2017年に入って最初の月は、20冊。小説12冊、その他8冊という内訳でした。
小説が結構多かったですが、スカッと読んだ本が少なくて、一冊挙げるのが難しい。敢えて挙げるとしたら、(私にとって)安定の朝井まかてさん、三崎亜紀さんの二冊かな。
もともと時代物の小説は好きなのだが、朝井さんの本はいずれもおもしろい。今回読んだ本も、登場人物のキャラも立っていたし、ストーリーも勧善懲悪で安心でき、とても良かったです。
また、三崎さんも好きな作家で、不条理な世界をまじめに描くスタイルが痺れます。こういった短編集では威力を発揮します。合わない人にはつまんないでしょうが、私にはとても合っている。
小説以外の分野では、結構おもしろい本がありました。
まずは、“中空構造日本の深層”。かなり古い本ですが、最初の神話の中の中空構造に言及した部分は最高でした。おもしろかった。
次は“江戸の風評被害”。もともと歴史の中でも風俗史というか、庶民の歴史が好きなのですが、この作品は当時の情報伝達と情報統制の手法を基礎に、当時どのように情報が拡散していったかを想像していく助けとなります。
最後は理系の一冊“地球の履歴書”。地球の内部構造の一部が、地表にちらりと姿を現しているところから、内部の状況を想像していく過程は、いくら考えても、実際に目視できるものではないので、夢があってとてもおもしろい。
今年は、順調に始まったのですが、2月に入って読み始めた本が、難解(つまらない)ので、なかなか読み進まず停滞しています。来月は、この落差をお楽しみください。
001/001
「特等添乗員αの難事件Ⅴ」松岡圭祐
特に意識したわけではないけれども2017年の一冊目は、この作品に。かつては、最初の一冊にはメッセージを込めていた頃もあったのですが、今回は自然体です。このシリーズは、“人の死なないミステリ”シリーズの一環で、安心して読める本でもあります。今作は、主人公の二人が新生活を始めようとするところで終わっており、本来なら続編が期待されるところですが、その後本編は出版されておらず、他のシリーズで中途半端に大団円を迎える形となっています。ちょっとたくさん書きすぎたんではないか。(1/2)
002/002
「アンマーとぼくら」有川浩
本作は、父、実母、継母、息子の四者の関係がとても切なく綴られており、読み応えのある一冊でした。彼女の書く小説は、初期の頃のオブラートに包まれた“固さ”だとか“厳しさ”が感じられたものですが、最近の作品には、そういった影が薄くなって、“人の強さ”が、感じられる作品が多くなっているように思っています。そんな中で、本作では家族の物語に、ある種の“奇跡”がスパイスとして加えられ、不思議な雰囲気の小説に仕上がっている。それを良しとしない人にとっては、突っ込みどころ満載なのだろうけど、私はとてもホッコリとしながら読むことができました。(1/3)
003/003
「中空構造日本の深層」河合隼雄
今からおよそ40年前に書かれた評論集。文化庁長官も務めた心理学者が、“神話の中の中空構造”、“昔話・おとぎ話と心理学”“母性原理と東西比較文化”などを切り口に、日本社会の構造を彼なりに説明した十数編の短い論文からなっている。かの“失敗の本質”にも描かれているとおり、“責任を取らない日本人”について、様々な視点から解説を試みたものは数多くあるが、心理学的な観点から解明しようとしたものは少ないのではないか。40年経った現在でも、新鮮な気持ちで読める良書です。(1/5)
004/004
「海の見える理髪店」萩原浩
昨年直木賞を受賞した話題作で、ようやく図書館の順番が廻ってきました。切ない家族関係を描いた6本の短編から成る一冊。確かにおもしろいのだけれど、彼が直木賞なのかなぁ、というのが正直な感想。期待が高すぎたかな。描かれているモティーフ良いのだが、あの短い紙幅で書き切るのは難しいのではないかと思わせるものが多く、私の中では若干消化不良で残ってしまっている。なんかもったいないなぁ。(1/7)
005/005
「幕末まらそん侍」土橋章宏
最近映画になった“超高速!参勤交代”の原作・脚本の作家が描いた江戸末期を舞台にしたマラソン小説(?)。映画は本編、続編とも観させていただいたのですが、勧善懲悪がとても分かり易く、これぞ“娯楽時代劇”と言える良い映画でした。本作も幕末に、とある殿様が、藩士を鍛えようと突如“遠足(とおあし)”を思いつき、その競争の中でいくつかのドラマが描かれる、連絡短編のような体になっている。最後はお約束の幕府隠密で大団円。(1/7)
006/006
「ニセモノの妻」三崎亜記
彼の描く不条理な世界は何度読んでもおもしろい。4つの異なる夫婦を描く小編から成る短編集で、どれもがおもしろい。特に彼の得意な不思議世界を描いた“坂”“断層”の2編は、その本領発揮とも言えるおもしろさ。世の中には、その不条理さ故に感情移入できず読みづらいとする向きもあるようだが、それを前提に読むのが、彼の小説の楽しみ方なんだよと、声を大にして教えてあげたい。長編もおもしろいですが、短編もとてもおもしろいですよ。
(1/8)
007/007
「江戸の風評被害」鈴木浩三
マスコミというものがほとんど存在していなかった江戸時代に、情報を伝える手段は“口コミ”しかあり得なかった。しかしながら、この伝達手段では媒体である“人”が意志を持っており、主観を加えて情報を流布することから、“デマ”となって広がっていくことが多分に予想できる。当然それを反証する情報もないので、打ち消すことも難しい。もっともこういった風説には、“為にする意志”をもって広げられたものも多数有り、何度も禁令を出している。本書では、江戸時代に最も多く見られた風評被害として“食べ物”“災害”“改鋳”“相場”“御利益”などを取り上げ、禁令を出すまでの仕組み、その中身などをおもしろく解説している。こういった隙間の歴史学って本当におもしろい。
(1/9)
008/008
「私が見た大津波」河北新報社編
あの震災から6年が経とうとしています。この間にあの災害を振り返る様々な本が書かれていますが、その中でもこの本は、実際に大津波に遭った人たちが、彼らの言葉で振り返り綴ったもので、その恐怖や絶望が垣間見えて胸を打つ内容となっている。元々は新聞の連載として始まったものらしく、手記と自信で描いた絵から構成されている。絵のほとんどは暗く重い。貴重な記録として残していきたい手記である。(1/9)
009/009
「地球の履歴書」大河内直彦
地球物理学者である作者が綴った科学エッセイ。45億年を超える地球の歴史を、最新の科学データなどを参照しながら8つの切り口で軽妙に紹介してくれる。半世紀近く前に月世界まで足を伸ばした人類であるが、海中で約10000m、地中で4000mと言われています。地球の半径は約6000kmなので、その0.1%にも届いていないことになります。従って、その内部は全くうかがい知れないのですが、地表に現れている一部の痕跡から、地球の内部や45億年の歴史を推測する営みは、非常に壮大で夢がある。講談社科学出版賞も受賞しており、読みやすくておもしろい良い本です。(1/9)
010/010
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」佐々涼子
国際霊柩送還という仕事、要は異国の地で亡くなった方の御遺体を本国へお送りするというお仕事です。これには、海外から日本へ、日本から海外へという両方向の業務があり、それらを専門とするエアハースという会社の活動を丁寧に描いた作品である。搬送と言っても、ただ単に送るだけでなく、御遺体にいわゆるエンバーミングという処理を施した上で、ご遺族の元に送り届けるというのが業務の肝となっている。ことの性格上、詳細な描写をすることに制限があるため、作者の描きたいことの全てが記せなかったせいか、感情の迸るままに描かれている部分がある。出版時にはかなり話題になり、ノンフィクション賞も受賞した作品であるが、ちょっと惜しい。(1/12)
011/011
「ぬけまいる」朝井まかて
江戸に住む“いの・しか・ちょう”の元三人娘が、いきなりお伊勢さんまで“おかげまいり”に出立し、道中で様々なトラブルに遭遇するも、それぞれの知恵でうまく乗り越えていくという物語。基本的には勧善懲悪の物語なので、安心して読むことができて嬉しい。時代物を描いて頭角を現した著者であるが、どの作品も基本的に読み切りであり、他の作家にありがちなシリーズものを手がけていないのがすごいと思っている。本作も主人公のネーミングは今イチだけど、キャラクターの描き分けがはっきりしていて、読んでいて楽しい物語になっている。(1/14)
012/012
「プリズム」貫井徳郎
カテゴリーとしてはミステリに分類されるのだろうけど、私はこれまで出会ったことのないタイプ。いわゆる“推理もの”で、女性小学校教諭の殺人事件を、関係者が独自の視点で推理するというもの。それぞれが、勝手に推理していて、最終的にはどれが真実なのか明らかにされないという不思議な小説。ひょっとして、ここに現された事実を元に、あとは読者が推理しなさい、という趣向なのだろうか?うぅぅん、難しい。(1/14)
013/013
「宮沢喜一と竹下登 戦後保守の栄光と挫折」御厨貴
著者が、二人の総理大臣経験者にインタビューした記録を再構築し、自民党を中心とする戦後の保守政治の裏側を描いたもの。サブタイトルにはオーラル・ヒストリー対比列伝と書かれていて、戦後の官僚、企業家のオーラル・ヒストリーを対比させた3部作と成る予定とされている。オーラル・ヒストリーというのは、読んで字のごとく、その時代を生きた人が口承で著した歴史のことで、当事者しか知り得ぬ事情が明らかにされる場合と、本人に都合の良いようにねじ曲げられる場合が考えられる。こうやって、複数の記録をつきあわせることで、おもしろいものがみえてくる。(1/18)
014/014
「ジベルニーの食卓」原田マハ
マティス、ピカソ、ドガ、セザンヌ、モネといったフランスを代表する画家達が登場する短編集。彼らの周辺に居た人たちの口を通じて、彼らの人となりが語られる。書かれているエピソードは史実に基づいたものだそうだが、彼らがなぜそのような行動を取ったのかは本人にしか分からないことなので、第三者の目を通して描くことで、その背景を類推している。学芸員としての作者の知識が活かされた作品であるが、如何せんこの画家達に対する基本的な知識が欠落しているため、おもしろさも半ばとなったことが残念である。(1/21)
015/015
「恩讐の鎮魂曲(レクイエム)」中山七里
法廷推理のシリーズもの。主人公は過去に大きな過ちを犯した弁護士。もう少し法廷内での丁々発止があるのかと思っていたが、それは肩すかし。そういうおもしろさはなかった。彼の小説も昔はおもしろかったのだが、最近の作品は読んで良かったと思えなくなってしまっており、ちょっと悲しい。(1/23)
016/016
「沖縄を変えた男 裁弘義 高校野球に捧げた生涯」松永多佳倫
沖縄の裁監督と言えば、我々の年代には豊見城高校の監督として、甲子園に旋風を起こした監督として記憶に残っている。正直、今のさわやかなイメージとは全く違い、当時の高校野球では、しごき、暴力は当たり前、理不尽な上下関係がまかり通るダークな面がたくさん残っていた。この本の中でも、監督のとんでもない一面が赤裸々に綴られている。人によっては、そんな日々も今となっては“良い思い出”なのかもしれないけれど、私は肯定したくはない。なんと美化されようと、気持ちの重くなる一冊でした。
(1/24)
017/017
「ライオンの棲む街 平塚おんな探偵の事件簿1」東川篤哉
“野生のエルザ”ならぬ生野エルザという探偵を主人公とする連作推理小説。その凶暴さ(?)故に、“ライオン”とよばれる主人公が神奈川県の平塚市を舞台に事件を解決する。“謎解きはディナーのあとで”でブレイクしたこの作者の小説は、結構お気に入りで、かなり以前にも書いたことがあるのだが、かの赤川次郎が“三毛猫ホームズ”シリーズでブレイクしたときの印象とかぶるところがある。今後も楽しみにしている。(1/26)
018/018
「バースデーカード」吉田康弘
子供達が幼いうちに亡くなった母親から、毎年バースデーカードが届くという物語。自分が人の親となってから、子供の成長を見る前に命を絶たれるような話はどうしても自分と娘達に重ねてしまい、冷静には読めなくなっている。下の娘がまもなく17歳になり、順調にいけば、彼女の大学卒業と、自分の公務員生活の卒業が同時にやってくるはずで、もうしばらくがんばらなければと考えながら、ここまでくれば、明日突然に命絶たれたとしても、もう大丈夫かなと思う自分も居ます。(1/28)
019/019
「我が心の底の光」貫井徳郎
親から育児放棄の虐待を受け、さらに殺人者の息子となってしまった主人公の、深い闇のような心の底にほのかにみえた光とはいったい何だったのか。とても暗い調子で物語が進み、最後は少しずつでもその光が闇を照らすような方向で終わるのかと思いきや、彼の心にあった光の正体に“目がテン”。“エッ!そうなの!?”。個人的には納得できない結末です。(1/29)
020/020
「イギリス人アナリスト日本の国宝を守る」デービッド・アトキンソン
今や、すっかりインバウンド観光立国政策の第一人者となった著者の一作。確か一連の関連作品の初っぱなの本だったと思うのだが、ずっと以前に電子書籍で購入したものの、そのまま意識の外になってしまっていた。最近ようやく気が付いて読んだのだけれど、やっぱり電子書籍は読みにくい。と言うのを痛切に感じる一冊となりました。タイトルと内容が合っているとは思えず、編集の仕事って本当に難しいなと思いました。(1/30)
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