6月は12冊と若干減速気味です。うち小説は5冊、その他が7冊という内訳でした。
今回も、小説ではお薦めできる本がありませんでしたが、それ以外では珍しく人権関係で面白い本が二冊ありました。
まずは、”人種契約”です。これは、耳新しい言葉で、今の社会は男性優位が所与の要件として形成されており、それにほとんどの男性が気づいていないというようなことがよく言われます。自分はそうではないと言いたいのですが、さて、ここで初めて与えられた人種という観点から見る社会というものに自分は全く気付いていませんでした。そんな目を開かせてくれる啓蒙の書でした。
もう一冊は『表現の自由に守る価値はあるか』です。読み切るのはかなりの力業でしたが、読んだ甲斐がありました。学生時代の試験前を思い出しましたが、めちゃめちゃ面白かったです。特に、表現の自由の制限に積極的な政治体制の中で、如何にしてこの自由を死守していくかというのは喫緊の課題です。私たちももっと真剣に考えるべきだと思います。
さて7月に入り、人生2度目の転職をいたしました。
今度の職場は、公益団体で公務員の世界ともよく似ていますが、実は設置者が京都府ではなく別の自治体なので、組織の文化は府とは大きく違います。今はその違いを楽しんでいますが、今後どうなるのか少し心配ではありますが、楽しんでいきたいと思っています。
001/077
「心理学化する社会 癒したいのは『トラウマ』か『脳』か」斎藤環
書籍としてはかなり前に出版されたものです。心理学と精神医学って境界線がどこにあるのかお分かりになりますか?ここ数年心療内科へのハードルが下がってきていて、少し調子が悪くなると、すぐに診断書をもらって休んでしなう、という印象をもたれている方も多いと思います。それを完全に否定するわけではないですが、誰もが駆け込める時代になったというのは決して悪い状況ではないと思います。ただ、あまりに一般化しすぎて、“メンヘラ”とか“トラウマ”という言葉が軽く扱われることについては、異議を唱えたいところではあります。(6/2)
002/078
「貧乏神あんど福の神」田中啓文
珍しくシリーズものではない田中さんの書籍です。安定感があります。(6/4)
003/079
「青い月の夜、もう一度彼女に恋をする」広瀬未衣
数年前に出版された、京都を舞台にした胸キュン小説ですが、その設定が、当時大ヒットした映画と似通っていて、その当時どういう評価をされていたのか若干気になります。ある種のすれ違い小説なのですが、ハッピーエンドでよかったです。(6/6)
004/080
「埋もれた都の防災学 都市と地盤災害の1000年」釜井俊孝
歴史は地層となって積もっていると私は考えておりまして、地面を掘り進めていくと、「歴史=人の営み」が見えてきます。特に古くから人が住み続けている場所には、時折過去の大災害の痕跡も見つけ出すことができます。この本では特に関西圏の災害の痕跡を辿り、とても面白い読み物になっていると思います。こういった分野をまたがる本って結構好きなんです。(6/6)
005/081
「スタンフォード式最高の睡眠」西野精治
なぜ、スタンフォード式なのかと思いながら読んだのですが、どうも同大学には世界で唯一、睡眠に関する専門の研究機関が設けられているそうで、納得しました。この本を読んだからといって、簡単に最高の睡眠が得られるわけではないですが、なんとなく心掛けることはできます。(6/8)
006/082
「日本の『第九』 合唱が世界を変える」矢羽々崇
第九というだけで、殆どの日本人には、ベートーベンの交響曲第九『合唱付き』と通じます。日本人は大好きなんですよね。この本は、日本人が大好きなこの曲が、どのようにして定着していったか、様々な資料を手がかりに記録としてまとめ上げていきます。もちろん、これは日本だけの現象ではなく、本場ドイツでもこの曲は特別な曲として認識されています。東西ドイツ統一の際のバーンスタイン指揮による演奏は感動的ですし、バイロイト音楽祭でのフルトフェングラー式による演奏は興奮の極みです。また、初期のコンパクトディスクの録音時間が74分とされたのも“第九”の平均的な演奏時間に合わせたという都市伝説も残されています。改めて、面白いこと一冊でした。(6/11)
007/083
「人種契約」チャールズ・W・ミルズ
“人種契約”とは耳慣れない言葉ですが、前提として“社会契約”という概念が存在しています。私は、これについて“国家と市民の関係ついての契約”を指しており、その中には自然権や自然法が当然のように含まれていると理解しています。私たちはそれが全ての自然人について成立するものと考えていますが、実はある特定の人種については自然人の範囲から除外されていることを当然のように受容されているとの主張が、この“人種契約”という概念に含まれています。およそ50年前に書かれた本ですが、最近の“ブラック・ライヴス・マター”運動に象徴されるごとく、今なお大きな問題であることは間違いありません。日本でノホホンと生きているとなかなか実感できないですが、知らないことが“悪”である典型的な事項だと思います。(6/12)
008/084
「令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法」新川帆立
期待はずれでした。架空の法律に支配された“レイワ”の時代を描いた不思議な短編集です。(6/18)
009/085
「表現の自由に守る価値はあるか」松井茂記
憲法学の中でも特に表現の自由に関する教科書です。あらゆる人権の中でも、“表現の自由”とそれから派生した“知る権利”は、民主主義を成り立たせている最重要の権利で、冒すことのできないものと習いました。今、その重要な権利が危機に瀕しているということにどれくらいの人が気づいておられるでしょうか。この本では、ヘイトスピーチ、テロリズム促進的表現、リベンジ・ポルノ、ネット上の選挙活動、フェイク・ニュース、忘れられる権利という6つの切り口から欧米日の法規制の現状を中心に“表現の自由”について書かれています。ヘイトスピーチも守られるべき“表現”なのか?リベンジポルノは?フェイクニュースはどう?400ページ近くの書物でしたが、とても面白かったです。お薦めはしませんけどね。(6/22)
010/086
「蹴れ!彦五郎」今村翔吾
今を時めく直木賞作家の初期の作品集です。表題作の彦五郎は、桶狭間で信長に敗れた今川義元の嫡男。家は没落したもののその後も生き続けます。ほかの作品も、敗者にスポットを当てた作品ばかりで、それだけでも興味深いものがあります。(6/25)
011/087
「正倉院のしごと 宝物を守り伝える舞台裏」西川明彦
新聞の書評欄で取り上げられていて気になっておりました。シルクロードの終点とも言われる正倉院ですが、実は95%以上が国産品で、海外からの到来物はそれほど多くないそうです。全国から納められた献納品でしょうかね。動物性たんぱく質ででき上っている絹などの寿命は思ったよりも短く、ほとんどのものがボロボロの状態で保存されています。それらを預かっている正倉院の仕事を、保存・修理・調査・模造・公開という5つの側面から紹介されています。重要なのは、彼らがそれを誰から預かっていると認識しているかなのですが、宮内庁管轄ということもあって、皇室からの預かり物と誤解しているように思われます。これらは間違いなく国民からの預かり物のはずです。そこをはき違えてはいけません。(6/25)
012/088
「気まぐれスターダスト」星新一
中学高校生の頃狂ったように読んだ作家さんの作品集。1000作を超えるショートショートを書かれた作家さんで、それらをすべて集めた書籍も刊行されていますが、その後に発見された作品が集められています。懐かしい文体を味わいながら読みました。(6/27)
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