憂慮された台風10号は、列島に甚大な被害をもたらしたのた後、ようやく消え去ったようです。長い人生を歩んできましたが、こんな不思議な台風は、記憶にありません。被害に遭われた皆さんに心からのお見舞いを申し上げます。
さて、激変する天候に翻弄された8月は、小説が14冊、その他の本が3冊で計17冊となりました。先月の反動か、少し低調でしたかね。
そんな中でのお薦めですが、小説では次の二作。
まずは三浦さんの”墨のゆらめき”です。やや抑えた感じの筆致から、突然に爆発するような描写に転ずる様は圧巻でした。そしてその後の独特のゆるさ。完敗です。彼女の小説はしばらく手に取っていなかったように記憶していますが、やっぱり面白い。お薦めです。
次は翻訳ミステリで、三部作シリーズの二作目となる”優等生は探偵に向かない”です。前作が大好評となって、続編を書かれたようですが、この二作はうまい具合に融合していて、前半は二つの物語が並行して進むようです。今作でも、高校生の女の子がSNSを駆使して現在進行中の犯罪を明らかにしていく過程が描かれます。スピード感もあり、よくできた物語だと思います。お薦めします。ただし前作から順番に読んでください。この本だけでは成立しない物語です。
続いて小説以外では、”賃金の日本史”が秀逸でした。個人的に、日本史の中では庶民の生活史に興味があって、彼らが当時どのような生活をしていたのかという疑問に直球で答えてくれる本でした。皆さんご存じのように、日本の中世には”通貨”を発行できる政体が存在しませんでした。そんな中で当時の庶民は、どうやって生計を維持していたのか大変な興味があります。この本で、そのすべてが解明されたわけではなく、さらに興味が募り、知りたくなってきます。そんな意味で、とても興味深い一冊でした。ややマニアックなお薦めです。
9月に入り、台風などの災害が頻発する時期に入りました。また、例年以上に残暑も厳しくなりそうです。南海トラフ地震も懸念されるところで、始終びくびくしながら過ごすことが増えそうです。せめて、本を読んでる間は心安らかにいたいものです。
8月まででちょうど200冊。このままいくと年間300冊のペースですが、今読んでいる本も面白いのですが、かなり分厚くて読み切るまでに少し時間が掛かりそうです。読書の秋とは言いますが、秋はまだまだ遠そうです。のんびりと味わって読んでいきます。
001/185
「巡査さんを惑わす映画 英国ひつじの村5」リース・ボウエン
第二次大戦中に山中の湖に墜落沈没したドイツ戦闘機の引き上げ作業の記録映画制作を巡って巻き起こる殺人事件。平和な村が大騒動。(8/1)
002/186
「ウナギNOW 絶滅の危機!伝統食は守れるのか」静岡新聞社、南日本新聞社、宮崎日日新聞社編
ニホンウナギの幼生であるシラスウナギが、絶滅危惧種に指定され、私たちの食卓からウナギが消えてしまうのではないかと騒がれた時期に、ウナギ養殖の大産地である三地区の地元新聞社が共同で展開した新聞記事をまとめたもの。単純にまとめただけなので、重なる内容が何度も出てくることになり、若干混乱します。私の頭の中では、国産ウナギ=浜名湖というイメージから全く更新されておらず、今は九州産が多いんですね。知りませんでした。ウナギの生態には謎が多すぎて、それがために完全養殖ができない稀有な魚でもあります。個人的には、かば焼き以外の食べ方を知らず、無くては困るというような存在でもないのですが、その生態には興味があります。(8/1)
003/187
「踏切の幽霊」高野和明
十数年ぶりに書かれた小説だそうです。ちょっと興味を惹かれて読んでみました。何の変哲もない都会の踏切。時折踏切への立ち入りが運転手に目撃されるのですが、特に事故が起きるわけでもなく、不思議な踏切として認識されています。どうやらかつてその踏切近くで、殺人事件があったようで、いまだ解決を見ていません。この不思議な踏切の幽霊の正体とは。(8/4)
004/188
「別冊図書館戦争2 図書館戦争シリーズ6」有川浩
シリーズの完結編です。結構長いシリーズだったんですね。(8/6)
005/189
「生物学探偵セオ・クレイ 街の狩人」アンドリュー・メイン
シリーズものの第二弾で、前作が抜群に面白かったので、とても楽しみにして読みました。前作で、生物学の知見を武器に、誰もが気づかなかった長年にわたる連続殺人事件を”発見”し、その真犯人までたどり着くという主人公でしたが、今作では、その経験を買われて、とある政府機関に雇われます。しかしながら、そこでは能力を発揮することができず、悶々としている中Ⅾ、新たな事件に巻き込まれていきます。国内では、この後の続編が翻訳されていないのですが、何故なんだろう。面白いのになぁ。(8/11)
006/190
「続巷説百物語」京極夏彦
これも息の長いシリーズですよね。前作を読んでからかなり長いブランクが空きました。”弟子”である宮部みゆきさんと同じように、化け物の怖さではなく、人間の怖さが存分に描かれる作品ばかりです。名作ですよね。(8/12)
007/191
「貧乏お嬢さま、恐怖の館へ」リース・ボウエン
お気に入りのシリーズも7作目となりました。これくらい長くなってくると、特に必要もないのにレギュラーキャラクターを登場させたりしてしまうのが、目につきます。また、明らかにキャラクターが変わってしまった登場人物も出てきます。まぁ、限られた紙幅で物語を収めようとすると、それも仕方がないのかなとは思います。文句は言ってますが、面白いですよ。(8/14)
008/192
「食道楽」村井弦斎、村井米子編訳
これは、誰かの本の中で紹介されていたのだと思いますが、誰だったのか全く記憶にない。作者は、明治時代の大衆小説からしいのですすが、今検索しても、この本ぐらいしかヒットいたしません。この本は、主人公である明治期の文学青年が、友人の妹に恋心を抱き、結婚の約束をしたまでは良かったが、田舎から家が決めた許嫁が押しかけ、てんやわんやの大騒動となる様子を描いた小説なのですが、本筋とは別に、数百種類を超える料理が作品中に紹介され、今のグルメ漫画の元祖のような書物となっています。紹介される料理は和食に限らず、中華、洋食と多種多様、読んだだけではどんなものかさっぱり判らないものまで登場します。当時の庶民生活が垣間見えるようでなかなか興味深かったです。(8/19)
009/193
「賃金の日本史 仕事と暮らしの1500年」高島正憲
古代から近代まで、”働く人”の賃金はどのように変遷してきたのか、とても興味深いテーマをぐっと掘り下げた大作です。賃金と言いつつも、ご存じのように奈良時代に、和同開珎から皇朝十二銭という政府発行の”硬貨”が発行されたものの、その後江戸時代まで数百年にわたって、政府が発行する銭は存在しませんでした。そこで、著者は当時通貨としての性格を持っていたといわれる米に着目し、当時の労働対価について考察を深めます。どうやら当時の労働者の中で、最も”高給”を得ていたのは、大工だったようで、それなりの収入を得ていたようです。しかしながら、その下で働く非熟練労働者においては、かなり低い給与で働かざるを得なかったようで、長い間その待遇が改善されることはありませんでした。なかなか興味深い一冊でした。(8/22)
010/194
「S&S探偵事務所 キボウのミライ」福田和代
これも、最近ちょっとはまっているシリーズの最近作です。この方の作品は結構面白くて気に入っています。今作でも、警察官と自衛官上がりの二人の女性が、謎のコンピュータウイルスを相手に大活躍を見せる一作です。(8/22)
011/195
「黄色い家」川上未映子
今年の本屋大賞候補作になったということで読んだのですが、約600ページの超大作で、一週間以上かけて読むことができました。主人公の少女と、彼女を取り巻く二人の同世代の少女と人世代上の不思議な女性の奇妙な共同生活が描かれます。自宅には居場所がなく、共同生活をしながら、生きるために非合法な仕事にはまっていきます。描かれている世界が重くて、なかなか順調に読み進めるという感じの本ではありませんでした。キツカッタ。(8/24)
012/196
「一夜 隠蔽捜査10」今野敏
人気シリーズも10作目まできました。今作では、小田原市に住む人気作家の誘拐事件が発生したにもかかわらず、犯人からの接触がほとんどなく、混迷を深める中、別の作家からの押しかけ支援を受け、誘拐事件の真相に迫るという物語です。このシリーズには珍しく、なんかチョッとミステリっぽい作品でした。(8/24)
013/197
「キャント・バイ・ミー・ラブ 東京バンドワゴン」小路幸也
こちらもシリーズ19作目。超大作ですね。登場人物が一作ごとに着実に一歳年を取っていくという大河小説。初期の頃は子供だった子たちが、成長し、立派な大人となって物語を彩ります。最初期は時代もリアルタイムだったのですが、途中で何巻かスピンオフで、過去の出来事を書かれて物もあって、今では数年遅れとなっています。この巻でいよいよコロナ禍に突入するかなと思っていたら、そうではなく、おそらく次巻がコロナ初年度に当たるのではないかと思われます。物語もそれを予感させるような展開になっています。次巻がかなり楽しみです。(8/25)
014/198
「墨のゆらめき」三浦しをん
ホテルマンと書道家という異色のコンビの物語。女性はほぼほぼ登場しません。二人の出会いから互いの信頼が生まれるまでの展開は、著者らしくユーモアたっぷりの物語だったのですが、残り2割を切ってからの怒涛の展開が素晴らしかった。予定調和のハッピーエンドでなく、ちょっと斜に構えた感じの書きっぷりも良かったです。(8/27)
015/199
「優等生は探偵に向かない」ホリー・ジャクソン
前作『自由研究には向かない殺人』に続く第二弾。前作も面白かったのですが、今作も秀逸でした。SNSを駆使して友人の失踪事件を追う主人公は高校生の女の子。前作で有名人となったことで、同級生から失踪した兄の行方を探すよう依頼される。二度と、探偵役はしないと心に誓ったものの、度重なる懇願に負け承諾してしまう。最後はやや苦い結末となりましたが、500ページを超える長さも全く気にならない作品でした。面白かったです。(8/28)
016/200
「アスリート盗撮」共同通信運動部編
数年前から大問題となっている事象ですが、そのきっかけとなった共同通信社の調査報道の裏側を記録したものです。この事象そのものは、40年以上前からあって、当時はその撮影のためのマニュアル本やそんな写真を集めた雑誌が、普通に書店に並んでいたことを覚えています。誰も疑問に思っていなかったあの時代から考えると隔世の感があります。今では、当時の一眼レフカメラがスマホになり、雑誌がネットになり、その写真で大儲けをしている輩が多数いるそうです。モラルに頼るだけではとても解決できない問題。しかしながら一律に取り締まることに非常な困難を伴う問題でもあります。先のパリ五輪では、さらにエスカレートして、選手への誹謗中傷が蔓延するドンでもない五輪となりました。アスリートへのリスペクトは何処へ行ったんだ。(8/29)
017/201
「新・御宿かわせみ」平岩弓枝
8月の最後は、御宿かわせみの新シリーズ。元のシリーズから数年後、幕末の動乱が終わり、新しい明治の世を迎えていますが、主人公であった東吾は乗船した船が難破し行方不明に。源三郎は事件の捜査中に賊の凶弾に倒れ絶命。主人公たちの子供世代が成人した後の世界を描いています。この間に、様々な事件があったようですが、新シリーズの主人公が、ヨーロッパ留学を終えて、帰国したところから物語がスタートします。そして、彼らがどうしても解決しなければならない事件の捜査へと没頭します。舞台の変化が大きすぎて、やや戸惑い気味。この先が少し不安です。(8/31)