2023年8月20日日曜日

2023年7月

7月の記録です。小説が15冊、その他が5冊で計20冊という結果でした。

久しぶりに小説が多い月になりました。

振り返れば、7月は連日の猛暑で、週末も出かけることなく自宅で本とお酒に溺れるという毎日を送っておりました。

てなことで、お薦めですが、

まずは朝井まかてさんの作品は、どれを読んでも外れがないように思われます。もっぱら江戸時代以前のものが多かった印象ですが、最近は近代史の中で活躍された人を描かれるケースが増えてきたように思います。さらに、すべて女性を主人公に取り上げられているところも好ポイントかと思います。この作品も面白かった、お薦めです。

他は、初めて読んだ作家さんに良い作品がありました。

砂原浩太郎さんは、初めて目にした作家さんでしたが、主に時代小説を書いておられたようで、今作は若干のミステリ要素のある作品でした。本文にも書きましたが、他の佐久本も読んでみたいと思わせる作品でした。

伊予原新さんの作品も面白かったです。作者自身が理系の方で、論理的に物語が進んでいく様は安心感があります。この作家さんも他の作品を読んでみたいと思います。

伊吹有喜さん、落合由佳さんの作品もどちらも心温まる作品で、癒されました。良いと思います。

続いて小説以外では、『天下人たちの文化戦略』がよかったです。安土桃山文化を、従来とは少し違った観点から分析されていて、目から鱗が落ちるような箇所もたくさんありました。図書館で借りてきたのですが、購入して手元に置いておきたいと思うような一冊でした。お薦めです。

皆さんご存じかもしれませんが、最近電子図書の貸し出しを行う公立図書館が増えてきました。私がヘビーユーザーとなっている京都市図書館も始められていて、スマホで簡単に検索して、気に入れば即借りて読むことができます。これが便利でして、通勤電車・バスで立ったままでも読むことできて、大変重宝しており、7月に読んだ本の中にもたくさん含まれています。貸し出しカードをお持ちの方ならすぐに申込できますので、ご興味のある方はぜひお試しを。

 

001/089

世界を変えた10のトマト」ウィリアム・アレキサンダー

トマトという食べ物に関しては、以前にも別の本も読んだことがあるのですが、この本はこの植物の歴史にスポットを当て、エポックメイキングとなったトマトについて書かれています。アメリカ人ならわかる芸能ネタや歴史ネタに絡めた表現がたくさんあって、注釈を読むだけではそのニュアンスが全く伝わってこず、持ち味が若干失われているようにも感じました。(7/1)

 

002/090

審議官 隠蔽捜査9.5」今野敏

これはお気に入りの人気シリーズで、.5となっているのは、本筋からスピンオフした短編集となっているためです。短編では、主人公が変わり、本来の主人公の周辺人物を中心としたサブストーリーが描かれます。今作では、主人公の妻が事件の謎を解くという珍しい作品も含まれていました。(7/2)

 

003/091

未知なる人体への旅 自然界と体の不思議な関係」ジョナサン・ライスマン

現役のお医者さんによる独自な視点から描かれた医学・生理学エッセイです。著者の学生・研修時代の様々な経験が今につながっていて、読んでいてもとても楽しいエッセイでした。(7/6)

 

004/092

チュウは忠臣蔵のチュウ」田中啓文

誰もが知っている赤穂浪士の物語にとんでもない裏歴史が隠されていたという体の講談に仕立てられています。スピード感も満載で面白かったです。(7/7)

 

005/093

方舟」夕木春央

昨年のミステリ界を席巻した作品なので楽しみにして読みました。謎解きミステリとしてはかなり秀逸な本でした。私も最後まで真犯人がわかりませんでした。とある閉ざされた環境の中で起きる連続殺人事件は、科学捜査ができないため、状況証拠を積み上げて犯人を追い詰めていく様と最後の衝撃は素晴らしかったです。しかしながら、登場人物が妙に薄っぺらいのと最初の殺人事件の動機がどうにも納得できず、小説としての魅力にはやや欠けるかなという印象でした。(7/9)

 

006/094

漢字の動物苑 鳥・虫・けものと季節のうつろい」円満宇二郎

岩波書店の書籍情報誌『図書』に連載されていたそうなのですが、全く知りませんでした。植物編に続く第二弾です。動物を表す漢字とそれにまつわるエピソードなのですが、中国でとある動物の名として使われていた文字が、日本に伝わったときに取り違えられたものが意外と多いことに驚きました。軽い読み物としてよかったです。(7/10)

 

007/095

藩邸差配役日日控」砂原浩太郎

何かの書評に取り上げられていたものと記憶していますが、とある藩の江戸藩邸の庶務担当である『差配役』を務める主人公の物語。お家騒動にまつわる様々な事件に巻き込まれます。なかなかおもしろかったです。この著者の本は初めて手にしましたが、ほかの本も読んでみようと思います。(7/10)

 

008/096

朝星夜星」朝井まかて

幕末の長崎で洋食屋を始め、明治維新後大阪でレストランとホテルを開業した草野丈吉について妻の視点から描いた物語。彼女の小説は面白い。主人公を含むすべての登場人物が生き生きと描かれていて、500ページを超える超大作であるにもかかわらず、ほとんど一気に読み終えました。面白かったです。(7/17)

 

009/097

田舎の刑事の趣味とお仕事」滝田務雄

初めて読む作家さんです。地方の警察署を舞台にしたライトミステリなのですが、インパクトを持たせるためか、非常に間抜けな刑事が描かれていて、若干引いてしまう。ちょっとやりすぎでは。シリーズものなのですが、どうしましょうか。(7/17)

 

010/098

ハルさん」藤野恵美

先日初めてこの著者の小説を読んで、結構気に入ったので、彼女の出世作ともいえる本作を読んでみました。妻を亡くした人形作家のハルさんが、男手一つで娘を育てる物語。その中で、節目節目で遭遇する小さな謎を解いていくというハートフルミステリです。なかなか良かったです。(7/18)

 

011/099

気象兵器の嵐を打ち払え(上)(下)」クライブ・カッスラー、グラハム・ブラウン

レイズ・ザ・タイタニックに代表されるダーク・ピッドNUMAシリーズのスピンオフシリーズ。ダーク・ピッドシリーズは20年位前に結構読んだのですが、久しぶりに関連作に手を出しました。相変わらず荒唐無稽な物語ではあるのですが、スピード感があって、手に汗握る展開はやはり面白い。また久しぶりに読んでみようかな。でもどこまで読んだか覚えてないなぁ。(7/19)

 

012/100

風待ちのひと」伊吹有喜

この作者の本もとても気になってて、いつか読みたいと思っていました。都会での生活に疲れた主人公の一人が、母親の遺品を整理するため三重県の海岸の町に滞在します。その間に、同様に心に大きな痛みを抱えながらも元気に繰らずもう一人の主人公と出会います。二人はやがて心惹かれあい、なくてはならない存在になっていきます。結末までは紆余曲折があって、一筋縄ではいかないけれど。(7/21)

 

013/101

すべての野蛮人を根絶やしにせよ 『闇の奥』とヨーロッパの大量虐殺」スヴェン・リントクヴィスト

とても刺激的なタイトルです。『闇の奥』というのは、大植民地時代にアフリカの奥地への旅を描いた小説らしいのですが、そのたどった道をなぞりながら、その時代に欧州の白人がアフリカ大陸で行った大量虐殺について淡々と語っていきます。当時、有色人種は白人とは同じ人類とは認識されていなくて、別の種だから絶滅させることに何の躊躇もなかったように描かれています。その結果得られたつかの間の繁栄って、どうなんでしょうね。そしてそれはナチスのジェノサイドへとつながっていきます。読んでよかったです。(7/22)

 

014/102

コンビニたそがれ堂」村山早紀

探し物をしている人にしか見えない不思議なコンビニ、そしてその探し物は必ずその店で見つかります。ハートフルなファンタジー小説。店長の正体が気になります。(7/24)

 

015/103

ある晴れた日に、墓じまい」堀川アサコ

家族には恵まれなかったアラフォーの女性が乳がんに罹り、将来のことを考え墓じまいを決断する。そこからの父娘、兄妹のドタバタを描く家族小説です。『幻想』シリーズで有名な作家さんですが、今作にはそういった要素は皆無で、ある種の社会派小説とも読めますね。意外と面白かったです。(7/26)

 

016/104

天の台所」落合由佳

もともと児童文学を書いておられた作家さんだそうで、この作品もその要素を若干残したハートフルな物語です。早くに母を亡くした少年の家族を家事を担ってくれていた祖母が亡くなったところから物語が始まります。父親と弟、妹のために近所の『怖いおばあさん』に料理を習い始め、そこから人を楽しませること、幸せな気持ちになることを学び、実践していきます。なかなか良い物語でした。(7/26)

 

017/105

リケジョ!」伊与原新

これも初めての作家さんです。『リケジョ』とは『理系女子』のことで、作者本人も理系の人です。私自身は、完全に『文系脳』で、『理系の人』にはぬぐえないコンプレックスを抱いています。さらに、理系の人の手による小説は、意外と面白いということにも感心させられます。この本は、貧乏理系女子の主人公が、とあることからお金持ち小学生の家庭教師をすることになり、一緒になって身近な謎を解いていくという物語です。そして最後にはアッと驚く解題を用意してくれていました。結構面白かったので、ほかの作品も読んでみようかなと思います。(7/27)

 

018/106

天下人たちの文化戦略 科学の眼で見る桃山文化」北野信彦

文章はもひとつでしたが、秀吉に代表される桃山文化について、信長から家康に続く三人の天下人の『文化戦略』という切り口から解いていく、なかなか秀逸な本でした。桃山文化のスタートを『安土城』に置き、終焉を『二条城(家光による大改修)』に置くという斬新さ。安土城、聚楽第、桃山城は跡形もなく残されていないところから、発掘された破片をもとにした科学的な分析。そこから見えてきた『京焼』の意外な歴史。なかなかおもしろかったです。(7/28)

 

019/107

役小角絵巻 神変」山本兼一

この作家さんが古代史を取り上げているのは、本作だけではないでしょうか。それだけにかなり苦労しながら書かれたようにも見受けられます。修験道の開祖として有名な役小角ですが、本作では天下をわがものにしようとする天皇家に抗う勢力として描かれています。なかなかおもしろかったです。(7/29)

 

020/108

護衛艦あおぎり艦長早乙女」時武里帆

元海上自衛官であった作者が、自ら見聞きした事柄を基礎に書かれたものと思われます。護衛艦の新艦長として、呉に赴任した主人公が、初出航を前に思わぬトラブルに襲われます。いかに回避して無事に最初の仕事を終えるのか。というのが読みどころですが、前半の半分は、主人公が着任してから、引継ぎを終えるまでの風景が淡々と綴られるという、特異な導入です。このままこの調子で進むのかと思ったところで、結構怒涛の展開となり、面白かったです。わがふるさと舞鶴も海上自衛隊の町なのですが、他の港町と違って、桁違いの田舎なので、赴任した自衛官たちは結構大変という話を聞いたことがあります。そんな彼我の違いに思いを馳せながら読みました。面白かったです。(7/30)