記念すべき無職期間の5月ひと月は計21冊。うち小説が12冊でその他は9冊という結果でした。
毎日何もすることがなければ、読書し放題だと思っていたのですが、何もすることがないとなると途端に自堕落な生活を送るようになり、朝からちびちび呑みながらAmazonPrimeで映画を見たり、ふらりと散歩に出かけたりと意外と本は読めませんでした。まぁ、これ間またつかの間の楽しみと満喫いたしました。
さて、そんな中でのお薦め作品ですが、
小説では、まずはアーチャーの最新作。これは文句なく面白い。一応シリーズものなので、前作を読んでからお読みなることをお薦めしますが、長さは決して感じない傑作だと思います。続きが楽しみです。
残りの本はミステリがとにかく多かったですね。できるだけ初めての作家さんの本を読みたいと思っていたのですが、川澄さんの鮎川賞受賞作が結構良かったです。どこかで見たような作風ではありますが、なかなか好感の持てる内容で良かったです。ほかの作品も読みたくなりました。
小説以外でも結構硬派ないい本がありました。
まずは、今の社会情勢をあぶり出した二冊。“賃金崩壊”については、本文にも書きましたが、信じられないような事件のレポートです。一体全体この国はどうなってしまったのだろうか。多くの人が、企業と賃上げ交渉をするのは組合の仕事ではなく政府の仕事だと思っているのではないか。実は、憲法の規定なんて、とっくの昔に空文化されてしまっているという一例ですね。読んでて熱くなってしまいました。
もう一冊の“SNS暴力”ですが、残念ながら解決策は提示されていないのですが、最近の大きな事件を軸に、加害者側にも取材した骨太のルポとなっています。誰もが匿名で誹謗中傷を拡散する技術を手に入れてしまった以上、事前にこれを止めることは不可能だろうし、事前検閲にもつながることから、それをすべきではないと思います。だからこそ、ことが起こったときに迅速かつ簡単に救済できるシステム作りが急務だと思います。
あとは大好きな作家である星新一さんの一冊。特に最後に収録されているSF新人賞の審査会風景は秀逸です。本文にも書きましたが、星さんが新井素子さんをべた褒めしていてとても印象的です。また読んでみたくなりました。
冒頭に触れたように、この月は本当に久しぶりに、どこにも所属しない自由な身分を満喫しました。もっといろいろなことをしたかったなぁと後悔してももう遅いですね。
月が変わって、新しい仕事に就いていますが、しばらくは本を読む気にもなれず、なかなか読書が進みません。私って意外に繊細でしょ。
も少ししてペースを掴めるようになったら、再び邁進したいと思います。
001/066
「朱龍哭く 弁天観音よろず始末記」西條奈加
この作家さん最近気になっています。時代物が結構お上手ですよね、過去に何度もこの方の作品を借りてきては、読めずに返却するということが続いていました。で、初めて読むことができました。主人公の女性二人が魅力的で、ストーリーも良く、申し分のない内容でした。今後も頑張って読んでいきます。(5/1)
002/067
「暗幕のゲルニカ」原田マハ
絵画にまつわる物語では第一人者ですね。第二次大戦でのナチスドイツの暴力を描いたピカソのゲルニカの制作にまつわるお話を大胆に創作しています。事実は全く違うのですが、ピカソが描いた時期と9・11テロ後のアメリカの状況がパラレルに描かれていて、なかなかにスリリングでした。面白かったです。(5/6)
003/068
「ラスト・コード」堂場瞬一
堂場さんの本は久しぶりに読んだような気がします。久しぶりなのでどうかなと思っていたのですが、主人公の警察官が、どうにもイラつくタイプで、私の好み合いません。離れている間に私の好みも変わってしまったようです。(5/6)
004/069
「探偵は教室にいない」川澄浩平
4~5年前の鮎川哲也賞の受賞作です。主人公の中学生少女の周りで起きる日常の謎に、不登校の幼なじみあ挑むという連作ものです。こういった軽い日常ミステリって結構好きです。続編が出ているようなので、時間があったら読みたいと思います。(5/7)
005/070
「作家と珈琲」茨木のり子他
これは、いろんな作家がコーヒーについて語ったエッセイだけを纏めたアンソロジーで、彼らの並々ならぬ珈琲愛が伝わってきます。中には鼻持ちならぬような蘊蓄を匂わすなどちょっとイラッとするものもありましたが、息抜きにはもってこいの本でした。(5/8)
006/071
「賃金崩壊 労働運動を『犯罪』にする国」竹信三恵子
本当にこんなことが現実の日本で起きているのかと唖然とするような事件の記録です。過去の労働争議華やかな頃ならいざ知らず、今や完全に無力化している労働組合の争議行為をこれほどまでに恐れ弾圧するのはなぜなのか、かなり理解に苦しみます。それに加担した警察官や裁判官が実名で登場しますが、それぞれ思い切ったことをやった英雄として賞賛されているそうです。ここ数十年にわたり景気は回復せず、世界の先進国中でも有数の低賃金国となってしまいました。他国に比べて物価も相当低いままです。花を咲かせるために根っこをズタズタにしてしまった結果ともいえます。後は倒れるのを待つだけなのか。(5/10)
007/072
「ネットいじめの現在 子どもたちの磁場でなにが起きているのか」原清治編著
京都・滋賀の高校生を対象にした大規模な調査から見えてくる『ネットいじめ』実態について細かく分析されたレポートです。私たちが子供の頃にもいじめは存在していました。しかしながら、ネットいじめのように見えないところで陰湿におこなうというより、かなりあからさまなもので、先生方も対処しやすかったのではないかと思います。近年の大津市や旭川市であったような非常に不幸な終わり方をしたいじめ事件も多発しています。このような事件を二度と起こさないというのは大人の仕事だと思います。こんな悲しい事件はもうこりごりです。(5/11)
008/073
「くらまし屋稼業」今村翔吾
彼の本を立て続けに読んでいます。いわゆる江戸時代の“夜逃げ屋”の物語なのですが、裏稼業の要素が強くて、若干引き気味です。きっと好みが分かれる内容かと思います。(5/13)
009/074
「ぼくの生物学講義 人間を知る手がかり」日高敏隆
文庫化されたものを新聞広告で目にしたので、図書館で探してみました。著者が大学で行われた講義をそのまま活字化したもので、話し言葉で書かれていることもあって、とても読みやすく分かりやすい本です。生物学の基礎講座のような内容でもありますので、興味や知識の有無にかかわらず楽しく読める本です。(5/13)
010/075
「SNS暴力 なぜ人は匿名の刃をふるうのか」毎日新聞取材班
近年増加しているSNSを巡るトラブル・犯罪について纏めたものです。テレビ番組での過剰な演出を巡ってSNSが炎上し、そこへの暴力的な書き込みを苦にして自ら命を絶った女性プロレスラーの事件は記憶に新しいところですが、その“加害者”側は、ほとんど悪びれることもなく、むしろ“善いこと”をしたとさえ思っているようです。別の事件では、政治家のような“分別ある”人間が、何の疑いもなく加担してしまったという情けないこともありました。もともとこういったことに加担しやすい傾向を持つ人というのが一定割合で存在しているように思われ、きっとその性分って修正することはとても困難なのではないかと思っています。となると、攻撃を受けたときに迅速かつ簡単に救済できる仕組み作りが急がれるのではないかと思います。(5/14)
011/076
「群青のカノン 航空自衛隊航空中央音楽隊ノート2」福田和代
航空自衛隊音楽隊シリーズものの第二弾。ほんわかとした温かみがある小説です。前作は不思議な日常の謎を主人公が解いていくという物語だったのですが、今回はどちらかというとラブコメの要素が強くなってきて、日常ミステリの部分は若干弱くなってきたかなと思われます。(5/16)
012/077
「まだ見ぬ敵はそこにいる ロンドン警視庁麻薬取締独立捜査班」ジェフリー・アーチャー
アーチャーの最新シリーズ第二弾なのですが、ここで出版社が変わるという不思議な事象が起こっています。何があったのか、そっちの方が気になってしまいますが、例によって作品としてはスリルもスピードも申し分なくて、とても良かったです。この調子でどんどん続編を書いていってほしい。未訳はまだ二本くらいあるのかな。続編が楽しみです。(5/17)
013/078
「赤い砂」伊岡瞬
著者がデビューする前に書いたまま陽の目を見ることのなかった小説が、たまたま未知のウイルスをテーマにしたものだったことから、緊急出版されたものです。正直言って、便乗・悪乗りって感じでしょうか。せっかく出版するのなら、も少しアップグレードさせて出した方が良かったのではないかと感じました。(5/18)
014/079
「スカイハイ 警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結2」沢村鐵
一作目がそれほど良かったわけでないのについつい二作目にも手を出してしまいました。まぁ、もういいかな。(5/20)
015/080
「近江商人と出世払い 出世証文を読み解く」宇佐見英機
“出世払い”というものが、江戸時代から存在していた。しかも書面でそれが残されているというのは驚きでした。私の感覚では、出世払いって、ほぼほぼ債権放棄と同義語で、支払われないことが前提かと思っていたのですが、必ずしもそうではなかったようですね。本書では近江の商家から発見された江戸時代以降の“出世払い証文”の数々を紹介しながら、どのように使われてきたかを検証しています。なかなかに面白かったです。遠い昔の学生時代、出世払いは“条件”か“期限”かという論争があって、その頃習った大審院(今の最高裁ですね)判決では期限だとされているようで、不思議に思ったことを覚えています。あの頃、大学の先生に“出世払いで払います。”といったら“出世しないことは確実なので、期限の利益はなし。すぐに払え”と返されたことを思い出しました。多分飲み代のことでしたね。(5/21)
016/081
「ヨルガオ殺人事件(上)、(下)」アンソニー・ホロヴィッツ
著者のベストセラーとなった前作の続編です。前作同様作品中に、事件の鍵となる小説が劇中劇のように挟み込まれるという形式になっています。とある失踪事件を解く鍵が小説の中にあるという設定ですが、答えは思わぬところにあったという結末には驚かされました。そう来たか、という感じでした。さすがに上手。(5/25)
017/082
「あたらしい憲法のはなし 他二篇」高見勝利編
日本国憲法が施行されて75年と言うことでいろんな記念イベントがあったようですね。この本は、憲法施行時に、国民向けに書かれた解説書で、中学一年生用の社会科の教材として書かれた「あたらしい憲法のはなし」と全国の二千万家庭に配布された憲法普及会編「新しい憲法
明るい生活」、さらには法制局閲、内閣発行の「新憲法の解説」の三作を纏めたものです。新憲法の三つの柱である、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義について、とても丁寧に解説されています。当時の国民にはどれくらい浸透していたのかわかりませんが、画期的な内容であったことは確かですね。今、政権与党を中心に“義務”を焦点にした改憲議論が起こっています。75年前の熱が冷めてきているのはないでしょうか。心配です。(5/27)
018/083
「きまぐれ星からの伝言」星新一
星さんが書いた作品集未収録のエッセイや解説が納められているのですが、それ以上に筒井康隆、小松左京との三名による賞の選考会議の様子がとても面白い。当時高校生だった新井素子さんの応募作を星さんがごり押ししているのが感動的でした。また、久しぶりに彼の作品を読みたくなってきた。(5/28)
019/084
「作家と酒」平凡社編
“珈琲”に続くエッセイのアンソロジーです。お酒となると珈琲以上に作家の癖が強く出るようで、内容的には酒豪自慢から失敗談まで何でもありです。お酒は会話の潤滑油としてとても有用なものだとは思いますが、“過ぎたるは猶及ばぬが如し”ほどほどに楽しもうと心に誓う毎日です。(5/30)
020/085
「倒産続きの彼女」新川帆立
今話題の“元彼の遺言状”シリーズのスピンアウトともいえる小説です。就職する会社が次々と倒産に見舞われる不幸(?)な女性を取り巻く事件に、シリーズ主人公の女性弁護士の後輩弁護士が挑みます。コレアもしスペシャルでドラマ化されるとしたら、この後輩弁護士は誰が演じるのかな。(5/30)
021/086
「異世界居酒屋『のぶ』七杯目」蝉川夏哉
久しぶりに出たシリーズ7作目です。ここに来て主人公の二人や食べ物の比重が下がってきて、大きく変化し始めた“古都”の社会の様子が中心に描かれているような気がします。(5/31)