令和最初の月は16冊でした。月の後半はほぼ毎日帰りが遅くて本を読む時間がなかったのですが、思ったより読めましたね。内訳は小説が5.5冊、その他は10.5冊でした。小数点がついている理由は、本文をご覧ください。
さて、そんな中でのお薦めですが、小説はあまりに少なかったのでちょっと難しい。安定の東京バンドワゴンシリーズが2冊あって、これは安心して読めるんですが、ほかの本はちょっと相性が悪かったですね。
一方で、それ以外の本では面白い物がたくさんありました。
まずは、とっても面白くていろんな人に御紹介したのが“視覚心理学が明かす名画の秘密”という本です。視覚心理学というあまり聞き慣れない学問があること自体認識していなかったのですが、それを絵画を題材にして解説してくれるという優れもので、美術の教科書としてもよくできた本だと思いました。岩波書店の“図書”という雑誌に連載されていた物をまとめた本なので、各章のテーマがはっきりしている上に、それほど長くないので私のような美術音痴にもわかりやすく親しみやすい本でした。今月一番のお薦め本です。
それ以外では、最近では珍しく新書が6冊もありますね。これらはどれも面白かったですが、特にお薦めは次の3冊です。
先ずは、“外国人が見た日本”です。明治維新以降のインバウンド観光政策の歴史がとてもわかりやすく書かれていて、いろんな形で関わっている方にとっては、ある種の教科書としてもとても参考になる書籍だと思います。今の京都は空前のインバウンド観光ブームで、主要ホテル宿泊者の半数を外国人の方が占めるようになってきました。ところが、受け入れの環境は必ずしもそれに対応できていません。であるならば、それを補う“何か”が必要だと思います。それは何か。実際に私たちが海外に行ったときに感じる不便さって何だ?そこに大きなヒントがあると思います。
次は“仏教抹殺”。これは、明治維新初期に起こった廃仏毀釈について書かれた物なんですが、これが全国各地に残された、というか残されなかった遺跡を実際に取材した上で纏められており、とても読み応えがあります。当時の政府から実際に出されたのは“神仏分離令”であって、決して“廃仏毀釈”では無かったところが、それを“解釈”した地方役人が政府に忖度して起こしたのが“廃仏運動”だったそうです。特に激しかった地方ではあたかも黒歴史として記録もあまり残っていないようですが、その痕跡をたどって興味深く書かれています。明治維新の影の歴史を知るためにもお薦めの一冊です。
最後は、“劣化するオッサン社会の処方箋”です。タイトルをキャッチーにしすぎて少し残念かなとも思うのですが、これからの社会のあり方を考える上では、とても参考になる内容が書かれています。組織は常に劣化するというのは避けがたい宿命です。民間の企業などの組織体では、倒産や解散という終焉が用意されていますが、私たちのような公的存在にはそれが用意されていません。そしてそれらのほとんどが、この本にいう“オッサン”に支配された組織でもあります。その組織にドップリ浸かってしまっている私たちには、しっかりと肝に銘じておかなければいけないことがたくさん書かれています。老兵はただ消え去るのみですね。
冒頭にも書いたとおり、5月は小説以外の本が多くて、そのうちから新書の3冊だけをお薦めとしましたが、それ以外の本もとても面白かったです。結構どれもお薦めでしたので、ご興味を惹かれた本があれば是非とも読んでみてください。決して損することは無いと思いますよ。
6月に入って季節は梅雨へと向かいます。鬱陶しい梅雨空の下ですが、今とても面白い本を読んでいます。ただ、とても分厚い本で、少しずつ読んでいるので時間がかかっています。6月中に読めるかどうか分からないので、御紹介できるのは次の月になるかもしれませんが、これまたご期待ください。
001/053
「ラブ・ミー・テンダー 東京バンドワゴン」小路幸也
だいぶ追いついてきましたね。本作は通常作では無くいわゆるスピンアウト物で、主人公一家の中でシリーズ当初から唯一既に亡くなっていて、かつ本作シリーズの中では登場してこなかった女性が、この一家と関わりを持ち、ついには家族の一員となるまでの物語が描かれています。例によって、やや大げさとも思える表現も出てきますが、それは所与の物として読んでいくと、それすらも楽しめながら読んでいけます。そういえば、このシリーズは毎年4月下旬に新作が発表されており、今年も最新号が発売されています。さぁまた続きを読もう。(5/1)
002/054
「外国人が見た日本 『誤解』と『再発見』の観光150年史」【中公新書 】内田宗治
最近何かと話題の外国人観光客、いわゆるインバウンド観光客について、黎明期からの歴史が綴られており、とても参考になる面白い本に仕上がっています。外国との通商が始まり、外国人が普通に日本にやってくるようになって約150年。当初は国内移動も制限されていたところが、徐々に“観光”に対する見方が変わり、積極的に受け入れて、日本のw理解してもらうことによって、当時の最大の課題であった不平等条約の改正を目論んでいたという経過もよく分かります。そういった努力は太平洋戦争前夜にも行われており、暴走する軍部に対して、冷静に対処しようとしていていた人たちの努力も垣間見えます。とにかく面白くてお薦めできる一冊です。(5/2)
003/055
「無人化と労働の未来 インダストリー4.0の現場を行く」コンスタンツェ・クルツ、フランク・リーガー
ドイツでは“インダストリー4.0”という単語が経済産業の世界で交わされているそうです。日本では、数年前からIoTという言葉を我々でも耳にするようになりましたが、ある意味それを包含する大きな概念のようです。それが実際の世界ではどのように実現されているのかをレポートした大作です。物語はわかりやすい工場での製造現場ではなく、我々の食料を生み出す農場の場面からスタートします。そうした農産物が我々の手に入るまでのルートをたどりながら、まるでSF小説を読んでいるように紹介されていきます。これがこれからどのように進んでいくのかうかがい知れませんが、必要とされる人の手はどんどん少なくなってきそうです。生産する人が必要なくなって、たくさん物を作っていって、そうした生産物は誰が消費するのでしょうか。大いなる疑問です。(5/2)
004/056
「技術の街道をゆく」【岩波新書】畑村洋太郎
ものづくりの中でも“失敗学”の対価として名高い著者が、物作りの現場をたどる旅を、司馬遼太郎の“街道をゆく”のように著した物です。いろいろな現場を訪れておられるのですが、特に興味深かったのが島根の玉鋼と佐賀の有田焼の製造現場。それぞれ稀少技術の保持者として名高いところです。それぞれの現場で行われている“ものづくり”を科学的に解明しようという意図とその技術に対する尊敬の念が滲み出ており、とても素晴らしいレポートになっています。お薦めの一冊です。(5/5)
005/057
「科学者の社会的責任」藤垣裕子
科学や技術に関する本が続いていますが、たしかこれは何かの雑誌の書評欄で面白く紹介されていたので、気になって図書館で借りてきた物達でした。科学者はどこまでその結果に対して責任を負わなければいけないのか、という命題は核開発とその結果を語る局面で初めて突きつけられてたものと認識しています。でも実際は、それ以前の兵器や自動車などでも同様のことなんだろうとは思うのですがね。この本によると、ここ数年“責任ある研究とイノベーション=RRI(Responsible Research and Innovation)”という概念が生まれてきていて、著者もこの考えを広めていこうと考えておられるように思われます。ただ、利害関係者だけでなく一般人をも含めたオープンな議論というのは、日本ではなかなか受け入れられないところですし、普及は難しいでしょうね。“ムラ”の中だけで議論することがどれだけ危険なことか身にしみて分かっているはずなのに。難しいですね。(5/5)
006/058
「老人の取扱説明書」【SB新書】平松類
最近年配者が加害者となる交通事故のニュースが社会を賑わせています。実際の件数はどうなのか分かりませんが、実感としては確かに多くなったように感じます。それも皆さん運転には自信を持っている人たちばかりで、“自分は大丈夫”と思っていたという話もよく聞こえてきます。この本には、人間が年を重ねると、ほとんどの能力が否応なく衰えてくることから、それを前提にした生活を送ることが必要と書かれています。もちろん90歳を過ぎた自分の父への対処方法という側面もありますが、むしろ自分の今後への備えとして手に取りました。人生の下り坂を上手に下っていきたいと思います。(5/9)
007/059
「ベルリンは晴れているか」深緑野分
これも本屋大賞の候補作で、最終的には第三位と評価されました。皆さん絶賛されているんですが、私とは相性が合いませんでした。実は前作の“戦場のコックたち”も私とは相性悪く、どうもこの人の本は上手く楽しめないようです。舞台は第二次世界大戦前からドイツが降伏し長かった大戦もまもなく終了するという時期のベルリン。小説にはベルリン市内のあちらこちらの地名が出てきて、懐かしさを覚えながら読んでいました。特にナチスによる圧制から。敗戦後の米ロ英仏による占領下の町の様子が丁寧に描かれており、当時の町の様子が目に浮かぶようです。とは言いながら、肝心のミステリとしての運びがさっぱりで、そちらの要素を楽しみに読んだ身としては、フラストレーションが溜まる内容でした。(5/9)
008/060
「火焔の凶器 天久鷹央の事件カルテ」知念実希人
こちらは、長編シリーズの方の一冊です。主人公が原因不明の発火現象による死体焼失や焼死事件の謎をいつもの天才的頭脳で解き明かしていきます。今作では、医学的な要素もたっぷりで、次から次へと起きる事件にも興味を惹かれます。休日にこの本を片手にお出かけし、電車の車中で読み切りましたが、そんな電車のお供にはぴったりの一冊でございます。(5/11)
009/061
「R帝国」中村文則
“党”によって、すべてが統制されている“R帝国”。“党”の存続のため、自国民を殺害し、他国に戦争を仕掛ける。それらの情報を操作し、従わない者へは記憶改変や極計を持って報いる。もちろん架空の国家が舞台なのだが、おそらくはいくつかの国をモデルにして描かれている。スピード感があってどんどん先を読みたくなるタイプの小説。ただ、結末があまりに切ない。(5/12)
010/062
「平成金融史 バブル崩壊からアベノミクスまで」【中公新書】西野智彦
31年で終わった平成という時代は、金融政策の歴史の中でもエポックとなる時代でした。いわゆるバブル景気の絶頂で幕を開けた平成時代は、数年をおいて一気に後退が進み、“バブル崩壊”という単語が生まれました。私が今の仕事に就いたのが、昭和60年ですから、平成=私の職業人生活でもありました。バブル崩壊後は、戦後初の政権交代があったり、阪神・淡路大震災、オウム真理教事件などの大災害・大事件や金融機関を監督する立場であった大蔵省のスキャンダルなど、日本中が大混乱に陥った感がありました。結局日本は、その後も低成長に悩み、“失われた10年”、“20年”あるいは“30年”とも揶揄されるようになりました。今なお、当時の失敗には目をつむり、ふたをして無かったことのようにしているとしか思えません。もちろん私は金融の専門家ではないし、自分ならこんな失敗をしないと言う気はさらさらありません。でも結局その割を食うのは私たちや私たちの後の世代である訳なので、我がこととして考えなければなりません。もっとリテラシーを上げないとね。(5/17)
011/063
「超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる」菅野久美子
これは店頭で見かけて、タイトルに惹かれながらも、購入には至らず図書館で予約して読んだ物です。特殊清掃業というのは、孤独死などがあった部屋で、現場を清掃・消毒し、新たに人の住める状態にするまでの業務を行う業態だそうです。今4人に1人が65歳以上という高齢化社会に突入した日本ですが、これが3人に1人になるまで、それほど時間はありません。また、65歳以上の人の20%弱が単独世帯でもあるそうです。実はこれ以外に翁問題を含んでいると思っているのが、いわゆる団塊ジュニア世代で、彼らが社会に出た頃は空前の就職難で、多くが非正規での労働に従事しており、多くは単身世帯です。おそらく今後はこういった人たちも独居老人化していき、孤独死の予備軍になってしまうのでは危惧されています。とはいえ、自分たちだって今でこそ娘2人を含む家族で暮らしていますが、これがいつまでも保証されたものではありません。いつ災害や事故に巻き込まれるかも分かりません。セーフティネットと言う言葉の意味を改めて考えることになりました。(5/18)
012/064
「ヘイ・ジュード 東京バンドワゴン」小路幸也
この作品は、昨年の4月に出版された物で、ようやく追いついてきました。シリーズが始まった頃は。小さな子供であった一家の2人の子供達が、大きく成長し、将来のことを真剣に考える人になっていました。一つの家族をこれほど長く描いた小説というのもおそらく珍しいのではないでしょうか。先月出された最新刊は、一年かけてじっくり楽しみたいと思います。(5/18)
013/065
「視覚心理学が明かす名画の秘密」三浦佳世
今となってはさっぱり思い出せないのであるが、どこかの書評で見かけて、面白そうと思いチェックしていて、先日図書館で借りだしてきたものです。これが予想以上に面白かった。様々な名画を題材にして、視覚を通して得られた情報が、人間に心理にいかに作用しているかと言うことを非常にわかりやすく解説した物で、岩波書店の“図書”という雑誌での連載に、題材となった名画のカラー写真を加えて出版されました。いわゆる名画の解説書ではなく、あくまでその絵が持つ心理的効果について、いくつかのテーマで解説され、一つ一つの文章も短くわかりやすくまとまっていて、読みやすい。特に日本の浮世絵などにはよく見られるが、西洋の絵画にはまず見られないような構図の解説などは、興味深く面白い。絵画に対する興味や知識が無くても楽しく読める本です。(5/23)
014/066
「仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか」【文春新書】鵜飼秀徳
近代日本が経験した最大の宗教弾圧である“廃仏毀釈”についての解説書。全国の事例を丹念に取材し、その悪業をわかりやすく解説されている。特に著者が迫害された仏教側の研究者であるということもあって、その様子も非常に具体的である。ただ、これが全国一斉に同様の内容で行われたかというと意外とそうでもなく、そのときの各地方の為政者の個人的な感情に大いに依っていたらしい。中には江戸時代に大きな権力を有するようになってしまった寺院が、その権力故に堕落して、周囲から恨みを買っていたような地域では、この際とばかりに徹底的に破壊し尽くされたり、国家神道を推し進めようとしている明治政府に阿るために好んで弾圧を加えたりと、地域によって全く違っていたらしい。たとえば鹿児島県では一時期域内の寺院が全くなくなってしまっていたり、ほかの地域でもいわば国宝級の仏像や伽藍が破壊され、もしこの破壊行為さえ無ければ、今に伝えられる国宝は優に今の3倍はあったのでは無いかと言われている。数年前、バーミヤンの仏教遺跡がアルカイダによって破壊されたとき、それは非難する報道があふれたが、我々だってそれ以上のことをやっていたわけで、それを忘れてはいけない。(5/25)
015/067
「劣化するオッサン社会の処方箋 なぜ一流は三流に牛耳られるのか」【光文社新書】山口周
これも、何かの雑誌で紹介されていたのを図書館で借りた物です。この著者の前著“世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか”がとても面白かったので、これも楽しみにしておりました。読んだ結果もとても良かった。これも新書なので、往復の通勤電車で読むのが主なのですが、それ以外に昼休みにも手にとって読みたくなるような本でした。内容は、まさに私たちのような劣化したオッサンが社会や会社を牛耳ることによって、その社会や会社がどんどん劣化して行ってしまっているという警告書です。特にその最大の被害者である若者達には、さっさと逃げることを推奨しています。なんか、誰か特定の勢力に有利に書かれているような気がしないでもないですが、論旨は非常に明快です。しからば、我々劣化したオッサン達はどうすれば良いのか。やっぱり我々オッサンも、社会のためには輝かなければならない、そのためには自分を磨かなければいけない。と結ばれています。(5/28)
016/068
「家康に訊け」加藤廣
前半が徳川家康に関するエッセイで、後半が時代小説『宇都宮城血風録』という構成。てっきり新作の小説だと思って図書館で予約したんだけど、ちょっとがっかり。さらには全体的に自分の興味を惹くような内容では無かったので、かなりがっかりでした。前半は家康の生涯をさらりとなぞるような感じで、根拠の薄いことを事実のように紹介されているようなところもあって、残念な感じ。後半の小説は宇都宮城の釣天井事件を扱った物で、徳川秀忠暗殺に向けた忍集団の暗躍が描かれている。まぁ、これは軽い読み物でした。(5/28)
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