灼熱の8月は小説が13冊、小説以外が4冊で、合計17冊という結果になりました。あまりの暑さのせいで、週末は家にこもることが多かったのですが、あまりに暑いと能動的に本を読むよりもアマプラで映画を漁っていることが多くて、数が進みませんでした。
そんな中でのお薦めですが、宮部さんやアーチャー氏のシリーズものは安定の面白さだったので除外するとして、3冊挙げたいと思います。
まずは『団地メシ』です。本文でも書いていますが、高校をリタイアした少女と祖母のお互いを思いやる交流をメインストリームに置きながら、団地と食べ物めぐりという不思議な取り合わせを織り込んだ小説で、好感をもって読みました。とても良かったと思います。
続いては『ファーザーランド』という骨太の海外ミステリですが、第二次大戦でドイツが負けなかった世界を描き、ある瞬間までは史実が盛り込まれています。かなりの超大作なので、読み切れるか心配でしたが、全くの杞憂に終わりました。とても面白かったです。残念だけど、こんな小説、日本じゃ絶対書けないだろうな。
最後の一冊は『パッキパキ北京』なんですが、恥ずかしながら綿矢さんの小説は恐らく初めて読んだはずです。コロナ禍の北京に暮らすことになった女性のエネルギッシュな日常が描かれます。読んでいて痛快になりました。終わらせ方も良かったです。
続いて小説以外の本ですが、これはヘルマン・ヘッセの『わがままこそ最高の美徳』を挙げたいと思います。『車輪の下』の作者として有名ですが、小説以外に詩歌や膨大な数の書簡も残されていて、それらの中から一定のテーマのもとに編纂された書籍です。これほど、思索にとんだ文章を残されていたとは知りませんでした。一つ一つは取り上げませんが、面白くて示唆に富む文章ばかりでとても良かったです。お薦めです。
9月に入り、少しは気温も下がってくるのだろうかという期待もあり、夏の間は間遠になっていた散歩も再開したいと思っております。散歩にはお供のお酒と書籍が手放せませんので、また面白そうな本をもって出かけていきたいと思います。
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「雪山書店と嘘つきな死体」アン・クレア
初めて読む作家ですが、別のミステリの巻末広告で見て面白そうだったので読んでみました。素人探偵が殺人事件の謎を解くという物語でしたが、途中で犯人が何となく想像できてしまい、若干興がそがれました。も一つでした。(8/1)
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「うしろめたさの人類学」松村圭一郎
『構築人類学』という耳慣れない学問を提唱されている研究者の方の書籍で、エチオピアでのフィールドワークでのお話を中心に、文化人類学の入り具とをそっと撫でてくれるような書籍です。先月読んだ『コモンの自治論』の中の一章を担当されていて、その文章に興味を覚えて借りてきました。『コモン=共同体』を成立させている要素の一つとつとして『うしろめたさ』というのはあるかもしれません。ただ、うしろめたさの珠数つながりでしか成立しないというなら、最初の一撃はどのようにして生じたのかという疑問が残ります。ある種の”ビッグバン”かな。(8/1)
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「猫の刻参り 三島屋変調百物語拾之続」宮部みゆき
大好きな超人気シリーズも拾巻目となりました。主人公たる語り手が変わって五巻になるんですね。最初の頃は、”人間”という生き物の心の奥底に潜む邪心が、ある日表に現れるという恐怖を描くことが多かったように記憶しているのですが、今作で語られる百物語はややファンタジーに寄っているように思えます。一方で、モインストリームの方が、波乱要素を見せ始めました。変わらず面白いです。(8/6)
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「地域主権という希望 欧州から杉並へ、恐れぬ自治体の挑戦」岸本聡子
この本も『コモンの自治論』の中の著者のお一人で、『ミュニシパリズム=地域主権』の体現者である現杉並区長による一冊です。著者が区長になるまでのいきさつは、本書の最初に記されているので省略しますが、後半部分は20代で渡欧しアムステルダムを本拠地とする政策シンクタンクで活躍されていた頃に発表された文書を纏められています。『民主主義』が機能しなくなって久しい現在社会に於いて、唯一可能性が残されているのが地方自治体である。本来私たちは、自分が住む地域を住みやすい環境に整えたいと思う生き物なんだと思うのですが、現実は、人任せの無責任主義が横行し、政治を家業にしている無能な政治屋に丸投げして傍観し、時折文句を言い、先導されて騒ぐのみという情けなさ。自ら考えささないという教育を徹底してきた成果かと思うのですが、この本で紹介されている海外の事例と比べ呆然とするばかりです。(8/14)
005/150
「記念日」青山七恵
この方の小説は初めて読んだと思うのですが、評価が難しいなぁ。物語は三部構成となっていて、それぞれが世代の違う三人の女性を主人公において描かれています。三者三様の個性あふれる主人公たちですが、誰一人として心情的に理解できる人はいなかった。これは、読んでいてしんどいです。(8/16)
006/151
「狙われた英国の薔薇 ロンドン警視庁王室警護本部」ジェフリー・アーチャー
著者の最新シリーズの中の最近作です。今回はイギリスの王室警護本部が舞台。在りし日のダイアナ元妃も主要人物として登場します。なかなか大胆な描かれ方をしているのですが、もし日本で同様のことをしようとしても、恐らく出版できないでしょうね。相変わらず面白かったです。(8/18)
007/152
「団地メシ!」藤野千夜
お祖母さんと孫が、実在する団地に赴き、これまた実在する店舗での町グルメを楽しむという連作小説です。語り部となっている孫娘は、学校を不登校になり、毎日を無為に送っていたところ、祖母との団地歩きを重ねる中で、前向きな気持ちを取り戻していくというハートフルな物語です。(8/19)
008/153
「ファーザーランド」ロバート・ハリス
第二次大戦で、ドイツが敗戦することなく、ヒトラー政権の版図がウラル山脈まで拡大した別世界を舞台にしています。そこで起こった殺人事件を一人の警察官が追いかけるのですが、その事件の背景として、『戦争で負けなかったドイツ』にとって、絶対に知られてはいけないことが徐々に明らかになってきます。文庫で500ページを超える超大作でしたが、その長さを感じないくらい面白かったです。(8/22)
009/154
「ちゃんちゃら」朝井まかて
この作者の時代物はお気に入りなので、ひょっとしたら前にも読んだかなと思いながらも最後まで読み通しました。舞台は江戸の植木屋。堅実な商売を売り物にし、江戸有数の植木屋となったものの、京から下ってきた怪しげな庭師によって、廃業の危機に遭います。ストリーとしては、ちょっと甘いかなと思いましたが、面白かったです。(8/23)
010/155
「隠居おてだま」西條奈加
この方も時代小説の名手ですね。こちらは、前作があって、その続編となります。主人公となる商家の御隠居が、新たな商売を始めて好評を得るのですが、持ち前の頑固さが災いして、周りの人たちに大変な不幸を招きます。物語として成立させるためには仕方がないのかもしれませんが、心が沈む結末でした。(8/24)
011/056
「波動 新東京水上警察」吉川英梨
以前から気になっていたシリーズもので、たまたま図書館で見つけたので借りてきました。舞台はかつて東京に実在した水上警察署。この物語では東京五輪を前に期間限定で復活するという設定です。湾内の無人島で白骨死体が発見されたものの、水上警察なので、陸上には捜査権が及ばないという複雑な環境が邪魔をして、操作がなかなか進みません。水上警察らしく、迫力あるボートチェイスが繰り広げられるなど、かなり面白いシリーズになりそうです。映像化したら面白いだろうなと思いながら読み終えたところ、偶然にもこの秋からテレビドラマ化されるそうです。今回は2冊一気に借りてきましたので、引き続き読んでみようと思います。(8/24)
012/157
「パッキパキ北京」綿矢りさ
実は、この方の小説は一度も読んだことが無くて、今回が初めてのお付き合いです。御自身がご家族の都合で、コロナ禍の中国に住まわれていた経験をベースにした物語です。主人公は、コロナ禍の中、単身赴任をしていた夫に懇願されて、北京へ赴いた妻。行動制限がかかり、精神的に参っていた夫とは裏腹に、精力的に北京の町を歩き、食べる妻という対照的な二人。そのバイタリティ溢れる姿には圧倒されます。物語としてもとても面白かったです。(8/24)
013/158
「わがままこそ最高の美徳」ヘルマン・ヘッセ フォルカー・ミヒェルス編
ヘルマン・ヘッセが書いた膨大な文の中から、『個性の尊重』をテーマとする詩文を集めたもの。原題は"Eigensinn macht Spass”『わがままは楽しい』とでも訳すのでしょうか。自我を殺し、周囲に流されることで無難に生きようとする姿勢を徹底的に忌避する文章のオンパレードで、とても心に響きます。今の私たちにとって、とても重要なことだと思います。とても面白かったです。(8/25)
014/159
「99%のためのフェミニズム宣言」シンジア・アルッザ、ティティ・バタチャーリャ、ナンシー・フレイザー
『フェミニズム』という概念に若干誤解していた部分があり、この本を読んで目を開かせられた感があります。女性が社会的な地位を上げていこうとする際にぶつかる『ガラスの天井』という言葉がありますが、これはエリート層に属する1%の女性に当てはまる概念で、その他の99%の女性には、そのスタートラインにさえ立つことが許されていない。コロナ禍で顕著に見られたように、社会的再生産の現場では、特に女性にそのしわ寄せが集まっている。そういった現実を踏まえ、すべての人類が幸せに暮らしていけるような社会を目指して、我々がなすべきだとする提言をマニフェストの形で明らかにした。勉強になります。(8/27)
015/160
「烈渦 新東京水上警察」吉川英梨
来るべき東京五輪を前に急ピッチで臨海地区の再開発が進む東京を未曽有の台風が襲う。機を一にして、フロント企業に隠れた半グレ集団の犯罪が横行する。今回もスピード感満載で面白かったですが、いくら未曽有とはいえ台風の規模が大きすぎる。(8/28)
016/61
「探偵家族」マイクル・Z・リューイン
家族で探偵業を営む一家の物語。誰かに薦められて借りたのだけど、誰の薦めだったのか全く思い出せない。とても読みづらくていまいちな感想でした。なんか、他の本の方が面白そう。ちょっとリベンジのため探してみようか(8/28)
017/62
「あの子とO」万城目学
万城目さんの最新作です。これには前作がありまして、主人公は吸血鬼の血を引く女子高校生。前作では、バスの転落事故という大惨事から不思議な力によってほぼ無傷で生還を果たしたのですが、今作はその後日譚を含む3編の短編からなります。それぞれに共通する登場人物はいるのですが、連続性はありません。その中では、2遍目が作風も違っていて、ぞっとする怖さもあり面白かったです。(8/30)