2025年6月13日金曜日

2025年5月

休日が多かった5月は、小説が21冊、小説以外が9冊で、久しぶりに計30冊という結果になりました。

とはいえ、小説の内訳が『はなの味ごよみ』と『泣くな研修医』の両シリーズで8冊と、若干偏っているところですが、本屋大賞2025のノミネート作が4冊、初めての作家さんが4冊と結構健闘したかなと思いますが、小説でお薦めできる作品が少なくて、かなり悩んでしまいます。

唯一、続きを読みたいと思ったのは、海外ミステリの『金庫破りときどきスパイ』くらいでしょうか。ドイツとの関係がきな臭くなってきた時期のロンドンで、金庫破りを家業とする女性が、当局の罠にかかって、スパイとして働く羽目に。ところが、それがめっぽう気に入ってしまい、新たな家業となってしまう。結構面白かったです。第二次大戦前後を舞台にしたコージーミステリでは、『マギー・ホープ』、『英国王妃の事件ファイル 』、『ロンドン謎解き結婚相談所 』の各シリーズが好きで、それぞれ新刊が出るのを楽しみにしているのですが、このシリーズもちょいと読んでみようかなと思います。

小説に関しては、数を読んだ割には『合わなかった作品』が多かったですが、小説以外の書籍については、結構ヒットもありました。

順に挙げますと、まずは『絶望の林業』ですが、これは本当に面白かったです。政治の問題、従事者の問題、消費者の問題といくつかの視点から多角的に分析されていて、とても分かりやすかったです。結果的に希望ではなく絶望と言わざるを得なかったところに寂しさは感じますが、これも『我々が選んだ道』なんでしょうね。林業だけでなく、他の産業にも当てはまりそうな指摘が多く、とても勉強になりました。今月のイチ押しです。

続いては『武士にもの言う百姓たち』です。これは、江戸時代の訴訟について書かれた本ですが、虐げられる弱い立場にあったと考えられていた農民が、意外としっかり支配層である武士にもの申していたという事実を教えてくれます。以前から何度も書いていますが、私は『庶民の歴史』にとても興味がありまして、特に近世については資料が整理され分析が進んできたことから、我々にもわかりやすい書籍が数多く出版されています。目からうろこの歴史が発掘されてとても面白いです。私同様のマニアの方にお薦めします。

最後は、今なお信じる人がいるというトンデモ本の事件をレポートした『戦後最大の偽書事件 東日流外三郡誌』が良かったです。素人ならまだしも、専門の研修家まで騙されたというのが信じられません。騙された方にはたいへ大変申し訳ないですが、めちゃくちゃ面白いです。一気に読めます。お薦めします。

ここ数年は、なるべく書籍は購入せず、図書館で借りて読むということを課してきました。おかげで本は増えていないのですが、借りて読むを繰り返しているばかりで、過去に購入した書籍が『積読』が全く減らないという現象が起こっています。

そこで、しばらくは図書館で借りる本を極力減らし、自宅に積みあがっている本を減らしていこうと思っています。おそらく、100や200ではきかないと思いますので、どれほどかかるかわかりませんが、乞う御期待。

 

001/072

はなの味ごよみ」高田在子

先日読んだ別シリーズの元になっているシリーズなので、こちらを先に読み切ろうと思います。鎌倉で農業しながら暮らしている主人公の元に、江戸者が転がり込んできて、夫婦になります。平穏な暮らしが続くと思った矢先に夫が失踪。主人公は夫を探して江戸へ行くも空腹で倒れたところを療養所で働く同心に助けられ、一膳めし屋で働きながら夫を探す。この先10巻まで続くシリーズの始まりです。(5/3)

 

002/073

走れ外科医 泣くな研修医3」中山祐次郎

こちらも気に入っているシリーズものの三作目。主人公の外科医もやっと一本立ちして、研修医の指導医になりますが、ヘタレぶりは相変わらず。余命わずかの患者とのかかわりが描かれるのですが、かなり危ういです。(5/3)

 

003/074

はなの味ごよみ 願かけ鍋」高田在子

シリーズの2作目。相変わらず夫の行方は分からないものの、よく似た人物を見かけます。食べ物をきっかけにたくさんの人たちと出会います。(5/4)

 

004/075

武士に『もの言う』百姓たち 裁判でよむ江戸時代」渡辺尚志

制度が全く整っていなかった江戸時代の訴訟について、ある実例を交えながら解説した物ですが、この実例がとても面白い。記録に残った書面上でしかわからないのですが、その場しのぎの言い逃れや、他人への責任転嫁が横行していて爆笑もんです。制度として定まっていなかったからこそ自由度が高かったんだろうと思われます。面白かったです。(5/5)

 

005/076

クスノキの女神」東野圭吾

『~番人』の続編です。ミステリ作品の多い東野さんですが、この作品では大きな事件は起きず、もう一つの特徴であるSFチックなファンタジー要素の詰まった作品です。続編にして大きな変化を遂げて結末を迎えました。果たして続編はあるのか?ちょっと興味があります。(5/6)

 

006/077

古代王権 王はどうして生まれたか シリーズ古代史をひらく2」吉村武彦責任編集

これも気に入っているシリーズの一冊です。内容的にはかなり難しく、数カ月をかけてようやく読み切りました。王はどうして王たり得たのか。というテーマは私にとっては未知の分野で、西欧の王や中国の皇帝は、神(天)からその地位を授けられたという共通した特徴があるのですが、日本の天皇制は、神(天)と天皇が血でつながっている、一体であるという構成をとっているところに最大の特徴があります。なぜ、当時の世界の常識をそのまま当てはめず、このような独特な体系を作ることができたのか、興味が尽きないところです。(5/6)

 

007/078

西陣室町繊維産業の信用システム 京都伝統産業の歴史から考察する」大森晋

改めて、京都の繊維産業について知識を深めたくて読んでみました。著者は、京都市内の金融機関で働いておられたそうで、後半の信用システムについての記載はかなりしょうせい詳細で、私にはかなり難しかった。前半の流通システム部分については、知らなかったこともあり、改めて勉強になりました。(5/7)

 

008/079

ピーターの法則 創造的無能のすすめ」L.J.ピーター、R.ヒル

ピーターの法則『階層社会にあっては、その構成員は(各自の器量に応じて)それぞれ無能のレベルに達する傾向がある』。平たく言うと、この世は無能な者に支配されているということ。50年以上前に書かれたベストセラーです。経営学の端っこを齧るようになったころから気になっていて、いつか読みたいなと思っていたものですが、縁あって読んでみました。内容的にはとても面白かったのですが、実際のところ、この本は真面目に書かれたものなのか、それともジョークとして出版されたものなのか判別がつきませんでした。(5/7)

 

009/080

ボーダーズ」堂場瞬一

警察小説の名手である著者による、警視庁特殊捜査班という怪しげセクションの刑事たちが活躍する物語です。シリーズものの第一巻です。「刑事・鳴沢了」シリーズが面白くて、読み込んだ時期がありましたが、最近は少し離れていました。

(5/9)

 

010/081

はなの味ごよみ にぎり雛」高田在子

シリーズ三作目です。今作でもまた食べ物を通じて新たな出会いがあります。そして、ついに主人公の失踪した夫の姿が見つかるのですが、その正体が明らかにならず謎が深まるばかりです。(5/10)

 

011/082

死んだ山田と教室」金子玲介

非常に軽い文体で、若い方に人気のある作家さんのようです。今年の本屋大賞の候補になったこともあって、初めて手にいたしました。主人公である高校二年生の山田君は、物語の冒頭ではすでに交通事故で亡くなっているのですが、彼を悼む教室のスピーカーを通して突如山田君がしゃべり始めます。声だけが生き返るという奇妙な設定で物語が始まります。ただ、彼の声がするのは、そのクラスの教室のみ。他の場所では聞くことができません。この設定だと結末は悲劇にしかならないことが想定されるので、それをどう決着させるのか、興味を持って読んでおりましたが、結果的にはうまく消化しきれなかったように感じられます。ちょっと残念。(5/11)

 

012/083

絶望の林業」田中淳夫

今月此処まで読んだ本の中では抜群の面白さ、およそ300ページの書物ですが、朝夕の通勤社内で一気に読みました。第一次産業の衰退が問題とされて久しいですが、農業、水産漁業に比べて、林業については『食い物』に直結していないだけに、私たちの脳みそから零れ落ちているような気がします。国土の7割を森林が占めると言われますが、林業が絶滅するということは、国土の7割が崩壊するということです。何とか絶望を希望に変えなければいけないという思いで書かれたものとお見受けします。実はこの本を読みながらも、私が携わっている伝統工芸によく似ていると思うところが多々あり、非常に興味深く読みました。社会環境の問題、従事者の問題、政策の問題などなど、ほとんどが伝統工芸産業界にも当てはまります。私も伝統工芸産業を希望の産業にしたい。この本からいくつかのヒントをいただきました。とにかく面白いお薦めです。(5/13)

 

013/084

幸福の劇薬 」仙川環

以前読んだ『カナリア外来~』が面白かったので、デビュー作を読んで、その次に選んだ一冊です。デビュー後は医療ミステリを書かれていたようで、この本もその一環。すでに何冊か書かれて、脂ののった時期の作品だと期待して読んだのですが、私には合いませんでした。ミステリ部分に力が入っているためか、登場人物が必要以上にエキセントリックであったり、無能であったりと、相当誇張して描かれており、読んでいてしんどくなってきます。しばらく離れようかと思います。(5/13)

 

014/085

戦後最大の偽書事件『東日流外三郡誌』」斉藤光政

めちゃくちゃ面白かったです。超古代、東北に大和朝廷に匹敵する大勢力が存在した。歴史ファンのロマンをくすぐるような大量の古文書が、東北の民家の屋根裏から発見された。その中核をなすのが東日流外三郡誌『東日流』でつがると読むらしいです。世紀の大発見に、地元自治体は舞い上がり、踊らされるのですが、これがなんと真っ赤な贋物、発見者による創作物だったという悲しいオチオチが付いています。この偽書事件の当初から関わった地元地方紙の記者が記録した事件の全貌です。首謀者は、どれだけ証拠を突き付けられても、頑として偽書であることを認めないまま亡くなりましました。『邪馬台国はなかった』で有名な古田武彦氏もこの偽書擁護派の急先鋒だったそうで、ちょっとイメージが変わりました。時系列に纏められているので、とても理解しやすく、読みやすい本でした。(5/16)

 

015/086

やめるな外科医 泣くな研修医4」中山祐次郎

シリーズ4作目で、主人公は30歳となり外科医としての経験も積んで、着実に医師としての力を付けつつあるが、残念ながら人間としては、全く成長の跡が見えず、読んでいてもイライラしてきます。作者もお医者さんなのですが、これが日本の医者の実態だということなのか、それとも将来の成長に向けた伏線として描かれているのか気になるところです。(5/17)

 

016/087

きまぐれ未来寄席」江坂遊

未来のとある時代に時間軸を設定し、そこから見た過去の物語を落語調で語るショートショート集です。明らかに星新一さんに影響を受けているなと思わせる書きっぷりで、とても読みやすいです。あっという間に読み終わりました。(5/21)

 

017/088

はなの味ごよみ 夢見酒」高田在子

シリーズの第4巻で、主人公の行方不明だった夫の正体が判明します。つかの間の再会を果たしますが、不透明な先行きに気分がふさぎそうになるも、仲間たちの励ましで前向きに生きていく主人公です。(5/21)

 

018/089

海外メディアは見た 不思議の国ニッポン 」クーリエ・ジャポン編

外国と比較してどうこう言うのはが、必ずしも正しいとは思えませんが、絶対的に正しくないと思えることもたくさんあります。また、外国の真似をして排外主義に走ることも間違っていると思います。自分の姿は、自分では見えないものです。周りからの客観的な評価を聴いて、自分の姿を認識し、正すべきところは正すという態度が必要なのではないでしょうか。(5/21)

 

019/090

spring」恩田陸

2025年本屋大賞で6位にランキングされました。『蜜蜂と遠雷』に続く芸術家を主人公にした物語ですが、本作ではバレイがテーマで、一人の少年が、一流の振付師として世に出るまでの数年間を描いています。この世界のことについては、全く予備知識がないので、読んでいてもすっかり腑に落ちたとはならないのが歯がゆかったです。(5/22)

 

020/091

金庫破りときどきスパイ」アシュリー・ウィーヴァー

第二次大戦中のイギリスが舞台。罠とは知らない金庫破りのお仕事中に逮捕された主人公が、情報部から命を受け、スパイとして活動を始めます。ミッションは成功し、続編も編まれているようです。この時代のロンドンを舞台にしたコージーミステリは結構気に入っていて、今も3つのシリーズを楽しみに読んでますが、これもその中に加えたいと思います。(5/33)

 

021/092

恋とか愛とかやさしさなら」一穂ミチ

主人公が恋人からプロポーズを受けた翌朝、その恋人が通勤時に盗撮で捕まってしまうというショッキングな出来事から物語は始まります。恋人としては、どうふるまうべきなのか。その心中の葛藤が描かれたあと、最後に張本人である恋人の心中が語られます。これは本屋大賞2025の第7位でした。(5/24)

 

022/093

禁忌の子」山口美桜

こちらは本屋大賞2025の第4位で、なおかつ鮎川哲也賞受賞の医療ミステリです。作者も医師で、探偵役を務める主人公も医師なのですが、相棒役を務める女性記者が、かなり悪意を持って描かれており、マスコミに対して平たんではない思いをお持ちのように見受けられます。個人的には納得がいきづらい結末で、モヤっとした思いを抱えながら読了しました。(5/24)

 

023/094

署長シンドローム」今野敏

作者の人気シリーズである『隠蔽捜査』のスピンアウト小説で、警視庁大森署の『その後』が描かれます。新たに同署の署長に就任したのは女性キャリアで、相当の美人らしい。警視庁だけでなく神奈川県警、厚労省の麻取などの強者をうまく操って事件を解決に導きます。なかなか魅力的な主人公です。続編も出ていますので、これも楽しみに読みたいと思います。(5/25)

 

024/095

日本の中の中国」中島惠

日本に住む外国人の中で最も多くの割合を占めているのが中国人。とはいえ、彼らも一様ではなく現状3つの層に分かれているそうです。ネトウヨの皆さんからすると、ほとんどが『犯罪者』であったり、特別待遇を受ける『寄生虫』なんだそうですが、それはごく一部。ほとんどの人達は真面目に暮らしておられます。もちろん習慣の違いというのはあって、それが軋轢の元になっているのだと思いますが、かつての我々日本人の姿だと思うところが多く、きっと理解し合えると思うのは、甘いでしょうか。(5/25)

 

025/096

怪談刑事」青柳碧人

怪奇現象としか言いようのない未解決事件を専門に扱う警察庁の部署に配属された敏腕刑事。怪奇現象は全く信じないことから、未解決の事件を徹底検証し、解決に導く。登場人物があまりに特殊すぎて読み手のスタンスが難しいところ。(5/25)

 

026/097

悩め医学生  泣くな研修医5」中山祐次郎

シリーズの5作目は、主人公の大学生時代を描きます。主人公の優柔不断さ、ヘタレ加減は生来のモノのようで、本作でもいかんなく発揮されています。逆にいうとこの当時からこの主人公の人間性は停滞しているってことか?こんな医者には掛かりたく無いなぁ。モヤモヤ。(5/27)

 

027/098

はなの味ごよみ 七夕そうめん 」高田在子

こちらもシリーズ5作目ですね。主人公の夫の正体が明らかになり、主人公の不安はかえって大きくなるばかり。新たなレギューラーも増えて、ますますにぎやかになってきました。(5/29)

 

028/099

陰謀の日本近現代史」保阪正康

近現代史と銘打たれていますが、半分以上は太平洋戦争時の日本政府と軍部の暴走を綴ったもの。『陰謀の』とも書かれていますが、どの部分が陰謀なのか、さっぱり判らない。こういった歴史検証は、半藤氏に分があると思います。(5/29)

 

029/100

推定脅威」未須本有生

今年の100冊目は、初めて手にした作家さんです。空自と航空機メーカーの物語。国籍不明の航空機接近に対しスクランブル出動したところ、二度にわたってトラブルが発生したことから、航空機メーカーとともとともに調査を開始。一人の女性技術者の気づきが契機となって、過去の事件が判明する。テーマは重厚ですが、文章はそれほど重くありません。むしろ軽め。(5/31)

 

030/101

警視庁FC」今野敏

この『FC』は『フィルムコミッション』の略。警視庁にそんな部署が開設され、いやいやながら招集された映画のロケ先で殺人事件が発生。でもなんか変。ちょっとどこに分類したらよいのか難しいジャンルの物語でした。(5/31)

 

2025年5月1日木曜日

2025年4月

比較的お天気も良く過ごしやすかった今年の4月でしたが、小説が16冊、その他が10冊、計26冊と結構良い調子で読めました。しかも、16冊の小説のうち半分の8冊は、初めて手にした作家さんという、我ながらの好成績でした。さらに、8人のうち3人は、すでに2冊目に手を伸ばしています。

ということで、今月のお薦めですが、小説では、その3名に触れないといけませんね。

まずは、中村祐次郎さんの『泣くな研修医』。こちらはシリーズ化されていて、人気作家さんといっても良いので、すでに読まれている方も多いと思います。かなり前ですが、誰かがお薦めされていたので、とても気になっていたところ、ようやく読む気になったという次第です。こちらは、現職のお医者さんが作者ということで、自身の経験に裏打ちされた研修医目線で物語が進み、二作目では次のステップに進んだ姿を見せてくれています。一人の青年の成長物語ですね。

お2人目は仙川環さんで、こちらは医学部出身で新聞記者になられたのちに作家をされてい転身されたという変わり種です。作家としては、医療ミステリの分野で活動を始められたようで、デビュー作も読んだのですが、最初に読んだ『カナリア外来へようこそ』の方が面白かったです。我々素人にとっては、医療分野自体がミステリ要素に見ているので、その実態を医者に側から描いてくれるだけで、とても興味深いものになります。別系統の3冊目も借りているので、楽しみです。

3人目は高田在子さんで、私の好きな人情時代小説です。この作家さんは、お料理を切り口に書かれている本が多いのでしょうか、それも好きな分野です。今回読んだシリーズとは別のシリーズをすでに書かれていたようで、慌ててそちらを読み始めました。同時並行になるか、まずは前のシリーズを読むか。思案中です。

あとは、佐野広美さんの江戸川乱歩賞受賞作でありデビュー作である『私が消える』も結構面白かったです。乱歩賞受賞作は久しぶりに読みましたが、外れの多い『このミス大賞』と違って、安心して読めるのがいいですね。

もう一冊土橋さんの『縁結び代官 寺西封元』も良かったです。実在したスーパー代官を主人公に据えた物語ですが、軽い筆致で進められる物語は読みやすくて、とっても良かったです。

続いて、小説以外の本ですが、私は歴史ものが好きなのですが、特に庶民の歴史に興味があります。そんな中で読んだ『女の氏名誕生』は滅茶苦茶良かったです。前著も良かったですが、それは男性に偏っていたので、女性の氏名についての本が読みたいと熱望していたので、とても楽しみ読みました。こういった過去の歴史を踏まえつつ、今の夫婦の姓論争を眺めていると、結構面白いです。お薦めです。

続いては、『国家はいかに楠木正成を作ったのか』です。これはかなり分厚い本でしたが、めちゃくちゃ面白かったです。個人的には、足利尊氏が好きで、楠木正成には良い印象を持っていないのですが、本来の姿以上に持ち上げられてしまったように思えて、若干同上同情しています。特に戦前の教育の中で、必要以上に美化され戦争の道具とされてしまうまでの国家の罪を事実を用いて実証していく姿は、とても参考になります。国家に騙されないためにも彼らの手口を学ぶ教科書になります。

もう一冊は、『エンタイトル』という本で、これはいわゆるジェンダー論に関する本なのですが、男性の側からは気がづかない『男性特権』についてこれでもかと例を挙げて書かれています。アメリカでの実例が中心なので、男女差別、黒人差別、収入差別などいくつもの差別が加重されていて、日本では考えられないような事例が報告されていますが、決してアメリカ特有の事象ではないことを肝に銘じながら読まなければいけないと思いました。次の世代にバトンを渡すときには、キレイに渡したいと思います。ジェンダー論がお嫌いな方にもおすすめです。

たくさん読むと、人に薦めたい本も多くなりますね。ちょうどこの連休中はみやこめっせで古本市をやっているので、また読まずに積読になるのはわかっているけど、何か面白そうな本を探してみようと思います。

また次月もお楽しみに、よろしくお願います。

 

001/046

列島の東西・南北 つながりあう地域 シリーズ古代史をひらくⅡ」川尻秋生責任編集

好きなシリーズなんですが、読み通すのに3か月くらいかかりました。このシリーズでは、随所に歴史学と他分野との学際研究の成果が見られるのですが、文字情報を解析する歴史学の限界を補って、新たな境地を生み出すというドラマチックな歴史シリーズとなっています。今回も、瀬戸内海の潮汐データを解析した瀬戸内交易ルートの分析、文字を持たない蝦夷(アイヌ?)を中心とした東北・北海道の古代史研究など、興味深い内容が満載でした。時間はかかったけど面白かったです。(4/3)

 

002/047

女の氏名誕生 人名へのこだわりはいかにして生まれたのか」尾脇秀和

前著である『氏名の誕生』がとても面白かったのですが、その感想文で、武士ではなく、庶民の、それも女性の名前の歴史についてもとても興味がある旨を書いていたような記憶がり、今作はまさにどんぴしゃりの企画でした。夫婦別性が大きな政治テーマになっている現代ですが、そもそも『苗字』というものを持っていなかった明治維新前の庶民が、明治維新後いきなり『氏名』を定めるよう要請されたときにどのような混乱が起こったのか、詳しく述べられています。なかなか面白い本でした。(4/4)

 

003/048

あなたが眠るまでの物語」遠野海人

初めて読んだ作家さんです。舞台はとある総合病院の緩和ケア病棟。物語は同一と思われる人物が登場しながらパラレルに進むのですが、後半で、意外な形に収れんされます。たターミナルケアということで、悲しい結末しか用意されていないのですが、読みやすくていい小説でした。ただ他の作品を読むかどうかは微妙かな。(4/4)

 

004/049

帆船軍艦の殺人」岡本好貴

最近の鮎川哲也賞受賞作品です。英仏戦争時の英戦艦内が舞台ということで、読みにくいミステリなんじゃないかと危惧していましたが、それほどではなく、ストレスなく読めました。ただ、当時の帆船に関する予備知識が全くない中では船内の様子を想像するのが難しく、せっかくの謎解きも少々消化不良感が残りました。(4/6)

 

005/050

芸能界を変える たった一人から始まった働き方改革」森崎めぐみ

この本は、一人の勇敢な女優さんの奮闘記です。今大揺れに揺れているフジテレビ問題の根っこの一つである芸能従事者とその発注者との歪な関係について、メスを入れ、正当な姿に近づけるための活動を今もされている方です。きっかけは、芸能従事者は基本的に個人事業者であるため、業務の事故による負傷などには労働災害が適用されず、発注者からの補償もほとんどされていません。その制度を変えるべく、国に働きかけるのですが、そこで取られた手法が素晴らしくて、ありとあらゆる関係者からアンケートを集め、膨大な量の実例を集められたことでした。これは、行政を動かすに最も有効な手法であり、まさに感服いたしました。ジャニーズの事件から続く芸能界の深い闇にようやく光が差してきました。誰もが気持ちよくエンターテインメントを楽しめる時代が近づいている感じがします。それにしても中居君って、ホンマにクズでしたね。(4/9)

 

006/051

天皇問答」奥泉光、原武史

作家と学者による対談集、テーマは『天皇』。かなりナーバスなテーマですが、縦横無尽に切り刻んでいます。テロリストが作った明治新政府には、当初から明確な統治方針がなかったため、迷走した挙句、『元勲』たちに乗っ取られてしまう。そのとき統治の象徴として担がれたのが『万世一系の天皇』であった。基よりそのような実態があったわけではないので、急ごしらえで新たな伝統が作られ今に繋がっています。今、誰も責任を取らない社会が私たちの周りを取り巻いています。戦後の個人主義がその元凶と言われていますが、結局先の大戦で、国民を惨禍に巻き込んだ責任者である『大元帥』が、一切責任を取らなかったことが始まりではないでしょうか。(4/9)

 

007/052

二歩前を歩く」石持浅海

あまりたくさん書かれている作家さんではないですが、それぞれが妙に面白くて、時折読んでいます。この作品は、とあるメーカーが舞台で、そこの研究施設で働く技術者が主人公となっています。彼が、職場の仲間の身の周りで起こる不思議な現象について考察します。技術者でありながら、心霊現象をありえないと切り捨てることなく、柔軟な発想でなぞに臨みます。ただ、決して解決するのではなく、ほのめかすに留めるというのが味噌です。(4/10)

 

008/053

泣くな研修医」中山祐次郎

現職のお医者さんが書かれた小説です。主人公は、泣いてばかりで役に立たない研修医。彼には、過去に大きなトラウマがあるようで、なかなかそれを克服することができません。また、それが医者としての成長を妨げてもいるようです。シリーズ化もされていまして、ちょいと面白そうなので、続きも読んでみようと思います。(4/13)

 

009/054

ルポ国威発揚 『再プロパガンダ化』する世界を歩く」辻田真佐憲

変な本でしたが、結構面白かったです。『国威発揚』って、聞いただけでも気持ち悪くなっていますが、ナショナリズムが最大限に発動された状態を作り出すためのプロパガンダということでしょうか。我々の統合と、他者との違いを極端に際立たせることで、何より内向きな統合を強化する方向に進みます。この本では、そういった国威発揚の『現場』からのレポートを集めたものです。読んでいると、どの現場もバカバカしさで満ち溢れているのですが、ふと周りを見ると、『ニッポンすごい!』『Shohei OHTANI!』というテレビ番組がやたら多く、世界から無視され始めている我が国の現状から目を背けようと必死になっている様が目につきます。縮みゆく国の末路なのか。(4/13)

 

010/055

ひとりぼっちの私は、君を青春の亡霊にしない」丸井とまと

初めて読んだ作家さんです。ひたすら友人たちの顔色をうかがってばかりで、自分の本性を出すことを怖がっている高校生の女の子が主人公。あることがきっかけで、その友達からハブられ、孤立してしまう。半径2メートルの世界にどっぷりはまっていると見えてこない広い世界に気づけるかどうか。(4/14)

 

011/056

カナリア外来へようこそ」仙川環

こちらも初めての作家さんです。元々は医療ミステリを書かれていたそうですが、こちらはミステリ臭のない町医者の物語です。小さな町のクリニックで過敏症のための特別外来を営む主人公が、香りや光アレルギーに悩む患者さんの悩みを解決していきます。作者は医学部出身の元記者さんだそうで、丁寧な筆致で好感が持てます。ミステリも読んでみようと思います。(4/15)

 

012/057

味ごよみ、花だより」高田在子

こちらも初めての作家さんです。時代物の小説を書かれているようですが、お料理を題材にされていることが多いようですね。別のシリーズもあるようですが、こちらは新しいシリーズです。小石川の薬園で働く同心とある女性との恋物語です。先行き波乱が待ち受けていそうな物語で、続きを読もうかと思いますが、別のシリーズも読んでみようと思います。(4/15)

 

013/058

エンタイトル 男性の無自覚な資格意識はいかにして女性を傷つけるか」ケイト・マン

世界的なベストセラーとなった前著『ひれふせ女たち(まだ読んでいません)』に続く告発の書です。タイトルを直訳すると『資格を与える』という意味になりますが、これは、男性が無条件に与えられている資格について、女性の立場から疑問を投げかけているものです。『称賛される資格』、『セックスをする資格』『家事労働をしてもらう資格』など、10章にわたって、これでもかと『特権を付与された男性の資格』について語られています。そして、本書でも語られているとおり、その特権を与えているのは、女性である場合も多い。今年初めから大きな事件となっているフジテレビの問題でも、性暴力を働いた男性タレントを擁護し、被害者の女性を貶めようとする圧力が大きく働いています。さらにそれは継続して働いています。悲しいことです。(4/17)

 

014/059

現代日本人の法意識 」瀬木比呂志

もと裁判官で、相変わらずエリート臭がプンプン香る書きっぷりには全く好感が持てないのですが、書かれていることは比較的まともです。

(4/18)

 

015/060

今日のかたすみ」川上佐都

初めて読んだ作家さんです。タイトルどおり、普通の日常が描かれた短編集なのですが、内容は繋がっているようで繋がっていない。それぞれが余韻を持たせたようにぷつっと終わってしまい、個人的には好みではないです。(4/18)

 

016/061

おんな大工お峰 お江戸普請繁盛記」泉ゆたか

こちらも初登場。江戸城普請方の家に生まれながら、他家に嫁に出されることを厭い、大工になりたくて家を飛び出した女性が主人公。知り合いの采配屋の元に身を寄せつつ、大工仕事を請け負っていきます。軽めの人情時代小説です。(4/19)

 

017/062

わたしが消える」佐野広実

先日読んだ小説が面白かったので、デビュー作を読んでみました。久しぶりの江戸川乱歩賞受賞作でした。主人公は引退した元刑事で、自身が認知症と診断されたことで、衝撃を受けていたところに、離れて暮らす娘からアルバイト先である介護施設に保護された認知症の老人の身元調査を依頼される。自分を失ってしまった老人に自らの将来の姿を重ね合わせながら、調査を進めていくうちに、とんでもなく大きな事件にぶつかってしまう。ちょっと大風呂敷を広げすぎたかなという印象ですが、テーマも良くて、面白い小説でした。(4/20)

 

018/063

日航123便墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る」青山透子

先日の国会でも話題になった本ですが、ある種のトンデモ本です。今からちょうど40年前。群馬県の御巣鷹山に墜落した日本航空機を巡る新事実なのです。事故とい当時から原因については、陰謀論などの様々な説があって、ここにある自衛隊機による誤射とその証拠隠滅のための爆破という説もその中の一つでした。この本では、新事実と言いながら、既存の事実を羅列しながら、推測し、結論は述べていません。世の中は平和だなぁと思いながら読みました。(4/20)

 

019/064

縁結び代官 寺西封元」土橋章宏

この江戸時代の寺西という代官は実在した人物で、福島県の塙町に代官として派遣されてから、町を豊かにするため様々な手を尽くしました。江戸時代の代官と言えば、時代劇では100%悪者ですが、こんな人物も実在したんですね。小説自体は、あっさりした書きっぷりでちょっと軽すぎですが、魅力的な主人公がとても良かったです。(4/21)

 

020/065

キッドナッパーズ」門井慶喜

今では人気作家となった門井さんの初期の短編を集めたもので、そこには価値がありますが、個々の小説は、かなりばらつきもあるような印象です。文学書を受賞して、実質的なデビュー作となった表題作は、まずまずでした。(4/23)

 

021/066

国家はいかに『楠木正成』を作ったのか 非常時日本の楠公崇拝」谷田博幸

実は、高校生の頃の日本史の先生の影響もあって、足利尊氏の好きで、当時の逆賊であった楠木正成は好きではないのです。御存じのとおり、戦前には楠木正成が天皇に殉じた英雄としてもてはやされ、『負け戦にも、進んで突撃し、天皇のために死ぬこと』に絶対的な価値があると思い込まされました。この本は、国を挙げて、如何にして国民を洗脳していったかということが、実証を基に丁寧に描かれています。ここ数年、御用学者を中心に、再び楠木正成を評価しようという動きが始まっています。冷静になって動きを注視していくためにも、有用なマニュアルだと思います。面白かったです。(4/25)

 

022/067

世界から称賛される日本人の美質を育んだ 教育勅語の真実」伊藤哲夫

教育勅語を称賛するトンデモ本の一冊です。読んでるうちに、とんでもない方向に話が進んでいくので、呆れかえってしまい、ストレス解消になりました。戦後、教育勅語を抹殺したがために、日本時から道徳心が失われてしまったと憤慨する一方で、東日本大震災の後で見せた被災者たちの秩序だったありようは、教育勅語の精神が今に生きている証であると言ってみたり、支離滅裂で無茶苦茶なお話のオンパレードです。現代の日本人に道徳心がなくなったというが、それは世の大人たちに道徳心がなくなったから子供たちがそれを真似ているからという理由しかありません。子は親を見て育つ。教育のせいにしてはいけない。(4/26)

 

023/068

落語刑事サダキチ 神楽坂の赤犬」愛川晶

以前、別のシリーズを読んだのを思い出しました。落語については、それほど知識があるわけではないので、ついていけませんでした。(4/27)

 

024/069

逃げるな新人外科医 泣くな研修医2」中山祐次郎

先日読んだシリーズの二作目です。新人外科医となった主人公ですが、なかなか思うようにはいきません。相変わらず泣いてばかりで、読んでいる方もイライラしてきます。主人公に恋の予感が芽生える一方で、遠い故郷に住む父に病気の影が。今後彼がどのように成長していくのか楽しみです。(4/27)

 

025/070

殺戮の狂詩曲」中山七里

悪徳弁護士のシリーズで、いつもなら高額の弁護料を受け取りながら、被告を無罪に導く主人公が、今作では高級老人ホームで多数の入居者を殺戮した従業員の国選弁護人となります。弁護の中で、加害者の動機に関わる新事実を明らかにするとともに、彼がこんな事件の弁護人を引き受けたのかという謎も明らかにされます。相変わらず見事な結末でした。(4/29)

 

026/071

感染」仙川環

先日読んだ小説が面白かったので、デビュー作を借りて読んでみました。小学館が主催する文学賞の初回の受賞作だそうです。医療サスペンスなのですが、最初の作品ということもあってか、登場人物にかなり無理をさせているように感じました。ちょっと極端に描き過ぎで、読んでいても安らぐ暇がありませんでした。(4/29)

  

2025年4月2日水曜日

2025年3月

2025年3月は、小説13冊、その他3冊、合計16冊という結果になりました。

これで、月15冊ペースが三カ月続いています。実は、今年に入って、途中まで読んでギブアップした本が5冊以上あって、根気と集中力が続かなくなって来たことを実感しています。この流れは止められないのかな。

てなことで、今月のお薦めです。

今月は、本屋大賞の候補作を2冊読んだのですが、その中では『アルプス席の母』が良かったです。タイトルからわかるとおり、高校野球をテーマにした小説なのですが、視点が斬新で、感心しました。冒頭の描写から結末が読めていたような気になっていたところ、いい意味で裏切られた感がする展開で、かなりお薦めできます。

続いては、『笑う森』も良かったです。途中まで見せられたばらばらの物語をあんな形でつなげるとは、素晴らしい構成力かと思います。こちらも、予想を裏切る結末で、とても良かったです。こちらもお薦めです。

もう一冊、『誰かがこの町で』も良かったです。登場人物の一人が、ちょっと信じられないくらい無謀な暴走をするところは、かなり無理があるなと思いましたが、それ以外は社会派のミステリとして良い出来だと思います。

でもって、小説以外の本ですが、近年話題になった教育勅語に関する『教育勅語と日本社会』が良かったです。こういったものにはアレルギーがあるという方も、80年前までは、これが常識で、このように日本人は洗脳されていったんだという歴史を学ぶ意味でもとても価値ある一冊だと思います。まぁ、騙されたと思って読んでみてください。ひょっとしたら面白いかもしれません。

冒頭に書いたとおり、最近は集中力が続かず、長い書物を読み通すのがしんどくなってきました。歴史や哲学などは、あんなに好きだったのに、読もうという意欲もあまり湧いてこないこないのは、年を取ったせいとは思いたくないですが、やはり老化には勝てないということでしょうか。

かつてのような馬力はないですが、月も変わったところで、今後は読みたくなったら、読みたい本を読むことに徹していきたいと思います。

 

001/030

ほどなく、お別れです」長月天音

こちらも初めて読む作家さんです。主人公は葬儀屋でアルバイトとして働く女子大生。どうも彼女は特殊な能力があって、『視える』らしいのです。それはこの仕事にとって良いことなのかどうか。ある種のお仕事小説なのですが、ちょっと良かったです。続編が出ているので、それらも読んでみようかと思います。(3/2)

 

002/031

ヒトリコ」額賀澪

引き続き初見の作家さんです。小学五年生のある日、不条理な理由で教師からも周りの児童からもハブられてしまった主人公の少女。周りに一切期待することなく、『ヒトリコ』として中学生活を送ります。その後に進学した高校で、不条理な出来事のききっかけとなった幼馴染と再会し、ヒトリコの心境に少しずつ変化が起こります。すっきり爽快とはいきませんが、良いお話でした。(3/5)

 

003/032

明智恭介の奔走」今村昌弘

『このミス大賞』をとり映画化もされた『屍人荘の殺人』で、とても残念なキャラとなってしまった大学生を主人公に据えた前日譚です。続編が2作で止まっているので、ネタ切れかと心配していたのですが、こういう展開方法もあるんだねという作品でした。まずますでした。(3/7)

 

004/033

笑う森」荻原浩

これは面白かったです。主人公は障害を持った少年で、ある日シングルマザーの母親と『神森』という広大な森林へ行ったところで、行方不明になってしまうが、数日後にほぼ健康体で発見されます。特に栄養状態が悪いわけでもなく、大きなけがもしていない。この数日間、どうやって過ごしていたのか。少年の叔父が、その謎を解くために奔走します。読み応えのある良い物語でした。良かったです。(3/9)

 

005/034

天皇陵の近代史」外池昇

全国に天皇陵は数多くありますが、古代の天皇陵については、かなりいい加減なもので、ほぼ実在していないことが明らかな天皇たちの陵墓もしっかり残されています。これらは、江戸時代末期に、宇都宮藩の一藩士の立案によって、幕府が天皇陵の実態を調査し、必要な修復をしたことに始まるそうです。そんな歴史があったとhとは、この本を読むまで全く知りませんでした。今から25年前、著者がまだ40歳代だったころに書かれたものでした。なかなか興味深い本でした。このさい、欠史八代と言われている実在しないであろう天皇たちの陵墓を周ってみようかなと思います。(3/11)

 

006/035

凪の残響 警視庁殺人分析班」麻見和史

これは、お気に入りシリーズの一作です。舞台は東京お台場、ショッピングセンター内で切断された指が4本発見されるところから物語がスタートします。この著者の描く警察小説は結構好きです。このシリーズの場合、主人公がかなり気に入っています。

(3/14)

 

007/036

私の知る花」町田その子

今年の本屋大賞ノミネート作品だそうです。狙いをつけて借りてきました。始まりは中学生カップルの痴話げんかだったりして、ヤングアダルト向けの作品かと思いきや、中盤からは、しっかり大人向けの激しい物語でした。面白作品でしたが、登場人物たちのキャラ設定に、かなり無理をさせているように見受けられました。ちょっと詰め込み過ぎではなかろうか。(3/15)

 

008/037

徹底検証 教育勅語と日本社会 いま、歴史から考える」岩波書店編

かなり難解で時間が掛かりましたが、教育勅語を復権させてはならないという危機感をバネに難とか読み切ることができました。教育勅語にも良いことが書いてあるとか、今の社会にも通じる部分があるとか、訳の分からない妄言を吐く輩が、実は原文を読んでいないという指摘には納得できる部分があります。岩波書店らしいなかなか硬派で実のある論集でした。(3/16)

 

009/038

アルプス席の母」早見和真

2025年度本屋大賞の候補作です。タイトルから分かるとおり高校野球をテーマにした物語なのですが、主人公は高校球児の母親。母一人子一人で育てた息子が中学卒業後、大阪の新興校からの誘い受け神奈川県から進学。看護師という全国どこでも働ける職業であることから、母親も思い切って大阪へ移住。父母会の独特かつ理不尽なルールに心を揺さぶられながら、母子で憧れの甲子園を目指す、なかなか胸アツの物語でした。(3/20)

 

010/039

ブラック・ショーマンと覚醒する女たち」東野圭吾

ちょっと目にはわかりづらいバーの経営者であり、元アメリカで活躍したマジシャンが主人公のシリーズです。今作では、リフォームの建築家として働く姪から相談を受けて、関わることになる6名の女性が、事件をきっかけに自分に目覚めていくという6編の物語。読みやすくて良いです。(3/20)

 

011/040

雫の街 家裁調査官・庵原かのん」乃南アサ

こちらも家庭裁判所の調査官というなかなかお目にかかることのないお仕事小説のシリーズものですね。今作では横浜家裁川崎支部の家事審判部に転勤してきた主人公が、様々な家庭の問題に調査官としてかかわっていきます。事件を解決するわけではなく、スーパーヒロインでもないですが、普通の姿が描かれていて好きです。(3/23)

 

012/041

オリオンは静かに詠う」村崎なぎこ

聴覚障害と百人一首という全く異質なテーマを練りこんだ習作でした。舞台は栃木県宇都宮市なのですが、実は同市は百人一首誕生に大きな関係があるそうで、今でも毎年市民大会が開催されるほど盛んにおこなわれているそうです。この小説では、4名の女性が各賞章ごとに主人公として描かれており、それぞれの人生が絡まり合って大団円を迎えます。初めて読んだ作家さんでしたが、とても面白かったです。(3/23)

 

013/042

ほどなく、お別れです それぞれの灯火」長月天音

こちらもシリーズ化された小説の第二弾です。主人公は東京スカイツリーの袂にある葬儀会館で働く女性。葬祭コーディネーターを目指して『師匠』である先輩から厳しい指導を受けながらも成長していくというお仕事小説です。大切な人の死を受け入れられない遺族の悲しみやある種の怒りに寄り添い、安らかな見送りのために奮闘します。(3/23)

 

014/043

日本の少子化 百年の迷走 人口をめぐる『静かなる戦争』」河合雅司

途中までは、とてもよくできた重厚なルポルタージュだったのですが、終戦から戦後ベビーブームのあたりから、雲行きが怪しくなってきます。まずは現在の少子化はGHQの陰謀に乗せられたリベラル派が招いた説。続いて、独立後の自民政権で少子化の流れを食い止めようとしたところ、民主党政権が逆に加速化させた。その後、政権を奪還した自公政権が、少子化対策を矢継ぎ早に打ち出している。などなど、さすが御用学者の面目躍如というところでした。前半の冷静な分析から、後半は感情的とも思える筆致に変わり、あたかも筆者が変わったかのようです。がっかりでした。(3/28)

 

015/044

婿どの相逢席」西條奈加

江戸時代、母、娘、孫娘と三代に渡る女系の経営者が差配する仕出し屋が舞台。そこに孫娘の入り婿として、店に入った若主人が主人公。女尊男卑に凝り固まったお店を、軽やかな身のこなしで解きほぐしていきます。この作者らしい人情物でした。(3/29)

 

016/045

誰かがこの町で」佐野広実

2020年第66回江戸川乱歩賞受賞作家の受賞後第一作だそうです。外からは高級住宅街に見えるとある町が舞台。そのブランドを守るために暴走する住民たち。ひょっとしたら、どこかに実在するんじゃないかと思えるようなぞっとするお話でした。結構面白かったです。その後もいくつかミステリを書かれているようなので、まずは受賞作から読んでみようと思います。(3/30)