4月は15冊。小説が10冊で、それ以外が5冊という結果でした。
小説は、出版からは少し日がたっていますが、ずっと読みたくて図書館に予約していた物が一気に届いて、かなり充実したラインナップだと思います。
宮部さんの百物語は、いつ読んでも絶対に期待を裏切ることのない安心の出来です。是非是非このままずっと続けていって欲しい。
“夜行”“罪の声”“みかづき”は、それぞれ各賞にノミネートされたこともあって、とても楽しみにしていました。いずれも噂通りの面白さでした。
森見さんの描く世界は独特で、今作ではどちらが表なのか裏なのか。主人公がいるのは実世界か虚構の世界か。最後まで不思議ワールドに囚われたままでした。面白かった。
グリコ森永事件を扱った“罪の声”は、こういう視点があったのかと目を覚まされたような気がします。全く別の二つの方向からのアプローチがぶつかり、一つに収束していく。現実はこうはいかないだろうけど、ある種のハッピーエンドなのかな。元新聞記者らしい描き方だとも思います。面白かったです。
森さんの本は今回初めて読みました。長いスパンの物語ですが、一気に読めてしまう面白さでした。評価が高いのも頷けます。
小説以外では、ブルーバックスシリーズの二冊が秀逸でした。
まず、欧米人との比較で“日本人の体質”をテーマにした一冊。世間の健康オタクの皆さんに是非とも読んで欲しいです。とても面白かった。
もう一冊は“日本海”の本。子供の頃からなじみの深いこの海が、地球規模で見ても非常に特殊な海洋であることを初めて知ることが出来ました。とても面白かったです。
001/045
「欧米人とはこんなに違った日本人の『体質』」奥田昌子
最近はやりの“糖質オフ”“炭水化物抜き”などといった健康法について、西欧人との体質の違いを示しながら、必ずしも日本人には、そのまま当てはまらないのではないかということを提言している。ガンや生活習慣病などの実例と科学的なデータを示しながら、現在常識と思われていることが、必ずしも疑いのない事実というわけではないことを立証している。とても面白いです。(4/5)
002/046
「三鬼 三島屋変調百物語四之続」宮部みゆき
彼女がライフワークと呼ぶ連作小説集。おどろおどろしい話やら、異界の者たちが出てきたりといった不思議な話が続くのだが、全てが当事者である語り手の口を通して文字にされるという設定。この設定も主人公となる聞き手である人物も魅力的で、是非ともこの調子で百作まで続けてほしい。(4/8)
003/047
「メビウスファクトリー」三崎亜記
町を挙げて“ある物”を作っている企業城下町が舞台。外部からの異物をなかなか受け入れない排他的な空気の中、順応できる者とできない者、疑問を持ち始める者などが交錯し、破綻に向かって進んでいく。これはいったい、誰が何のために誰をだましているのか。不思議が続く三崎ワールド。(4/8)
004/048
「GEEKSTER 秋葉原署捜査一係九重祐子」大倉崇裕
GEEKというのは“オタク”のことらしい。かなりバイオレンスな物語。まぁつまらなくはなかったけど、わざわざ読むほどのことはなかったかな。(4/8)
005/049
東日本大震災で壊滅的な被害を受けた日本製紙石巻工場の震災当日の状況やその後の復興までの道のりをたどったルポルタージュ。この工場で国内で出版される書籍の“紙”の多くを製造しているというのは、当然のことながら全く知らなかった。取材日数に制限があったのかもしれないけれど、内容的には少し薄っぺらいかなという感じ。さらに途中に唐突に挟まれる居酒屋のエピソードは必要だったのだろうか。(4/9)
006/050
「ビジネスエリートの新論語」司馬遼太郎
司馬遼太郎が新聞記者だった頃に紙上に連載していたコラムをまとめたもので、まだ司馬の名前は名乗っていない。内容的には、古今東西の格言箴言を集め、世のサラリーマン向けに編集した物。戦後凡そ10年がたった頃の世相を反映しており、すでに新人サラリーマンの“新人類ぶり”が描かれている。その後、彼らが何故にモーレツサラリーマンに変身してしまったのか、不思議だ。(4/10)
007/051
「壁の男」貫井徳郎
町中の家の外壁に稚拙な絵を書き続けている男性が主人公で、彼の記事を書こうと取材を進めるフリーライターが物語を進めるのかと思いきや、主人公にまつわる意外なドラマが淡々と語られる。途中までは、何なんだこれは、という感じで進むが、最後の2ページでは涙腺が緩んでしまう。(4/15)
008/052
「夜行」森見登美彦
今年の各賞の候補作にもなっており、とても楽しみにしながら読んだ。期待を裏切らない面白さ。“夜行”というタイトルのとおり、“夜”“闇”がずっと描かれて、不思議な出来事が次々と語られる。物語を追っていくと次々と人も消えていくのだが、なぜか現実ではそうなっていない。そして最後のどんでん返し。いったいどれが現実なのか。とても不思議な森見ワールドである。(4/15)
009/053
「慈雨」柚月裕子
ある種の警察小説なのだが、今作では謎解きよりも、定年退職した刑事の心の葛藤が大きなテーマとなっている。前に読んだ“壁の男”と似たエピソードが現れて、ちょっとびっくり。話の展開は、なんとなく読めてしまうのだけれど、登場人物の性格が上手く描かれていて、主人公の心の動きなどを想像しながらも、どんどん読み進んでしまう。面白かったです。(4/15)
010/054
「人質の朗読会」小川洋子
海外のある場所で、テロリストに人質に取られてしまった日本人グループが、日々を過ごす間に、各人が順番に創作のお話を語り合ったという設定。室内の状況を探るため、秘密裏に設置した盗聴器の記録を文字に起こした物とされている。話の内容は様々で、過去の体験(?)を元にしたお話が続き、最後にその人の現在の職業と、事件に巻き込まれた理由が付記されている。変わった設定で、面白いかなと思ったんだけど、それほどでも。。。(4/16)
011/055
「ビジネスZEN入門」松山大耕
世界のビジネスマンの中で密かにブームになっているといわれている“禅”について、わかりやすく書かれた物。筆者は英語も達者で、東大農学部出身という変わり種。自坊は、妙心寺の中でも花の寺として有名で、しだれ桜の時期には、できるだけ訪れることにしてます。この本の中では、禅とビジネスという一見相反するものに見えるところ、真髄では繋がる部分があると説かれていて、ジョブズを始め、世界のビジネスマンが禅に魅せられた理由がなんとなくわかる気がします。とはいえ禅は実行することにこそ意味があり、本を読むだけではどうにもならないのだ。(4/19)
012/056
「罪の声」塩田武士
関西人には、昭和の迷宮入り大事件の一つとして強く印象に残っている“グリコ・森永事件”を題材にした大作。これまでに謎解きに関する書物は多く書かれているが、この作品は、この事件で強く印象に残っている子供の声お使った脅迫電話にスポットを当て、利用されたあの子供たちのその後を追いかける形で、物語が進んでいく。元新聞記者らしく、記者の理想像のような人物が謎を解き明かしていくのは、まぁご愛敬でしょうか。着眼点が良かったと思います。(4/22)
013/057
「ふたつのしるし」宮下奈都
最近好んで彼女の本を読んでいます。この作品は、全く違う環境に育った二人の男女が、たった一度の邂逅をきっかけに、家族となっていく物語。物語は、数年おきにそれぞれに起こったエピソードを描き、最後の2章で一気にまとめ上げる。特に最終章は、前章から10年後の世界が描かれており、これまでのばらばらで長かった物語が収束していく。お見事です。(4/23)
014/058
「日本海 その深層で起こっていること」蒲生俊敬
昨年出版された新書で、早く読みたいと思っていたところ、本屋になかなかなくて、ようやく手に入れて読むことができた。本書によると、私にとってもとてもなじみの深い“日本海”という海は、とても特殊な海で、その現状を知ることは、世界の海洋の未来を占う参考になるようである。その日本海い最近小さな異変が生じているようで、目が離せないところである。(4/23)
015/059
「みかづき」森絵都
本屋大賞の第二位になったそうで。本の帯には「三代にわたる」「塾経営」という文字が躍っていて、どんな話だろうと楽しみにしながら読みました。結構分厚い本なので、どうかなと不安もあったのですが、最後までとても面白く読み通せました。「三代」とは、どの組み合わせなのかと考えながら読んでいると、どんどん予想が裏切られ、最後はそんなことどうでも良くなってしまいました。なかなかの感動巨編です。(4/29)