7月は計17冊で、うち小説が9冊、その他が8冊という結果でした。
暑い日が続きましたが、なんとなく数は思ったより多かったかな?
そんな中では、小説以外の本、特に新書に面白い本がたくさんありました。なかでも面白かったのは“漢字と日本人”。かなり前に出た本で、別の本の中で紹介されていたのをが気になって買い求めた物です。同じ新書の“翻訳語成立事情”もとても面白く、気がつくと、いわゆる“言葉”であったり“国語”であるようなテーマの本が今月は多かったですね。
先月のブログで、とても面白い本を読んでいると絶賛していたのが、この“翻訳語成立事情”でした。
もともと、“言葉”には興味があって、いろんな本を読んだが、“日本語を漢字で表すことの不自然さ”については、全く気がつかなかった。考えてみれば当たり前のことだが、“漢字”がこの国に到来する前から、この国には話されている言葉があって、たまたまその言葉を書き表す文字を持っていなかっただけ。そのため、この“外来の文字”を使って“日本語”を表記するために、いろいろな工夫をする。とにかく面白い一冊です。
小説では、すでに評価されたベストセラーも良かったですが、諸田玲子さんの時代小説も意外と良かったです。もう少し読んでみようかなと思わせてくれました。
さて、7月は比較的読書も進んだのですが、8月に入って暑さがさらに増し、若干読書は低調気味で、先月の半分にも届かないのではないでしょうか。少し的を絞って、興味を引きそうな本を中心に読んでいこうかなと思います。
001/086
「阿蘭陀西鶴」朝井まかて
最近文庫化された一冊。お気に入りの作家なので、早速買ってみた。主人公はご存じ井原西鶴、彼の娘の語りで話は進む。この娘は実在する人物で、目が不自由であったらしいが、この本に描かれているような人であったか否かは定かではない。破天荒に見えながら、人一倍この娘をかわいがっていた西鶴の姿が垣間見えて微笑ましい。目が見えていない人の心象を推し量りながら見事に描かれている。と思う。(7/1)
002/087
「燃える闘魂」稲盛和夫
プロレスラーが書いた本ではなく、経営の神様が書かれた本である。経営破綻した日本航空の経営再建を成し遂げた後に書かれた本で、著者が考える企業経営においては、“燃える闘魂”こそが最も重要と説いている。とは言いながら、単なる精神論ではなく、それ以前にリーダーとして、自分と他者を冷静に観察し、目標を確と定めたなら、その目標に向かって不屈の闘志を持って臨まなければならないと説いている。(7/1)
003/088
「はじめてわかる国語」清水義範
著者が、学校で習う教科について著した随筆シリーズの一冊。著者自身が国語の教員免許を持っているということもあって、かなり完成度の高い一冊である。思えば、彼の小説を初めて読んだのは、“国語入試問題必勝法”だった。風刺の効いた内容にしびれた記憶がある。さて、私にとっても“国語”という教科は、非常に不思議な教科で、勉強の仕方というのが全くわからず、唯一の勉強法というのは、本を読むことかなぁ、と単純に思っていた。そういえば、昔は批判的に読むことは許されなかったよな。それが許されるようになったのは、大学に入ってからだったろうか。その頃から、ノンフィクション物が読めるようになった気がする。おかげで読書の幅が広がりました。(7/2)
004/089
「手のひらの京」綿矢りさ
昨年出版されて、綿矢版細雪として話題になった一冊。たまたま図書館で見つけて借りることができた。期待に違わぬ面白さで、とても満足度の高い小説だった。主人公は代々京都市内に住む一家の三姉妹で、それぞれが全く違うキャラクターに描かれており、それぞれが非常に魅力的である。みんなが悩みながらも溌剌と活きており、休むことなく最後までぐいぐい読まされていく。最後の一章は衝撃的で、この先どうなるのかと気を持たせて終わることも心憎い。ところで、読み終わってから、ふと思ったのだが、この“手のひら”って、誰の手のひらなんだろう。(7/2)
005/090
ありがたいことに、今の私が働いている部署にいると、ここに書かれているようなことにとても身近に接することができます。規模の拡大を追いかけない。人のまねをしない。目先の利益を追いかけない。ほんまに京都ちぅところは、難しいところですわ。と京都にいても思います。でも、少しわかってくると、どこに地雷があるかなんとなく分かってきます。面白いところです。(7/8)
006/091
「さらば愛しき魔法使い」東川篤哉
シリーズ物なんですが、最初の頃に比べて面白みがなくなってきたなと思っていたところ、ひょっとして“さらば”なのかな?作者得意の軽めのコミックミステリなんですが、最初に犯人が分かっている倒叙式のミステリというとても面白い形。かなり無理矢理感があって、しんどいなと思ってしまった。(7/9)
007/092
「翻訳語成立事情」柳父章
これは、おもしろい。明治維新前後から西欧諸国との交流が活発化し、新しい言葉が押し寄せてきた。それは言葉だけでなく、その言葉が含んでいる概念もセットで伝わってきたのだが、その概念に相当する日本語が存在せず、相当に苦労しながら、新たな言葉を当てはめていったようである。この本の中では、“社会”“個人”“美”といったような言葉もあげられており、その言葉に落ち着くまでの様々な言葉が紹介されている。面白いのは、それまでになかった概念を含む言葉に、漢字を当てはめたことによって、その漢字が持つ概念が、逆に元の言葉の概念を理解するにミスリードをしてしまう傾向が見られるという指摘である。考えてみれば、漢字が日本に入ってきたときにも、従来の大和言葉と外来の漢字とを相応させる作業をやっていたわけで、固有の文字を持たない日本は、同じようなことを繰り返してきたのだなと改めて思う。(7/9)
008/093
「夢十夜」夏目漱石
急にふと読みたくなって、読みました。かなり寓意に満ちた作品群で、すぐに読めるところも嬉しい。彼にしてはとても珍しいタイプの小説で、なぜこんな物を書こうと思ったのか。その動機が気になるところである。(7/11)
009/094
「巷説百物語」京極夏彦
人気シリーズの第一作。読みながら気になったのだが、ひょっとして前に読んだことがあるかも?でもなんとなく楽しめたので、最後まで読みました。(7/16)
010/095
「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」河合雅司
最近百年後の日本を想定し、京都の伝統産業政策はどうあるべきかを考えるための材料として読んでみた。現在に比べて、人口は確実に減少するし、今消費の中心にある“豊かな高齢者”も確実に減少していることだろう。その中で、限りある生産年齢に属すると言われる人たちが、どの分野の産業に従事してもらっていることが、日本の未来にとって望ましいことなのか。そんなことを頭の中でぐるぐると考えてしまった。まぁ、こういった書物の常として、解決策は提示されていないので、だからどうなんだという突っ込みどころが満載です。(7/17)
011/096
「翼がなくても」中山七里
途中で結末は想像ついてしまい、著者渾身のトリックなのかもしれませんが、かなり無理がある筋書きだと思われます。怒濤のようにたたみかけるいつもの調子ではなく、最後まで比較的タンタンとする進み、この著者にとっては、やや珍しいタイプの小説です。つまり、ちょっと期待外れでした。(7/17)
012/097
「異才、発見! -枠を飛び出す子どもたち」伊藤史織
発達障害などの子供たちを対象にした東京大学先端科学技術研究センターの“異才発見プロジェクト”についてのルポルタージュ。この本を読む限りにおいては、なかなかに進んだプロジェクトのようなのだが、これだけの手間暇をかけても、対象にできるのは20名程度の子供たちだけ。今本当に重要であるはずの未来への投資である教育への政策、投資があまりにも貧困ではないか。(7/18)
013/098
「サンタクロースのせいにしよう」若竹七海
かなり初期の頃の彼女の連作短編集。ちょっと斜に構えた感じの魅力的な主人公が活躍するあたりは著者の本領発揮である。大きな犯罪ではない、日常に潜む小さな謎を解くミステリって面白いですね。好きです。(7/19)
014/099
「ぐるぐる問答 森見登見彦氏対談集」森見登見彦
京都を舞台にした小説を多数世に送り出している著者の対談集。いろいろ興味深い人たちと話し合うのだが、同じ京都大学出身で、京都を舞台にした小説を書く万城目学氏との対談が興味深かった。先月、テレビの対談でも二人を交えた鼎談があって、そのとき、とても面白く視ていたのだが、二人の物書きへの考え方、取り組み方の違いが垣間見えて、秀逸である。こういう本の出し方もあるんだね、という別の驚きも。(7/24)
015/100
「か「」く「」し「」ご「」と「」」住野よる
ベストセラーになった“君の膵臓を食べたい”を書いた著者の小説。非常に特徴的で独特の語り口の小説で、内容もとても面白い。それぞれの登場人物の特性が際立っていて、常にお互いがお互いを思いやっている彼ら彼女らの振るまいが、とても爽やか。へたしたら際物扱いになりかねないような素材、設定でありながらも、素晴らしい青春小説に仕上がっており、なかなかやるなぁ、とうなってしまう一冊。(7/25)
016/101
「漢字と日本人」高島俊男
こいつは面白い。別の本を読んでいた中で紹介されていた物で、今から17年前に出版され、当時ベストセラーにもなったらしい。何年ながら当時は全く知らなかったのだが、そんな事情で、今手にして読んでみた。もともと文字を持たない国であった日本が、海外から移入された文字“漢字”を使って、当時の大和言葉を書き表すようになり、それがために今もなお、ある種の無理が生じている。とにかく面白い一冊。別に漢字マニアでなくても十分に楽しめます。(7/26)
017/102
「狸穴あいあい坂」諸田玲子
彼女の本は初めて手にする。どんなもんかなと思って手に取ってみた。時代物の小説が結構好きで、いろいろと手を出しているのだが、この本も結構面白い本だった。ある種の謎解き物なのだが、火盗改めの孫娘が主人公で、町方同心との恋物語が横軸となって、なかなかうまい話に仕上がっている。この小説は何冊かシリーズ化されているようで、機会があれば続きを読んでみよう。(7/29)