8月は、21冊。うち小説が15冊、その他が6冊という結果になりました。
暑い毎日が続き、外出を控えていたこともあって、休日にはそれなりに読めましたが、平日の夜は、早く就寝する癖がついて、あまり時間がとれませんでした。
今月も気に入った作家さんの本に偏ってしまい、門井さん、今村さん、田中さん、福田さんの本がそれぞれ2冊ずつとこれだけで半分。さらなる特徴としては、初めて読む作家さんの本も結構ありました。ただ、他の本を読んでみたいと思ったのは、直島さんくらいでしょうか。また面白い作家さんに出会いたいなぁ。
そんな中でのお薦めですが、小説では“幸村を撃て”が、秀逸でした。戦国時代を扱う小説で、真田幸村といえば、最も人気のあるキャラクターですが、本作では幸村自身が表に立つことは殆どありません。その周りの人をして幸村について語らせるのですが、最終章でその理由も明らかになります。彼についての資料が乏しいことから、とても大胆な仮説を立て、その仮説を軸に物語が綴られるのですが、とにかく面白かった。お薦めの一冊です。
小説以外の本は、今月も粒ぞろいでして、殆どがお薦めです。
順番に行きますと、“信頼の条件”は、東日本大震災後による福島原発事故に発せられた“専門家”の言葉を題材に、言葉の専門家による“信頼される言葉”についての考察で、とてもわかりやすく書かれています。私たちは、自らの考えを他人に伝えようとすると言葉によって伝えることが基本ですから、あらゆる人にとって参考になる書籍といえるでしょう。面白かったです。
“動物園を考える”は、日本と外国の動物園に関する比較論なのですが、それ以上にこういった文化施設が抱える問題点を明確にしてくれています。すぐには解決できることではないですが、自らの位置を確認するためにとても有用な分析でした。
“誰も加害者を裁けない”は、私にとっても身近で起こった大事件でしたし、その後のことがとても気になっていました。少し冗長なところはありましたが、わかりやすいレポートでした。
最後にもう一冊。“世善に善に満ちている”は、こんな“世界の捉え方”があるんだという新しい発見でした。著者の感動が伝わる力作でした。鉄がの本なので敬遠されがちかもしれませんが、読みやすいし面白い本でした。お薦めします。
酷暑が続いた8月でしたが、9月は今度は台風シーズンの到来です。今まさに猛烈な台風が日本に近づいており、不気味な動きを見せていて、なかなか予断を許しません。
できれば9月は、週末には本を片手にお散歩三昧と生きたいのですが、どうなるでしょうか。平和な天候に恵まれることを切に願っております。
001/114
「中世の巨大地震」矢田俊文
中世の文書に残されている巨大地震についての記述を集めたものです。この当時、信頼できる文書が残されているのは、ほぼ都に限られているので、畿内以外の地方の災害被害はほとんど記録として残されていません。むしろ地質学的な研究から大災害の痕跡を発見できることがあるようです。実は、この書籍は貞観地震との関連が話題になった東日本大震災の直前に出版されているので、古文書などから過去の地震災害を検証する取り組みの先駆けと言えるかもしれません。歴史に学ぶというのは大事なことですね。(8/2)
002/115
「信長、鉄砲で君臨する」門井慶喜
彼の小説はスピード感もあって、読みやすいです。この小説は、種子島に鉄砲が到来してから、その有用性を最大限に引き出し、天下をとった織田信長を主人公にした物語です。最後は本能寺で終わるのですが、信長の生涯を描く上で、避けて通れない光秀との確執について、サラリとしか触れていないのが新鮮です。(8/3)
003/116
「信頼の条件 原発事故をめぐることば」」影浦峡
福島原発の事故後に発せられた“専門家”の発言を題材に、いかに彼らの言葉が信頼を無くして行ったか丁寧に検証したものです。文章の中でとても大切だと思った、“信頼を保つために発言者や発言に求められる要件”とは、○形式に関する要件;①一貫性、②包括性・体系性、③説明・挙証責任、○内容や位置付けに関する要件;④話題の妥当性、⑤事実性、⑥内容の妥当性。とてもためになります。(8/4)
004/117
いろいろなところで、おもしろいと書かれている記事を読んだので、かなり楽しみにして読みました。ちょっとその期待が大きすぎたのか、かなり残念な読後感が残りました。主人公は、京都府南部の精華町で心療内科医を営んでおり、診察に訪れた女子高校生の訴えをヒントに自殺で処理された事件の真相に迫っていくという物語なのですが、独自捜査にのめり込む動機や患者や関係者との接し方など、頭を捻らざるを得ないような展開が続き、かなりしんどかった。(8/6)
005/118
「残照の頂 続・山女日記」湊かなえ
テレビドラマの原作にもなった作品の続編です。今作は、全く独立した作品を集めたもので、通して登場する人物はありません。人は生きていると、いろんな困難にぶつかり、戦うことに疲れてしまうこともあります。特に、どこかの時点でスイッチを切ってしまったり、ギアをシフトダウンしてしまうと、そこから再びエンジンを全開するのはとても難しいように思います。そんなことを考えながら読んでいました。(8/6)
006/119
「サイバー・コマンドー」福田和代
自衛隊の中に設けられた“サイバー防衛隊”の活動を描いた物語です。ネットの世界で暗躍するハッカーたちやサイバー攻撃部隊との丁々発止のやりとりが物語を牽引します。現実の世界ではどうなっているのかとても気になるところです。(8/7)
007/120
「転がる検事に苔むさず」直島翔
主流ではない傍流に追いやられた検事とその下に配属された新人検事、所轄で働く若手警察官が活躍するある種の警察小説です。一応これが著者のデビュー作なのでしょうか。テンポもよく、登場人物も魅力的で、悪役は嫌らしいくらいに悪役で、いい感じの物語になっています。(8/7)
008/121
「動物園を考える 日本と世界の違いを超えて」佐渡友陽一
どうやら、どこかで紹介されていたので興味を持って図書館に予約していた本なのですが、なぜ読もうと思ったのかは思い出せない。内容としては、日本と外国(主にアメリカとドイツ語圏)の比較と日本の動物園の課題、といったことが書かれています。動物園には、①種の保存、②教育・環境教育、③調査・研究、④レクレーションという4つの役割があるそうで、それらをいかにバランス良く運営するかというのが経営者の手腕なんでしょうね。実は、この本の中に道津園の潜在的なファンから、よろ深い関わりを持つ支援者へ変化させていくためのプロセスを示した図が載せられていて、とあるミュージアムに関わっている私には非常に参考になりました。(8/10)
009/122
「地獄八景」田中啓文
“地獄八景亡者の戯れ”といえば、桂米朝さんが復活させた上方落語の大ネタですが、これはそれに対するオマージュとして編まれた(?)短編小説集です。場所の設定が地獄というだけで、それぞれの小説はミステリであったり、スポ根ものであったり、はたまた新喜劇風であったりと多才な著者の技が存分に生かされています。面白かったです。(8/11)
010/123
「幸村を討て」今村翔吾
面白かったです。タイトルから見て戦国時代の最後の勇将と呼ばれた真田幸村が主人公だと思っていたのですが、さにあらず。誰もが想像すらできなかった“真田の戰”が、大きな縦軸となって、戦国時代のフィナーレを飾る“大坂の陣”が描かれます。真田幸村については、その生涯はほとんど謎のままで、数年前の大河ドラマでもかなり自由にその生涯が描かれました。最後の一瞬に大きく輝いたことから、伝説を作るには最適の条件が揃っていたわけですね。(8/15)
011/124
「シャーデンフロイデ 人の不幸を喜ぶ私たちの闇」リチャード・H・スミス
タイトルとなっている“シャーデンフロイデ”という言葉は、“害”“不幸”を意味する“schaden”と“喜び”を意味する“freude”を組み合わせた言葉で“人の不幸を見聞きして生じる喜び”というような意味で、英語には該当する言葉がなく、ドイツ語の単語がそのまま使われているそうである。この本では。、そのような感情が生じる仕組みや心の動きについて詳しく書かれている。多くは“嫉妬”から起きると考えて良さそうであるが、できれば縁のない感情でありたいですが、そうもいかないですね。なかなか聖人にはなれないや。(8/18)
012/125
「地中の星」門井慶喜
プロジェクトXで取り上げられる人たちが、地上の星であるならば、地中の星とは一体。この物語は日本最初の地下鉄開通に携わった人たちの物語で、後半は実際に工事を引っ張った現場監督たちの姿が描かれている。どこまでが史実を表しているのか定かではないが、表には出ない、熱い人たちの物語である。そして最後は官僚が全てを持っていく。なんだかなぁ。(8/19)
013/126
「老いの入舞い 麹町常楽庵月並の記」松井今朝子
元大奥の御女中だった女性が、大奥を辞めた後、持ち前の知恵と度胸で街で起きる事件の謎を解いていくという物語。元々は江戸時代の芸能に詳しい著者が、一風変わったお話を書いているということで、楽しみに読みました。なかなか守備範囲の広い作者ですね。(8/21)
014/127
「誰も加害者を裁けない 京都・亀岡集団登校事故の遺族の10年」広瀬一隆
作者は、今から約10年前に世間を騒がせた亀岡市での集団登校事故を追いかけていた地元紙京都新聞の記者で、事件後の10年間をまとめたものです。事故の概要はご記憶の方も多いと思いますが、、前日から京都市内で遊び呆けていた若者たちが無免許で車を運転し、朝小学校へ向かうため集団登校をしていた子供たちの列に突っ込んで、3名の命を奪ったという痛ましい事件です。少年たちには同情の余地もなく、厳罰が降ることが予想されていたところ、いわゆる“危険運転罪”の適用が見送られたことで、世間の注目を浴びました。結果的には、その後の法改正に繋がったのですが、本件には適用されず、結審しました。あれから10年経って、当時の少年たちはすでに社会に復帰しています。ちゃんと構成してくれていれば良いのですが。事故のあった道路は、混雑する亀岡市内を抜ける脇道だったので、昔は良く利用していたのですが、この事故以来、一度も通っていません。(8/21)
015/128
「俳諧でぼろ儲け 浮世奉行と三悪人」田中啓文
江戸時代末期、上方で町方の揉め事を裁いていたという浮世奉行の物語の第二弾です。こんな制度が実際あったのかどうかは、実は良くわかっていません。良く似た制度はあったように言われているのですが。こちらも多才な作者で、時代物もとてもおもしろい。お気に入りです。(8/21)
016/129「S&S探偵事務所 最終兵器は女王様」福田和代
“サイバーコマンドー”で活躍した女性二人が、組織をドロップアウトして立ち上げた探偵事務所の物語。キャラがすっかり変わっていて、ちょっと驚きでした。面白かったですがね。(8/24)
017/130
「世界は善に満ちている トマス・アクイナス哲学講義」山本芳久
これは、多分新聞の書評欄で見かけて、気になっていたものです。実は何度も借りては、読まないまま返却するという体たらくを二度ほど繰り返し、ようやく読み始めたところ、とても読みやすくて、一気読みしたという曰く付きの一冊です。内容は、トマス・アクイナスという中世の神学者が著した“神学大全”という大著のうち、“感情”について述べた部分を取り上げ、哲学者と学生の二人の会話形式で、優しく解説したものです。トマスによると、私たちの全ての感情は“愛情”が基礎となって生まれたものと考えられ、“愛情”についても、独特の定義づけをしています。みなさんは、“愛情”とは、私たちが主体となって感じるものだと思っていませんか。ところが彼によると、愛情とは、まず愛されるものがあって、それからの働きかけによって、受動的に感じるものなのだそうです。私たちの周りにある全てのものは、私たちに働きかけを行っているのであり、私たちはそれを受け取る開かれた心を持つことが重要なのかなと思いました。読みやすい良い本でした。(8/25)
018/131
「夜哭烏 羽州ぼろ鳶組」今村翔吾
今や人気作家の今村さんのデビューシリーズの第二弾。将軍家と一橋家との争いが、江戸の町衆を巻き込む大火災に発展する。今回もぼろ鳶組が火消しだけではなく、謎解きにも大活躍する、スカッとする物語です。(8/26)
019/132
「七つの海を照らす星」七河迦南
鮎川哲也賞の受賞作品だそうですが、殺人事件が起こるわけではなく、いわゆる日常に起きる小さな謎を解くという類の物語です。舞台は児童養護施設で、そこで起こる不思議な出来事を主人公である職員が解いていきます。そして最後には思いもよらなかった事情が隠されていました。児童養護についての仕組みや法律なども事件の謎を解く鍵として出てくるのですが、その辺はちょっと読みづらいかな。(8/27)
020/133
「ユージニア」恩田陸
北陸を代表する都市で起きた毒物による大量殺人事件。物語は事件関係者のモノローグが続きます。時折、ト書のようにメモなどが挟まれるのですが、とても不思議な形で進みます。面白くて、一気の読んでしまったのですが、読後にふと、彼らは一体誰に向かって話していたのか、分からなくなってしまいました。不思議な物語でした。(8/27)
021/134
「K2池袋署刑事課神崎・黒木」横関大
多分彼の本は読んだことがなかったように思います。率直なところ、あまりそそられない。登場人物の描き方もなんかありきたりで、私には合わない。ドラマ化もされたそうだが、人物設定が跡形もないくらい改変されていたようです。(8/29)