11月は17冊、小説が9冊、それ以外が8冊ということになりました。
まぁ、平均的なペースでしょうか。
前月同様、週末はほとんど出かけるようにしていましたので、読書に割いた時間が少なく、細切れの時間で読むため、一冊を読破するのに、結構な時間がかかってしまいました。
時間を忘れるくらいに没頭する本が、それほど無かったということもあるのですが。
それでも、先月の中からお薦めを選ぶなら。
小説では、“君の膵臓を食べたい”でしょうか。昨年のベストセラーなので、今更という感じかもしれませんが、図書館の予約の順番がなかなか回ってこなかったので、こんな時期になってしまいました。本文でも書いていますが、あることをきっかけに主人公が大きく成長する姿が、かつての自分の姿を思い出させてくれました。といっても、こんな劇的な出来事があったわけではないですがね。
それから、戯曲もこの分野に含めているのですが、台詞とト書きだけで構成されているのっておもしろいですね。小説と違って、心証描写がないので、平板な感じがするのですが、自分が演出家になったつもりで読むと、とてもおもしろい。結構はまりそうです。
それ以外の分野では、“明治維新という過ち”は良かったです。近代以降の文字情報が大量に残されて時代に於いても、歴史は常に勝者に視点で描かれるという当たり前のことを、改めて思い起こさせてくれる本でした。結局のところ、真実は常に闇の中にあって、今後も明らかにされることはないのでしょう。でもって、結果として見えていることから推理することを楽しむのが醍醐味でしょうか。
(001/160)
「テロ」フェルディナント・フォン・シーラッハ
何かの書評で取り上げられていたのを見かけ、図書館で予約していたところ、やっとかり出すことができたもの。ドイツ人作家の法廷ものミステリなのだが、小説ではなく戯曲の形で書かれている。テーマは“ハーバード白熱教室”のように“正義”についての話。150名余の乗客を乗せた旅客機が、テロリストに乗っ取られ、7万人が集まるサッカー場に突っ込もうとしていたところを、ドイツ空軍のパイロットが撃墜し、結果旅客機の乗客乗員は全員死亡したが、7万人の命は救われた。この空軍機パイロットが殺人罪で起訴されたのだが、果たして有罪か無罪か。いいテーマだと思うのだが、このスタイルが良かったのかどうかと問われたら、どうだろう。法廷での丁々発止は、この方が臨場感あるのかな。 (11/1)
(002/161)
「微笑む人」貫井徳郎
彼の小説は2作目かな?前に読んだ本が思っていた以上におもしろかったので、これに手を伸ばした。ノンフィクションの体を取りながら、容疑者の過去がどんどん明らかになっていき、次の展開をとても楽しみにしながら読んでいたところ、最後にきてなにやら変な展開になり、いったいこの物語の謎って何だったんだろう。と不思議な気分で読み終えた。(11/3)
(003/162)
「暗い越流」若竹七海
最初と最後が“葉村晶もの”という歯痒い作りの短編集。途中の短編では主人公(語り部)が何も特定されていなかったこともあって、てっきり同じシリーズかと思って読んでいたが、どうにも違和感があって、読み返してみると全く違うことに気が付いた。いやぁ、だまされるところだった。(11/5)
(004/163)
「女子漂流 うさぎとしをんのないしょのはなし」中村うさぎ、三浦しをん
なかなか強烈な個性の持ち主であるお二人の対談集と言うことで読んでみたところ、何とも赤裸々にここまでぶちまけて良いのだろうかと戦いてしまう。あえて感想は書きません。いや、書けません。(11/6)
(005/164)
「去就 隠蔽捜査6」今野敏
このシリーズも結構長くなって、新作が出るのを楽しみにしている。今作はストーカー絡みの殺人事件の犯人を追うという物語で、現場を歩く刑事と主人公であるキャリア官僚が、お互いの持ち味を出しながら解決に導いていく。最後におまけのように付いている家庭内での挿話は必要だったのだろうか?ちょいと置き場所を謝ったかなと思うのだが、どうだろう。既に月刊誌ではシリーズ7が連載されているので、来年にはまた新作が読めそうだ。(11/6)
(006/165)
「古い医術について」ヒポクラテス
ヒポクラテスというと紀元前5世紀頃のギリシャで活躍した“医学の父”として名前だけを知っている人。かの“ヒポクラテスの誓い”でもよく知られている。本書はその“誓い”を含む彼の著作を集めたもの。今から2400年以上昔に“古い”と言われていた医術とはどんなものだったのか。彼が出現することで、病には“原因”があり、環境や食生活などから発病することを、様々な症例を記録し、分析することで実証しようとしている。当然十分な器具も無い中なので、現在の目から見ると明らかな誤りもあるのだが、その科学に対する姿勢は現在でも模範とするにふさわしい。難しかったけどおもしろかったです。(11/13)
(007/166)
非常に刺激的なタイトルが示すとおり、明治維新という歴史的事象を真っ向から再評価試用とした著作である。実は、私自身が京都の幕末の歴史をかじる中で、漠然と感じていたことが、そのままタイトルにされていることから、ずっと読みたいと思っていたところ、ようやく図書館で借りることができたものです。出典が必ずしも明確にされていないところもあって、どこまで信用して良いのか分からない部分もあるのだが、目に見える事象を追いかけているだけでも、さもありなんと思われる。勝てば官軍というのはまさにその通りで、同時代の一般人もその胡散臭さは感じていたと言うことであろう。テロリストも失敗すれば、そう呼ばれるだけで、成功すれば革命家と呼ばれる。要は結果がすべて。(11/15)
(008/167)
「古事記の禁忌 天皇の正体」関裕二
日本の古代史は謎が多い。自己正当化のために、歴史を編纂することが国家の重大事業であった中国とは違い、文字を持たなかった我が国で国史が編纂されたのは、6世紀頃と言われている。その時点に口承で伝えられてきたことを文字にして記録されたものと思われる。前のとおり、歴史書は自己正当化の為に作るというのが原則であるから、自分に不都合なことが記録されることはない。この本の中では、かなり思い切った内容にまで踏み込んで書いてあるのだが、もちろん現在の資料でそれを確かめることはできない。だからこそ歴史はおもしろい。(11/18)
(009/168)
テレビドラマにもなったシリーズものなのだが、どうも“その3”は、読んでいないような気がしてきた。最初の頃のようなどこまでも軽い調子は少し影を潜め、結構シリアスな展開で進んでいく。また、本来“戦力外”であったはずの主人公であるが、本作では非常に鋭い推理を展開している。まだ、このシリーズは続くのだろうか。(11/19)
(010/169)
「幕末単身赴任下級武士の食日記」青木直己
最近増補文庫版が出版されたにもかかわらず基の新書版を読んでしまった。幕末に紀州から江戸の藩邸勤めとなった武士の日記を基に当時の武士の食生活を描いたもの。当時既に外食産業が隆盛にあったことや各地に“名物”というものもたくさんあったことがよく分かる。それにしても、普通のことなのか彼が特別なのかはよく分からないが、よくこまめに記録を取っていたこと、特に食べ物の記録は詳細である。一部を読んだだけで当時の豊かな食生活が見えてくるし、美味しいものを食べたくなる。 (11/19)
(011/170)
最近よく売れているそうで、興味を持って借りてきました。かつてガリバー企業であったキリンビールが、スーパードライの発売で業績を伸ばすアサヒビールに業界トップの座を奪われながらも、再びその座を奪い返した。そういったマクロなシェア争いではなく、四国の高知県における県内シェア争いを如何に戦ったかが描かれている。結果的に筆者は四国本部長、東海本部長を経て本社の副社長にまでなられたので、高知県での彼の経験がその後の同社の復活につながったのだろう。商品力もさることながら、営業力だけでもトップに立てるということを実践した記録でもある。(11/19)
(012/171)
「華氏451度」レイ・ブラッドベリ
SF小説の大家の代表作。表題となった華氏451度というのは、紙が発火する温度だそうで、“書物”の所持が禁止された社会で、“不法所持”を監視し、見つけ次第焼却してしまう“fireman”が主人公となっている。ある日自分の職務に疑念を覚えた主人公が、悩みながら新しい道に歩み出そうとする。作品中には、娯楽の中心となった家庭用のバーチャルリアリティ装置に誰もが夢中になっている様子が描かれており、現在のスマホ依存社会を彷彿とさせる。将来的に書物が無くなることは想像したくないが、何でもかでもバーチャルでとなるといささか危険を感じる。現に、電子書籍では勝手に改訂されることも起きているようであるし、実は知らない間に情報は操作されているかもしれない。(11/20)
(013/172)
「ガンコロリン」海堂尊
医者でもある作者らしい短編小説集。彼が提唱する死後画像診断にまつわる話や、東日本大震災にまつわる話などいろいろ。表題作だけなら割とお気楽な小説集のようにも思えるが、淡々と描かれる重い話もある。(11/20)
(014/173)
「リア王」シェイクスピア
思い立って、こんなモンも読んでみました。そういえば、シェイクスピアの作品というのはあまり読んだことが無くて、過去に何を読んだか覚えていない。確か四大悲劇の一つでしたよね。今回改めて読んでみて、この人は戯作者としてとても優れた人だということを認識した。こういった戯曲を読んで、脳内に浮かぶ風景は人によって違うと思います。テレビドラマであったり、映画であったり、舞台であったり。実は私は、いつもなら、映画のスクリーンが浮かぶのですが、今回は舞台が浮かびました。最大の違いは、舞台だと視点が固定されるということです。映画やテレビなら手許のクローズアップになって見えていないはずのところや、主人公の背後がはっきりと目に浮かんでしまいます。となるとはっきりと見えてくるのが演出家、舞台監督の力量です。蜷川幸雄の偉大さを改めて感じました。(11/22)
(015/174)
東北学院大学の学生さんが、震災後の被災地の様子をおもしろい観点から切り取ってレポートしたもの。冒頭の“幽霊タクシー”のレポートがマスコミで大々的に取り上げられていたが、それ以外の各編もしっかりと現地を歩き、丁寧なインタビューを重ねたことで、素晴らしいルポルタージュになっている。しかもこれらを学部生の皆さんが執筆したというのだから驚きである。(11/23)
(016/175)
「君の膵臓を食べたい」住野よる
本屋大賞の第二位らしい。めちゃくちゃおもしろかった。かなり甘酸っぱめの青春小説で“きゅんキュン”ポイント満載の一作です。まだ若い作家のようですね。これからが楽しみです。ローティーンだった頃の私は、まさにこの作品の語り部のような子供でした。周りの人に嫌われるのが怖くて、人に見えないようにひっそりと生きている、そんな子供でした。ホントは、人一倍人に愛されたいのに。あの頃一歩踏み出す勇気をくれた人のことは、今でも忘れられない、恩人です。感謝してるよ、本当に。(11/26)
(017/176)
「泥酔懺悔」朝倉かすみ他
女流作家による“酒”にまつわるエッセイ集。自他共に認める酒豪から下戸の方まで、顔ぶれは様々。大酒豪の武勇伝もさることながら、下戸の方が冷静に観察する泥酔者の姿がおもしろい。他山の石、人のふり見て我がふり直せ。(11/26)