2024年8月4日日曜日

2024年7月

灼熱地獄の7月が終わりました。この月は小説23冊、その他6冊、合計29冊という結果になりました。これだけ読んだのは久しぶりですね。あまりに暑いため、冷房の効いた場所を探して読むのですが、やっぱり移動中というのが一番いいですね。通勤途上やゴモ散歩の際に結構読めました。荷物になるのが難ですが、その点電子図書館はとても便利。

てなところで、今月のお薦めですが、

まずは初めて読んだ『生物学探偵セオ・クレイ』が、秀逸でした。東野圭吾さんのガリレオシリーズに代表されるように、科学者が探偵役となって事件の謎を解くという物語は多数ありますが、生物学者が探偵役というのは寡聞にして知りません。その生物学に関する知識だけを武器に事件んも謎を解く様子は、かなり面白い。とりあえず、続巻は借りてきましたが、その後は全く翻訳されていません。そても残念です。

続いては、『リカバリー・カバヒコ』でしょうか。彼女の本は、以前本屋大賞の候補作となった作品を読んで以来なのですが、いずれもハートフルな良い物語でした。誰も傷つかず、温かい気持ちになる物語はとても良いですね。気持ちが落ち着きます。

もう一冊は、芦沢央さんの『バック・ステージ』でしょうか。本文にも書きましたが、登場人物のキャラクター設定には若干異議があるのですが、物語としては面白かったです。

小説以外の書籍からのお薦めですが、

まずは『歩く江戸の旅人たち』。これは文句なしに面白かったです。よくもこんなテーマで深く調べられたものと敬服いたしました。詳しくは本文に書いてます、とにかくお薦めの一冊でした。

もう一冊は、『寺院消滅』。かなり前に書かれた本で、これ以降もさらにし深刻さを増していることに疑いはありません。特に昨今のカルト教団の事件で、宗教に対する国民の忌避感が増しているように思われ、伝統仏教も余波を受けているように思われます。自身の宗教観のアップデートも含めて、お読みいただきたいと思います。お薦めです。

8月に入りましても暫くは熱中症予報で『極めて危険』と表記されるような猛暑日が続くようで、必要がない限り外出しようという気にはなれません。とはいえ、自宅でじっとしているのもなんだかなぁ、という感じで、気に入ったお供を片手に、隙を見て散歩に出ていこうと思います。

 

001/156

歩く江戸の旅人たち スポーツ史から見た『お伊勢参り』」谷釜尋徳

偶々図書館で本を物色していて出会った本なのですが、これがまた滅茶苦茶に面白かった。江戸時代の庶民の旅の様子を、彼らが残した旅日記を基に考察しているもので、当時の名所図会などに出てくる旅装姿なども織り交ぜつつ、鮮やかに再現されていされています。良く、江戸時代を描いた小説や時代劇などで、人は平均毎日10里歩いたとされていますが、著者の研究によると、平均値はそれより若干短いようですが、日によっては70km以上を歩くこともあったようで、興味は尽きません。また、旅には欠かせない草鞋、杖、旅銀などについても、それぞれ章を設けて詳しく述べれています。200ページ足らずの本でしたし、一気に読み切りました。これは強くお薦めします。(7/4)

 

002/157

巡査さん、合唱コンテストに出る 英国ひつじの村3」リース・ボウエン

日本にいると分からない、イングランド・ウェールズ・スコットランド・アイルランドのそれぞれの違いが、若干極端に描かれていて、その点でも面白い。中でもウェールズ地方が舞台となったミステリは少ないんじゃないだろうか、知らんけど。シリーズ三作目で、主人公が都会を出て、この田舎町にやってきた理由の一端がうっすらと見えてきます。(7/4)

 

003/158

そうだったんだ!日本語 子どものうそ、大人の皮肉 ことばのオモテとウラがわかるには」松井智子

10年以上前に出版された日本語を学び直すシリーズの一冊で、この巻は言葉というよりコミュニケーションについての考察で、著者は認知科学の専門家です。人は成長の過程で、話される言葉が全て本当ではないということに気が付きます。そして次の段階で、話されていることばにはウラの意味があるということにも気がつくようになります。そういった前提があって初めてコミュニケーションが成り立つのだそうです。私は、コミュニケーションのイニシアティヴは伝える側にあって、もし伝わらないことがあるとすれば、それは受け手ではなく送り手に責任があると思っています。受け手側への過大な期待と送り手側の過信が、ミスコミュニケーションの元凶だと、著者も結論づけています。それには納得。(7/6)

 

004/159

アフターコロナの観光学 COVID-19以後の『新しい観光様式』」遠藤英樹」編著

アフターコロナ・ウイズコロナ時代の新しい観光様式についての提案や提言が書かれているのかと期待して読んだのですが、大きな期待外れ。お見かけするに執筆陣は若手の研究者の方が多いのではと推察するのですが、内容が難解すぎて、さっぱり理解できませんでした。一般向きではない書籍でした。(7/6)

 

005/160

貧乏お嬢様と王妃の首飾り 英国王妃の事件ファイル5」リース・ボウエン

今作もイギリスを離れて、南仏ニースを舞台に事件が起きます。主人公が行くところに何故か大事件が起こり、そして主人公は、その渦中に飛び込んでいってしまう。今作でも、危うく殺人事件の犯人として逮捕されてしまうところでした。(7/7)

 

006/161

パンデミックを阻止せよ NUMAファイル」クライブ・カッスラー、ポール・ケンプレコス

カッスラーの本は久しぶりに読みました。レイズ・ザ・タイタニックで、一躍国内でも有名になった「ダーク・ピットシリーズ」がお気に入りで、結構読みふけっていた時期もあったのですが、いつしか疎遠になってしまっていました。これは、それに続く新しいシリーズnの中野一冊なのですが、SARSの流行直後に書かれた本書では、中国発の新たな新型コロナ感染症に米中共同で立ち向かおうとしたところ、思わぬ邪魔が入るというストーリーで、相変わらずスピード感満載で面白い本でした。また久しぶりに昔のシリーズを読んでみようかな。(7/7)

 

007/162

生物学探偵セオ・クレイ 森の捕食者 」アンドリュー・メイン

たまたま図書館で見かけて借りてきたのですが、めちゃくちゃ面白い。久々のスーパーヒットです。主人公は本来生物学者で、かつての大学での教え子が、森林でのフィールドワークの最中に羆に襲われ死亡してしまう。ところが、その死に疑問を持った主人公が、その死の謎を突き止めようとするのだが、その結果が思わぬ方向へ進む。とにかくスピード感もあって、一気に読んでしまいました。原書では、4作以上出ているようですが、邦訳は最初の2冊だけ。とりあえず、もう一冊は読みますが、その続きも読みたい。誰か翻訳して~~!!(7/10)

 

008/163

泥棒はクロゼットの中」ローレンス・ブロック

ブロックの3つのシリーズもののうち、お気に入りのバーニィのシリーズです。これも府立図書館のネットワークから南部の公立図書館にある蔵書を貸し出してもらいました。今作でも、主人公が盗みに入った先で殺人事件に巻き込まれ、容疑者として追跡されます。その火の粉を払いのけるために、真犯人を探し出すという物語。面白かったです。(7/12)

 

009/164

駅に泊まろう! コテージひらふの早春物語」豊田巧

これまた、過日から読み始めたシリーズものの第二作。長い冬から開けた早春の北海道の風景が描かれます。また、道東への列車の旅も描かれていて、今から50年近い昔に、一人で旅した当時の風景を思い出しました。当時は列車で移動したところが、軒並み廃線になっているのは残念な限り。これからもさらにローカル線は減っていくことでしょう。(7/14)

 

010/165

のち更に咲く」澤田瞳子

今大河ドラマで話題の平安朝を舞台にした物語。大河の主人公もちょい役で出てきます。内容的にはある種のミステリの形式をとっていて、面白かったです。(7/15)

 

011/166

こちら空港警察」中山七里

成田空港を舞台にした警察小説なんですが、語り部は航空会社で働くグランドスタッフ。空港警察の新署長が着任して以来、いろんな事件が起きるのですが、最後には立てこもりテロまで。空港で働く様々な人たちが、それぞれの持ち場で全力を尽くす様が描かれます。(7/16)

 

012/167

変わらざるもの 」フィリップ・カー

30年近く前、ベルリンに住んでいた頃にある人から教えてもらったベルリン三部作と呼ばれるハードボイルドミステリがありました。とても面白くて、職場でも回し読みし皆に紹介していたことを思い出します。結局、そのシリーズはその三作だけで、それ以外は単発の小説をいくつか書いておられたのですが、ここ数年は全くノーマークでした。ところが、最近ベルリン三部作の続編を書いておられることを偶々知って、手にしたものです。主人公は若干年老いて、かつてのようなスマートさには欠けるようですが、それでも獲物を逃がさない気質を最後の最後に見せてくれます。続編は全部で三作書かれたようなので、あと二冊読みたいと思います。(7/17)

 

013/168

ブレイク」真山仁

再生可能エネルギーである地熱発電を巡る物語です。東日本大震災でその弱点を露呈した原子力発電ですが、産業界を中心に見切り発車で再稼働させようという動きが出ています。どこまでが事実に基づくのかは不明なのですが、この本では、地熱発電の仕組みや可能性だけでなくその難しさにも言及されていて、さらなる研究の必要性に思いが至ります。火山大国である我が国にとって、非常に可能性のあるエネルギー源なのではないでしょうか。(7/17)

 

014/169

十三歳の仲人 御宿かわせみ32」平岩弓枝

シリーズ最終盤が近づくにつれ、事件物から人情物へと姿を変えてきました。表題作では、かわせみで女中として働く女性と大工の棟梁の間を取り持つ子供たちの活躍が描かれます。(7/19)

 

015/170

図書館内乱 図書館戦争シリーズ2」有川浩

久々に、ベタ甘のラブコメ戦争物の同シリーズに手を付けました。作中作として、著者の代表作(私も大好き)である『レインツリーの国』が登場します。物語を書く人たちだけでなく、行政の仕事も『言葉』を使う仕事で、その『言葉』の選び方には細心の注意をはらってきたつもりです。使い方を誤るととんでもなく人を傷つける武器にもなってしまう。気を付けないと。(7/19)

 

016/171

石を放つとき」ローレンス・ブロック

ひと月に二作もブロックの作品が!!こちらは、彼の超人気シリーズである『マット・スカダー』シリーズの短編集。主人公の晩年の様子が描かれます。実は彼のシリーズもののうち、このスカダーシリーズはほとんど読んでいなくて、そうとは知らず借りてきた本なのです。とても分厚かったけど、あっという間に読めました。面白かったです。(7/20)

 

017/172

巡査さん、フランスへ行く? 英国ひつじの村4」リース・ボウエン

平和な村で起きる連続放火事件。よそ者を狙ったかのように続く事件は、ついに殺人事件を引き起こします。事件の謎を解くため、海底トンネルを通って花のパリまで乗り込みます。しかも車で!!英仏海峡トンネルに車載シャトル便があるって初めて知りました。(7/21)

 

018/173

SS探偵事務所 最終兵器は女王様」福田和代

コンピュータにやたら詳しい女性警察官と女性自衛官が活躍する単発小説が面白かった記憶があり、借りてきました。二人がそれぞれの組織に居られなくなって、立ち上げた探偵事務所が舞台。残念ながら、IT関連の依頼はほとんどなく、行方不明のペット探しが主な業務のよう。今作では、主人公の一人の両親の過去の失踪事件の謎がテーマ。面白かったです。(7/21)

 

019/174

小判商人 御宿かわせみ33」平岩弓枝

シリーズも終盤です。表題作は幕末、海外との取引が増えてきたころ、日本と海外で金銀の交換比率が違ったことから、国内の金が海外に流出していった時期があり、それに欲をかく悪徳商人を取り巻く事件です。お気に入りは親子の情愛を描いた『初卯まいりの日』。(7/21)

 

020/175

図書館危機 図書館戦争シリーズ3」有川浩

シリーズの後半です。べたアマのラブコメに、家族との確執が加味されています。(7/22)

 

021/176

バック・ステージ」芦沢央

とある人気演出家の演劇を軸にして、それにまつわる様々な人たちを主人公とした4篇の連作のミステリで、それらを幕間の再度ストリーで繋ぎ、全体で一つの物語になっている感じ。この作家さんの小説はあまり読んだことがなかったのですが、面白かったです。登場人物のキャラクターと幕間ストーリーはも一つでしたが。(7/24)

 

022/177

図書館革命 図書館戦争シリーズ4」有川浩

シリーズの完結作です。とりあえずハッピーエンドです。(7/25)

 

023/178

貧乏お嬢さまのクリスマス  英国王妃の事件ファイル6」リース・ボウエン

主人公のキャラクターが少し変化してきたように思われます。今作では、誰もが不思議に思わなかった連続事故死事件に係る謎を解いていきます。これまでは、なぜか危機に巻き込まれていく主人公でしたが、今作では自ら危険に飛び込んでいきます。まさに九死に一生。(7/26)

 

024/179

別冊図書館戦争 図書館戦争シリーズ5」有川浩

本来なら4作で終わるはずが、大人の事情で書くことになったそうです。その後の図書館戦争。(7/26)

 

025/180

公文書危機 闇に葬られた記録」毎日新聞取材班

毎日新聞の特集記事の裏側を記録したもので、当事者たちのインタビューも載せられています。私も元公務員の端くれなので、官僚たちが記録を残したくない、できれば隠しておきたいと思う気持ちはよく理解できます。欧米では、トップの言動記録はすべて公的に残されており、後の時代に検証することが可能です。日本の政治家は、後世に検証されることを好まないため記録を残させない。それだけ後ろめたいことをしているという自覚があるんでしょうね。だから同じ間違いを何度でも犯してしまう。歴史に学ばない国に未来はないと思います。(7/27)

 

026/181

リカバリー・カバヒコ」青山美智子

今年の本屋大賞のノミネート作品の一つですね。惜しくも第7位だったそうですが、とてもハートフルで素敵なお話でした。とある公園にあるカバの遊具。カバヒコと名付けられたその遊具を巡っていくつかの物語が綴られます。とても良かったです。(7/28)

 

027/182

ザイム真理教 それは信者8000万人の巨大カルト」森永卓郎

元専売公社のMOF担だった著者が、現在の財務省の財政均衡主義を徹底的にこき下ろします。1980年代のバブル経済に懲りた当時の政府は、その後の財政政策で大失敗し、空白の十年と揶揄あれる暗黒時代を生み出しました。それが、すべて諸悪の根源である当時の大蔵省の徹底的な政権コントロールのせいだというのが著者の主張です。ほとんどの点で合意できるのですが、この財務省支配に徹底抗戦した稀有な存在としてあべ安倍元首相をエラく評価しています。そのかわり変なトモダチばかりを側近において、日本を滅茶苦茶にしましたけどね。(7/28)

 

028/183

浮かれ黄蝶 御宿かわせみ34」平岩弓枝

ついに最終巻です。江戸時代のかわせみシリーズは終了です。主人公の二世世代が活躍する物語が増えてきました。そして、最後の物語では、主人公が登場せず不思議な不思議な終わり方でした。(7/28)

 

029/184

寺院消滅 失われる『地方』と『宗教』」鵜飼秀徳

著者は、お寺の副住職をしながらビジネス誌に記事を書くという二刀流。私が役所で宗教法人を担当していた昭和末期から問題になっていた不活動宗教法人について、その実態をまとめた大作です。特に地方においては、檀家の減少で維持できない寺院が多数あり、その数は主務官庁も把握できていない。この本では、当時問題になった法人格の売買や売買した法人格を悪用した脱税、犯罪といった事件については触れずに、地方における信仰の問題を取り上げています。私の実家のお墓のあるお寺の住職も、周辺のいくつかのお寺の住職を兼務されています。また、まだ後継者も決まった様子がないので、将来どうなるのか危惧もしています。地方が疲弊し東京だけが巨大化していくという今の在り方を変えることは今さら不可能だと思いますので、あとは座して破滅を待つよりほかないのでしょうか。(7/29)