを多用して嘘、誹謗、中傷を振りまいた候補者が勝利しましたが、その際活躍した天才データアナリストのインタビューや、マイクロマーケティングの実体などが事細かに描かれています。ある特定のターゲットに、特定の行動を促すに、最も有効な手段は、“怒り”をかき立てることだそうですが、ある特定のターゲットに、ある行動(投票)をさせないための手法も確立されているようです。今の日本にも、SNSの中にこそ真実があると思い込んでいる人たちが増えてきているようです。危険ですね。(8/25)
024/188
「アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る」藤井保文、尾原和啓
デジタルトランスフォーメーションが進んでいる中国の実態を紹介し、すべての人たちがオンラインで繋がっている時代に生き残っていくためには“古くて堅い頭”を持っている私たちの発想の大転換が必要だと強く警鐘を鳴らしています。書かれていることの殆どはもっともな指摘であり、それに対応できないビジネスはどんどん淘汰されていくのだろうと想像できます。しかしながら一方で、今後将来にわたって、“すべての人たちが繋がっている社会”を維持するために、どれほどのエネルギーが必要になるのだろうかと考えてしまいます。こういうことを言うと、すぐスマートシティなどの部分最適論を振りかざす輩がいて辟易します。そんなことを考えながら、読んでいました。おとぎ話のようです。(8/27)
025/189
「異世界居酒屋『のぶ』四杯目」蝉川夏哉
お気に入りのシリーズです。この異世界にショーユが存在した。誰がどのようにして製造したのか。面白いです。(8/28)
026/190
「五色の殺人者」千田理緒
とある老人介護施設で殺人事件が発生。その犯人は5名の人間に目撃されていたのだが、その服装の証言がバラバラ。赤・青・黒・白・緑。一体どれが本当なのか?いわゆる本格推理小説です。最後に思わぬどんでん返しもあって、それなりの面白さです。かなり強引な印象ではありますが。(8/28)
027/191
「ウッドハウス名作選 ボドキン家の強運」P・G・ウッドハウス
日本では、上皇后が愛読書としてあげられた“ジーブスシリーズ”が有名ですが、本国でも女王が好きな作家としてあげられたことで知られています。20世紀初頭のイギリス上流社会を舞台に描かれたドタバタ喜劇なのですが、当時の彼らの社会の内幕が垣間見えるようで、なかなかに興味深い物語でした。面白かったです。(8/29)
028/192
「哲学と人類 ソクラテスからカント、21世紀の思想家まで」岡本裕一郎
面白かったです。一気に読みました。私も興味を持っているのですが、最近人類史をテーマにした書籍が多数出版されています。この本では。哲学を切り口に人類の歴史を振り返ろうとしているのですが、その手がかりとしているのが“メディア”です。この場合のメディアは、今一般に使われるマスメディアではなく、本来の媒体という意味で、私たちが自分の考えを伝える為の媒体として、①音声、②文字、③アナログ技術、④デジタル技術へとイノベーションを重ねながら段階的に変化してきています。今、技術革新は日進月歩で、どんどん新しい技術が生まれていますが、それに私たちの倫理観は追いついているのでしょうか。猛省が必要だと思われますが、もう取り返しがつかないような気がしています。(8/30)
029/193
「古代史講義【氏族篇】」佐藤信編
日本の古代史の登場人物たちを“氏族”という切り口で紹介しています。彼らを代表する源平藤橘という言葉はよく知っていますが、主要四大氏族と言われるけど“橘”って影が薄いのになぜ?といった疑問にも答えてくれています。あまりなじみのない西文氏などの解説も新鮮でした。(8/31)
030/194
「元彼の遺言状」新川帆立
新聞広告とタイトルに惹かれて読みました。トリッキーな設定や主人公ですが、一応本格推理ものの体をなしてはいます。ただ、この小説は“このミス大賞”なんですね。この賞には、“当たり”が少ないというのが、私の個人的な感覚なのですが、本作もまさにそんな感じでした。(8/31)
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