6月の読書記録は計14冊。うち小説が10冊、それ以外が4冊と小説の割合が、かなり高くなりました。
理由は割とはっきりしていまして、小説は似たような設定や展開があったりしても、別物として楽しむことができるのですが、それ以外のものとなると、よほど新たな視点や考え方に気づかせてくれそうなものでなければ、なかなか食指が伸びないということもあります。宗教・哲学書や経験談、ルポルタージュなどを除くと似たようなことが描かれていることが多いんですね。
ということで、今月の一冊ですが、小説では真保裕一さんの“赤毛のアンナ”が結構良かったです。彼は、江戸川乱歩賞でデビューしてからはミステリが中心だった記憶していますが、最近はいわゆるお仕事小説のようなものを書いておられます。そんな中で、本作はそのどちらでもなく社会派の一遍に仕上がっています。感想にも書いているように、御都合主義的な匂いがしないではないが、結構好きなタイプの小説です。
その他では、読んだ本がいかにも少ないのですが、その分“厳選(?)”されたラインナップになっています。話題になった“112日間のママ”は、予想どおり泣かせる中身です。圧倒的な事実の前には、多くのものがかすんでしまいます。御冥福を祈るのみです。ただ、将来子供に事実を告げるときが怖いように思われます。
また、“戊辰物語”も、歴史的な出来事を同時代人の声を以て記録したという点で、価値あるものだと思います。いわゆるオーラルヒストリーの走りと言っていいかもしれませんね。
(001/075)
「ユートピアだより」ウィリアム・モリス
読み始めたのは、今年の春先。読み切るのに思わぬ日数がかかってしまいました。作家と言うより、アーツ・アンド・クラフツ運動の主導者としての名のほうが高く、芸術家或いは芸術評論家だと思っていたが、結構著書もあるようだ。本書は、19世紀末に暮らしていた主人公が、一夜明けて22世紀のロンドンで目覚めるところから始まる。未来の世界は、働くことが尊敬され、人々は慈しみ会う“ユートピア”として描かれている。ただし、そこに至るまでには、悲しい歴史もあったようで、多くの血で購われた理想郷でもあったようである。当時の彼らが、どのような社会を理想としていたのかを知る上で、貴重な資料であり、読み物としても興味深い。(6/1)
(002/076)
「三人小町の恋 偽陰陽師拝み屋雨堂」田牧大和
最近、おもしろい作家だと聞いたので、過去の著書を図書館で借りてきたもの。物語としては、そこそこおもしろいのだが、かなり複雑なはずの肝心の主人公達の関係が表面的にしか描かれていないところが少し残念。
せっかくの長編なのだから、もう少し描き込んでも良かったのかな。(6/4)
(003/077)
「八月の降霊祭」若竹七海
ミステリ小説かと思いきや実はホラー小説であった、という感じ。ミステリかと思って読むとがっかりするかも。(6/5)
(004/078)
「はなとゆめ」冲方丁
枕草子の作者清少納言の物語。この著者が書く歴史小説は3作目(のはず)で、初の女性主人公。しかも、とても書きづらい(と勝手に思っている)平安朝の宮廷内部が舞台であり、どうかな?と思いながら読んだ。手がかりになる書物は枕草子そのものくらいで、そこに描かれている世界が既定のものとして扱わざるを得ないとは思うが、しようによっては幾通りにも解釈できる上に、描かれている情景があまりにイメージしにくく、若干薄っぺらい読後感になってしまった。難しいなぁ。(6/9)
(005/079)
「赤毛のアンナ」真保裕一
決して幸福ではない環境に生まれ、育ちながらも、他人を思いやりながら、意志を持って明るく生きてきた主人公が、生涯初めて道を誤り、罪を犯してしまう。それを知った同級生やかつての仲間たちが主人公を助けるために奔走するという物語。関係者があまりに善人ばかりで、こうはいかんやろ、と思うところもないではないが、結構泣かせる物語になっている。(6/11)
(006/080)
「112日間のママ」清水健
話題になった書籍。図書館で数ヶ月待って借りたもの。著者はテレビ局のキャスターで、結婚一年後に、奥さんにガンが見つかり、同時に第一子の妊娠も明らかになるという一大事に直面し、結果的に奥さんは新たな命を生み出した後、この世を去ってしまうまでを記録したもの。このような悲しくつらい状況であっても、最後まで笑顔を失わず逝ってしまった奥さんには、あっぱれと言うしかない。安らかにお眠りください。(6/11)
(007/081)
「戊辰物語」東京日日新聞社会部編
明治維新から60年が過ぎた頃に、新聞に連載された様々な人たちの回顧録をまとめたもの。なかには誰もが知っている大物や有名人もあるが、市井の人たちも何名か。まだ、当時のことを経験した人たちも数多くいた頃で、当時の認識がある程度類推できる中身となっている。戊辰戦争直前の江戸ののんびりした様や将軍びいきの世相もほのかに感じられる。歴史は常に勝者の歴史であるから、テロに成功した薩長軍が善で、幕府軍が悪と色分けされ、その後の太平洋戦争へと続く歴史に突入する。(6/11)
(008/082)
「月魚」三浦しをん
彼女の小説第2作。後に直木賞も受賞する“まほろ駅前シリーズ”を思い起こさせる2人が主人公。でも実は最後まで、二人の関係性がよくわからず、読んだ後も悶々とした疑問が残ってしまう。読み込み方が悪いのかなぁ。(6/11)
(009/082)
「信長死すべし」山本兼一
日本の歴史上、最大の謎の一つである明智光秀の謀反を取り上げる。“その日”に至るまでの数ヶ月間にいったい何があったのか。光秀はいったい誰の“助言”を得て、あのような仕儀に至ったのか。これらが全く判らない。ものの本によると、当時からいくつかの陰謀説が囁かれていたようであるが、本書では“正親町天皇陰謀説”を採る。本来なら結果的に一番の利益を得た秀吉、家康の陰謀というのがわかりやすいが、事件後の仕置きが全く構想されておらず、行き当たりばったりの謀反であったことから、“天皇陰謀説”は結構説得力があるようにも思う。(6/16)
(010/083)
「千里眼の教室」松岡圭祐
シリーズ5作目。読みながらも既読感がぬぐえず、かといって結末を思い出せず、最後まで既読か未読か判別がつかなかった。今作の主人公は、最初と最後こそ無理矢理戦闘機やヘリコプターを操縦するも、必然性は全くなく、物語の本筋である学校や社会でのいじめ、弱者たたきにフォーカスを当てながら、ある種の理想社会を描いている。シリーズの中では若干毛色の違う作品。(6/19)
(011/084)
「遠くの声に耳を澄ませて」宮下奈都
本年度本屋大賞受賞作家の短編集。看護婦、OLなど、すべて市井の女性が主人公として描かれている。どこにでもあるような日常の風景に、突然に非日常が飛び込んでくるような、そんな小さな物語集。旅の雑誌に連載されていたことから、“旅”をテーマにした短編なのだが、必ずしも旅の途上にある者だけでなく、自分ではない誰かが旅立つ物語だったりとバラエティに富んだ12編。個人的には、祖父母の空想の旅を描いた“アンデスの声”がお気に入り。(6/19)
(012/085)
「人間を磨く 人間関係が好転する『こころの技法』」田坂広志
人間関係が好転する7つの技法、すなわち①心の中で自分の非を認める、②自分から声をかけ、目を合わせる、③心の中の「小さなエゴ」を見つめる、④その相手を好きになろうと思う、⑤言葉の怖さを知り、言葉の力を活かす、⑥別れても心の関係を絶たない、⑦その出会いの意味を深く考える、ということについて、自らの実体験を交えて説明している。どれもが簡単であり、かつとても難しい。まずは自分の“非”を認める勇気を持つことが、真の強さにつながるのだと言うことを肝に銘じておきたい。(6/21)
(013/086)
「知の巨人 荻生徂徠伝」佐藤雅美
“政談”で名高い荻生徂徠の伝記的小説。柳沢吉保に見いだされたことで、名をあげていくが、著書をものにしたのが遅かったため、世間的には軽んじられていたようである。そのためにか、世間の評価を特に気にしていたようで、あちらこちらに出された書簡にそれが見て取れる。特に、当時学問の中心であった京都の伊藤仁齋に対するライバル心は、並々ならぬものがあったようで、これをこき下ろす書物も残している。(当然読んだことはありませんが。)しかしながら、残された書物によると、博覧強記を地でいった人のようで、その知識たるや、余人では検証もできないようなもので、当時の学問と言えば、イコール儒教であったものを、それだけでなくあらゆる分野に及んでいたようで、当時の中国にも逆輸入までされている。途中までは普通の小説らしく進むのだが、途中から当時の書籍・文書の現代語訳のようになっている。途中で疲れたのかしら。(6/26)
(014/087)
「世界で活躍する人が大切にしている小さな心がけ」石倉洋子
元マッキンゼージャパンのコンサルタントで、世界を舞台に活躍している著者自身の体験から説かれる成功哲学。決して万人普遍の“心がけ”ではない。一言で言うなら“Try & Error~失敗を恐れるな”ということにつきるのでは。まさに言うは易し行うは難しで、これは前の田坂さんの著書にある、“心の中で自分の非を認める”勇気・強さにつながる話ではないか。そしてさらに、しなやかな心と。(6/28)
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