とにかく暑かった8月は、久しぶりにたくさん読みましたね。コロナと猛暑のおかげで、ほぼほぼ“Stay home with books”となった一月でした。
計34冊、上下巻が2組ありましたので、実質36冊。小説は28冊でそのほかが6冊と思い切り偏った結果となりました。また、翻訳物も含め初めての作家さんの物が13冊もあり、新しい出会いも多くありました。
ほとんどが古い作品ばかりで恐縮ですが、印象に残った作品、お薦めを御紹介いたします。
先ずは翻訳物で、“ミレニアム”ですが、昔ベストセラーになって映画化もされたと言うことは知っていたのですが、翻訳物は訳者によって面白さが左右されるので、手を出しませんでした。今回なぜか、急に思い立って読み始めたのですが、めちゃくちゃ面白い。スウェーデンが舞台の小説というのも珍しく、原作者が最初から3部作を構想し、一気に書き上げて出版されると同時に亡くなるという話題性もさることながら、スウェーデンの社会問題も盛り込みつつ、ハードボイルド要素もミステリ要素も満載で、長さは全く感じなくて、一気に読み切りました。お好きな方は読まれている方がほとんどだと思いますが、もし読まれていない方があれば、是非ともお薦めします。
同じ翻訳物で“泥棒バーニィ”シリーズも面白いです。“殺し屋”シリーズのブロックによるさらに古いミステリ小説ですが、洒脱な会話が面白くて気に入っています。初期の頃の作品は図書館にも無いので、どうやって読もうか思案中です。
初めて読んだ作家さんにも興味深い方がたくさん居られました。順番に挙げていきますと、
畑野智美さん。若干違和感は残りましたが、難しいテーマの小説としては破綻無く、上手く練られていて良かったです。他の作品の作風が分からないのですが、また探して読もうかと思いました。
名前が読めない日明恩さん。シリーズの途中の作品を読んでしまったので、登場人物のキャラクターが掴み切れず、若干戸惑いはありましたが、ミステリとしては良い感じでした。過去の作品も読みたいと思います。
歌野晶午さんは、以前から名前だけは知っていたのですが、初めて手にしました。やや退廃的な感じのするミステリだったのですが、他の作品もこんな感じなのでしょうか。ちゃんと、あっと驚く結末も用意されていて、よくできた小説でした。
小林泰三さんも名前だけは知っていました。これまた難しいテーマの作品を破綻無く書かれていて良かったです。ハートフルな物語とスリルある物語の二部構成がお見事でした。読みやすく、ボリュームも少ないので、気楽に読めるお薦め小説です。
井上真偽さんは、名前も初めてでした。最初の4編の短編からは、このタイトルとの関連性がよく分からなかったのですが、最終編で取り上げられたテーマが深くて興味深く、単なる小説で読むのは勿体ないとも思いました。若干硬派な社会派のSF小説です。お薦めします。
井上夢人さんは、厳密に言うと初めてでは無く、共作だった岡嶋二人さんのデビュー作品は昔読んだことがあります。こちらも、パンデミックSF小説で、下手すると破綻しかけて物語をかなりの力業で強引に引き戻した感もあるんですが、当初から意とされていたとすれば、なかなかの構成力かと思います。こちらも他の作品を読みたくなりました。
最後は、こちらも以前アンソロジーで短編を読んだことがあるので初めてではないのですが、近藤史恵さんの作品は、こんな作品も書かれるのかと驚きながら読みました。実は自転車レースを題材にした小説の方が珍しいそうで、こういった軽い感じのミステリを主に書いておられるとか。他の小説も読んでみたいと思います。
とまぁ、こんな感じで小説は結構充実しておりました。
でもって、そのほかの書籍ですが、ここは新書を二冊。
まずは、“人類5000年史Ⅰ”は、壮大な人類史を一気におさらいするシリーズなのですが、昔から世界史が苦手でこの手の本は手を出してこなかったのですが、改めて歴史を学んでみると、“今”というのは、偶然だったのか、必然なのかという素朴な疑問が浮かんできます。派生して、世界史のいろんな分野にも興味がわいてきて、なかなかに興味深かったです。当然、続編も読もうと思います。
もう一冊は、様々な人たちが寄稿された“コロナ後の世界を生きる”も面白かったです。本文中でも触れていますが、ある方の書かれた文章が、とても心に残っています。いわゆる“岩波文化人”の方々ばかりなので、偏りはあるかもしれませんが、様々な分野の方々が書かれており、広い視野で考えなければいけないなということに気づかせてくれます。興味のある方は是非とも手にとってみてください。個々の文は10頁程度と短いのでとても読みやすいです。
読んだ本の数が、日数を超えてしまうのはホントに久しぶりです。しかも今月は小説だけで20冊以上ですが、今この時点でもよく中身を憶えているなと、我がことながら感心しています。上述のとおり、初めての作家さんに数多くチャレンジしておりまして、改めて自分の世界の狭さと本の森の深さに浸っております。
月が変わって、少しスピードは抑えめですが、初めての作家さんにもたくさん挑んでみようと考えていますが、どうしてもミステリが中心になってしまい、勿体ないなとも思っています。ミステリに限らずお薦めの作家さんがあれば、是非とも教えてください。
001/120
「ウナノハテノガタ」大森兄弟
最近読んでいる“螺旋プロジェクト”の一冊で、初めて読む作家さんです。ホントに兄弟で作家をされているんですね、全く知りませんでした。本作の舞台は、有史以前で、人類が狩猟生活をしていた時代。山野で狩猟生活をするヤマノベと海浜で魚介や海藻を採って生活するイソベリが出会い、対立を深めていきます。かなり苦労しながら書かれているようですが、余り好きな作風ではありませんでした。ほかにはどんな小説を書かれているのか、少し気になります。(8/1)
002/121
「泥棒はボガードを夢見る 泥棒バーニイシリーズ」ローレンス・ブロック
“殺し屋シリーズ”が面白かったので、他の小説も読んでみようかと借りてきました。どうも初期の作品は図書館にもないようで、全作を読むのはあきらめて、読めるやつだけを読んでいこうかと思います。主人公は泥棒なのですが、まるで探偵のように周りで起こった事件を解決していきます。洒脱な言葉遊びも随所にあるのですが、ちょっと分かりづらいところが残念です。(8/2)
003/122
「ちょうかい 未犯調査室」二木英之
犯罪の発生を未然に防ぐ警視庁内の秘密部署というどこかで見たような設定です。この作者にとってはチャレンジとも言えるような内容かと思うのですが、あまり成功しているようには思えませんでした。もう少し得意分野の方に引きつけていった方が良かったのではないかと思いました。(8/5)
004/123
「月人壮士」澤田瞳子
これも“螺旋プロジェクト”の一冊なのですが、海と山の対立を天皇家と藤原氏に置き換えるという内容です。主人公は聖武天皇。天皇家の歴史上初めて(?)皇室ではなく民間人を母に持つ天皇であり、そのことを引け目に感じながら生涯を送ります。この作者の書く歴史小説は結構好みなのですが、二つの勢力が相争うというテーマがある中では、彼女に良さが活かされなかったのかなと思います。このプロジェクトは難しいですね。(8/5)
005/124
「日本の地下で何が起きているのか」鎌田浩毅
火山学の大家である著者が、素人向けに分かりやすく書いた啓蒙書です。日本の地下では次なる大地震に向けて、巨大なエネルギーが蓄積されていて、そのエネルギーがいつ放出されてもおかしくないという前提で書かれています。もし今の状況で巨大地震が起こったらどうなるのか。今はコロナに私たちの目は奪われていますが、災害王国に住んでいると言うことは忘れてはいけないですね。(8/5)
006/125
「もののふの国」天野純希
これまた“螺旋プロジェクト”。今度は源氏と平氏が山と海になぞらえられています。その上で、源平合戦、南北朝時代、戦国時代、幕末期の“武士”たちの戦いを描いています。源氏と平氏というのは分かりやすいけど、少し無理があるかなとも思われました。そして幕末から明治維新後の“武士の消滅”までを描くとなると、少し欲張りすぎかなとも思われました。少し残念。(8/8)
007/126
「春は始まりのうた マイ・ディア・ポリスマン」小路幸也
幼なじみの警察官と副住職と彼らを取り巻く仲間達。今後の展開への伏線とおぼしき事柄も書かれていることから、これは今後もシリーズ化されていくのでしょうか。ライトで読みやすく、時間つぶしにはもってこいという感じです。(8/8)
008/127
「クローズアップ」今野敏
テレビのニュース番組の記者と過去の未解決事案を担当する刑事が、互いを利用し合いながら事件を追いかけるという物語で、どうやらシリーズ物らしく、この前に何冊か書かれているらしい。作者は警察小説を得意としており、本作では珍しく記者が事件の謎を解いていきます。昔の松本清張さんの小説では、新聞記者が活躍する小説が多かったのですが、最近では珍しい部類なのかなとお思います。(8/9)
009/128
「幽霊たち」西澤保彦
なんとも不思議な小説です。主人公が幼くして亡くなった妹の幽霊と共に、過去の事件を探索するという物語で、途中からなんとなくからくりが見えてきたのですが、最後の結末がよく分からない。なんだかもやもやが残った作品でした。(8/9)
010/129
「つじつまを合わせたがる脳」横澤一彦
人間の脳は、目に映った物を機械的に認識するのではなく、脳内で一定の処理をした上で認識しているらしい。そしてその処理をする際に、脳にとって都合の良いようにつじつまを合わせてしまうそうです。ある意味錯覚に近いのかなと思いながら読んでいましたが、この習性が、広告の世界にも応用されているというのは、なかなかに興味深いことでした。(8/10)
011/130
「人類5000年史Ⅰ 紀元前の世界」出口治郎
私の大の苦手であった世界史をざっくりとふりかえるというシリーズです。一巻目では、遺跡などからたどれる紀元前3000年からのおよそ3000年をたどります。人類はアフリカ大陸から発生したというのはよく知られていることですが、文明の発生は、メソポタミア周辺だったと言われています。その歴史がたどれてしまうと言うのもスゴいことですが、そのダイナミックな歴史が今に続いていると思うと感慨深いです。(8/10)
012/131
「ミレニアムⅠ ドラゴン・タトゥーの女 上、下」スティーブ・ラーソン
10数年前に世界的なベストセラーになったミステリなんですが、今更図書館で見つけたので借りて読んでみました。それがまぁ面白い。こんなに面白い小説とはつゆ知らず、今まで読んでいなかったのが残念なくらい。作者はスウェーデンのライターさんなのですが、この小説の3部作を出版し、4部目を執筆中に急死されたとかで、当初の構想になった5部作までは完結しませんでした。この小説ではスウェーデンの過去の歴史や暗い側面を赤裸々に描き出しており、非常に衝撃的な内容になっています。ミステリ要素も盛りだくさんで、全く飽きさせない展開でした。この後2部も早く読みたい。(8/12)
013/132
「りすん」諏訪哲史
最近、決まった作者の本を読むことが多く、新しい作者の本に手が伸びません。ということで、この夏はこれまで読んだこのない作家さんの本を意識して読もうかと思っています。これはそのうちの一冊です。骨髄がんで余命わずかの妹と兄、さらにその祖母との会話のみで成り立つ不思議な小説。最後にはその会話に耳を文字に起こしている“作者”が現れ、登場人物も読者も小説なのか何なのか混乱してしまいます。後で調べたら、芥川賞作家さんなんですね、その受賞以後第一作が本作のようです。かなり実験的な取り組みですが、成功したのかどうか。(8/13)
014/133
「十字架のカルテ」知念実希人
刑法第39条「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」というのはよく知られた条項です。これをテーマにした小説やドラマは多数ありますが、本作はその鑑定を行う精神鑑定医にスポットを当てたミステリ小説となっています。彼の小説は結構お気に入りで、たくさん読んでいるのですが、中には少し相性の悪い物も時々あります。しかしながら本作は、医師ならではの視点から書かれた医療ミステリで、変な仕掛けもなくこの難しい分野に真っ正面から取り組んだかなりの秀作です。かなり気に入っています。お薦めです。(8/14)
015/134
「タイムマシンでは行けない明日」畑野智美
これも、初めての作家さんです。目の前で起きた事故で亡くなってしまった初恋の人を想い続ける青年の物語なのですが、そこに“タイムマシン”というとんでもない飛び道具が出てきて、どうなるのかと心配していましたが、この飛び道具をとても上手く使っておられます。結構気に入りました。ただ、舞台は2011年を挟んだ仙台市にある大学なのですが、震災には全く触れられていないのが、違和感として残りました。(8/15)
016/135
「ゆえに、警官は見護る」日明恩
名前が読めません。あまりたくさんの小説を書かれている作家さんではないようです。この小説はシリーズ物の警察小説で、シリーズ4作目になります。ルールを無視した捜査を行うお坊ちゃまキャリアとどうやら過去に問題を起こしたらしい元刑事が、それぞれの持ち味を活かして事件を解決に導きます。本来なら最初から読むべきでしたが、これはこれで楽しめました。このシリーズも含めて、他の作品も読んでみたいと思います。(8/15)
017/136
「ディレクターズ・カット」歌野晶午
これも初めての作家さんです。ミステリ作家さんなのですが、かろうじて名前だけは知っていました。この作品は、テレビ界でのやらせ事件を取り扱った小説で、同時にtwetterやYoutubeといったSNSがふんだんに出てまいります。登場人物が話している若者言葉にはついて行けず、このまま読めるかどうか不安に思いながらも最後は面白く読み切りました。ただ、いくら視聴率のためとはいえ、ここまでするかと思えるような場面が多数あり、そこはかなり減点ポイントかと思います。まぁ、無理して書いた感もなきにあらずで、他の作品も読んでみようかと思います。(8/16)
018/137
「ユナイテッド・ステーツ・オブ・ジャパン」ピ-ター・トライアス
たまたま目について借りてきたSF小説で、太平洋戦争で勝利した大日本帝国が支配する日本合衆国(USJ!)が舞台になっています。軍国ファシズムに支配されていた戦前の日本が、そのまま続くとこうなってしまうのか?とかなり疑問に思う場面もありますが、思想と言論の弾圧、それを保持するための超監視社会というのはあり得る未来かなと思います。同様の設定である“高い城の男”にインスパイアされて書かれた物らしいですが、なかなか読みづらし小説でした。描写は派手ですが、ストーリーとしてはイマイチかな。(8/16)
019/138
「パラレルワールド」小林泰三
これまた、初めての作家さんです。大雨によりダムが決壊し大洪水が起こったところに大地震が起きるという状況で、世界が二つに分かれます。その二つに分かれた世界が認識できる不思議な能力を宿した人物が出てきてしまいます。その人の目の前では全く違う歴史が進んでいくわけです。なんか不思議な設定でしょ。作者はそこにミステリの要素を加味して、スリリングな物語に仕上げていきます。この転調ぶりがなかなか面白かった。作者がこの物語をどう纏めていくのか、途中から想像がついてしまったのですが、切ない結末となりました。(8/17)
020/139
「景観からよむ日本の歴史」金田章裕
やや期待して読んだのですが、最後に著者が書かれているように、過去の景観を絵地図と現在の写真だけで想像するよう書かれていて、私はそこに現在の地図もセットで見せてほしかったのですが、そこはかたくななくらい取り上げてもらえず、文章も私には少し読みづらく、少し残念でした。もっと面白い内容にできただろうと思うのですが。 (8/18)
021/140
「死にゆく者の祈り」中山七里
著者の中山さんが12ヶ月連続出版という偉業に挑んだ中の一冊です。最近彼の小説がよく登場するのはそのせいなんです。今作では、教誨師として死刑囚と対峙する僧侶が、学生時代に命を救われた親友と檻の中で再会し、親友が犯罪を犯した背景を追いかけていくという物語です。素人である僧侶が捜査するというのは、かなり違和感がありますし、結末もミステリの世界では“禁じ手”の一つでもあり、やや粗製濫造の兆しが見えてしまいました。(8/20)
022/141
「ルパン、最後の恋」モーリス・ルブラン
モーリス・ルブランの死後に発見された遺稿が最近出版された物です。これは、訳者の差でもあるのかもしれませんが、堀口大学訳の新潮文庫版のルパンシリーズとはかなり趣が違います。またルパンの年齢など、この作品は、過去に出版されたシリーズのどの時代に位置づけるつもりだったのか整理がつかないまま放置されていたのかなという印象です。(8/20)
023/142
「帝都地下迷宮」中山七里
先述の連続出版の一環。東京都内に張り巡らされている地下鉄網。その中には、かつて使用されていたにもかかわらず、現在では使われなくなってしまった“廃駅”が、多数あるそうです。鉄道マニアのことを“鉄オタ”あるいは“テツ”と言うそうで、その“専門分野”によって、“列車オタ”“駅オタ”“廃線オタ”などと言い、当然ながら“廃駅オタ”というカテゴリーもあるそうです。本作では、その“廃駅オタ”である区役所の職員が物堅いの語り部となります。その誰もいないはずの地下廃駅で暮らす人々は、いったい何者なのか、ちょっと驚きの設定で、どこまで話しがでかくなっていくのかと思っていたところが、思わぬ収束を迎えます。ちょっとなぁ。(8/21)
024/143
「売上を、減らそう たどり着いたのは業績至上主義からの解放」中村朱美
京都市内で、百食売り切ったら営業終了という“佰食屋”という飲食店を経営する著者が考える“働き方”論です。わずか百食の営業で、どうやって利益を上げるのか、どうやって企業を継続していくのか、といった問いに結果で回答していく素晴らしい経営です。業績至上主義の欧米系東京型の経営ではなく、継続主義の京都型の経営を地で行っておられるようです。ここまで徹底できる経営者というのはなかなか居られないかもしれませんね。脱帽です。(8/22)
025/144
「ベーシックインカム」井上真偽
初めて読む作家さんです。この作品は5つの短編からなっており、最初の4つの短編では、人工知能や拡張現実といった技術が当たり前になった世界で起こる小さな事件を描いておられ、非常に新鮮な思いで読める作品ばかりだったのですが、最後の作品は、それまでとは全く違う路線で描かれており、私自身がこの技術開発の果てに見えてくる漠然とした不安に真っ向から切り込んだ作品となっています。作者は一つの答えを提案していますが、それほど遠くない未来に直面する課題かと思います。深いです。(8/22)
026/145
「居酒屋ぼったくり6」秋川滝美
以前から気になっていたシリーズの途中作をたまたま借りて読んでみました。“ぼったくり”という恐ろしい名前の居酒屋と、そこを切り盛りする姉妹を中信とする物語のようなのですが、さすがに途中から読むとどのような設定で始まったのか分からず、手探りで読むことになります。物語もさることながら、作中に出てくる全国各地の地酒の紹介もなかなかよろしいかと思います。(8/22)
027/146
「魔法使いの弟子たち」井上夢人
“龍脳炎”という致死率が非常に高い恐ろしい感染症を引き起こす“ドラゴンウイルス”のパンデミックを描いた、ある意味今日的な小説です。初めて読む作家さんかと思いきや、実は昔“岡嶋二人”という名前で共作されていた二人の作家のうちのお一人だそうで、江戸川乱歩賞を取られた“焦茶色のパステル”以来の再会です。この作品では、感染症を発症した人への“差別”、奇跡的に生き残った人たちに生じた“後遺症”、人間の恐怖心が引き起こす悲劇などがこれでもかと描かれており、息をもつかせぬ展開で、分厚さを全く感じない小説でした。どう収束を付けるのかとハラハラしましたが、なんとこんなオチだとは。ちょっとびっくりしました。(8/23)
028/147
「イエロー・サブマリン 東京バンドワゴン」小路幸也
今春出版されたシリーズ最新作です。登場人物が着実に年を重ねていく小説で、今作では物語の初期には幼かった少年が高校を卒業し、幼なじみと結婚するところが描かれます。従来同様、小さな事件を大家族と仲間達で解決していく物語なのですが、来年出版されるとき、世界はどのように描かれているのか非常に気になります。(8/23)
029/148
「カインの傲慢」中山七里
彼の作品には、社会問題を扱った物も多いのですが、今作では絶対的貧困と臓器売買の実態を描いています。法律と倫理、情といった並び立たない物を赤裸々に我々に突きつけます。私には解けない問いでした。(8/23)
030/149
「コロナ後の世界を生きる 私たちの提言」村上陽一郎編
withコロナ、afterコロナと言われる時代に世界はどうなっているのか、少しでもヒントがほしくていろんな人の意見や提言を読むようにしています。その中で入手した一冊なんですが、藻谷浩介の予想には、初めて“そうかもしれない”と思えました。今、あらゆる人が“世界が大きく変わる”と予想されていますが、彼は“日本は大きく変わらない”と予想しています。そう考える根拠も示されているのですが、いずれも私がモヤっと考えていたことを端的に言葉にされていて、納得できるものでした。さらに、もし変わるとすればと論を進め、その場合には“伝統回帰”というキーワードを提示されています。問題は、“どこまで”回帰するかという点なのですが、そこまでは明言を避けておられますが、これもまたありそうな感じでした。(8/25)
031/150
「数学的にありえない(上)、(下)」アダム・ファウアー
以前、東野圭吾さんの“ラプラスの魔女”という小説がありましたが、この小説にも“ラプラスの魔”という言葉が出てきます。私たちには“自然現象”として見えている出来事も全て物理の法則に則っているのだから、全ての要素が提示されていれば、未来は高い確率で予測できる。スーパーコンピュータでもできない能力を持ってしまった主人公。その人は全ての未来が予測できることになり、あらゆる機関が彼を確保しようとやっきになります。タイトルからは想像もつかないハードボイルドな内容でした。(8/28)
032/151
「泥棒は哲学で解決する 泥棒バーニイ・シリーズ」ローレンス・ブロック
最近気に入って読んでいます“泥棒バーニィ”シリーズです。盗みはするけど殺しはしない主人公に殺人の疑いが掛かり、自ら真の殺人犯を暴くため、推理する“探偵バーニィ”となります。手頃で読みやすい。(8/29)
033/152
「シャルロットの憂鬱」近藤史恵
シャルロットとは、警察犬上がりのドーベルマンで、子どものいない夫婦に飼われることになりました。見た目と違い、気弱なシャルロットと飼い主夫婦が、近所で起きる小さな謎を解いていきます。この作者は、自転車レースを扱った小説家という先入観を持っていたのですが、こんな感じのコージーミステリも書かれるのですね。また、探してみよう。(8/30)
034/153
「走れ!ビスコ」中場利一
いわゆるお仕事小説なのですが、東京のおしゃれな企業ではなく、大阪は泉州に本社を置くお菓子会社を舞台に、広報部に配属された新入社員ビスコが、奮闘する物語です。これでもかというくらいコテコテの汚い関西弁が飛び交い、セクハラ・パワハラ何でもあり。こんな会社無いぞ!という突っ込みも忘れるくらいのスピード感。結局みんなお菓子が大好き。という愛の詰まった物語です。(8/31)
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