読書の秋に入った10月は、22冊。うち小説が11冊、その他が11冊という結果でした。結構、数は読んだのですが、その中でお薦めできるものというと、、、
まずは、中山七里さんの作品2作。
前にも書いたかと思いますが、彼の小説は好きなので、できるだけ追いかけるようにしています。今月読んだ作品は、最近の作品で、ここのところかなり量産されているように思われます。量産すると、品質が低下しがちというのが世の常ですが、彼の場合、それはあまり感じられません。ただ、ごくまれに陰惨な場面が描かれることがあるので、それは玉に瑕ですね。
もう一作、村山早紀さんの“星をつなぐ手 桜風堂ものがたり”が、よかったです。前作の続きなんですが、一生懸命に働く人たちに幸せが訪れるという物語は、ほのぼのとしてとても安心して読むことができます。前作を読んだ方は、是非読んでください。下にも書いていますが、前編後編といってもよいくらい二冊で一冊という構成になっています。
さて、それ以外の分野なんですが、ノンフィクションが二冊。
いずれも古い本なんですが、“道迷い遭難”、“モンスターマザー”がよかったですね。
まず“道迷い遭難”ですが、下にも書いているとおり、生命の危機に陥りながらも、奇跡の生還を果たした人たちから、その失敗の経過を丹念に聞き取っています。ある種の“失敗学”の教科書的な本で、こういった経験談から、“できるだけ失敗しない方法”、“被害を最小に押さえる方法”、“リカバーする方法”を学ぶことが大切ですね。世の中に“失敗しない人”なんていないわけですから。
次に“モンスターマザー”ですが、私はこの事件の記憶が全くなく、当時、どれくらいマスコミで騒がれたのかもよく知りません。ですが、このレポートを読む限りでは、金になると分だ弁護士と、取材をしない無責任なルポライターが騒ぎを大きくしていった様がよくわかります。実は、この有名なルポライターさんの本は一度も読んだことがなくて、縁があれば一冊読んでみようかなと思うのですが、ちょっと今は読むべき本が溜まっているので、もう少し後にしようと思っています。
あとは、産業政策の一翼を担うを仕事にしていることもあって、“イノベーションはなぜ途絶えたか”という本は、非常に興味深いものでした。今の政治・社会のシステムが、イノベーションが起きないように設計されていて、それを帰るには、まさに“コペルニクス的な”発想の転換が必要だということがわかります。つまり、このシステムこそイノベーションが必要だということなんですね。道は遠く険しいけれど、これは、親世代の負の遺産を引き継いでしまった私たちの世代の責任かと思います。
読書の秋に入った10月は、前半がとても調子よかったのですが、後半になると一気に失速し、いつも通りのレベルに落ち着きました。特に夜は寝落ちすることが多くなり、自宅での読書が進まなかったことが原因でしょう。
今年も残り2ヶ月。200冊はちょっと難しそうですが、どうでしょうか。
001/133
「ドキュメント 道迷い遭難」羽根田治
雑誌“山と渓谷”に連載され、山行き中に道に迷って遭難し、奇跡の生還をした人たちからの聞き取りをまとめたもの。どこで見つけて、こんな本を図書館で予約しようと思ったのか、今となっては全く思い出せないが、結構人気があるようで、数ヶ月待たされ、ようやく読むことができました。一言で言うと、非常に興味深い内容でした。第三者が、当事者自らが犯した“失敗”について、振り返りながら語るのを聞くと、判断を誤った“時点”“場所”と言うのがはっきりしています。でも、“何故”そんな単純なミスを犯したのか、という段になると、曖昧さが増し、はっきりしません。人間誰しもパニックに陥ると、絶対に犯さないようなミスを犯すんだという実例です。くれぐれも人生に遭難しないように生きていきたいものです。(10/1)
002/134
「悪徳の輪舞曲」中山七里
元殺人犯でありながら少年法に守られ、施設退所後司法試験に合格し、弁護士となった主人公に、かつての家族の弁護が依頼される。100%有罪間違いなしの絶体絶命のピンチの中、独特の論理展開で反撃していく法廷ミステリです。いつもながら心をつかんで離さないスピード感のある展開で、大好きです。なかなかこの主人公のキャラクターは好きにはなれないが、彼の小説はいつも面白い。また図書館で予約していた新作が読めそうなので、楽しみにしています。(10/3)
003/135
「 オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ」小路幸也
増え続ける一方だった登場人物が、ついに一人減ってしまった。大家族の一員でありながら、ある意味周辺に居た人ではあるが、こういった物語にとっては、タブーとされがちな事も、この小説ではしっかり描くんだなと改めて感心いたしました。(10/5)
004/136
「井上ひさしの日本語相談」井上ひさし
およそ30年前の週刊朝日で連載されたコラムをまとめたもの。大野晋、丸谷才一、大岡信、そして井上ひさしというそうそうたる面々が、一般読者から寄せられた日本語に関する相談に答えるという企画で、回答者ごとに1冊の本に纏められて出版されている。彼らしいユーモアに富んだ回答もあるが、“言葉”を大切に扱った作家らしく、多くの相談にまじめに答えている。この本を読んで、“とてもうれしいでした”という表現があることを初めて知りました。(10/7)
005/137
「赤毛のアンナ」真保裕一
読み進めていく内に、以前読んだことがあることを思い出しました。それも比較的最近に、、。逆境に生まれながらも、周囲の人たちに笑顔と優しさを振りまいていた主人公が起こした傷害事件の事を聞いたかつての同級生達が、彼女から受けた恩に報いようと活動をするという物語。胸アツです。(10/7)
006/138
「まる子だった」さくらももこ
先日急逝されたさくらさんのエッセイ集です。彼女自身を主人公として描かれた漫画は、あたかもエッセイのようで、主人公と作者を同一視するように読まれている。この本にも、まるでアニメの原作のような話がたくさん含まれています。あのアニメを通して、山本リンダさんや西城秀樹さんを知った方もたくさんあったそうです。顔に斜線を描いて、あきれた様子を表すというのもこの漫画が先駈けだったと思います。サザエさん同様、作者が亡くなってもアニメは続いていくことと思います。私より、3~4歳年下だったと思いますが、若くて才能がある方が亡くなることは、本当に悲しいものです。心から御冥福をお祈りいたします。(10/8)
007/139
「警視庁捜査ニ課・郷間彩香 特命指揮官」梶永正史
自分の中では外れが多くて、手を出すときは要注意と勝手にレッテルを貼っている“このミステリーがスゴい大賞”の5年前の受賞作品。基本的には新人を対象とした賞なので仕方が無いと思う部分はあるが、設定があまりに荒唐無稽で、現実からはあまりに遠く感じられ、せっかくの魅力的なキャラクターが活かされていないように思われる。“ミステリ=どんでん返し”という固定観念があると、ついつい効果を狙って大仰な舞台を設定しがち。主人公は良かったので、せっかくだから、二、三作は追っかけてみるつもりです。(10/8)
008/140
「徳川がつくった先進国日本」磯田道史
幕末に跋扈したテロリスト達の活躍によって成し遂げられた明治維新後、徹底的に否定された時代ですが、最近ようやく、その際評価が進んでいるように思えます。徳川政権勃興期の武断政治から文治政治、急激な経済成長、自然災害によるしっぺ返し、最後は外圧による崩壊へと4つの大きな出来事を境に、政権のありようが変化していった様子を解りやすく描いています。必ずしも、前半はそれほど急激な変化では亡かったのですが、災害、外圧は十分な準備が整っていない中での出来事であったため、最後の崩壊に繋がっていったのでしょうね。徳川政権時代には260年にわたって平和な時代が続いたと描かれ、その対比でその後の相次ぐ戦争が続く時代との違いを際立たせようとされているのかもしれませんね。この本にも書かれているとおり、当時の経済は米を中心に廻っています。租税もほとんどが米だったことを考えると、その税源の涵養にあまりに無策だったのではないかと思われ、私自身は、そこまで賞賛しようとは思わないのですが。特に、幕府の施政が及ばない独立国である各藩において、その傾向がひどかったように考えています。(10/10)
009/141
今、政府が旗を振っている“地方創生”事業についての“疑義”を糺す良書です。この主張に対しては、必ずしも同意するものではないけれど、普段私たちが業務の中で感じる疑念について、著者なりの答えを提示してくれています。本来、“都市”と“地方”は依存し合いながら存在しているものを、それぞれが“エゴ”を主張し合うようになってしまい、その共存社会が壊れつつある。結果的に、“勝ち組”であるところの“都市”に人口が集中し、“地方”が衰退する。そして“都市化”が人口減少を加速させる。残念ながら、これに対する処方箋は見つかっておらず、考えられる未来は非常に暗い。私たちは、それを押しとどめなければいけない立場であるが、私には名案が浮かばない。(10/13)
010/142
「神話の心理学 現代人の生き方のヒント」河合隼雄
元文化庁長官でもある著者が、世界の様々な神話を題材に、そこで書かれている物語の背景にある、その社会における価値観などについて考察した物。とても興味深い一冊でした。物語と日本人の心シリーズの一冊としてまとめられたもので、他にも興味深いタイトルの物があり、少し読み続けたいと思っている。キリスト教の世界では、神が世界、人類を創造し、その人類が神に禁じられた果実を食べてしまい、楽園を追放される。人類は生まれながらにその罪(=原罪)を抱えて生きている。日本の神話では、混沌の中から神が大地を作り、そこに降臨して人類の祖先となる。私たちが自分の行動の意味を考えるとき、この根本の違いはとても大きいような気がする。どちらが正しいのかと言うことではなく、よって立つ基礎が全く違う人たちと、つきあいながら生きていかなければならないと言うことを理解しながら生きていかなければいけない。つまりそういうことだ。(10/14)
011/143
「おとり捜査官1 触覚」山田正紀
この著者については、漠然とSF作家だよな、と思っていたところ、結構ミステリ小説も書いていて驚いた。この本はそんなミステリの一冊で、警視庁におとり捜査官として採用された主人公が、徐々に周りの信頼を得つつ、事件を解決に導くという物語。原書名が、かなり官能的なタイトルであったこともあって、あまり評価されなかったと言う過去もあったらしいが、ミステリとしてちゃんと成立もしており、しっかりとした力量を持っていることもよく分かる。数冊のシリーズになっているので、次も読んでみよう。(10/14)
012/144
「ハーバード白熱日本史教室」北川智子
元々は理数系の学生でありながら、外国の大学で研究する内に日本史の面白さに目覚め、ついにはハーバード大学で超人気の日本史講座を開催するに至る物語。音楽やエクササイズを交えながら考えるこの授業形態は、アメリカの大学なら許されるだろうが、まず日本の象牙の塔に守られた大学では実現しない講座だろう。そもそも“学ぶ←それを支援する”、“教える→教わる”という風に、学生と教授陣との関わり方も彼我では大きく違うような気がする。こんなことではまずます世界の流れから置いて行かれてしまうよ。(10/14)
013/145
「ウドウロク」有働由美子
今春永年アナウンサーとして務めたNHKを退職した著者が、数年前に描いたエッセイ。退職後、新たに文章を書き加えられた上で、改めて文庫として発行された物。“読まれる”事を意識して書かれてものとは思われるが、かなり思い切った内容で書かれていて、気持ちよい。(10/14)
014/146
「中野のお父さん」北村薫
東京からの帰りの新幹線のお伴として、昔結構好きで読んでいた作家の作本を久しぶりに手にした。仲野にある実家から離れて暮らす主人公が勤務する出版社を舞台に起こる、様々な日常の謎を、その父がわずかなヒントを手がかりに解き明かすという物語。読み手の興味を離さない上手い語り口なのだが、この父の過度な博覧強記ぶりが、却って興をそいでいるように感じるのか気のせいか。ちょっと書きすぎではなかろうか。(10/14)
015/147
私には全く記憶にないのだが、今から10数年前、長野県丸子実業高校のバレー部員が“いじめ”を苦に自殺したとされて事件の真相を求めて書かれた渾身のルポルタージュ。生徒の自殺を受けて、その母親が学校や教師、同級生達を目の敵にし、虚実取り混ぜて執拗なまでに追い詰める様が、恐ろしいまでに読み手に迫りくる。かさに掛かってその母親の暴走を助長するマスコミの姿も浅ましい。また、(ある意味当然かもしれないが)母親の証言(二転三転する)を鵜呑みにして学校側を恫喝した弁護士(結果的に弁護士会から懲戒処分を受けている)、同じく二次資料だけでルポを書く鎌田慧という作家(昔は優秀なルポライターだったはずなのに)。など、登場人物も多士済々。いったん“生徒の自殺=がっいじめの存在=学校の責任”と構造ができあがると、それを修正するのは、本当に難しいことだろう。ここで描かれている母親の姿は、かなり恐ろしい。万が一、このような人のターゲットにされたらと考えただけで、恐怖にすくんでしまう。結構ハードな内容です。(10/14)
016/148
「陽気なギャングは三つ数えろ」伊坂幸太郎
伊坂氏得意のストーリー展開。“陽気なギャングシリーズ”(というのがあるんだろうか?)の最新作、といっても前作から10年近く経っている。一筋縄ではいかない展開で、あちらこちらに伏線がちりばめられており、それらを見事に回収しながら、あっと驚く結末まで一気に駆け抜ける感じ。お見事です。(10/14)
017/149
もう少し面白い本かと期待していたのだが、かなり期待外れ。今では見る影も無くなってしまった企業ではあるが、かつては、とても面白い製品を世に出してきた企業だった。その創業メンバー達が、井深氏と語り合っているのだが、残念ながら、ややもすると過去の自慢話ばかり。後輩達への具体的な激励の言葉が欲しかった。(10/18)
018/150
「連続殺人鬼カエル男ふたたび」中山七里
同名小説の続編です。“心神喪失者の行為は、罰しない”とする刑法39条の規程に正面から取り組むミステリ。この場合の被害者の感情はどこへ向かえば良いのか。非常に悩ましいところ。私がはじめて法律を学んだときも、刑法の最初の講義の中で、投げられた問いだったと記憶している。“罪を憎んで人を憎まず”、“残虐系である死刑の廃止”、“人は更正しうる”。本当に難しい。(10/20)
019/151
「レディ・マドンナ 東京バンドワゴン」小路幸也
シリーズ第7弾。思えばたくさん読んできましたね。登場人物がしっかり年を取って、その年齢なりの悩みを抱きながら生きていく物語であると言うところが良いですね。さて、続きはどうなるのでしょうか。(10/25)
020/152
「星をつなぐ手 桜風堂ものがたり」村山早紀
地方のリアル店舗を舞台に書かれ、2017年本屋大賞第5位となった“桜風堂ものがたり”の続編。だが著者のあとがきによると、もともと2冊分の無いようであったものを、二冊に分けて書籍化した物だそうなので、2冊読んでようやく完読ということか。逆に、これで書ききってしまったので、更なる続編は考えられないと言うことのようである。決まった本を買うのはネットが楽なんだけど、本を選ぶ楽しみはリアル店舗でなければ味わえない。この本を読んで、リアル店舗を応援する人が少しでも増えてくればいいのにね。(10/27)
021/153
「万引き家族」是枝裕和
話題になった映画の原作と言って良いのかな。それともノベライズ物なのだろうか。実は映画を見ていないので、小説を前に読むことが良かったのかどうか解らないだが、まか、このあとで映画を見てもがっかりすることはなかろうと思いながら読みました。(10/27)
022/154
Panasonic、SHARP、SONYなどの例を見るまでも無く、かつての日本はベンチャー企業によるイノベーションが活発で、その経済発展を支えてきた。ところが、いつからかそういったベンチャー企業が育たなくなり、世界の潮流から大きく後れを取っている。その理由はどこになるのか、と言うことに一つの答えを提示する一冊である。まずは企業内での“すぐに金にならない”基礎研究が軽視され、研究所が閉鎖されて、科学者が事業部門に配置されることで、分野を超えた交流の場が無くなってしまった。さらに、行政の側にもベンチャー事業の評価ができる人材がおらず、適正な支援ができていない。誠に耳の痛い話である。本の中でその解決策を提言されてはいるが、現状ではその実現を望むべくもない。イノベーションというのは、科学技術の分野だけに起こるのではなく、本来なら社会科学の分野でもそれは起こりうると思っている。イノベーションの起きない社会は衰退していくしかない。何とかしなければ。(10/31)
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