2025年5月1日木曜日

2025年4月

比較的お天気も良く過ごしやすかった今年の4月でしたが、小説が16冊、その他が10冊、計26冊と結構良い調子で読めました。しかも、16冊の小説のうち半分の8冊は、初めて手にした作家さんという、我ながらの好成績でした。さらに、8人のうち3人は、すでに2冊目に手を伸ばしています。

ということで、今月のお薦めですが、小説では、その3名に触れないといけませんね。

まずは、中村祐次郎さんの『泣くな研修医』。こちらはシリーズ化されていて、人気作家さんといっても良いので、すでに読まれている方も多いと思います。かなり前ですが、誰かがお薦めされていたので、とても気になっていたところ、ようやく読む気になったという次第です。こちらは、現職のお医者さんが作者ということで、自身の経験に裏打ちされた研修医目線で物語が進み、二作目では次のステップに進んだ姿を見せてくれています。一人の青年の成長物語ですね。

お2人目は仙川環さんで、こちらは医学部出身で新聞記者になられたのちに作家をされてい転身されたという変わり種です。作家としては、医療ミステリの分野で活動を始められたようで、デビュー作も読んだのですが、最初に読んだ『カナリア外来へようこそ』の方が面白かったです。我々素人にとっては、医療分野自体がミステリ要素に見ているので、その実態を医者に側から描いてくれるだけで、とても興味深いものになります。別系統の3冊目も借りているので、楽しみです。

3人目は高田在子さんで、私の好きな人情時代小説です。この作家さんは、お料理を切り口に書かれている本が多いのでしょうか、それも好きな分野です。今回読んだシリーズとは別のシリーズをすでに書かれていたようで、慌ててそちらを読み始めました。同時並行になるか、まずは前のシリーズを読むか。思案中です。

あとは、佐野広美さんの江戸川乱歩賞受賞作でありデビュー作である『私が消える』も結構面白かったです。乱歩賞受賞作は久しぶりに読みましたが、外れの多い『このミス大賞』と違って、安心して読めるのがいいですね。

もう一冊土橋さんの『縁結び代官 寺西封元』も良かったです。実在したスーパー代官を主人公に据えた物語ですが、軽い筆致で進められる物語は読みやすくて、とっても良かったです。

続いて、小説以外の本ですが、私は歴史ものが好きなのですが、特に庶民の歴史に興味があります。そんな中で読んだ『女の氏名誕生』は滅茶苦茶良かったです。前著も良かったですが、それは男性に偏っていたので、女性の氏名についての本が読みたいと熱望していたので、とても楽しみ読みました。こういった過去の歴史を踏まえつつ、今の夫婦の姓論争を眺めていると、結構面白いです。お薦めです。

続いては、『国家はいかに楠木正成を作ったのか』です。これはかなり分厚い本でしたが、めちゃくちゃ面白かったです。個人的には、足利尊氏が好きで、楠木正成には良い印象を持っていないのですが、本来の姿以上に持ち上げられてしまったように思えて、若干同上同情しています。特に戦前の教育の中で、必要以上に美化され戦争の道具とされてしまうまでの国家の罪を事実を用いて実証していく姿は、とても参考になります。国家に騙されないためにも彼らの手口を学ぶ教科書になります。

もう一冊は、『エンタイトル』という本で、これはいわゆるジェンダー論に関する本なのですが、男性の側からは気がづかない『男性特権』についてこれでもかと例を挙げて書かれています。アメリカでの実例が中心なので、男女差別、黒人差別、収入差別などいくつもの差別が加重されていて、日本では考えられないような事例が報告されていますが、決してアメリカ特有の事象ではないことを肝に銘じながら読まなければいけないと思いました。次の世代にバトンを渡すときには、キレイに渡したいと思います。ジェンダー論がお嫌いな方にもおすすめです。

たくさん読むと、人に薦めたい本も多くなりますね。ちょうどこの連休中はみやこめっせで古本市をやっているので、また読まずに積読になるのはわかっているけど、何か面白そうな本を探してみようと思います。

また次月もお楽しみに、よろしくお願います。

 

001/046

列島の東西・南北 つながりあう地域 シリーズ古代史をひらくⅡ」川尻秋生責任編集

好きなシリーズなんですが、読み通すのに3か月くらいかかりました。このシリーズでは、随所に歴史学と他分野との学際研究の成果が見られるのですが、文字情報を解析する歴史学の限界を補って、新たな境地を生み出すというドラマチックな歴史シリーズとなっています。今回も、瀬戸内海の潮汐データを解析した瀬戸内交易ルートの分析、文字を持たない蝦夷(アイヌ?)を中心とした東北・北海道の古代史研究など、興味深い内容が満載でした。時間はかかったけど面白かったです。(4/3)

 

002/047

女の氏名誕生 人名へのこだわりはいかにして生まれたのか」尾脇秀和

前著である『氏名の誕生』がとても面白かったのですが、その感想文で、武士ではなく、庶民の、それも女性の名前の歴史についてもとても興味がある旨を書いていたような記憶がり、今作はまさにどんぴしゃりの企画でした。夫婦別性が大きな政治テーマになっている現代ですが、そもそも『苗字』というものを持っていなかった明治維新前の庶民が、明治維新後いきなり『氏名』を定めるよう要請されたときにどのような混乱が起こったのか、詳しく述べられています。なかなか面白い本でした。(4/4)

 

003/048

あなたが眠るまでの物語」遠野海人

初めて読んだ作家さんです。舞台はとある総合病院の緩和ケア病棟。物語は同一と思われる人物が登場しながらパラレルに進むのですが、後半で、意外な形に収れんされます。たターミナルケアということで、悲しい結末しか用意されていないのですが、読みやすくていい小説でした。ただ他の作品を読むかどうかは微妙かな。(4/4)

 

004/049

帆船軍艦の殺人」岡本好貴

最近の鮎川哲也賞受賞作品です。英仏戦争時の英戦艦内が舞台ということで、読みにくいミステリなんじゃないかと危惧していましたが、それほどではなく、ストレスなく読めました。ただ、当時の帆船に関する予備知識が全くない中では船内の様子を想像するのが難しく、せっかくの謎解きも少々消化不良感が残りました。(4/6)

 

005/050

芸能界を変える たった一人から始まった働き方改革」森崎めぐみ

この本は、一人の勇敢な女優さんの奮闘記です。今大揺れに揺れているフジテレビ問題の根っこの一つである芸能従事者とその発注者との歪な関係について、メスを入れ、正当な姿に近づけるための活動を今もされている方です。きっかけは、芸能従事者は基本的に個人事業者であるため、業務の事故による負傷などには労働災害が適用されず、発注者からの補償もほとんどされていません。その制度を変えるべく、国に働きかけるのですが、そこで取られた手法が素晴らしくて、ありとあらゆる関係者からアンケートを集め、膨大な量の実例を集められたことでした。これは、行政を動かすに最も有効な手法であり、まさに感服いたしました。ジャニーズの事件から続く芸能界の深い闇にようやく光が差してきました。誰もが気持ちよくエンターテインメントを楽しめる時代が近づいている感じがします。それにしても中居君って、ホンマにクズでしたね。(4/9)

 

006/051

天皇問答」奥泉光、原武史

作家と学者による対談集、テーマは『天皇』。かなりナーバスなテーマですが、縦横無尽に切り刻んでいます。テロリストが作った明治新政府には、当初から明確な統治方針がなかったため、迷走した挙句、『元勲』たちに乗っ取られてしまう。そのとき統治の象徴として担がれたのが『万世一系の天皇』であった。基よりそのような実態があったわけではないので、急ごしらえで新たな伝統が作られ今に繋がっています。今、誰も責任を取らない社会が私たちの周りを取り巻いています。戦後の個人主義がその元凶と言われていますが、結局先の大戦で、国民を惨禍に巻き込んだ責任者である『大元帥』が、一切責任を取らなかったことが始まりではないでしょうか。(4/9)

 

007/052

二歩前を歩く」石持浅海

あまりたくさん書かれている作家さんではないですが、それぞれが妙に面白くて、時折読んでいます。この作品は、とあるメーカーが舞台で、そこの研究施設で働く技術者が主人公となっています。彼が、職場の仲間の身の周りで起こる不思議な現象について考察します。技術者でありながら、心霊現象をありえないと切り捨てることなく、柔軟な発想でなぞに臨みます。ただ、決して解決するのではなく、ほのめかすに留めるというのが味噌です。(4/10)

 

008/053

泣くな研修医」中山祐次郎

現職のお医者さんが書かれた小説です。主人公は、泣いてばかりで役に立たない研修医。彼には、過去に大きなトラウマがあるようで、なかなかそれを克服することができません。また、それが医者としての成長を妨げてもいるようです。シリーズ化もされていまして、ちょいと面白そうなので、続きも読んでみようと思います。(4/13)

 

009/054

ルポ国威発揚 『再プロパガンダ化』する世界を歩く」辻田真佐憲

変な本でしたが、結構面白かったです。『国威発揚』って、聞いただけでも気持ち悪くなっていますが、ナショナリズムが最大限に発動された状態を作り出すためのプロパガンダということでしょうか。我々の統合と、他者との違いを極端に際立たせることで、何より内向きな統合を強化する方向に進みます。この本では、そういった国威発揚の『現場』からのレポートを集めたものです。読んでいると、どの現場もバカバカしさで満ち溢れているのですが、ふと周りを見ると、『ニッポンすごい!』『Shohei OHTANI!』というテレビ番組がやたら多く、世界から無視され始めている我が国の現状から目を背けようと必死になっている様が目につきます。縮みゆく国の末路なのか。(4/13)

 

010/055

ひとりぼっちの私は、君を青春の亡霊にしない」丸井とまと

初めて読んだ作家さんです。ひたすら友人たちの顔色をうかがってばかりで、自分の本性を出すことを怖がっている高校生の女の子が主人公。あることがきっかけで、その友達からハブられ、孤立してしまう。半径2メートルの世界にどっぷりはまっていると見えてこない広い世界に気づけるかどうか。(4/14)

 

011/056

カナリア外来へようこそ」仙川環

こちらも初めての作家さんです。元々は医療ミステリを書かれていたそうですが、こちらはミステリ臭のない町医者の物語です。小さな町のクリニックで過敏症のための特別外来を営む主人公が、香りや光アレルギーに悩む患者さんの悩みを解決していきます。作者は医学部出身の元記者さんだそうで、丁寧な筆致で好感が持てます。ミステリも読んでみようと思います。(4/15)

 

012/057

味ごよみ、花だより」高田在子

こちらも初めての作家さんです。時代物の小説を書かれているようですが、お料理を題材にされていることが多いようですね。別のシリーズもあるようですが、こちらは新しいシリーズです。小石川の薬園で働く同心とある女性との恋物語です。先行き波乱が待ち受けていそうな物語で、続きを読もうかと思いますが、別のシリーズも読んでみようと思います。(4/15)

 

013/058

エンタイトル 男性の無自覚な資格意識はいかにして女性を傷つけるか」ケイト・マン

世界的なベストセラーとなった前著『ひれふせ女たち(まだ読んでいません)』に続く告発の書です。タイトルを直訳すると『資格を与える』という意味になりますが、これは、男性が無条件に与えられている資格について、女性の立場から疑問を投げかけているものです。『称賛される資格』、『セックスをする資格』『家事労働をしてもらう資格』など、10章にわたって、これでもかと『特権を付与された男性の資格』について語られています。そして、本書でも語られているとおり、その特権を与えているのは、女性である場合も多い。今年初めから大きな事件となっているフジテレビの問題でも、性暴力を働いた男性タレントを擁護し、被害者の女性を貶めようとする圧力が大きく働いています。さらにそれは継続して働いています。悲しいことです。(4/17)

 

014/059

現代日本人の法意識 」瀬木比呂志

もと裁判官で、相変わらずエリート臭がプンプン香る書きっぷりには全く好感が持てないのですが、書かれていることは比較的まともです。

(4/18)

 

015/060

今日のかたすみ」川上佐都

初めて読んだ作家さんです。タイトルどおり、普通の日常が描かれた短編集なのですが、内容は繋がっているようで繋がっていない。それぞれが余韻を持たせたようにぷつっと終わってしまい、個人的には好みではないです。(4/18)

 

016/061

おんな大工お峰 お江戸普請繁盛記」泉ゆたか

こちらも初登場。江戸城普請方の家に生まれながら、他家に嫁に出されることを厭い、大工になりたくて家を飛び出した女性が主人公。知り合いの采配屋の元に身を寄せつつ、大工仕事を請け負っていきます。軽めの人情時代小説です。(4/19)

 

017/062

わたしが消える」佐野広実

先日読んだ小説が面白かったので、デビュー作を読んでみました。久しぶりの江戸川乱歩賞受賞作でした。主人公は引退した元刑事で、自身が認知症と診断されたことで、衝撃を受けていたところに、離れて暮らす娘からアルバイト先である介護施設に保護された認知症の老人の身元調査を依頼される。自分を失ってしまった老人に自らの将来の姿を重ね合わせながら、調査を進めていくうちに、とんでもなく大きな事件にぶつかってしまう。ちょっと大風呂敷を広げすぎたかなという印象ですが、テーマも良くて、面白い小説でした。(4/20)

 

018/063

日航123便墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る」青山透子

先日の国会でも話題になった本ですが、ある種のトンデモ本です。今からちょうど40年前。群馬県の御巣鷹山に墜落した日本航空機を巡る新事実なのです。事故とい当時から原因については、陰謀論などの様々な説があって、ここにある自衛隊機による誤射とその証拠隠滅のための爆破という説もその中の一つでした。この本では、新事実と言いながら、既存の事実を羅列しながら、推測し、結論は述べていません。世の中は平和だなぁと思いながら読みました。(4/20)

 

019/064

縁結び代官 寺西封元」土橋章宏

この江戸時代の寺西という代官は実在した人物で、福島県の塙町に代官として派遣されてから、町を豊かにするため様々な手を尽くしました。江戸時代の代官と言えば、時代劇では100%悪者ですが、こんな人物も実在したんですね。小説自体は、あっさりした書きっぷりでちょっと軽すぎですが、魅力的な主人公がとても良かったです。(4/21)

 

020/065

キッドナッパーズ」門井慶喜

今では人気作家となった門井さんの初期の短編を集めたもので、そこには価値がありますが、個々の小説は、かなりばらつきもあるような印象です。文学書を受賞して、実質的なデビュー作となった表題作は、まずまずでした。(4/23)

 

021/066

国家はいかに『楠木正成』を作ったのか 非常時日本の楠公崇拝」谷田博幸

実は、高校生の頃の日本史の先生の影響もあって、足利尊氏の好きで、当時の逆賊であった楠木正成は好きではないのです。御存じのとおり、戦前には楠木正成が天皇に殉じた英雄としてもてはやされ、『負け戦にも、進んで突撃し、天皇のために死ぬこと』に絶対的な価値があると思い込まされました。この本は、国を挙げて、如何にして国民を洗脳していったかということが、実証を基に丁寧に描かれています。ここ数年、御用学者を中心に、再び楠木正成を評価しようという動きが始まっています。冷静になって動きを注視していくためにも、有用なマニュアルだと思います。面白かったです。(4/25)

 

022/067

世界から称賛される日本人の美質を育んだ 教育勅語の真実」伊藤哲夫

教育勅語を称賛するトンデモ本の一冊です。読んでるうちに、とんでもない方向に話が進んでいくので、呆れかえってしまい、ストレス解消になりました。戦後、教育勅語を抹殺したがために、日本時から道徳心が失われてしまったと憤慨する一方で、東日本大震災の後で見せた被災者たちの秩序だったありようは、教育勅語の精神が今に生きている証であると言ってみたり、支離滅裂で無茶苦茶なお話のオンパレードです。現代の日本人に道徳心がなくなったというが、それは世の大人たちに道徳心がなくなったから子供たちがそれを真似ているからという理由しかありません。子は親を見て育つ。教育のせいにしてはいけない。(4/26)

 

023/068

落語刑事サダキチ 神楽坂の赤犬」愛川晶

以前、別のシリーズを読んだのを思い出しました。落語については、それほど知識があるわけではないので、ついていけませんでした。(4/27)

 

024/069

逃げるな新人外科医 泣くな研修医2」中山祐次郎

先日読んだシリーズの二作目です。新人外科医となった主人公ですが、なかなか思うようにはいきません。相変わらず泣いてばかりで、読んでいる方もイライラしてきます。主人公に恋の予感が芽生える一方で、遠い故郷に住む父に病気の影が。今後彼がどのように成長していくのか楽しみです。(4/27)

 

025/070

殺戮の狂詩曲」中山七里

悪徳弁護士のシリーズで、いつもなら高額の弁護料を受け取りながら、被告を無罪に導く主人公が、今作では高級老人ホームで多数の入居者を殺戮した従業員の国選弁護人となります。弁護の中で、加害者の動機に関わる新事実を明らかにするとともに、彼がこんな事件の弁護人を引き受けたのかという謎も明らかにされます。相変わらず見事な結末でした。(4/29)

 

026/071

感染」仙川環

先日読んだ小説が面白かったので、デビュー作を借りて読んでみました。小学館が主催する文学賞の初回の受賞作だそうです。医療サスペンスなのですが、最初の作品ということもあってか、登場人物にかなり無理をさせているように感じました。ちょっと極端に描き過ぎで、読んでいても安らぐ暇がありませんでした。(4/29)