2021年8月18日水曜日

2021年7月

7月は計22冊、うち小説が15冊、その他が7冊という結果でした。

先月の異常値に比べると、穏当な数字となりました。

 

その中でのお薦めですが、残念ながら、小説ではいつものシリーズもの以外には、これといってお薦めできるものがありませんでした。

 

そんな中で、

 

不埒な人たちは、革命前のチェコという国の姿を教えてくれる興味深い本でした。作家自身がかなり破天荒な人物であったようで、それを重ね合わせて読むと、なかなか趣深いものがあります。

 

窓から逃げた100歳の老人は、設定も展開もハチャメチャで、ストーリーが読めない面白さ。スウェーデンの作家さんで、続編も書いておられるようなので、ちょっと読んでいきたいと思います。お薦めです。

 

もう一冊は、ブルーバード、ブルーバードですかね。現代アメリカ社会の病巣を赤裸々に描いた物語は、我々にとって、ある種現実感に乏しく、どっぷり入り込んで読むと言うのはかなり難しいと思います。しかしながら、新聞記事で読む黒人差別問題と違い、その破廉恥さを実感できるのは、小説というものの持つすごさかなと思います。読後感は爽快ではなく、決して楽しい本ではないですが、お薦めできる一冊です。

 

小説以外では、どれも良かったです。

反共感論には、大いに頷ける部分が多く、共感強要社会とも言える現代の生きにくさが非常に上手く書かれている本かと思います。タイトルからは読み取りづらいかもしれませんが、なかなかに興味深い本でした。

 

日本の食文化はシリーズもので、国内における調味料、特に砂糖の歴史は、これまで読んだことがなかったので、とても面白かったです。ついでながら、この本を読んで、つい興味を持って、和歌山県の湯浅(醤油発祥の地)まで足を運んできました。今では、他産地に圧倒的に凌駕されていますが、古い町並みがなかなか良かったです。

 

シュメルも良かったです。以前読んだ本の中で世界最古の文明として紹介されていたシュメル文化について書かれた本を探していて見つけたものです。もともと世界史は大の苦手で、高校時代も全く興味を持てていなくて、全く勉強もしていませんでした。今考えるともったいなかったなぁと反省しています。とてもわかりやすい本でお薦めです。

 

民主主義の壊れ方も考えさせられる本でした。最近民主主義というものについて考えることが多くなりました。日本では、マンガのような大統領が君臨していたお隣の国のことをうちはあんな国じゃなくてよかったねと揶揄するような声が多数あったように感じているんですがどうでしょうか。日本が民主主義国家だと自信を持って言える人はどれくらいおられるのでしょうか。面白かったです。

 

ここに挙げた以外の本も、とても面白かったです。

しかしながら、最近これという面白い作家さんに出会えていなくて、ついついいつもの作家さんに偏ってしまいがちになっています。

このブログの冒頭にも書いていますが、読書の醍醐味は未知との遭遇だと思っていて、知らない世界への扉を開けてくれる物語を熱望しています。もし、どなたかお薦めの作家さんがおられたら、是非ともご紹介ください。

 

 

 

001/143

反共感論 社会はいかに判断を誤るか」ポール・ブルーム

他者への共感というのが大事だともてはやされている昨今、それは本当か?過度な共感こそが生きにくい社会を作っているのではないかという問題提起の本。共感とは他者が感じていると思しきことを感じることとされていますが、他者と同じ感情を持つというのは、ほぼ不可能なことであり、むしろ客観的な思いやりこそが大事ではないでしょうか。他者の感情を自分の感情として共有することは、怒りや憎しみの感情も共有することになります。また、それは本当にたやすい。常に冷静でありたいと思う今日この頃です。(7/2)

 

002/144

複合捜査」堂場瞬一

ちょっとしたシリーズものの警察小説です。昔ながらの熱血捜査官が活躍する体の物語なのですが、組織の長でありながら、秘密主義で協調性なし、組織の長としてはあり得ない存在。そんな主人公が活躍するような物語は創っちゃいけない。(7/3)

 

003/145

六号病棟・退屈な話 他五篇」チェーホフ

彼の本は2冊目。ロシア革命前の優雅な時代の物語で、いずれも医師や医療関係者の物語となっています。生きにくい時代で精神的な病に苦しむ人たちが多かったのか、精神的に病んでいく主人公たちの様子が丁寧に描かれています。ちょっと気持ちが暗くなるようなお話でした。(7/4)

 

004/146

不寛容論 アメリカが生んだ『共存』の哲学」森本あんり

わたしはあなたの意見に反対だが、あなたがそれを主張する権利は命をかけて守るという有名な言葉があります。この本では、いわゆる宗教改革で、イギリス国教会の弾圧を受けた清教徒たちが新天地アメリカへ逃れ、寛容な社会を築くまでの歴史をたどったものです。同じキリスト教の間では、あれほど寛容になれたアメリカという国が、どうしてイスラム教に対してのみあれほど不寛容になってしまうのでしょうね。不思議です。(7/4)

 

005/147

日本の食文化5 酒と調味料、保存食」石垣悟編

シリーズの5巻目は、酒に始まり味噌、酢、醤油、塩、砂糖と言った調味料の歴史を纏めたものです。殆どのものは、それぞれに深掘りした本を読んだことがあるのですが、砂糖の歴史というのは初めてで、結構面白く読みました。これらの調味料の中では、砂糖の歴史は段違いに短く、庶民が口にできたのは近代に入ってからだそうです。当然貴重品で、私が子供の頃はお祝い事に砂糖を贈ると言うのは、よく見られた光景でした。しかしながら最近は肥満を気にするようになって、昭和40年代は一人年間28kgを消費していたのが現在は半分以下にまで減っているそうです。この本を読むまで気がつかなかったのですが、今は餡子を作るには当たり前のように砂糖を入れるようですが、そもそも砂糖がない頃は、小豆の甘さだけで作られていて、そこに少量の塩を加えることで、その甘さを引き出して作れれていたようです。なかなか調味料一つとっても、奥が深いです。散歩のネタにもなりそうです。(7/6)

 

006/148

日本美の再発見」ブルーノ・タウト

桂離宮を発見したといわれるタウトが、話したことや書き表したものを纏めたものです。桂離宮と伊勢神宮を究極の日本美と絶賛する一方で、東照宮の建物を醜悪とこき下ろしています。どうやら、日本固有の様式を守っているものを高く評価してくれていたようですが、何をもって美しいと感じかというのは、その人の美意識に拠るので、それを全く否定するものではないですが、建築史的に貴重な資料であると言うことと、美しさはイコールではないと思います。一個人の意見ですが。(7/6)

 

007/149

ねこ町駅前商店街日々便り」柴田よしき

一匹の猫をきっかけに、赤字による廃線が噂されるローカル線とその終着駅にあるシャッター通と化してしまった駅前商店街の復興に取り組む人たちの物語です。一人として悪者が出てこないハートフルな物語ですが、それだけにありえないお話でもあります。それは十分わかっていても、こういうお話はホッとします。(7/6)

 

008/150

スコットランドの危険なスパイ マギー・ホープ・シリーズ」スーザン・イーリア・マクニール

シリーズ8作目で、国内で発行されているのは、これが最新となります。前作で思わぬ形で拘束されてしまった主人公が、孤島での連続殺人事件に巻き込まれます。今作ではスパイものの要素を残しながらも、サスペンス・ミステリとして作品となっています。既にアメリカでは続編が出ているので、遠からず9作目が読めるであろうと期待しています。

(7/10)

 

009/151

あきない世傳金と銀<三>奔流篇」髙田郁

これもシリーズものですね。主人公が呉服屋の女将として成長していきつつ、思わぬ困難に直面していきます。今作では、主人が急死し、未亡人となった主人公ですが、主人の弟が跡を継ぐに際し、主人公を妻にすることを条件にします。その後、改めて跡取りい嫁ぐことになり、ともに協力して、お店を大きくしていくことを誓います。しかしながら、思わぬトラブルで窮地に陥ります。今作では、西陣織や丹後縮緬、さらには浜縮緬などの織物が出てきて、楽しみながら読んでいます。(7/11)

 

010/152

異世界居酒屋のぶ 二杯目」蝉川夏哉

最近お気に入りの一冊、2作目です。今作にも怪しい登場人物たちが満載です。調べてみたら、この一連のシリーズは、マンガ、アニメ、実写ドラマなど様々な形で映像化されているのですね。ちょっと探してみよう。(7/13)

 

011/153

シュメル 人類最古の文明」小林登志子

人類の歴史の中で、文字が発明されたのは4カ所。そのうち最も古いのがメソポタミア地方のシュメル人による楔形文字。歴史と言うのは、文字によって記録された人の営みのことですから、人類最古の歴史と言えます。当時の文字は、粘土板に記録されており、現在では膨大な量の粘土板が発掘されていますが、そのうち読まれているのはごく一部で、未だ解明されていない歴史が眠っています。本書では、シュメル文明研究の第一人者が、初学者向けに書かれた入門書で、我々にもとてもわかりやすく書かれています。今から3000年以上昔の社会の記録の断片を読むだけで、一つの物語になりそうで、とても興味深い一冊です。面白かった。(7/13)

 

012/154

不埒な人たち ハシェク短編集」ヤロスロフ・ハシェク

カフカ、チェペックと並ぶチェコの代表的作家の作品集。40年に満たない人生において、百を超えるペンネームを使い、千数百もの作品を残しているそうである。活躍した時代は20世紀初頭で、まだチェコとして独立しておらず、オーストリア・ハンガリー帝国の一部であった。この本の中には、著者の実体験に基づく27の短編が収められているが、主人公はどうにも不埒な人たちばかり。その殆どが著者自身お姿を反映させたものだそうで、なんともはや破天荒な人物であったらしい。当時のチェコ市民の生活やロシア革命時のドサクサなどお描写は興味深く、一気に読んでしまった。面白かったです。他の作品は殆ど日本には紹介されていないので、非常に残念です。もっと読んでみたい。(7/16)

 

013/155

越境捜査」笹本稜平

シリーズものの一作目のようなんですが、恐らく続編を読むことはないでしょう。警視庁と神奈川県警の縄張り争いが、1つの殺人事件を迷宮入りさせ、時効間際にその謎を再捜査しようとすると、どうやら県警の裏金疑惑が浮かび上がってくるというストーリーです。(7/18)

 

014/156

民主主義の壊れ方 クーデタ・大惨事・テクノロジー」デイヴィッド・ランシマン

今、私たちは民主主義の社会に生きていると信じています。その民主主義の定義って何でしょうか?多数決の原理”“少数意見の保護”“一票の価値の平等”“表現の自由の保障”etc.これらのいずれが欠けても民主主義じゃないと言えそうですね。されば、現状はどうでしょうか?著者は、民主主義が危機に陥るきっかけとして、クーデタ・大惨事・テクノロジーの3つを挙げています。最後のテクノロジーというのは分かりづらいかもしれませんが、今年の一月アメリカの新大統領就任式前後の暴動を見ると分かりやすいかもしれませんね。前大統領というのは、とんでもない人物であったと思うのですが、彼が誕生したのも民主主義というシステム下であったことも間違いない事実です。決して完璧ではないシステムですが、今のところ代替案が見つかっていないというのが現実です。どうしたらいいんでしょうね。(7/21)

 

015/157

あきない世傳金と銀 <四>貫流篇」髙田郁

このところのお気に入り。才能を見込まれながらも、男の見栄で、その能力を発揮することを押さえられていた主人公が、いよいよその羽を大きく伸ばす機会を得ていきます。活躍が楽しみ。(7/22)

 

016/158

あきない世傳金と銀 <五>転流篇」髙田郁

お家さんが亡くなり、いよいよ五鈴屋の主柱として活躍することが期待される主人公。念願であった江戸進出に向けて着実に商売を広げていきます。そんなところで、三度危機が。(7/22)

 

017/159

窓から逃げた100歳の老人」ヨナス・ヨナソン

たまたま図書館で見かけて借りてきました。100歳の誕生日パーティーの当日、スウェーデンのオスロの老人ホームの窓から逃げ出した主人公が、事件や事故に巻き込まれながら、逃げ回るドタバタ喜劇。合間に、彼が生まれてからの100年間の物語が語られるのだが、それがまたとんでもない人生。爆弾の専門家としてスタートした人生は、ときどき流転し、フランコ将軍、トルーマン、スターリンに毛沢東などとも関わりつつ、ハチャメチャな人生を送っていきます。何事もどうにかなるさと考えることが、長生きの秘訣。(7/24)

 

018/160

異世界居酒屋『のぶ』 3杯目」蝉川夏哉

お気に入り小説の三作目。相変わらず美味しそうな居酒屋料理がたくさん出てきて、食欲をそそられます。(7/25)

 

019/161

麦本三歩の好きなもの」住野よる

彼の小説は、リズム感があって読みやすく、結構気に入っています。この小説は、是までの作風とは少し違って、図書館で働く主人公を巡る日常が淡々と描かれており、劇的な事件は起きません。それでも、気持ちよく読み進めていけるのは、先ほど申し上げた心地よいリズム感のおかげかなと思います。続編も出ているようなので、また読みたいと思います。

(7/26)

 

020/162

世界哲学史2 古代Ⅱ世界哲学の成立と展開」納富信留他責任編集

一巻を読んでから、相当に月日が経ってしまいました。本巻では、紀元前1世紀から紀元後6世紀までの世界哲学の動向を概観しています。前巻の古代ギリシャでの哲学誕生に引き続き、この巻では、キリスト教、仏教、儒教の成立時期と重なります。本来宗教と哲学は相容れないものとされていますが、逆に私自身は宗教の発生と哲学は、表裏一体のものと考えています。哲学的思考の先の一つとして宗教がある、という感じでしょうか。相変わらず七面倒くさい細々とした論考が重ねられていますが、さっぱり理解できなくても、字面をたどっているだけで楽しくなる一冊です。引き続き次巻にもチャレンジいたします。(7/27)

 

021/163

銀閣の人」門井慶喜

これまた結構お気に入りの作家さんです。この作品の主人公は銀閣寺=慈照寺を作った足利義政。歴史的には、芸術に入れ込んで政治をないがしろにした挙げ句、戦国時代へのきっかけを作った将軍とも言われています。この小説は全くのフィクションですが、政治に夢中の妻日野富子と祖父義満を超える芸術を完成させようとした主人公が対比して描かれています。まぁ、それなりに。(7/29)

 

022/164

ブルーバード、ブルーバード」アッティカ・ロック

比較的最近に発表された作品なんですが、我々にとっては理解しがたい、原題のアメリカ社会が抱える闇の部分を赤裸々に描いています。場所は黒人差別が日常に見られるテキサスの街。黒人男性と白人女性の他殺死体が相次いで発見されます。黒人のテキサス・レンジャーが事件の捜査を始めるのですが、命の危険すらあるあからさまな差別と暴力に直面します。昨年のブラック・ライブズ・マターの運動でも明らかになりましたが、近年の異常な大統領の行動も相まって、アメリカ国内の人種差別は激しくなるばかりです。この小説に書かれてる事柄が、ここ数年の現実の出来事をなぞっていると考えるだけで恐ろしくなります。(7/31)


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