少し復活した7月は20冊、うち小説が14冊、それ以外は6冊という結果でした。
ようやく、新しい仕事にも慣れてきて、少しずつリズムも掴めてきました。これまでなら、帰宅後は読書に没頭していたのですが、最近は虎の調子が良くて、ついついゲーム展開が気になって、読書に集中できない日々が続いております。
そんな中でのお薦めでの小説ですが、今月から読み始めた佐藤雅美さんと田中啓文さんの本は、とても面白かったです。本文にも書かせていただきましたが、とにかく時代考証が素晴らしく、相当に資料を集めて調査した上で書かれていることが、とても好感を持てます。今月読んだ本はいずれもお薦めです。
ほかには、“がん消滅の罠”も、期待以上に面白かったです。こちらも専門知識を駆使した作品で、医療ミステリとしてもよくかけていると思います。ちょっと専門的すぎて理解が難しいところもありますが、お薦めです。
小説以外では“シングルマザー、その後”は、とても勉強になりました。改めてこの問題の根深さ、解決の困難さに憂慮します。これは、社会では解決できる問題ではなく、まさに政治的な課題だと思います。政治家には期待できないと諦めている皆さんの気持ちは痛いほどよくわかりますが、だからこそ、政治家を見極める目を養うことが求められているのではないか、そんなことを強く感じました。
もう一冊、久しぶりに読んだ梅原猛さんの著書も良かったです。学生時代、就職した最初の頃、何冊も読んだ記憶がありますが、最近は全く手をつけていませんでした。改めて読みましたが、相変わらずとても興味深い内容でした。久しぶりに何冊か読んでみようかと思っています。
8月に入り、生命の危機すら感じるような猛暑が続いています。また、新型コロナウイルスの感染拡大も収まる気配を見せていません。
読みたい本を読んで、飲みたい酒を飲み、とりあえず淡々と生きることが、今できる精一杯のことかもしれません。
8月も面白い本に出会えることを祈って。
001/094
「おわかれはモーツァルト」中山七里
とにかく多作家で、作品数が多すぎるため、どれを読んだか記憶しきれていないケースが多い。この作品はまだ読んでいなかった。シリーズものの一作なのですが、珍しく途中で結果が見えてしまい、後半はその予想どおりの結末へ向けた確認作業のようになりました。珍しいなぁ。(7/2)
002/095
「朱色の化身」塩田武士
実際にあった歴史的事実な事件を題材に、三世代にわたる女性のファミリーヒストリーを綴ったもの。なかなかの力作でした。話の運びに若干の無理があるような気がするのですが、それは言っちゃダメ?(7/3)
003/096
「夜がどれほど暗くても」中山七里
今や犯罪の加害者家族・被害者家族は、徹底的に暴かれ叩かれる存在になってしまった。家族は関係ねえだろと思うのが一般の人たちで、日頃の鬱憤を晴らそうとする少数のイカれた奴ら、というのが従来の構造だったのかと思うのですが、そんな普通とイカれた奴らの垣根は知らぬ間になくなってしまった。誰も彼もが狂ったように“正義の拳”を振り上げる。イカれた世の中だ。(7/3)
004/097
「古代日本の官僚 天皇に仕えた怠惰な面々」虎尾達哉
古代の官僚たちは思った以上に怠け者だった。遅刻欠勤は当たり前、それを咎める勅令も度々出されたにも関わらず一向に改善されない。とっても不思議な時代でした。著者によると、その怠惰な日本人が勤勉と言われるようになたのは、“儒教”が伝わって以降だそうです。それまでは、日本には倫理観とか道徳という観念は存在していなかったようです。面白いですね。タメになりました。(7/6)
005/098
「日本の伝統とは何か」梅原猛
梅原先生の本は、大学生の頃いくつか読んだ記憶があり、実家のどこかに何冊か置いてあるはずです。新たしい視点から日本歴史を問い直すその姿勢にある種の反骨精神を感じ取って、とてもワクワクしながら読みました。今改めて彼の著作を読んだのですが、これは15年前くらいに氏が行った講演を文字に起こしたもので、特にタイトルにもなっている講演が痛快でした。いかに明治維新が日本の伝統を破壊してしまったか、その理由も含めてよく理解できます。結果的には勝者の権利ですからそれは仕方のないことかと思うのですが、歴史の改ざんまでやっちゃいけないですよね。おもしろかったです。(7/9)
006/099
「警視庁生きものがかり」福原秀一郎
同名のミステリシリーズがあるのですが、こちらはノンフィクション。実は警視庁の中にワシントン条約で取引が規制されている動植物に絡む犯罪を専門にしている部署があるというのです。著者は、その部署で動植物犯罪捜査のエキスパートとして活躍した本物の元刑事さんです。こういった“被害者のいない”刑事事件というのは、捜査のモティベーションを保つのも相当に難しいのではないかと想像します。(7/10)
007/100
「隠居すごろく」西條奈加
記念すべき本年100冊目ですが、去年の100冊目は5月16日のことでしたから、2月くらい遅れての達成ですね。仕事一筋で生真面目に生きてきた主人公が、商売を息子に譲り隠居暮らしをはじめたところから物語は始まります。隠居生活を始めたものの、これまで仕事一筋であったため、趣味というものが全くなく、無聊を託っていたところに孫が次々と事件を持ち込みます。最近文庫化され、続編も出ているようなので、読んでみようかなと思っています。面白かったです。(7/10)
008/101
「町医北村宗哲」佐藤雅美
この方の本は、多分初めてだと思いますが、いやぁこれまで読んでいなかったことを後悔するくらい面白かったです。特にすごいなぁと思ったのが時代考証。おそらく相当数の参考文献をものにされていると思われます。物語の途中に挟まれるエピソードも、当時のさまざまな文献に残されている実話であって、読者の思考の流れを上手く誘導してくれます。他にもたくさん同様の時代物を書かれていますので、それらも読んでいきたいと思います。お薦めの一冊でした。(7/13)
009/102
「シングルマザー、その後」黒川洋子
つい先日、世界経済フォーラムが今年度版のジェンダーギャップ報告書を発表しました。ご存知のように、世界の先進国の中では日本はダントツのビリッケツで、いかに世界の流れから遅れているかまざまざと見せつけられます。何が悲しいと言って、こんな現実を見せられても何とも思っていない政治家ばかりであることが、全くもって情けない。この指数は、「経済」、「教育」、「健康」、「政治」の四つの分野でスコアリングするもので、「政治」「経済」の両部門の低さが際立っているのは報道等で目にするとおりですが、実は「教育」分野でのギャップもかなり大きいのがわかります。特に、中等・高等教育就学率の男女比も相当下位に沈んでいます。この本の中では、他の先進国では当たり前の支援から無視されている女性の姿が多数描かれています。参考図書も豊富で、とても勉強になります。世の中の政治家の方には是非とも読んでほしい。私が社会に出た1985年が「女性の貧困元年」と呼ばれているのも初めて知りました。そしてその理由も。お薦めの一冊です。(7/14)
010/103
「神話の密室 天久鷹央の事件カルテ」知念実希人
人気のシリーズです。最近、普通のミステリ小説も手がける著者ですが、やはり医療ミステリの方が面白い。特にこのシリーズは、登場人物のキャラが立ってて、とても好きなシリーズです。もっと書き続けてほしいなぁ。今作では、これまで狂言回しの役割を担っていた青年医師の成長が見えて、物語が次のステップに踏み出したような感じがします。(7/14)
011/104
「剣持麗子のワンナイト推理」新川帆立
一気に売れっ子作家さんですね。今年話題になったドラマの原作にもなりました。お金が大好きな主人公弁護士が、とある経緯により関わることになった貧乏弁護士事務所に寄せられる無理難題に挑む物語です。5つの短編からなる短編集なのですが、全体を通して一つの謎を追いかけるような展開になっています。テレビドラマとはまた違った味わいがありました。(7/18)
012/105
「麦本三歩の好きなもの 第二集」住野よる
彼らしくない(?)ほのぼのとした不思議な物語。なんの事件も起こらない、一人の女性の日常を淡々と描いた連作です。癖になって第二弾も読んでみました。(7/20)
013/106
「がん消滅の罠 暗殺腫瘍」岩木一麻
人を人工的に癌を発症させることができることができたら。あたかも殺人兵器のようにそれを扱うことができるとすれば。死んだ後も、普通のがん死にしか見えないとすれば、それこそ完全犯罪。とても恐ろしいことです。そんな暗殺腫瘍を操る殺人鬼が登場します。前作からの続編で、この後も物語は続いていくようですが、この後はどのようになるのか。「このミス大賞」の受賞作家は、当たり外れの振り幅が大きすぎて、あまり信頼できないのですが、このシリーズは珍しく当たりかもしれません。(7/24)
014/107
「浮世奉行と三悪人」田中啓文
この作者の作品は初めてです。彼の名は、SFやミステリなど別の分野で目にすることが多かったのですが、まさか時代物まで手がけているとは、驚きです。しかもそれが妙に面白い。ちょっと気に入りました。他の本も読んでみたいと思います。お薦めの作家さんです。(7/24)
015/108
「頼朝と義時 武家政権の誕生」呉座勇一
話題の鎌倉殿と北条氏を盤石の物とした義時について纏めたもの。大河ドラマの時代考証を任されるはずだった著者による詳細な解説です。同時代の資料おしては、『吾妻鏡』よ『愚管抄』が基本になっているのですが、『吾妻鏡』は北条氏礼賛のために書かれたものだから基本的に信用できない、という態度は潔いと言えば潔いですが、必ずしもこの時代は彼の専門ではないと思うので、いわば時流に乗って書いてみましたという感じでしょうか。(7/26)
016/109
「久遠の檻 天久鷹央の事件カルテ」知念実希人
お気に入りのシリーズです。ミステリだから、トリックだから、仕方がないと言えばそうなのかもしれませんが、ちょっとこのテーマはきついなぁ、というのが正直な読後感でした。生命とか誕生を扱うときは、もう少し思いやりを持って書いてほしいなぁ。(7/30)
017/110
「やる気のない刺客 町医北村宗哲」佐藤雅美
これまた、最近お気に入りの作家さんです。しかも今月だけで、このシリーズは二冊目。先にも書きましたが、江戸時代の医薬の状況を詳細に取材し、実話も交えながら丁寧に書かれているところに非常に好感が持てます。とても面白いです。(7/30)
018/111
「秋葉原先留交番ゆうれい付き」西條奈加
この方の作品は、主に時代小説で読んでいたので、現代物は初めてです。“ゆうれい付き”とあるので、ホラー物かと言えばそうではなく、気がつけば“足だけ”のゆうれいになってしまったヒロインと霊が見える警察官、その同僚のオタク警察官を主人公にした物語。舞台は秋葉原、そこに駐在することを使命と信じているオタク警察官が、なぜ秋葉原にこだわるのか。その理由がタイムリーすぎて驚きました。面白かったですけど、やっぱり時代物のほうが良いかな。(7/30)
019/112
「雨色の仔羊 警視庁殺人分析班」麻見和史
これも好きなシリーズです。とある殺人事件の鍵を握る少年を保護したものの、犯人逮捕につながる証言を一切拒むのはなぜなのか。その殻を破るため、主人公の女性刑事が奮闘します。(7/31)
020/113
「世界の終わりを先延ばしするためのアイデア」アイウトン・クレナッキ
ブラジルの先住民環境保護活動家による講演録です。残念ながらこの中に、世界の終わりを先延ばしするためのアイデアは書かれていません。先住民族の文化を破壊し、世界を均質化しようとする行動をとり続ける限り、世界の終わりは加速度をつけて迫ってくることでしょう。おそらく、多くの人たちは気づいていると思うのですが、目先の“不便”を受け入れることができない私たちばかりですから、座して死を待つしかないのでしょうか。(7/31)