5月は13冊で、小説が8冊、その他が5冊という成績でした。
結構読みづらい本が多くて、一冊読み切るのに時間がかかってしまったことと、平日の夜はほとんど読書の時間がとれず、若干低調な結果となりました。
まず小説では、住野よる、朝井まかて、恩田陸さんの3冊が面白かったです。
住野さんは、独特の表現で物語を展開されるのですが、この作品でも一人の少女の成長を通して、とても不思議な物語に仕上がっています。へたすると、一気に読んでしまいそうになります。
浅井さんについては、実力派の時代小説家として最近とても注目しています。どの本もとても面白いです。今作の主人公は、ずっと耐えるだけではなく、物言う女性として描かれているのが、従来の作品とは少し違っています。
恩田さんの作品は、直木賞受賞後の第一作だそうで、期待して読みました。登場人物はたくさんいるのですが、そのうち“ヒト”であるのは一人だけで、後はロボットとゾンビという不思議な小説。その唯一の人間が、とても平凡な人物として登場するのだが、実は特殊能力を発揮するのではないか。わくわくしながら読める本です。
その他の本は、いずれも手こずりました。とても時間がかかった。いずれも悪い本ではなかったけれど、あえてお薦めするほどではないかな。
6月は5月と違い、もう少し本を読む時間が確保できるのではないかと期待しています。
今読んでいる本も、結構面白いです。来月の感想文にご期待ください。
001/060
「今さら翼といわれても」米澤穂信
なつかしい“古典部シリーズ”の最新作。おそらくしばらく出ていなかったと思うのだが、本作も過去散発的に発表された小篇をまとめたもの。もともと理屈っぽい登場人物の集まりなのだが、それにしても今作は特にそれが鼻につく感じになってきた。昔のようにもう少しおおらかさのある登場人物にしてくれないだろうか。(5/3)
002/061
「セイレーンの懺悔」中山七里
セイレーンというのは、船乗りを音や歌で惑わせ、難破や遭難に陥れる怪物で。“サイレン”の語源でもある。この作品では、立法、行政、司法に続く4番目の権力と呼ばれている“報道”に携わる者が、“誤報”により無実の人間を社会的に葬ってしまうことをこの怪物に擬えている。最後に“懺悔”と続くことから、そのマスコミの側からの“懺悔”が語られる。まぁ、よく出来たお話にはなっています。(5/6)
003/062
憲法施行70周年に絡めて読んだわけではなく、たまたま目について借りてきた物。特に最近は憲法改正に向けた目標年次が明らかにされるなど、非常にホットな話題となっている。この本では、いわゆる“護憲”的立場を明らかにしている人たちについて、著者がその活動・言動をまとめている。本当なら彼らの肉声が書き留められていれば良かったのになと思うのだが、それが残念。私自身の個人的な考えを明らかにする気はないが、全国民がしっかり理解した上で、物事が進むことを望みたい。(5/13)
004/063
「新版 学問の暴力 アイヌ墓地はなぜあばかれたのか」植木哲也
明治維新前に欧米から日本に駐在していた外交官が、北海道にあるアイヌ人の墓地を暴き、母国に持ち帰るという暴挙からこの本の記述が始まる。実は、学術目的でアイヌ時の墓地が暴かれたのは、これが最後ではなく、その後も昭和30年代まで続けられ、しかもその主体は外国人ではなく、日本人であった。読めば読むほど現在まで続くアイヌへの不当な扱いに怒りがこみ上げてくるような内容で、私たちも深く反省する必要があるのではないか。この世に“権力”と言われる物は多数あるが、“象牙の塔”に潜む“権威に眩まされた暴力”というヤツもやっかいな物である。(5/13)
005/064
「恋のゴンドラ」東野圭吾
彼にはホントに珍しい恋愛小説です。とはいえ一筋縄ではいかない作品ばかりが収められた連作の短編小説集である。基本、舞台は架空のスキー場で、そこで繰り広げられるグループの恋愛模様が描かれている。とは言いながらミステリの名手が作るとこんな風になってしまう。それぞれの物語の最後に見事などんでん返しが用意されている。これはこれで楽しめる。(5/14)
006/065
「また、同じ夢を見ていた」住野よる
“きみの膵臓を食べたい”で世に出た作者の二作目に当たるのかな。最後にあっというような結末が用意されているのだが、それは置いといて。物語には、いろいろなキャラクターを持った人物が登場してきます(正確にはそうではないのですが、、)。主人公の少女が、そういった人たちとふれあうことで徐々に成長していく様が描かれます。読んでいる途中でひょっとしてこれは、とあることに気づいてしまうのですが、そうなるとこれはいったいどこへたどり着くのかという興味が、次のページを読みたいという欲求が駆り立てられます。なかなかお見事です。(5/14)
007/066
「つやつや、ごはん」赤瀬川原平ほか
ごはん、特に白ごはんに関する様々な方のエッセイを集めた物。鍋などでごはんを炊く人の話。うまい米の話。などなど白ごはんに対する作者のこだわりが伝わる文章ばかり。(5/17)
008/067
「銀の猫」朝井まかて
本当にこんな職業があったのかどうか知らないが、江戸時代の派遣介護人の話。当時は今と違って子供の死亡率が高かったので、平均寿命というのは短かったようであるが、いったん成人すると、結構長生きできたようで、そうなるといわゆる“介護”を必要とする人は結構あったのかもしれない。いずれにしても、設定も練られていて、彼女の小説はいつも面白い。(5/20)
009/068
「デトロイト美術館の奇跡」原田マハ
事実に基づいた小説と言うことだが、どこまでが事実なんだろうか?そういえば、自動車産業の斜陽化とともにデトロイト市が財政破綻してしまったことはよく知られていることで、館が所有する美術品も売却が検討されたと言うのは事実であったのかもしれない。それがどうやって回避されたのか。(5/21)
010/069
「誰かが足りない」宮下奈都
誰もが知っている有名なレストラン“ハライ”を巡って、様々な人間模様が描かれる。ところが、最後の一章までそのレストランの店内の風景は出てこない。いろいろな問題を抱えた訳ありのお客さんたちが、何かを変えるきっかけとするためにこの店に集う。ところで、いったい“誰”が足りないのだろう?(5/21)
011/070
「風土記の世界」三浦佑之
日本書紀、万葉集と並び古代を代表する書物の一つであるが、そのほとんどが残っていないという幻の書物である風土記。もし残されていれば当時の社会風俗を知る貴重な資料となったはずなのに、とても残念である。また現存するものについても、それぞれ全く違う人物が書いているので、構成も文体も全く違う。なぜ、こんなに残っていないのだろうか?ひょっとして、ほとんど書かれていなかったのではなかろうか。(5/28)
012/071
「錆びた太陽」恩田陸
直木賞、本屋大賞のダブル受賞と言うこともあって、最近彼女の本をよく読んでいる。若い頃は、特に理由もなく女性が書いた小説ってほとんど手にしなかったのであるが、最近ではむしろ女性作家のほうに気になる作家が多くなった。この作品は、日本の中央部が放射能で汚染されてしまった近未来を舞台に、復興作業に携わるロボットとゾンビ集団、さらになぜかそこに紛れ込んだ国税庁の女性職員を巡って事件が起きる。なかなか軽いタッチで描かれていて、とても面白い。分厚さを感じない。(5/28)
013/072
東日本大震災で大きな被害を被った福島県の地方紙である福島民友新聞は、大ピンチに見舞われながらも、途絶えることなく新聞を出し続けた。その舞台裏を綿密な取材を元に著した物。その中で、一人の将来を嘱望されていた記者が津波にのみ込まれてしまったことを知る。記者たちの取材本能が、自らを危地に向かわせる。それは止めようとしても止められないのね。(5/29)