今年も猛暑に襲われた8月の読書歴は20冊。小説が13冊、それ以外が7冊という結果になりました。
例年、暑い時期は読書が進まず、時に休日も暑さに負け、ごろごろしながらビデオを見ているか、エアコンをかけて昼寝をしているかという感じだったのですが、今年は7月から8月にかけて、何度か文庫を2、3冊片手に遠出をしたこともあって、結構量も多かったように思います。
そんな中での今月お薦めの一冊ですが、今月は大倉崇裕さんの本が4冊もあって、自分でも驚いています。ライトな感じで結構好きなのですが、“いきもの係”シリーズは、サブの元捜査一課の刑事のキャラが魅力的で楽しく、ついつい進んでしまいました。
また、ヘビーなミステリでは、“狐狼の血”は、とてもおもしろかったです。特に昨年の“このミスベスト10“の上位2作が、も一つだったので、好印象になりました。ただちょっとハードなので、ご注意を。
もう一作あげると、“本日は、お日柄もよく”がとても良かった。彼女の作品は、当たり外れがあるような気がして、なかなか手も伸びなかったのですが、書店で大きく展開されていたこともあって、買ってみました。ある種のお仕事小説なのですが、主人公の成長する様が感動的でもあります。
さて、その他の本に目を向けると、ちょっと難解な本にも手を伸ばしてしまい、若干瞑想気味かなと自分自身も思っています。
そんな中では、話題になった本と言うことで、“USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?”を読んでみたのですが、想像していた以上におもしろい本でした。単なる成功譚のたぐいかなと思っていたのですが、そこはしっかり数理的な手法でマーケティングをし、実績を上げたプロセスが簡略に描かれています。この後、同じ著者によるマーケティングに関する書籍が出版されており、まだ読んではいませんが、企業関係者の方には、それらも参考になるんだろうなと思います。
そしてさらに“散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道”は、お薦めしたい一冊です。書籍自体は、少し前に出版されていて、大宅壮一ノンフィクション賞も受賞した作品なのですが、不幸にして最近までその存在を知らず、たまたま書店で見かけて購入したにもかかわらず、数ヶ月放置していたのが悔やまれるくらい良い本でした。
いずれもお薦めです。
(001/111)
「ペンギンを愛した容疑者 警視庁総務部動植物管理係」大倉崇裕
8月のスタートは、またまた新たなキャラクターによるライトミステリです。先月にもご紹介しましたが、この作者のミステリは最近結構お気に入りで、見つける度に読んでいるのですが、このシリーズの存在は知りませんでした。警視庁総務課に、捜査とは別に動植物を扱う部署(いきものががり)ができ、捜査一課出身の警部補と生き物おたくの女性新人巡査が、生きものを手がかりに事件を解決するという連作短編集。今作はその3冊目となっております。超いきものオタクの主人公の天然ぶりが魅力的で、ついつい前の2作を探し求めています。(8/3)
(002/112)
「水鏡推理Ⅲ パレイドリア・フェイス」松岡圭祐
人気シリーズの第3弾です。主人公は文部科学省の研究費不正使用調査のタスクフォースに配属された女性事務官。持ち前の正義感と推理能力で、権威に立ち向かっていくという、ある意味スカッとするタイプの物語です。今回は、地磁気逆転の新証拠発見や謎の人面塚の謎に臨みます。夏の暑い時期、頭を悩ませるような難しい本を避けて、すっきりしたいときにはお薦めです。(8/6)
(003/113)
「ヒーロー!」白岩玄
“のぶたをプロデュース”でデビューした作者の最新作。舞台は、とある高等学校、主人公達が校内での“いじめ”をなくすため、驚くような奇策を実行する。それはそれで、効果を上げたように見えるのだが、その過程で、主人公の女子高生が取り返しのつかない大事な物を失ってしまう。最後に彼女は、失った物を取り戻すために、大きな一歩踏み出す。主人公の女子高生の心裡がとても詳細に描かれている。ただ、今の人たちの特徴なのだろうか、私にはとても断片的に見えてしまう。その断片と断片を繋ぐ物が見えてこないのは年を取りすぎたせいだろうか。(8/7)
(003/113)
「科学という考え方 アインシュタインの宇宙」酒井邦嘉
改めて、自分の理系的センスのなさに愕然とする。きっととても易しく書かれているはずなのに、ほとんど理解不能。本書では、アインシュタインや彼以降の宇宙論について、解説がされている。導入部分で取り上げられているケプラーやニュートンぐらいまでは、何とかついて行けたのだが、途中からはさっぱり。文字として書かれていることが、全くイメージできない。参った。(8/10)
(004/114)
「幸せになる勇気 自己啓発の源流『アドラー』の教えⅡ」岸見一郎 古賀史健
ベストセラーになっている“嫌われる勇気”に続くアドラー心理学入門編の第二弾。前著によって、アドラー心理学も一気にメジャーになり、改めて世に知られるようになったことは衆知のとおり。本書では“尊敬”と“愛”について、多くのページを割いて述べられている。アドラーの言うところの“愛する”“幸せになる”ためには、大変な勇気が必要である。自分にそのための覚悟はあるか。自信がない。(8/11)
(005/115)
「狐狼の血」柚月裕子
昨年2015年の“このミスベスト10”の第3位にランクインした作品。正直言って、これより上位の2作品も読んだけど、こちらの方が私にはおもしろかった。この著者も当たりの少ない“このミス大賞”の受賞者にあって、数少ない“当たり作家”で、出版されると必ず手に取りたくなる。本作は、彼女にとってはとても珍しい警察物で、しかも暴力団担当の刑事を主人公にした荒っぽいストーリーで、広島弁の台詞回しも荒々しい。意外な結末もミステリらしくて良い。(8/11)
(006/116)
「小鳥を愛した容疑者」大倉崇裕
最近知ったお気に入りシリーズで、これがその第一作。警視庁“生きもの係”の最初の事件が描かれている。軽いタッチで、なおかつ女性が主人公。設定もそれほど複雑ではないので、テレビドラマにも向いていると思うのだがどうだろう。映像化するなら、主役のコンビは誰が良いか?などと妄想をふくらませながら読んでもおもしろい。(8/13)
(007/117)
「自覚 隠蔽捜査5.5」今野敏
しまった、これは前に読んだことがある、と気がついたのは半ばまで読んだ頃。人気シリーズの番外編で、小数点が付いている。最近シリーズ6が出版されたこともあり、つい目について、図書館で借りたのだが、大失敗。まぁ、おもしろいからそれでも良いかな。(8/13)
(008/118)
「蜂に魅かれた容疑者 警視庁総務課動植物管理係」大倉崇裕
前述のお気に入りシリーズ第二弾。これまで読んだ二冊と違い、今作は長編ミステリとなっている。カルト教団が絡んだり、警察官の狙撃事件や“生物兵器”を使ったテロが企まれたりと、かつての大事件を彷彿させるところ。最後には思わぬどんでん返しが。(8/13)
(009/119)
一時は存続すら危ぶまれたアミューズメントパークを、奇跡のV時回復に導いた仕掛け人が書いた軌跡。前職はP&Gのマーケティング担当者であったものが、転職して今の職に移ってきた。アミューズメントの世界を、勘や経験だけでなく、数学的なマーケティングで分析し、成功に導く手腕はお見事である。この本が単なる成功譚ではなく、ビジネス書として高評価を得ている理由がよくわかる。我々のような公的サービスの分野ではどうすればよいのかと考えながら読んでいました。
(8/15)
(010/120)
いつもの千里眼シリーズ。今作では、ヒロインである“岬美由紀”の想像を絶する隠された過去が明らかになる。物語としては、上下巻に分かれているくらいに盛りだくさんで、大きく2つの物語が絡み合いながら、進んでいく。いつも以上に破天荒な展開なので、どうしたんだろうと思っていたところ、それはもう一つの物語の伏線でした。(8/21)
(011/121)
「悪意の心理学 悪口、嘘、ヘイト・スピーチ」岡本真一郎
つい口をついて出てしまう嘘、失言。その裏に隠れている心理。人は正直に生きなければいけないと教えられてきたところだが、一生の間に一度も嘘をつかずに生きてきた人はいない。しかしながら、その態様は様々で、一概にすべてが“悪い(というのも相対的なものだが)”ということもできない。人を傷つけないためにつく嘘や自分の誇りを守るための嘘などは、それほど目くじらを立てることもないのでは。ただヘイト・スピーチ、暴言、誹謗中傷などは許されるものではない。彼らはなぜそんな言葉を選んでしまうのか。今、そういった暴力的な言葉のほとんどは、ネットの世界の中で匿名者によって発せられ、エスカレートしていく傾向にある。卑怯と言うことは簡単だが、もう一度問う、彼らはなぜそんな言葉を選んでしまうのか。その真相を知りたい。ある種の破滅志向なのか。(8/23)
(012/122)
「経営者とは 稲盛和夫とその門下生たち」日経トップリーダー編
稲盛氏の講演録などと彼の経営を学ぶ“盛和塾”生達へのインタビューから構成される。稲盛氏の著作や講演録は世に多く出版されているが、その“弟子”“信者”達の言葉を集めた物は珍しい。彼が世の企業経営者、特に中小企業の経営者達に向ける視線はとても優しい。彼の考え方が、すべからく正しいとは言えないと思うが、彼の言葉は多くの人を惹きつける。それは、彼の語る言葉が“経営指南”ではなく“生き方指南”であるからだろう。(8/23)
(013/123)
「散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道」梯久美子
数年前の出版で、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞する秀作である。かなり前に買ったまま読まずにいた物を、電車のお供に読み始めたところ、あまりのおもしろさに一気に通読。太平洋戦争における日本軍の過ちについては、いろいろなところで分析もされており、詳しい著書も出版されている。それらの中でも触れられているかもしれないのだが、有数の激戦地となった硫黄島の戦いについて、これほど詳細に書かれた物は初めて読んだ。近年日米双方の視点で描かれた映画が公開されるなど、注目もされてきたところ。この戦争の最大の誤りは“戦争を始めてしまったこと”であることは間違いがない。多くに人はそのことに気がついていたはず。しかしながら誰もそれを止められなかった。そしてそれからも相変わらず同じ過ちを何度も何度も繰り返す。性懲りもなく。(8/24)
(014/124)
「万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの<叫び>」松岡圭祐
人気シリーズの最終巻。近年の彼の著作に登場するキャラクターが総出演(ただし顔見せだけの端役だけど)。予定どおりのハッピーエンドでほっとする。どうやら今後は、あるキャラクターシリーズだけが続いていき、他のシリーズは完結するようだ。それはそれで残念な感じ。続けて欲しいシリーズがあるんだけどな。(8/24)
(015/125)
「本日は、お日柄もよく」原田マハ
彼女の著書を読んだのは久しぶり。最初に読んだ“楽園のカンヴァス”の印象とその後に読んだ作品との落差が激しく、他の著書を読むのが怖くて、しばらく手を出せなかった。この本は、スピーチライターという職業に魅せられ、大きな成長を遂げる一人の女性が主人公。その成長の過程に立ちはだかる試練とそれらを一つずつ越えていく過程が感動的。泣かせようという作為を感じつつも、ほろりとしてしまう。なかなか良い作品です。(8/27)
(016/126)
「夏雷」大倉崇裕
彼の著作群の中で一つのシリーズとなっている(らしい)山岳ミステリの一つ。ただ、山岳小説としては、専門的でストーリー性もあって良いと思うのだが、ミステリとして読むと、若干物足りない感じ。一番大事なところがよくわからないままに終えられていて、何かだまされたような気がする。(8/27)
(017/127)
「残り者」朝井まかて
戊辰戦争に敗れ、江戸城を明け渡すことになった徳川家。その明け渡しの前夜、大奥に居残り、引き渡しの様子を目撃した5人の女性が主人公。当たり前のように続く日常が、ある日を境にバッタリと途絶え、それまで支えにしてきた物がすべて消えてなくなる。その厳しい現実に曝されたとき、人はどうするのか。過去に引きずられ後ろばかりを見ながら生きていくのか、或いは思い切って前を向いて進んでいくのか。後者でありたい。(8/28)
(018/128)
「掟上今日子の挑戦状」西尾維新
ドラマにもなったシリーズの一作。思い切って、何冊かをまとめて買ったものの、なかなか読めずに放っておいたところを、ようやく手に取った。最初に読んだ頃は結構おもしろいと思いながら読んだのだけれど、何か変に理屈っぽくなって、ちょっと読みづらい。駄作というわけではないのだけれど、あんなに一気に買わなければ良かったなと少し後悔している。(8/28)
(019/129)
「格差と序列の日本史」山本博文
歴史として我々が学ぶのは、実は行政機関の変遷の歴史だった。前史時代から大和政権、朝廷、幕府、近代政権まで、歴史として学んできたことの多くは、時の権力をあまねく全国に行き渡らせるための制度であった。その権力を発揮するために作られたのが序列で、それは現代も存在するし、逆に存在しないと国家としての体裁も保てない社会となる。一方、“格差”と呼ばれているものは、権力者によって、その序列をできる限り流動化させないために作られた側面もあるのではないか。この書にあるように、“格差”は前時代の方がはるかに大きかっただろうし、それを乗り越えるすべは全くなかったというのが実情だろう。とはいいながら、本人の努力では絶対に超えられない格差がある。特に“経済格差”は常に拡大する方向に進むのが自然な流れだとするなら、可能な限りそれを解消する方向に舵を切っていくのが、行政の仕事だろう。
(8/31)
(020/130)
「小説 君の名は」新海誠
この夏話題になったアニメーションのノベライズ本。監督が描いた小説なので、おそらく映画のストーリーに忠実に描かれているのかと思うのだが、どうなのだろうか?その昔楽しみに見ていたNHKの少年ドラマシリーズ(タイムトラベラー(いわゆる“時をかける少女”ですね)、ねらわれた学園など)と同じ匂いのする作品。なんかあの懐かしさがぶり返してくような作品。(8/31)
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