2025年11月8日土曜日

2025年10月

読書の秋到来の10月は、小説が15冊、それ以外が4冊で合計19冊という結果でした。

数としては、たくさん読めたほうだと思いますが、お薦めできる本となると、どうでしょうか。ちょいと無理やりひねり出したいと思います。

まず小説では、国内ものでは恩田さんの二冊のアンソロジーのうち、酒場のほうをお薦めします。決して酒好きだからというわけではなく、一つ一つが独立したお話で、短いなりにもシッカリと起承転結があり、物語として成立しています。とてもお上手な作家さんだなと改めて思います。酒好き以外の方にもお薦めです。

あとは、道尾さんの『いけない』もよかったですね。それぞれが短編小説のように書かれた物語が、全体として一つの物語に収束していくという彼のお得意の作品です。とてもよかったです。

続いて海外ものでは、新たに二つのシリーズに出会いました。

まず、『パイは小さな秘密を運ぶ』~科学少女探偵フレーヴィア~のシリーズです。独学で身に着けた科学知識を駆使して事件の謎を解く主人公が魅力的です。

続いては、『パンプルムース氏のおすすめ料理』。こちらはグルメ小説のように、おいしそうな料理が随所に描かれるのですが、主人公とその相棒である愛犬の活躍が物語のメインで、ほかの登場人物とのドタバタが添えられています。こちらもシリーズものなんですが、なかなか魅力的な人たちかと思います。

さて10月が終わり、200をやや下回るというところなので、最終的には240に届くかどうかというところでしょうか。先月来、『光文社古典新訳文庫』のシリーズにはまっています。内外問わず古典といえば岩波文庫だったのですが、この新約シリーズは、言葉使いも現代的に書かれていてとても読みやすく、我々にはありがたいシリーズです。

年末に向けて、いろいろと読んでいきたいと思います。

 

001/179

パイは小さな秘密を運ぶ」アラン・ブラッドリー

舞台は太平洋戦争直後のイギリスの片田舎、そこに住む化学大好き少女が主人公。自分が住むお屋敷で殺人事件が発生し、父親が容疑者として疑われる。少女自らが事件の謎を解き明かすというシリーズものの第一作。結構面白かったです。続編も読もうと思います。(10/2)

 

002/180

続きと始まり」柴崎友香

阪神淡路大震災から東日本大震災、さらに新型コロナ禍という三つの災禍。三人の主人公がそれらに少しずつ関わりながら、年月を送っていきます。しかしながら、主人公の三名の人生がなかなか交りません。いったいどうなっていくのかと思っている間に物語は終了しました。何だったんだろう??(10/3)

 

003/181

戦場のカント 加害の自覚と永遠平和」石川求

カントと言えば『永遠平和のために』という著書で『永遠平和』とは敵意がなくなるときと語っています。しかしながら、現在の中東の情勢を見てもわかるとおり、敵意は連鎖し継承され耐える様子は見えません。そんな中で、第二次大戦後に中国に設けられた「撫順戦犯管理所」という存在は特異なものでした。実は、私もこの管理所の存在は知らなかったのですが、中国が憎悪の連鎖を断ち切ろうとした崇高な取り組みでした。しかしながら、解放され帰国した後の彼らは、中国共産党によって洗脳された存在として差別を受け、決して受け入れられることはありませんでした。差別した側こそが洗脳された存在だったというのは疑いのないところでしょう。とても勉強になった一冊でした。(10/3)

 

004/182

野球短歌 さっきまでセ界が全滅したことを私は全然知らなかった」池松舞

阪神ファンの作者が、試合後に綴った短歌を集めたもの。ときは2022年と言いますから、開幕から9連敗という記録的なスタートとなったシーズンで、矢野監督の最終年でもありました。喜怒哀楽が込められた歌が続くのですが、その中で心に残ったものをいくつか。「リハビリを越えてが才木ウィニングボールを1159日ぶりに受け取る」、「大山が『才木のために打った』と言い中野が『才木のために打った』と言う」、「眠りより浅いフライで本塁へ帰ってこれる熊谷が光る」、「原口が放つ二塁打本塁打ねぇ彼は癌を越えてきたんだ」、「大山がファーストにいると何もかもが引き締まるファーストにいてくれ」。優勝おめでとうございます。(10/3)

 

005/183

悪の法哲学 神的暴力と法」仲正昌樹

『主権者とは、例外状態について=を超えて決定する者である』と看破したカール・シュミットというドイツの哲学者について語られた書物で、かなり難解。何度も気が遠くなりました。法の淵源をどこに求めるのかということは法哲学の永遠のテーマであるようです。良く言われるように日本の法律には「人を殺してはいけない」とはどこにも書かれていません。モーゼの十戎に「汝、殺すなかれ」と書かれているように、神の命にその淵源を求めざるを得ないように思えます。とにかく難しい本でした。(10/7)

 

006/184

朽海の城」吉川英梨

ここのところ気に入って読んでいます。豪華客船が舞台なのですが、すでに皆の記憶からは薄れつつある福島原発事故を思い出させようとする著者の意思を感じる作品でした。スケールが大きすぎて、ドラマではどの描かれるのか心配です。(10/7)

 

007/185

白銀の逃亡者」知念実希人

新型の感染症と、感染者に対する隔離政策、さらには壮絶な差別を描いた物語。最後はどのように決着をつけるのかと心配しましたが、収束して良かったです。(10/9)

 

008/186

世界99(上)(下)」村田沙耶香

ミソジニー、異民族差別が蔓延るディストピアを描いた長編。家族、学校、会社、趣味の世界など周りの環境に合わせて『人格を変える』というのはよくある話かと思いますが、作者はそれを『世界』と表現し、主人公の少女が『世界』からいくつかの世界を想定し、その世界の中では、決してはみ出さないように細心の注意を払って生きていきます。最終的には『世界99』が想定されているのですが、私には生きることに疲れてしまった果てのように見受けられます。スピード感のある上巻は簡単に読めましたが、一転して重い展開となった下巻は、結構時間が掛かりました。重かったです。(10/14)

 

009/187

貧乏お嬢さまと毒入りタルト 英国王妃の事件ファイル17」リース・ボウエン

いよいよ主人公が出産間近となったところで、招待された晩さん会で死者が出ます。食べ物に毒を入れたと疑われたのが、新しく雇ったフランス人の料理人。求められて助っ人に送り出したところが事件に巻き込まれ、彼の疑いを晴らすためにその謎に挑みます。(10/16)

 

010/188

合理的にあり得ない2 上水流涼子の究明」柚月裕子

テレビドラマにもなったシリーズの続編です。助手が有能過ぎて、現実感に乏しい。(10/16)

 

011/189

海底の道化師 新東京水上警察」吉川英梨

シリーズの4作目で新キャラの登場です。東京湾の海底から、行方不明になっていた女性3名の運転免許証が発見されたことから連続誘拐殺人事件の捜査が始まります。今作では、犯人が逮捕されてからの大惨事が注目ポイント。(10/17)

 

012/190

珈琲怪談」恩田陸

2014年から2025にかけて書き溜められた短編を集めたもの。男性4人が京都、横浜、大阪、神戸の喫茶店を巡りながら、怪談話を語り合うという一風変わった物語。実在の喫茶店を舞台に、作者の創作ではなく、知人などから収集した怪談を材料に物語を綴るというなかなかシュールな作品でした。(10/19)

 

013/191

それいけ!平安部」宮島未奈

昨年の本屋大賞でブレイクした作家さんによる一作。平安時代大好き少女が入学した高校で、新たに立ち上げたクラブ活動。無事5名以上の部員を集め、正式なクラブ活動として認められます。果たして平安部とはいったい何をする部なのか??瑞々しい彼女たちが、思わぬ活躍をする姿がよかったです。(10/20)

 

014/192

酒亭DARKNESS」恩田陸

過日読んだ珈琲にまつわるアンソロジーとほぼ同時並行で書かれていたようです。こちらは酒場に関するホラー・アンソロジーです。どれも習作ぞろいでしたが、『昭和94年の横丁』が一番気に入りました。面白かったです。(10/23)

 

015/193

いけない」道尾秀介

前作も面白かった記憶があり、たまたま図書館で見かけたので借りてきました。期待どおり面白かったです。ミステリ小説なのですが、背中がゾワワとするような展開がたまりません。さすがにお上手ですね。面白かったです。(10/26)

 

016/194

謎の香りはパン屋から」土屋うさぎ

話題の本というので借りてみたのですが、『このミス大賞』の受賞作なんですね。この賞については、結構当たり外れが大きくて、なるべく手を出さないようにしているのですが、誤ってしまいました。この本は、ミステリの中でも日常ミステリと言われる分野で、パン屋でアルバイトする女子大生が、周囲で起こる謎を解いていきます。申し訳ないですが、かなり強引な謎解きという印象でした。(10/26)

 

017/195

パンプルムース氏のおすすめ料理」マイケル・ボンド

主人公のパンプルムース氏は、警視庁を退職し、現在はレストランガイドブックの覆面調査員を務めています。そんな彼が、立ち寄ったホテルのレストランで事件が発生。愛犬とともにその謎を解くという物語です。作者は『くまのパディントン』の作者としても有名で、この本もシリーズ化されています。続編も読んでいこうと思います。(10/28)

 

018/196

入門 行動経済学と公共政策」キャス・サンスティーン

行動経済学がどのように公共政策の中で使われているか、またつかわれるべきか、ということについて書かれた本なのですが、正直、書かれている内容が全く読みこなせませんでした。翻訳もイマイチかなという印象です。訳者あとがきでも触れられていましたが、ほとんどの箇所でwelfare厚生と訳されており、しっくりきませんでした。といってもほかに適切な言葉も見つからず、悶々としながら読み終えました。(10/29)

 

019/197

カフカ短編集」フランツ・カフカ、池内紀編訳

変身で知られるカフカの短編集。解説によると、生前のカフカは、2~3の短編を除いて書籍として発表されておらず、遺稿を託された友人が、整理して出版されたそうです。この短編集に収められた作品も、短編小説というより小説の構想をまとめた断片のようなものも見られ、とても興味深いです。ただ、ほとんどの物語で彼は何を伝えようとしていたのか、読み取ることは叶いませんでした。(10/30)