9月は、計15冊。うち小説が6冊、その他が9冊という内訳でした。まぁ、平均的という感じですが、新書が5冊もありますね。これらはほぼ通勤時に読んでいます。結構順調に読んでいますね。
さて、そんな中でのお薦めの一冊ですが、、
小説では、これだ!という本がなくて、あえて言えば少し古いですが、“紙の月”が面白かったです。彼女の小説は、映像化されて物がたくさんあって、そのどれもが結構評価が高いというのが特徴です。決して映像映えするというような小説ではないのですが、監督の腕の見せ所という部分もあるのかなと思います。
その他の本は、結構面白い本がたくさんありました。
あえて選ぶなら、“AIが人間を殺す日”と言う本が、とても面白かったです。感想の中でも触れていますが、かつてアシモフが考えた“ロボット三原則”と言うものがあって、創作にもかかわらず、何となく皆の前提となっているような気になっています。しかしながら、それは幻想なので、どこかで“ルール(もちろんみんなが守ることが大前提ですが)”を作らないと、とんでもない世界ができあがってしまうような気がします。少し恐ろしい。
続く物としては、“埋もれた都の防災学”は面白かったです。多くの場合災害は同じ場所を繰り返し襲うもので、その間隙には1年から数千年に至るまでの幅があります(歴史的に分かる範囲の話ですが)。古来、政治というのは、治水に代表される防災に係るものが、その多くを占めていました。そして、それは今も変わらないことだと思います。東日本大震災からの復興が望まれるところです。
それ以外にも、“うつわを食らう”、“禅語百選”、“信じてはいけない”などもとても面白かったです。いずれもお薦めですよ。
001//117
今注目の技術、というか機能、システム。なんと言えば良いのでしょうか。いわゆる人工知能というヤツなんですが、世界的に研究が進んでいます。チェス、囲碁などのゲームの世界では、すでに人間の力を上回っていると言われており、あらゆる分野で導入が進んでいます。そんな中で、特に人の命に直結するであろう3分野について、現状と課題について掘り下げて検討されています。ある事象に対してAIがある答えを出したとき、人間側が、その“思考”経路をトレースして、検証できる状態にあれば、なんとなく安心できるのですが、どうやらある段階に達してしまうと、それがブラックボックス化してしまい、なぜその答えが出てきたのか、誰にもその理由が分からないという状況が生まれるようです。“機械”を全面的に信用するのではなく、人間のチェックを必須とするか、或いはヒューマンエラーを排除するため、機械に全面的に委ねるのか。かつてアシモフが考えたロボット三原則に勝るとも劣らない、新たな哲学的問題に直面しています。(9/7)
002/118
「バベル九朔」万城目学
これまでの彼の作品とは一風変わった印象を受けます。現実世界とは、少し違う世界。感覚から言うと、一つか二つ隣の世界であった万城目ワールドが、今作では一気に10個くらい離れた世界と繋がってしまった感じ。どうも、読みながら心の中で風景を描くことが難しくて、たまたま今回のように途切れ途切れに読んでいると、尚更その心象風景を再構築することが難しく、ちょっと苦労しました。(9/7)
003/119
「埋もれた都の防災学 都市と地盤災害の2000年」釜井俊孝
最近の考古学の世界では、前の震災の影響からか、過去の災害の痕跡を研究することにスポットが当たっている感がします。特に東日本大震災で“未曾有”の被害と言われた津波災害ですが、過去同規模の津波が内陸深くまで襲ったのではないかと言われています。この本では、地震だけでなく過去に起こった土砂災害や水害などの痕跡を調査し、災害が起きやすい地形についても言及している。昔、砂防課にいた頃に学び親しんだ“音羽川災害”や“デ・レーケ堰堤”などには、ついついニヤリとしてしまった。(9/9)
004/120
「失われた地図」恩田陸
なんとなく読んでいる分には良かったんだけど、最後までうまく理解できなかった。そういう意味では先日読んだ“バベル九朔”に近いものがあるかも。彼女の描く不思議世界は、うまくはまると、その世界にドップリとはまり込んでしまって面白いのだが、最初にきっちりはまらないと、ちょっと苦労する感じ。私にとっては、後者かな。(9/10)
005/121
「紙の本は、滅びない」福嶋聡
ジュンク堂書店というリアル店舗で、書籍の販売に携わっている方が書かれた本です。なぜか知らないけど、作者にはエラく難解な単語を使おうとする癖があるようで、もう少し優しく書かれて方が良かったのになぁと残念に思います。さて、私も、私の目の黒いうちは紙の本が滅びることはないだろうと考えていますが、未来永劫にかといわれると、さすがに自信がありません。この本の中では大きく一章をさいて、デジタル教科書について書かれています。私も、副教材としてデジタル教材があると、理解の手助けになるかなと思うだが、教科書本体がデジタル化されてしまうことには、一抹の不安があります。書かれている中身は同じでも、デジタルの平面的な画面よりアナログな紙の本の方が、見た目にも“奥行き”があって、思索の深さも深まるような気がします。(9/12)
006/122
「その『つぶやき』は犯罪です 知らないとマズいネットの法律知識」鳥飼重和;監修
SNSを使うことが当たり前になってきて、誰もが陥りやすい誤りについて弁護士の方々が解説した本。書かれたのが3年前なので、今はさらにネット社会は広がっていますし、アプリケーションの機能も(良くなっているか、悪くなっているかは別にして)さらに変化しており、私たちが心ならずも“加害者”や“被害者”になってしまう可能せいが高まっています。でも、おそらくそういうこと気づかなければいけない人たちこそ、こんな本には目もくれないんでしょうね。残念です。(9/13)
007/123
「包丁ざむらい 十時半睡事件帖」白石一郎
この作家のことは全く知りませんでした。時代小説を結構書いてらっしゃるんですね。長崎県壱岐島出身らしくて、海をテーマにした作品をたくさん書いておられるようです。本作は、いったん隠居したものの、請われて総目付として復帰した十時半睡を主人公とする短編集なのだが、事件帳とはいいながら、いわゆる“謎解き”を刷る物語ではなく、浄化で起こった様々な事件を老練に裁いていくという物語。決して謎を探って解決しようという物ではありません。(9/16)
008/124
「『うつわ』を食らう 日本人と食事の文化」神崎宣武
私たちが普通に使っている“食器”について、その歴史などについて詳しく紹介した物で、今から20年ほど前に出版された物を、再び改版して再発行した物。今の仕事の関係もあって、興味を持って読んでみました。この20年の間に大きく変わってしまったことがあって、それが異常に発達したコンビニエンスストアと独居世帯の増加。この二つは日本人の食生活を大きく変えてしまったと考えています。“器”を使わない食生活が、日本人の生活に急激に広まっているような気がします。こういった社会の中で、如何に“器”を使ってもらえるように働きかけるか。とても難しいことです。(9/17)
009/125
「九州大学生体解剖事件 七〇年目の真実」熊野以素
終戦直前にこんなことがあったとは。寡聞にして全く知りませんでした。いわゆる731舞台と同様に、戦時下の狂気といってしまえばそれまでなんですが、よくこんなことができたものだと空恐ろしく感じます。そして、それに増して恐ろしいのが、責任を部下に押しつけて、自らは助かろうとする汚い連中の動き。戦中は強固な権力を握っていたはずの軍部の無責任さ。かつて“中空構造”と揶揄された今も変わらない日本の権力構造がそこにある。(9/17)
010/126
「紙の月」角田光代
数年前に映画化された作品。日常の繰り返しの中で、ふとした弾みでお金に絡む犯罪を犯してしまう女性が主人公。淡々と描かれる日常の風景と犯罪に手を染めてしまう一瞬の対比がとても恐ろしい。映画は残念ながら見ていないのだが、結構面白そうな感じです。そういえば“八日目の蝉”も原作、映画ともに面白かった。(9/18)
011/127
「ひとめぼれ」畠中恵
時は江戸時代、町名主とその見習い、さらには同心見習いの幼なじみ三人が、町内で起こる様々な事件を解決していくシリーズ物。どうも、途中の一冊を飛ばしてしまったような気がするのだが、あまり気にせず読んでみた。この作者のもう一つの“しゃばけ”シリーズが、“妖”が跋扈するSFちっくな物語であるのに対し、そういった“飛び道具”に頼ることなく、読ませてくれるということもあって、気に入っているシリーズである。今作でも主人公達の人生に大きく関わる出来事を大筋としながら、ちりばめられたいろんな事件を解いていく。ところで、途中にとても魅力的な人物が登場するのだが、ひょっとして今後もこのシリーズに登場してくるのだろうか。そうなったらいいな。(9/19)
012/128
前身となった組織を含めるとまもなく発足70年になる自衛隊の最大の活動となった東日本大震災についての記録である。自らも家族も被災者でありながら、ほかの被災者を最終戦に行動する彼らの姿は非常に美しい。特に福島原発事故での活動は、その“源”が見えないだけに、恐怖心たるやいかばかりかと思われる。国内外を問わず、こういった災害が発生すると、訓練された“軍組織”が、その救援や復旧に当たるとことになっている。本当は、両者を切り離して考えるべきだと思うんですけどね。日本のように大災害が毎年発生するような国には、災害救助のための専門組織が必要だと切に思います。(9/24)
013/129
「禅語百選 人生の杖ことば、いのちの言葉」松原泰道
我が家のお寺が曹洞宗ということもあり、“禅”には少なからぬ興味があります。以前からここにもそれに関する本を紹介していましたが、これもその一環。この本は、禅について書かれた書物の中から100の言葉を選び、その解説をする中で禅についての理解を深めようというものです。ただ本当は、“理解する”という態度が禅からは大きく外れています。曹洞宗の開祖である道元が説くとおり“只管打坐”というのが、禅に取り組む唯一の道なのです。之は難しい。(9/24)
014/130
「帰ってきた腕貫探偵」西澤保彦
いわゆる安楽椅子探偵物。自らは捜査することも行動することもなく、与えられたヒントだけで謎を解く。このシリーズの場合、その探偵が、よろず相談窓口である市役所の苦情相談係の出張サービスをする“公務員”というところにおもしろさがある。結構好きで読んでいる。今作では、特に事件を解決すると言うより、本当に日常の困りごとに一つの解を与えるという物語になっており、ついに幽霊までが相談に訪れる。これまでより、若干重く感じてしまうのは気のせいか。(9/29)
015/131
いまやインターネットの世界では、ありとあらゆる情報が乱れ飛んでおり、受け取る側の私たちにも、その情報の真偽を判断し、嘘を拡散しないようにする能力が求められている。ここにある“フェイクニュース”というのは、何らかの意思を持ってでっち上げられた、根拠に乏しいニュースのことを指し、昨年のアメリカ大統領選挙の結果を左右したとも言われている。まぁ、その大統領自身が“フェイクニュース”をばらまいているというのだから、なにをか況んやであるが。真実を見極める能力と自分に都合の良いことだけを信じるのではない謙虚さを大切にしたい。(9/30)