2016年幕開けの月は、計21冊。小説が13冊、それ以外が8冊となりました。
まず、小説では出版されて、買いためていたものを一気に読んだという感じです(まだ、かなり残っていますが、)。
話題作も結構読みましたが、その中でどれか一冊を推すならば、敢えて70年前に書かれた“幻の女”を挙げたいと思います。途中から何となく真犯人が見えてくるのですが、その犯人捜しに至るまでの展開と緩急の巧みさは、そんな古さをとても感じさせません。長く愛され、読み継がれた本には、それなりの理由があると言うことがよく判ります。
その他の分野では、雑学的に焦点もなく、いろんな本を読みましたが、こちらも敢えて、アイドルが書いた“リーダー論”を挙げたいと思います。あの田原総一朗が、その統率力に惚れ込み、政界進出を強くすすめるアイドルグループの元リーダーが描いた物です。まだ中学生だった10年前から、挫折を重ねながら、今や巨大勢力となったグループを率いることになった経緯がしっかりと描かれています。そして、何よりすごいのは、ある時期からそれを意図的にできるようになったと言うことです。これを読むと、リーダーは生まれるのではなく、成るものだと言うことがよく判ります。
そして番外としてですが、今月は“東日本大震災”に関する本も何冊か読みました。これは、前月に読んだ“書店ガール3”の中で紹介されていた本を思いつくままに読んだものです。今年は震災から5年になります。こうやって物語の中で振り返ることができるようになったということは、時の流れのおかげかもしれませんね。
001/001
「人魚の眠る家」東野圭吾
今年の一冊目は、大好きなこの人の作品から。昨年出版されてすぐに購入しながら、読めずにいたものを一気読み。ミステリではなく普通の小説なのだが、脳死や臓器移植を真っ向から取り上げており、理系の作者らしい設定も相俟って、とてもいい作品になっている。読後感もとても爽やか。(1/1)
002/002
「王とサーカス」米澤穂信
昨年のミステリ三冠だそうで、正月用に年末大量購入した一冊。舞台はネパール、そこで実際にあった事件を背景に、同時に起こった殺人事件の操作を描いている。この設定で、通常の謎解きが成立するのかと案じていたが、実は、せっかく謎解きをした主人公が、最後の最後に痛烈なパンチを浴びて物語は終わる。このまとめ方は、どうなんだろう。(1/2)
003/003
「あの家に暮らす四人の女」三浦しをん
三浦版の細雪だそうである。途中までは紆余曲折もありながら物語は淡々と進んでいくのだが、途中からとんでもない者が闖入してくる。そんなんありかと思ったけれど、それくらいの驚きがあってちょうどいいのかも知れない。(1/2)
004/004
「有頂天家族 二代目の帰朝」森見登美彦
アニメにもなった作品の続編。主人公は、京都の下鴨神社に棲まうタヌキ。まだ化け方も忘れておらず、人間や天狗達との丁々発止のやり取りが面白い。彼の京都を舞台にした小説は読み飽きない。この後、完結編も予定されているようなので楽しみ。(1/3)
005/005
「幻の女」ウィリアム・アイリッシュ
メチャクチャ面白い。1942年というから70年以上昔に書かれたということになる。ミステリ界では不朽の名作とされている本で、私も誰かが紹介しているのを見て借りてきたもの。400ページを超える大作なので、キツイかなと思ったのだが、1日で一気に読めてしまった。途中からなんとなく結末が読めてしまったのだが、そんなことは気にならないくらいの面白さ。どうやら、最近改訳版も出ているようなので、是非ともお薦めしたい。(1/7)
006/006
「香港 中国と向き合う自由都市」倉田徹、Cheung Yuk Man
ちょうどこの本を読んでいる最中に、香港で出版関係者が相次いで失踪するというニュースが、報道された。この本では、香港の成り立ちから変換前後の事情、そして一昨年の雨傘革命の様子が丁寧に綴られている。特に雨傘革命の際は同地にいたこともあって、とても詳しく書かれている。そして最後は、アジアの民主主義先進国であるはずの日本に、本当の民主主義は育っているのかという痛烈な皮肉で閉じられている。(1/7)
007/007
「リーダー論」高橋みなみ
言わずと知れたアイドルグループAKB48の総監督の著書である。実はうちの長女と同い年。それで、あの巨大グループを率いているということに、単純に敬意を表する。その上で、非常に冷静に自分の役割を分析し理解していることに驚きを感じる。彼女のスピーチを聞いたことがあるが、著書の中で明かされている彼女のスピーチ7カ条は、見事と言うしかない。ビジネス誌などで、この書籍が紹介されているのも納得。騙されたと思って読んでみてください。ビックリしますよ。(1/9)
008/008
「神様2011」川上弘美
僅か40ページほどの短い本であるが、中身は重い。著者が紫式部文学賞を受賞した作品をベースに、「あのこと(=福島第一原発事故)」後のバージョンで書き換えられている。そこに描かれているのは、かつての美しい自然を謳歌していた幸福な時代とは全く逆の、殺伐とした荒涼たる風景である。神様、私達は、何処で進むべき道を間違えたのでしょうか。まだ救いはあるのでしょうか。(1/9)
009/009
「スタンフォードの自分を変える教室」ケリー・マクゴニガル
話題になって、いつか読みたいと思っていた本が、文庫になったそうなので、ようやく手に入れ読むことができた。原書のタイトルは“The Willpower Instinct”となっており、これは意志力の持つ潜在的な力、とでも思ったらいいのでしょうか?とにかく、中身は意志の力に関するものであるが、単なる精神論で語ろうとするのではなく、非常に科学的に解説されていて、思わず納得してしまうことばかり。そして何より、その意志力を磨くための実践的なプログラムまで提示されている。これは面白い。自分にもできそうな気がする。これは売れるはずや。
(1/9)
(010/010)
「戦場のコックたち」深緑野分
昨年の“このミス”第2位と言うことなので楽しみして読んだのだが、私には合わなかったみたい。読み切る迄に3日も掛かってしまった。3連休だったのに。舞台は第二次世界大戦中のヨーロッパ戦線。ノルマンディ上陸から始まる。フランス、ドイツの国内で戦闘を重ねながら、隊の中で起こる数々の事件を、部隊のコックたちが解いていくという物語。物語の中では、悲惨な戦場や収容所の様子も描かれており、読み応えはある。ただ、これをミステリと言っていいのかどうか、疑問に思うところでもある。決して、面白くないわけではないので、念のため。(1/12)
(011/011)
「また次の春へ」重松清
2011年3月11日。多くの人が、一瞬にしてその人生を大きく狂わされました。家族を描かせたら日本一(言い過ぎ?)の著者による、“あの日以後”を取り上げた短編集。直接の被災者だけでなく、特に関わりがないと思っていたところが、いきなりその“現実”に直面されられたり、遠く離れているが故にもどかしい私たちのような立場の人間も多く描かれている。悪いやつは出てこない。とても優しくて良い本。(1/13)
(012/012)
「十二月八日と八月十五日」半藤一利
昭和史のなかでも特に開戦日と終戦日に焦点を絞り、まさに“その日”に何があったのか、みんなは何を思ったのか、様々な書籍や新聞、雑誌あるいは日記などから、可能な限りその記述を集めて編集した物。“十二月八日”の項では、誰もが高揚し、まさに“一億が火の玉”となって、これが正義だと信じて疑わなかった様子が描かれている。一転して、“八月十五日”は、“日本のいちばん長い日”とも共通している部分があるが、国民の気持ちが大きく二つに分かれている様子が見て取れる。その中で、著者も絶賛する痺れる一文、少し長いけど紹介します。「夕方に至り仕事にかかる。当直。興奮のためか二時頃漸く就寝。久しぶりで十時過ぎても窓を開け放って勉強ができた。十二時頃、学生らしき者興奮して、耳鼻科と整形外科の窓硝子四枚ぶち割る。諸所で暴動めいたことが起こっているだろう。ニーチェ読了。(若き日の日記:神谷美恵子)」(1/14)
(013/013)
「名探偵は密航中」若竹七海
舞台は豪華客船。その中で起こる様々な事件や謎を船に乗った名探偵が解いていく。そういう物語なのだが、これまでに読んだことがないような手法で、最初は少し戸惑うものの、新たな物語が始まる度に、さてこの編ではいったい誰が!?。という、変な楽しみ方ができる。まぁ、それと気づくまでは少し据わりが悪いのも事実ではあるのだが。この仕掛けはすごく簡単で、楽しみ方には関係なく、すぐに気がつくのですが、これから読まれる方のために、それは書かずにおきましょう。(1/16)
(014/014)
「双頭の船」池澤夏樹
こちらの小説もテーマは“3・11”。大きな被害を受けた地域へのボランティアを運ぶため仕立てられた“双頭の船”。これは、離島フェリーなどに使われている、前後両方に操舵室があり、船腹に車両を積み込むことができる船なのだが、被災地で活動を続けるうち、その船がどんどん大きくなり、被災者からなる一つの巨大なコミュニティができあがっていく。コミュニティは一体的に大きく育ちつつ、内部で意見のぶつかり合いが生じて分裂したりといった事件を乗り越え、将来に向かって新たな船出をする。ファンタジックで、そうあってほしいと願いたいような物語。(1/17)
(015/015)
「電気は誰のものか 電気の事件史」田中聡
これは、震災関連で借りた物ではないのだが、結果的にそれと大きく関わる内容のおもしろい本だった。その昔、電力会社が乱立していた頃の歴史は興味深く、いつからか政治勢力と密接な関係を築くようになる。そして今や巨大な権力と化している。(1/18)
(016/016)
「ちゃんちゃら」朝井まかて
最近気に入って、彼女の本を読んでいる。舞台は江戸。主人公は庭師の一人娘と何やら訳ありな孤児の若い庭師。京から下ってきた怪しげな庭師との戦いの物語。私の嫌いな結末になりかけたけど、どうやらハッピーエンドとなりそうな余韻を残して終了する。(1/23)
(017/017)
「工学部ヒラノ教授の事件ファイル」今野浩
筒井康隆の“文学部唯野教授”に倣って、大学の工学部の裏側を描いた物。どうやらこれは第二弾。最初の本は知らなかったが、たまたま書店で見かけて衝動買い。大学の組織なんて、本当に小さな世界なので、そこでの人間関係はいかにも複雑怪奇なのだろうと勝手に想像する。おそらくどこの世界でも同じなんだろうと思うけどね。(1/23)
(018/018)
「なりたい」畠中恵
しゃばけシリーズの最新巻。病弱な若旦那であるが、この作品の中では若干精神的にも成長しつつある様子が見える。気がつけば息の長いシリーズになってきたものだ。(1/30)
(019/019)
「闘う君の唄を」中山七里
幼稚園を舞台にしたお仕事小説かと思いきや、エラく重いテーマが待っていた。小説のタイトルは、中島みゆきの“ファイト!”という曲の歌詞の一節で、小説中の各章名も歌詞の一部から採られている。この曲そのものが、重いテーマで書かれている物で、序盤を読む限りでは、この小説には不釣り合いなと思っていたところが、途中から急展開し、まさにこのテーマにふさわしく、思わず怒りを感じ、主人公を応援したくなるような物語となる。一部謎解きのような場面も出てくるのだが、それに関しては途中で結末が見えてきたりと、イマイチ感が否めないが、それでも結構楽しめた。(1/30)
(020/020)
ベストセラーになり、昨年は映画化もされた。実はその映画を見た帰りに勢いで買った物だが、半年以上経ってようやく読む気になった。映画は結構感動モンだったのだが、こちらは終始明るい調子で書かれている。また、内容的には“ビリギャル”のエピソードを紹介しながら、子供や部下の能力を如何に伸ばすか、といった心理学的なテクニックが中心に書かれている。心理学を使うノウハウ本って、人を“モノ”として捉えているような気がして、どうも好きになれない。(1/30)
(021/021)
「嫌われる勇気 自己啓発の源流『アドラー』の教え」岸見一郎、古賀史健
最近話題の“アドラー心理学”ブームの火付け役となった一冊。これもかなり以前に買ったまま放置していたモノを、ようやく手に取った。ソクラテスに関する一連のプラトンの著書を倣って、哲人と青年の対話形式になっているので、読みやすいのだが、その分ポイントが判りにくくなっている。心理学という、人間の言動からその基となった人間心理を探求するだけでなく、それを逆手にとって、考え方を変えることで、人間として成長(主観的にですが)できることを説いている。(1/31)
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