10月は23冊、うち小説が13冊、その他の本が10冊という結果でした。
休日以外は、ほとんど本を読む時間がなかった割には、結構読めましたね。
そんな中でのお薦め本です。
小説では、これという物が見つからないですが、安定的に面白かったのは柚月祐子さんの広島でのヤクザの抗争を描いた作品で、迫力もあって面白いです。彼女の場合、ほかにも法廷物などを書いておられるのですが、このシリーズはその中ではかなり異色の作品ですが、かなりの力量を感じます。
また、コロナ社会を描いた海堂尊さんの小説も痛快でした。日本政府のコロナ対応を、取り上げており、基本的にはフィクションなのだが、ひょっとしてかなりの部分は事実なのではないかと思わせる出来になっており、面白かったです。
そのほかでは、初めて読んだ山之口洋さんの作品も面白かったです。特に取り上げた時代が奈良時代ということで、当時の歴史的事件に題材をとってあって、ハマりました。
あとは、テレビドラマにもなったのですが、警視庁文書捜査官シリーズも結構ハマりました。ドラマ原作ということで、結構侮りながら読んだのですが、なかなかどうしてかなりの本格派で、とても面白かったです。本文でも書いてますが、別の作品も読んでみたいと思わせる作家さんでした。
小説以外の本では、“人工知能に未来を託せますか”という本が、めちゃくちゃ面白かったです。本文にも長々と書いていますが、私たちのような文系の素人にもよくわかるように書かれています。とても面白かったです、今月いちばんのお薦めかも。
講談社ブルーバックスの“日本史サイエンス”も面白かったです。文永・弘安の役、秀吉の中国大返しなど歴史上の謎を、科学的な知見から解き明かそうという目論見です。それが正しいのかどうかはわかりませんが、これまで漠然と想像で語られていたことを、科学的に解明してみるというのはとても新鮮で気に入りました。もっと別の事件も取り上げてほしいなぁ。
001/171
「静おばあちゃんと要介護探偵」中山七里
中山さんの人気シリーズ主人公のコラボレーション。お互いの個性が迸る出来です。ただ、最初の登場時の重厚なキャラクターからかなり変化してきたようで、時制的にはちゃんと合ってるのだろうかと心配になります。(10/4)
002/172
「警視庁文書捜査官」麻見和史
人気テレビドラマの原作本ですね。主人公二人の設定が大きく変更されているので、全く違う作品のようにも見えます。ミステリとしてもしっかりしていて、読み応えもあります。実は初めて読む作家さんなのですが、過去の作品を眺めていると結構面白そうなので、しばらく漁ってみようと思います。(10/4)
003/173
「世界の起源 人類を決定づけた地球の歴史」ルイス・ダートネル
著者は、宇宙生物学という分野の専門家だそうで、この地球という惑星の起源から現代までの歴史を概説しています。プレートテクトニクスから生命の誕生、道具、動力の発見・発明まで書かれているのですが、一番面白かったのは“大航海時代”の記述でした。昔世界史で習ったような記憶があるのですが、船舶の改良もさることながら、地球の成り立ちがもたらした“貿易風”“偏西風”の“発見”がその後のグローバリズムを招来したというのが劇的ですね。面白かったです。以前の著書に“この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた” という面白そうな本もあるので、これもいつか手に取りたいと思います。(10/6)
004/174
「天平冥所図会」山之口洋
初めて見つけた作家さんです。古代史の中での大事件“道鏡事件”で、宇佐八幡宮の神託を調査に行かされた和気清麻呂の姉、広虫とその夫葛木連戸主の二人を主人公とする物語です。二人の目を通して、大仏開眼や阿倍仲麻呂の乱など当時の歴史的事件を通じた怨霊との戦いを描いています。斬新で結構面白かったです。この作家さんの本職はプログラマなのですね。最近はあまり小説を書かれていないようですが、この手の路線であれば、また読んでみたいなぁ。(10/8)
005/175
「ヒポクラテスの試練」中山七里
大学の法医学教室を舞台にしたミステリシリーズの第三作。今回は、異常な肝臓がんで死亡した政治家を解剖したことから、新たな感染性の寄生虫を発見し、パンデミックを起こさなよう、その感染源を突き止めます。いわゆる“疫学”をもって、感染症を抑えるということですね。ちょうど今、世界的な感染症危機に見舞われているところですが、その直前に書かれているのですね。タイムリーというか何というか。(10/9)
006/176
「その日の予定 事実にもとづく物語」エリック・ヴュイヤール
“その日”というのは、第二次世界大戦前夜、オーストリアがヒトラー率いるドイツ帝国に併合された日を指しています。その日に向かい、当時の政界、財界がいかに動いたのかということが書かれています。作者はフランス人で、彼の地では“事実小説”と呼ばれているそうです。ヒトラーの傲慢さもさることながら、それに嬉嬉として従い、ナチスに莫大な献金をした財界人たちの醜悪な姿が印象的です。そして、その企業が今なおドイツを代表するグローバル企業として安全たる力を持っていることも。(10/10)
007/177
「中世日本の予言書 <未来記>を読む」小峯和明
この本の中では、“聖徳太子未来期”“野場台詩”という二つの“予言書”が取り上げられています。前者は言わずもがな聖徳太子が記したとされる書物で、後生に発見されたとなっています。後者は中国の宝誌という僧が記したとされています。おそらくは、両者とも後世の偽作なのですが、なぜそのような祖持つが編まれたのか、そのときの世相や歴史的背景などを解説しています。なかなかに興味深かったです。(10/10)
008/178
「逆ソクラテス」伊坂幸太郎
小学生が主人公の短編集。全作に共通して出てくる人物はいませんが、なんとなく一つのつながりがあるような構成になっています。小学生特有の甘酸っぱさもさることながら、数年後に彼らが、その当時のことを回想し、思わぬ発見をするというのが基本的な形です。いずれもハートフルな決着で、読んでいてもとても気持ちの良い物語でした。良かったです。(10/10)
009/179
「中空」鳥飼否宇
これも初めての作家さんです。本格推理小説家さんなのですが、別名義で“相棒シリーズ”のノベライズも出版されているとか。本作は、横溝正史ミステリ大賞の優秀作を受賞したデビュー作で、“莊子”が、物語のキーワードになっています。最後は、壮大な終わり方になってしまいましたが、本格推理の形式は踏まえられており、また別作を読んでみたいと思います。まずまずでした。(10/10)
010/180
「人工知能に未来を託せますか? 誕生と変遷から考える」松田雄馬
散歩のお供に連れて行き、往復の電車内で読んだのですが、これは面白かった。人工知能研究の第一人者の方が書かれている本なのですが、人工知能が人間に取って代わるようなことは絶対にあり得ないと断言されています。その根拠は、是非とも読んでほしいのですが、非常に論理的に書かれていて、十分に納得できる物です。人間の脳というのは、本当に謎に満ちていて、そのメカニズムはほとんど解明されていませんし、“心”の解明となるとほぼ不可能ではないかと考えられます。だからといって、のほほんとしていれば良いかというとそうでもなく、今後いかに上手くAIを使いこなすかということが重要になってきます。本文に引用されている参考文献もとても興味深いですし、同書の出版元のホームページにあげられている膨大な数の参考文献リストにもリンクを張っておきますが、なかなか興味深い。この本はおすすめですよ。(10/11)
011/181
「日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る」播田安弘
これは面白かったです。著者は歴史学者ではなく、造船の専門家なのですが、趣味が高じてこの本を記されたようです。歴史上の謎について、科学的な立場から検証しようというもので、鎌倉時代九州に襲来した元は、なぜ本格的な戦いの前に撤退したのか。どうやって本能寺の変の一報を聞いた秀吉が、ほんの数日で中国地方から山崎の合戦に臨めたのか。戦艦大和は本当に役に立たない船だったのか。という3つのテーマについて、独特の視点から検証しています。特に秀吉の中国大返しについての仮説はとても興味深い。私も一票を投じます。(10/14)
012/182
「ルポ 老人受刑者」斎藤充功
最近刑務所の受刑者総数に占める老齢者の割合が増えてきており、中には老人特有の身体故障や、認知症の症状が出ている受刑者も増えてきているといわれてます。このルポを書いた著者自身も80歳手前という高齢者ということもあり、なかなか興味深いルポになっています。施設の状況描写や受刑者、施設関係者のインタビューが、丁寧に綴られているのですが、特にそれに対する提言までは踏み込んでいません。そこが少し残念かな。(10/14)
013/183
「去年はいい年になるだろう」山本弘
未来からやってきたアンドロイドたちによって、歴史が改編され、9・11の悲劇が起きなかった世界を描いたSF小説です。初めて読む作者さんなんですが、“と学会(世間のトンデモ本やトンデモ物件を品評することを目的としている民間団体)”の会長さんなんですね。未来からやってきた彼らは、より良い未来へ導くため、歴史に関与していきます。しかしながら、それを推し進めると、大きな齟齬が起きてしまい、想定外の未来を惹起することになってしまいます。倫理学的な考察もあって、なかなか深い小説でした。(10/17)
014/184
「災害の倫理 災害時の自助、共助、公序を考える」ナオミ・ザック
週末のお供にするには、あまりに難解な書籍でした。最近の政権が、自助、共助、公序という言葉を口にされており、たまたま見つけた本の副題にずばり書かれていたので、思考の参考になれば思い図書館から借りてきました。著者はアメリカの災害、特に台風カトリーナの災害で露わになった格差の問題についても思考を広げていますが、災害等の緊急時に、“できるだけ多くの人を助ける”のか“助けられる人をできるだけ多く助ける”のかという二つの考え方を紹介しています。後者には“トリアージ”という作業が欠かせないのですが、素人感情からいうと、この考え方にたどり着くのはなかなか難しいですね。たまたま午前中に読んだ別の小説(上記)に、同様の問題が提示されているのですが、答えは見いだせない。また、著者は、9・11災害の後、アメリカ政府では安全保障と安全が同一の組織で担われるようになってから、“安全”に対するスピード感がそがれてしまっているという門団展も指摘しています。これまた難しい問題です。周りの人たちが当てにならないとするなら、最後に本書の中で印象に残った一節を紹介して終わります。“人を助けるために準備する人は、無力な犠牲者になりにくい”(10/17)
015/185
これも本文中に、これでもかと中世の古文書が紹介されていて、大変難しい本でした。日本の歴史の中で、神道というものは、何度も大きな変化を遂げていて、その中で中世という時代は、いわゆる神仏習合が極端に進んだ時代でした。まぁ、個人的には元々は土着の神々を伊勢神宮を頂点とするヒエラルヒーの中に無理矢理押し込めたことがそもそもの間違いだったと思っており、その土地と神々との関係が全く見えなくなってしまい、歴史が途絶えてしまいましたと考えています。閑話休題、インド発祥の仏教は、東漸する中で少しずつ変化していくのですが、日本の神仏習合もその一形態なのでしょう。その後近世に至って、儒教と結びついたり、明治維新後は極端な神仏分離と国家神道化で、本来の土着の神々への信仰は息の根を止められました。それにしても、難しい本でした。(10/17)
016/186
「コロナ黙示録」海堂尊
昨年末から世界で猛威を振るっている新型コロナウイルス(COVID19)感染症の感染拡大をモチーフに、日本政府のドタバタを描いた空想小説です。登場人物はすべて架空の存在で、実在の人物とは関係ありませんと書かれていても、ついついそれに重ねてしまう。そして、そう重ねても全く違和感がなく、この数ヶ月間の社会の裏側をのぞいた気分になって、面白かったです。おすすめです。(10/20)
017/187
「『働き方』の教科書 人生と仕事とお金の基本」出口治明
まだ、今の職に就かれる前に書かれた本ですね。いろんなところで書かれている“タテ・ヨコ思考。即ち時間軸と空間軸を広げること。”の重要性をここでも指摘されています。また、“国語ではなく、算数で考えること。即ち検証可能な『数字・ファクト・ロジック』でフェアに考えること。”という二つ目の柱は、この本で初めて見たような気がします。この二つは、働く上で重要なだけではなく、人生のほとんどをしめる、働くこと以外の人生を送る上でも、大事なことだと思います。面白かったです。(10/21)
018/188
「念入りに殺された男」エルザ・マルポ
珍しく最近のフランスミステリに手を出しました。フランスの片田舎でペンションを営んでいる女性が、とあることから宿泊客である作家を殺めてしまいます。その殺人を隠すために、全く別人格の人間になりきり、EメールやSNSを駆使して、さもその作家が存命であるかのように周囲をだまし続けます。さて、その企みは成功するのか否か。かなり目新しい試みで面白かったです。(10/24)
019/189
「暴虎の牙」柚月裕子
広島を舞台にヤクザの抗争を描いた三部作の最終作(?)です。ほかの法廷物のミステリとは違い、驚くほどハードボイルドで、同じ作家、しかも女性が書いているとはとても思えません。前二作と平行した時代を描いており、それぞれがちゃんとつじつまが合っているのだと思いますが、相当に骨太な小説です。面白いです。(10/24)
020/190
「ライオンのおやつ」小川糸
瀬戸内に浮かぶ島にあるターミナルケア・ホスピスを舞台にした小説です。このホスピスでは、週に一度、入居者のリクエストによるおやつが提供される時間が設けられています。残り少ない時間を穏やかに過ごすため、多くの人が支えてくれる様子が、とても切なく描かれています。終盤は、若干やりすぎかなと思えるような展開になりましたが、泣かせる小説であることは間違いありません。そういえば、本屋大賞の次席でしたね。(10/24)
021/191
「永久囚人 警視庁文書捜査官」麻見和史
ドラマの原作だからと少し侮っていましたが、結構このシリーズにはまっています。ちゃんとした本格推理物になっていて、一気に読んでしまいたくなります。登場人物も魅力的で、面白いんですが、今作はかなり強引に結末まで持って行ったような印象です。まぁ、引き続きこのシリーズ読んでいきます。また、彼のほかの作品もかなり気になります。(10/24)
022/192
「衰退産業でも稼げます 『代替わりイノベーション』のセオリー」藻谷ゆかり
商店、旅館、農業、伝統産業の4つの分野で、代替わりや起業をきっかけに大きく売り上げを伸ばした起業を4つずつ、計16社を紹介するレポートです。著者は、評論家としても有名な藻谷浩介さんの義姉で、ご自身も外資系メーカーで活躍され、今では長野県内に住み、地域活性化のお仕事をされているそうです。藻谷浩介さんのメルマガで紹介されていたので、借りてきました。ここで紹介されている16名の皆さんは、ほとんどが後継者の方であってもいったん外の会社で働いておられたり、異分野から参入されたりと、“外の飯”を食べてこられたばかり。その意味では“よそ者”“若者”の用件を満たしておられる方ばかりです。著者は、成功に至ったキーワードとして、“ビギナーズ・マインド”、“増価主義”、“地産外招”の3つをあげておられます。“地産外招”というのは、読んで字のごとしですが、面白い概念ですね。ただ、今は海外からの渡航が制限されているので、皆さんどのように乗り切っておられるのか気になるところです。(10/28)
023/193
「シャーロック・ホームズたちの冒険」田中啓文
こちらも初めて手にした作家さんの本で、若干毛色の変わった推理小説集でした。事件の謎を解く探偵役に擬せられているのが、小泉八雲であったり、ヒトラーであったりとそれだけでも、・・・・・という感じですよね。ホームズやルパン、さらにはルパンシリーズの作者ルブランが登場したりと、なかなかぶっ飛んだ小説たちでした。これが、この作者の特徴なのでしょうかね?(10/29)
2 件のコメント:
3冊程読みたいです
是非とも。ウィスキーのオンザロックを片手に、ミステリって最高ですよ。
コメントを投稿