残暑厳しい9月が終わったら、急に朝夕が涼しくなり、冷房なしで眠れるようになってきました。そんな9月は、小説が8冊、その他が8冊で計16冊という結果になりました。ちょうど半々のバランスとなりまして、ちょっと驚いています。
そんな中でのお薦めです。小説ではヘッセやビュルガーといった、古典とも呼ばれる小説がリストアップされており、現代小説は少なかったので、なかなか難しいのですが、賞の候補ともなった『踊りつかれて』が一番良かったかな。SNS全盛の今の社会をかなり極端な姿ではありますが、現実感を失わずに描かれており、とても良かったです。ある種の警鐘かと思うのですが、必要な人たちには届かないですね、きっと。これはお薦めでした。
あと古典の中では、『シッダールタ』がよかったです。これもお薦めです。
次に小説以外の書籍では、三冊お薦めします。
まずは『サカナとヤクザ』。現地を足で調べてレポートする。ルポルタージュのお手本のような本です。衰退産業として位置づけられながら、生きていくうえで欠くことができない産業である水産業の闇の部分をあからさまにする超大作です。読み物としても面白いですが、日々食卓に上る大事な食材ですし、こんなことでよいのだろうかと考え込んでしまいます。
次は『可視化される差別』です。統計分析という手法で、我々が自分でも気が付いていない差別意識・行動というものを、これでもかと“視える化”してくれています。改めて自ら襟を正すためにも読んで損はないと思います。お薦めです。
最後は『西洋の敗北』です。トッド氏の本はとても興味深く読んでいるのですが、ロシアのウクライナ侵攻について、このような視点からの論説は初めてで、目から鱗が落ちる思いでした。日本のかじ取りをすべき人達にもぜひ読んでほしい一冊です。面白かったです。お薦めです。
さて、2025年もあと3月となりました。順調にいくと230~240冊くらいにはなりそうなペースですね。先月、古典と呼ばれる海外小説を読み始めてから、若干それにはまってきました。やはり、長く読み継がれている書物はそれだけの理由がありますね。できれば、日本の古典にも手を伸ばしたいのですが、日本語だけに原文で読みたいとは思うものの、やはり現代語訳でないと難しく思えて億劫になります。せめて、明治期から戦前にかけての小説ならどうかなと思案中です。
いよいよ読書秋本番となるところ、本を片手にゴモ散歩を極めていきたいと思います。
001/163
板子一枚下は地獄と言われるように、古来漁業は命がけの仕事で、勢い性格が荒っぽくなってしまうとはよく言われるところですが、この本は日本国内のいくつかの港におけるヤクザと密漁について、克明にレポートしている。中でも関東のとある港町の歴史はかなり衝撃的で、ここをアンタッチャブルにしてきたツケが、今の行業の衰退につながっているのではないでしょうか。人が生きるうえで絶対に必要な食糧を採取・生産する人たちが、真っ当に生活していけるような社会でなければ早晩廃れてしまう。(9/4)
002/164
「ねむりねずみ」近藤史恵
著者の初期のミステリ作品なのですが、本格ミステリを目指されていただけあって、なかなか生硬で没頭しづらい作品でした。今話題の歌舞伎界が舞台で、舞台上演中の客席で殺人事件が発生し、ある人から依頼された探偵が事件を捜査する。という物語でした。(9/4)
003/165
「ヨーロッパ・コーリング 地べたからのポリティカル・レポート」ブレイディみかこ
2014年から2016年にかけてWeb上で公開されたレポートをまとめたものです。時期的には、欧州の各地で“独立” に向けた動きが盛り上がっていた時期で、誰もがまさかと思ったBrexitについて意見が戦わされていた頃です。まさかこの頃には、ほんの数年後に世界が停止してしまうとは誰も思っていなかった。あの感染症は、世界を変えましたね。(9/5)
004/166
「ほら吹き男爵の冒険」ビュルガー
誰もがきいたことがある物語を改めて読んでみました。皆さんご存じかどうか知りませんが、ほら男爵=ミュンヒハウゼン男爵は実在した人物ですが、その方がほら吹きだったのかどうかは定かではありません。この物語は、断片的には聞いたことがあったのですが、書物として読んだのは初めて。また原書もいくつか版があるようですし、改定されるたび、各地の寓話が取り込まれていったようです。(9/9)
005/167
「樹海警察」大倉崇裕
富士山のふもとに広がる樹海のみを所管する地元警察署の特別班。この世をはかなんで樹海を訪れた人たちばかりではなく、事件が起きる場所でもある。突拍子もない設定ですが、結構面白かったです。(9/11)
006/168
“差別は悪”と誰もが知っているはずなのに、ふとした時に差別的な言動をとってしまうことがある。しかしながら、当の本人には全くそんな意識がないというのはよくある話です。この本では、統計分析という手法で、気づかないうちにとっていたそんな気づいていなかった差別を“視える化”してしまおうという興味深い作業をしています。とても面白い一冊でした。(9/12)
007/169
「踊りつかれて」塩田武士
該当作品なしとなった今夏の直木賞候補作の一冊です。SNSによる誹謗中傷を苦にして命を絶った芸人、捏造記事で芸能生命を絶たれた女性歌手、その誹謗中傷に加担した数十名の“普通の人達”がある日突然、氏名や居住地、勤務先までもがWeb上に晒され大炎上するところから物語が始まります。その容疑者はすぐに特定されるのですが、その動機はいったい何だったのか。弁護を依頼された、芸人の元同級生が事件の裏に隠された真実を探求していきます。なかなか骨太な物語でした。面白かったです。(9/13)
008/170
「県警の守護神 警務部監察課訟務係」水村舟
初めて手に取った作家さん。警察官というのは、ある種の権力を持っているため、他人から恨まれやすく、訴訟のリスクも抱えている。そんな時、代理人として訴訟対応をするのか訴訟係らしい。そんな係が実在するのかどうかも定かではないが、訴訟に勝つためなら手段を選ばないというのも、あまりしっくりこない。しっくりこないまま読み終わりました。(9/14)
009/171
「国家はなぜ存在するのか ヘーゲル『法哲学』入門」大河内泰樹
最近、改めて“法哲学”という分野に興味を持つようになり、法哲学と言えばヘーゲルでしょうとは思いつつも、超難解と聞いていたので、その前に導入の助けとして読んでみました。結論から言うと、やっぱり難しい。わからないなりにですが、“国家”というものの正体とはいったい何なのかということでしょうか。個人的には、国家の正体とは権力だと思うのですが、その源泉を法に求めるのが近代国家というところでしょうか。そこからさらに法とは何かというところに私の想像は遊離していくのですが、力は法によって与えられるのか、法は力によってつくられるのか。考え出すと面白いですね。(9/16)
010/172
「ガーデン」近藤史恵
先に読んだ小説のシリーズ二作目です。ただ、時期的には前作より前に置かれているようで、前作に登場した人物の“正体”が明らかにされます。物語としては、かなりハードボイルド寄りなのですが、あちこちに破綻しかけているところもあり、もしシリーズになっているとしても読み続けるのは難しいかな。(9/17)
011/173
「西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか」エマニュエル・トッド
トッド氏による注目の書です。ロシア=ウクライナ戦争について、世の論調はかなり違った視点から考察を加えており、とても参考になります。ここ数年来の西洋の弱体化という概念には全く気が付いておらず、そのプロセスを読むと、この戦争もなかなか決着がつかないのではないかと思い、気が重くなります。日本は、経済力が低下し、モノづくり技術も絶滅の危機に瀕しています。政治は元々無能の集団ですし、官僚もその無能な政治に骨抜きにされました。そしてその無能集団が下品な罵り合いに総力を挙げている。哀しい。(9/18)
012/174
「デミアン」ヘッセ
先に読んだヘッセの断片集に何度か出てきたので、どんな小説なのか読んでみました。一言で言うと一人の少年の成長物語なのですが、その心の中の葛藤が細かく描写されています。時代が遠く離れているので、簡単には理解できない部分もありますが、“自分自身を探し、自己の腹を固め、どこに達しようと意に介さず、自己の道を探ってすすむ”ことが最も大事なことであったとの覚醒には、同感です。(9/19)
013/175
「霞ヶ関のリアル」NHK取材班
NHK取材班によるレポートで、時期的にはコロナ禍前夜の状況がまとめられています。霞が関で働く官僚の皆さん方の働き方が尋常ではないとはよく言われます。皆さんも良くお聞きになったことがあると思いますが、私がいた地方公共団体でもかつてはそれに近い状況にあったので、十分に想像できる世界です。詳細は省きますが、そのような状況で働いている人たちに、“働き方改革”の旗振りなんてとても無理な話で、全くリアリティを感じられない。滅私奉公なんて美辞麗句は忘れてしまわなければ。(9/20)
014/176
“人新世の資本論”の著者によるレポートで、月一で新聞に連載されたものをまとめたものです。机上の空論となりがちな学者さんのお話にリアリティを持たせるためにいろんなところで、実際に人と関わりそこで感じられたことを纏めておられます。例の新型感染症のため、自宅に缶詰めとなったときもその状態でできることをレポートされるなどなかなかユニークな内容でした。面白かったですよ。(9/22)
015/177
「ニューミュニシパリズム グローバル資本主義を地域から変革する新しい民主主義」山本隆、山本惠子、八木橋慶一
興味を持って読んでみたのですが、残念ながら何を伝えようとされているのかよくわからない本でした。文法を無視した文章や誤字脱字。苦痛でした。(9/26)
016/178
「シッダールタ」ヘッセ
バラモンの子、シッダールタが家を出て沙門となり、諸国を遍歴し悟りを得て亡くなるまでの物語。てっきり仏陀=ゴータマ・シッダールタの物語かと思っていたのですが、彼はひとりの覚者として、主人公の人生とかかわりを持ちます。主人公は、覚者となることを志すも、欲に溺れ、当初の志を忘れたかのように見受けられます。短いけど読み応えのある物語でした。(9/28)
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